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ダイアモンド・ベイビーズ  作者: 雨地草太郎
未来に向かって架かる橋
36/50

殲滅領域(2)

 灯希の目には、折り重なったガイアの使いの死骸が映っていた。


 虚人や鬼たちがみんな倒されている。


「行ってみよう」


「わ、わかった」


 在歌は少し緊張気味だ。


 二人は道路を渡り、臨海公園の中に入った。


 芝生が周辺一帯に広がり、白い道路が網目状に敷かれている。芝生も道路も赤黒い血で染まっていた。


「まさか、ここにきて仲間割れが起きたってことはないよなあ」


「他のガイナーが倒したんじゃないかしら。仲間割れで全滅なんてさすがにないでしょ。もうギャグの領域じゃない」


「だよな……」


 やはり他のガイナーに倒されたと考えるべきだろう。


 しかし、その人物はどこにいるのだろう。


 すぐ近くに難民キャンプがあるのだ。

 そちらに合流して市民を守るつもりはないのだろうか?


 灯希は周辺の想波を探ってみた。


「……ん、いるな」


 少し遠いが、想波の反応を見つけた。


 ガイアの使いの排除も重要だが、仲間を見つけることも同じくらい大切だ。


「在歌、海に沿って向こうへ行くぞ。想波の反応がする」


「わかったわ。……仲間、ってことでいいのよね」


「おそらくな。ただ、性格はどうかわからんけど」


「悪いって思うわけ?」


「近くにキャンプがあるのに、そこに行った気配もなかっただろ。あの立原さんだってなんにも言ってなかったし」


「そういえば、そっか」


「とにかく行こう」


 灯希と在歌は海岸線に沿って歩き始めた。どんどん海晴市のキャンプ地から遠ざかっていく。


 臨海公園から延びる道を進んでいくと、やがてホテル群が見えてきた。やはり建物の損傷が激しい。


 右手には砂浜が現れた。

 想波の気配はそちらからする。


 二人は体勢を低くして移動した。ホテルの前の道路を、気配を殺して進んでいく。観葉植物が生い茂っているので身を隠すのはたやすい。


 この樹木の壁の向こうに階段があり、砂浜につながっている。


「あたしにもわかるようになったわ」


「かなり強くなってるな」


 想波がどんどん膨張している。完全に戦闘態勢に入っているのだ。


「……二人だな」


「ええ。どっちも強い」


 灯希たちは植物の隙間から浜辺を覗き込んでみた。しかし段差が大きく、よくわからない。


「這って近づくぞ」


「え……」


「よく見えないだろ」


「そうだけど、這う必要は……」


「体勢が高いと見つかるかもしれない。それにお前なら匍匐前進も問題ないだろ?」


 ピシッ、と何かにヒビが入ったような気がした。


「それはなに、あたしの胸が平たいって言いたいわけ?」


「あっ……いや別に、そういうつもりじゃ」


「今「あっ……」って言ったでしょ! やっぱりそう思ってたのね!」


「待ってくれ、悪かった、完全に失言だった」


「失言という自覚もあるわけね? つまり平たいことは否定しないわけね?」


 灯希の視線が安定しなくなる。

 まさかこの状況で修羅場が発生するとは思わなかった。


「えーっと……俺は嫌いじゃないぞ?」


「なにが?」


「ち、小さいのが」


 ガンッ、とスネを蹴られて灯希はうずくまった。


「はーあ、匍匐前進しやすいあたしが一人で行ってきてあげるから、灯希君はそこでゆっくりお休みしててくださいねー」


 完全に怒らせてしまった。


 在歌は茂みを抜けて地面に伏せ、這って進んでいく。

 灯希も同じ体勢を作って慌てて追いかけた。


「待ってくれ、本当に申し訳なかった」


「あらー、幻聴がするわー」


「お、俺は大きいよりは小さい方が好きだぞ」


「え――なっ……⁉」


 在歌の動きが止まった。驚いた顔でこちらを見てくる。――行くしかない。ここぞとばかりに灯希は畳み掛ける。


「俺はその、大きいのは趣味じゃねぇから。……か、片手にすっぽり収まるくらいの方が好き……かな」


