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ダイアモンド・ベイビーズ  作者: 雨地草太郎
未来に向かって架かる橋
34/50

新たなる戦いへ

第二部開始です。

作者のリアル事情により土日祝日あたりで更新できない日が出てくるかもしれませんが、引き続きよろしくお願いいたします。

 少年は少女を連れて走っていた。


 どちらも十歳くらい。二人とも息が上がっている。


 振り返ると、ビルの陰から、悪鬼(あっき)が出てくるのが見えた。全部で三体いる。


 キャンプ地から少し外に出て、二人だけの時間を作りたかった。それだけだったのに、徘徊していた悪鬼に見つかってしまったのは不運としか言いようがなかった。二人は逃げようとして、キャンプ地からどんどん離れてしまった。


 悪鬼が、そうなるように誘導してきたせいだ。


 奴らは、人間狩りを楽しんでいる。


 弱者をいたぶることに、喜びを感じている。


 ――ぼくじゃ、あいつらなんて倒せない――


 少年は絶望を感じていた。


 もう体力は限界に近かった。ここまで捕まらずに逃げてこられたのは、悪鬼どもが楽しむために手加減しているからに他ならない。


 どうしようもない。


 二人とも殺されてしまう。


 自分は殺されるだけだろう。


 だけど彼女はどうだろう?


 少年は一度だけ、見たことがあった。

 女性が、悪鬼に、何かとてもおぞましいことをされている光景を。彼女が同じ目に遭わないとは言い切れない。


 ゴーストタウンと化したビル街を、二人は懸命に走っていく。途中に死体がいくつか転がっていた。蝿がたかり、二人が近づくたびにぶんぶんと音を立てて飛び立つ。真昼の太陽の下では、そうした光景が嫌でも見えてしまう。


「きゃっ!」


 少女が何かにつまづいて転んだ。ヒビだらけの道路を勢いよく転がる。


「うぅ……」


「大丈夫か!」


「コウくん、逃げて……」


「バカ、お前を置いてけるわけないだろ!」


「でも……!」


 必死で少女を起こしてやろうとするが、膝の傷がかなり深い。瓦礫が刺さったらしい。これではもう走れそうにない。


 顔を上げると、いつの間にか悪鬼どもがすぐそこに立っていた。


 ぐふうううぅ……と、荒っぽい息を吐いている。真っ黒な筋肉に覆われた体。特に二本の牙の鋭さと、盛り上がった腕の太さが尋常じゃない。


 少年の体は震えていた。


 もう、おしまいだ。


 二人とも死ぬ。


 げああああ、と声を上げ、悪鬼が飛びかかってくる。


 少年は目を閉じた。


 ごうっ、と音がした。


 ハッとして目を開ける。


 悪鬼が三体とも、下半身だけになっていた。ぐらりと傾いて、相手の死体がバタバタ倒れていく。少年は頬に熱を感じた。何か、強力なエネルギーが目の前を通っていった……。


「よかった、間に合ったか」


 右から声がした。


 顔を向けると、スーツを着た男の人が走ってくるのが見えた。スーツを着ているけれど、顔はそこまでおとなびているようには見えなかった。たぶん、高校生くらいだろう。整えられた黒髪、長めの前髪が印象的だった。


「安心しろ、俺はガイナーだ。ガイナーってわかるか?」


「う、うん」


 もちろん、知識は持っている。


「このへんに残ってる敵を掃討――まあ、一匹残らずぶっ飛ばしてる最中だ。助かってよかったな」


「あ、ありがとう……」


「おう。そっちの子はどうだ? 立てるか?」


 少女は涙を目にためて、首を横に振る。


「そうか。――おーい、誰かいるかー!」


「いるわよー!」


 ビルの向こうから声がして、赤い髪の女の人が現れた。半袖シャツにショートパンツという軽装だ。ちょっと釣り目気味の、勝ち気そうな表情の女の子だった。


「アリカか、ちょうどよかった。この子、膝を怪我してる。治してやってくれ」


「オッケー」


 赤い髪の女の子――アリカは、少女の膝に右手を当てた。その手から泡が噴き出す。


「うあっ……! い、いたっ、っく……!」


 少女がつらそうに悶えるが、アリカは「ちょっとだけだから」と冷静に言う。


 やがて泡が消え去ると、膝の深い傷が完全に消えてなくなっていた。


「はい、もう大丈夫よ」


「あ……、す、すごい……」


 驚く少女を横目に、青年が訊いてくる。


「キャンプ地が近くにあるのか?」


「う、うん。あるよ」


「よかったら案内してくれないか。このへんの状況が知りたいんだ」


「……わかった」


 少年は少女の手を取って歩き始めた。


 後ろから、青年とアリカがついてくる。


 これが、ガイナー。


 存在は知っていたけれど、見たのは初めてのことだった。


 この人たちがいるから、ぼくらはまだ生きていられるんだ。


 そう思うと、とても心強かった。

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