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ダイアモンド・ベイビーズ  作者: 雨地草太郎
未来に向かって架かる橋
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殲滅領域(3)

 四人はすぐに移動を始めた。


 まずは海晴市のキャンプ周辺をぐるりと回って、敵の部隊を潰していく。その間に冬姫と紅蓮の実力も把握していくつもりだった。


「冬姫はいつもそういう格好でいるのか?」


 歩きながら灯希は訊いた。


「いつもというわけじゃない。普段は洋服を着ているのだが、今回は人の命を守るという重大な使命を持って戦っているのだ。気合いを入れるために我が家の正装で挑んでいるというわけさ」


「正装? 実家は道場でもやってるのか?」


「こいつの家は武家の血筋を引いてんだよ。すげぇぜ、親父さんが帰ってくると家族が玄関に膝ついて『おかえりなさいませ』って挨拶すっからな」


 紅蓮が言う。


「へえ……すごい家の生まれなんだな」


「と言っても、家族はもう誰も残っていないのだけどな」


「それは、ガイア戦争で?」


「半々だ。母さんは前回の戦争で、父さんや他の家族も今回の襲撃でやられてしまった。だから、なおさら許せんのだよ」


「こいつの武勇伝は他にもあってさ、四年前、まだガイナーになってない時に真剣振るって悪鬼を二体殺してるんだぜ。すごくねぇ?」


「それは……確かにすごいな」


 実力的にも、精神的にも。


「っていうかあんた……紅蓮だっけ? あんたはなんで冬姫と行動してるんだ? 同じグループにいる性格には見えないんだが」


「俺はあれだよ、やんちゃしてたらこいつに叩きのめされて心を入れ替えたのさ」


「なるほどねえ……」


 冬姫は正義感の強そうなタイプだ。

 チンピラの悪行は黙って見ていられなかったのだろう。


「私たちのことはともかく、敵の話をしよう」


「おう、そうだな」


「私と紅蓮はずっと海辺を中心に戦ってきた。族長級と呼ばれる敵とも何度か交戦して倒している」


「すごいわね……」


 在歌が感心する。


「そいつらが得意げに言っていたのだが、どうも八丈島が敵の手中に落ちているようなのだ。奴らはそこを中継地点にしてこちらに大兵力を送り込んできている」


「なるほど。ガイアの親指からまっすぐここまで飛んできてるわけじゃないのか」


「連中も戦っているうちに息切れを起こしている。あの距離を飛んでくるのはやはり厳しいのだろうな」


「そうか……。すると、八丈島を取り返せれば敵がポンポンと新戦力を送り込んでこられなくなるわけか」


「その可能性はあると思うのだ。だが私たちだけではどうしようもないからな、君たちと合流できてよかったよ」


「やってみる価値はありそうだ。伊豆諸島はどうなってるんだ? 全部敵の手の中か?」


「まあ、東京がこの惨状なのだし、全部占領されているだろうな……」


 冬姫は暗い顔で言った。


「しかし、なんとかして奪還したいものだ」


 ガイアの使いは伊豆諸島を足掛かりに東京へ攻め寄せている。


 そこをすべて奪えれば、新手を止められるどころか、こちらからガイアの親指へ攻めていくことすら可能になる。


 次の目標は伊豆諸島の奪還。


 それしかない、と灯希は思った。


     †


 街路を左へ折れて、これまた破壊されたビル街を歩いていく。


「いるぞ」


 灯希が言うと、自然と三人もかまえた。


 赤色の皮膚を持った鬼――炎鬼(えんき)の集団だった。眉間に生えた一本の小さな角が特徴的だ。十五はいるだろうか。道路を塞ぎ、何体かは壊れた車のボンネットに座っている。


「キャンプ地の様子を窺ってるって感じね」


「そのようだな。手早く片づけてしまおう」


 冬姫が刀を抜いた。

 だが、その刀は鍔から先――刀身がない。さっき浜辺で見た時はあったはずだが。


「四年前に折られてしまったので、〈想錬剣(エスワード)〉で刀身だけ複製しているのだ。この刀には思い入れがあるのでな」


 質問する前に説明してくれた。


「では、ゆこう」


 冬姫が真っ先に踏み込んだ。わずかに遅れて灯希が、さらに在歌と紅蓮が突っ込む。


 想術で強化された冬姫は、刀身を複製して斬りかかる。


 敵の集団が動くより遥かに速い。まず一匹、続いて二匹、三匹と切り倒す。炎鬼の集団が混乱を起こす。数体が火球の想術――〈炸炎珠(フラーボル)〉を発動させようとするが、灯希がそれを止める。


竜四肢(ドラテア)〉の超火力を有した拳で敵を打ち倒し、想術を使わせない。灯希の拳による一撃は竜のそれと同格だ。いくら鬼でも低級の存在では止めきれない。


 先行した二人がわずかな間で炎鬼を殲滅した。


「あたしらの出番ないじゃない……」


「確かに。ひでーよな」


 後ろで在歌と紅蓮がぼやいている。


 在歌は特に不満そうだ。眉を寄せて不機嫌そうにしている。


「なんか、一瞬でコンビネーションできちゃってるし、名前も灯希と冬姫で一文字違いだし、仲良くなれそうね?」


「待て待て、今のは相手に実力を見せることが必要だっただけだ。次はみんなで倒そう」


「まあ、使いを倒せればなんでもいいけど」


 そうは言いつつも、面白くなさそうにしている在歌だった。


「しかし颪島君、見事な腕だな。武器も使わずに鬼と渡り合うとは」


「お前もすごいな。動きに無駄がない。元から型ができてるんだな?」


「鍛錬はしていたから、役に立っている部分はあるよ」


 冬姫は謙虚に言った。


「よし、このまま海晴百貨店を中心にぐるっと回って敵を殲滅しよう。それでひとまずは安全確保できるはずだ。そしたら立原さんに、関城さんと話し合いができないか検討してもらおう」


     †


 灯希たちの殲滅作戦は陽が沈むまで続いた。


 兵士級のガイアの使いは、街のあちこちに潜んでいたのだ。たいていは十体以上で群れていて、中には人間の死体を食っている奴もいた。


 四人はそれらを確実に排除し、脅威をなるべく遠ざけようとした。


 結果として百体以上を倒したことになるが、族長級以上の使いには遭遇しなかった。


 やはりセルナフカ、シャ・リューが倒れたことで指揮系統が麻痺しているのかもしれなかった。


 なんにせよ、海晴市と一川市の広範なエリアの安全が、これでひとまず確保されたことになる。

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