 何言ってんだ俺、と灯希は途中で蒸発して消えたくなった。


「ふーん……」


 しかし、そんな灯希に対して、在歌の表情はちょっと和らいでいた。


「ま、まあ、デリカシーのない発言には気をつけなさいよね」


「す、すまん」


 それで、どうやら彼女も矛を収めてくれたようだった。灯希は危機的状況が去ったことに心から安堵した。


 二人は這って進んでいく。


 砂浜に下りられる階段の手前まで来た。


 砂浜には悪鬼の集団が見えた。


 その中に、人間の影が二つあった。


 一人は、大鎌で悪鬼の首を飛ばしまくる少年だ。たぶん灯希と同じくらいの年だろう。黒いズボンに黒いジャケットを着ている。


 対して、もう一人は少女だった。なぜか羽織と袴を着ている。下は紺色、上が赤色の見事な和装だった。両手で日本刀を持ち、鮮やかな太刀さばきで悪鬼どもを圧倒している。


 灯希たちが出ていくまでもなかった。


 二人は、あっという間に悪鬼の小部隊を全滅させてみせたのだ。


「どっちもすごいわね……」


「ああ。たぶん女の子の方が上だろうけどな」


 黒ずくめの少年も充分強いが、和装少女は動きからして違う。おそらく、元から相当身体能力が高かったのだろう。そこに想術の強化が加われば圧倒的な力になる。


「ともかく、話を聞いてみよう」


「わかった」


 灯希と在歌は立ち上がり、砂浜に下りた。


「どうもー」


 気楽な調子で声をかけてみる。二人がこちらを見た。


「やあ、お二人はガイナーだな!」


 少女が先に反応した。近づくと、花のかんざしで黒髪をまとめているのがわかった。


「俺は颪島灯希で、こっちが海城在歌。一川市から来たんだ」


「ほう、君が颪島君か。四年前の活躍は私も聞いているよ!」


 ハキハキとしてとても元気のいい女の子だった。


「私は冬の姫と書いて冬姫(とうき)だ。一柳(いちやなぎ)冬姫。こっちの男はタツバグレン」


 竜羽紅蓮と書くらしい。


「どーも。俺らは雑魚どもの掃除をやってる最中さ。お二人さんはなんでこんなとこに?」


 灯希は、立原陸尉にした説明をここでもする。


「なるほど、敵の指揮官はすでに倒れていたんだな。道理で統率が乱れていると思ったのだ。――しかし君はすごいんだな! 私たちなど小物を狩るしかできていなかったというのに」


「運がよかったんだよ。それより、海晴百貨店の前にキャンプがあっただろ。あそこに行った様子がないみたいだけど、なんでまた?」


「それだがな、私たちはなるべく一般市民には近づかない方がいいかと思ってな」


「なぜ?」


「怖がられるからだよ。それだったら、陰からひっそりと敵を狩っていた方がいい」


「臨海公園の部隊も二人だけで倒したのか?」


「そうとも、兵士などはわけないさ。もっとも、近くに市民がいたら先延ばしにしようと思っていたんだ。戦うところを見られると、ますます恐怖心を植えつけてしまいそうな気がしたからな」


「俺は気にしすぎだろって言ったんだけどよぉ、こいつって言い出したら聞かねえからなー」


「でも、その気持ちはわかるわ。普通の人の反応って、ちょっと怖いわよね」


「わかってくれるか! そうなんだ、四年前に手のひら返しを食らっているから、どうしても慎重になってしまう」


 ……やはり、ガイナー排斥運動の影響は色々なところに及んでいたようだ。


「なあ、よかったら俺たちに協力してくれないか? これから本格的に東京奪還を目指すつもりでいる。そのためにはとにかくガイナーが必要になるからさ」


「おお、いいとも! 私などで役に立てるのなら、いくらでも協力するさ」


「俺もいいぜー。どうせこうなっちまったら戦う以外にやることねぇもんな」


「よかった、ありがとう」


「感謝するわ」


 灯希と在歌はそれぞれ礼を言った。


 冬姫と紅蓮。


 どちらも前線で戦えるタイプのガイナーだ。


 この二人が加われば、今後の戦いをさらに有利に進めることができるはずだ。灯希は手ごたえを得ていた。

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