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ダイアモンド・ベイビーズ  作者: 雨地草太郎
新東京攻防戦
32/50

未来への光

 中央通りの戦闘は苛烈さを極めていた。


 敵は後続を断たれたにも関わらず退いていかない。むしろ怒るようにして向かってくるのだ。


 在歌、花山、トドロ、セッカが道路で敵を防ぐ。上からはキリカとアイネが攻撃を行っていた。


 正面からの遠距離系想術は竜法師に防がれる。そのためどうしても最前線との接近戦になってしまうのだった。


 在歌は槍で、花山は拳で、トドロとセッカが剣でそれぞれ敵と渡り合う。一体一体の力は、想術で強化されたガイナーの敵ではない。しかしこの数だ。いまだ通りにはたくさんの竜兵がひしめいているため、戦いに終わりが見えない。


 ひたすら突いて突いて突きまくる。

 在歌は相手の命を奪うのにすら単調さを感じていた。


 そこに巨大な想波が迫ってくる。


 ハッとして上空を見た。ビルの上からだ。降りてくるのは――ガルネアだった。


「やっぱり来た!」


 在歌は左手で〈炮烈波(ヴォール)〉を放った。ガルネアは両手を交差させて受ける。それだけで防がれた。


 ガルネアが着地する。


「少数ながらたいしたしぶとさだ」


 それだけ言って、在歌に突っ込んできた。


 在歌は槍を出した。相手は躱しもせずに迫ってきて、突き出した槍を掴まれた。ぐっと先端をひねられ、在歌がバランスを崩す。とっさに手を離して転倒は防いだ。槍が粒子になって消滅する。


 ガルネアが迫ってきた。右の拳が飛んでくる。在歌は開いた手のひらを出した。意識を一点集中、拳が接触した瞬間、受け流すように後ろへ手を引く。それでガルネアの体勢が崩れ、在歌が背後を取った。


「はあっ!」


 ほぼゼロ距離から在歌の〈炸炎珠(フラーボル)〉が炸裂する。ガルネアの背中を直撃し、吹っ飛ばす。ガルネアが転がって郵便ポストを破壊した。背中の鱗がいくらか溶けているのが見えた。


 ――あたしだって、そう何度もやられてばっかじゃいられないのよ!


 在歌は相手を睨みつける。


 彼女の左側で三人が竜兵を押さえつける。隙あらばこちらに加勢しようという構えだ。


「小娘……少しは考えられるようになったらしいな」


 しゅっと舌を出し、ガルネアが仕掛けてくる。


 再び拳の攻撃。在歌は懸命に見切って躱していく。受けようとしてはいけない。在歌では強化していても受け切れない。


 在歌は回避にだけ全神経を集中させた。


 ――そして、何度目かの攻撃を回避した瞬間、ガルネアの背後に花山が現れた。


「むっ――」


「リベンジだよ」


 至近距離から〈砂礫錬貫槍(サドラス)〉の想術が発動する。一本だけだ。砂の槍がガルネアの背中を貫こうとする。


 しかし当たらなかった。


 ガルネアの尻尾が跳ね上がり、槍の軌道を逸らしたのだ。


 相手は狙いを切り替えた。花山がガルネアに肉薄される。胸を狙ってストレートが放たれた。花山は動けず回避できない。右手で受けようとしたが、剛腕には勝てなかった。花山の腕が押し込まれ、ゴキッと嫌な音が響いた。


「あっ……!」


 花山がよろめいて転倒する。追撃しようとするガルネア。横合いからトドロが〈炸炎珠(フラーボル)〉を放つが、拳で撃墜させられた。


 相手がビルを背にしているせいで、トドロが得意とする〈紅炮灼烈波(ヴォル・ゲイル)〉を迂闊に使えないのだ。


 花山は片膝をついて体勢を立て直そうとしている。右腕がぶらぶらと力なく揺れていた。完全に折られている。それでもガルネアを睨みつけて、次の行動を取ろうとしていた。


 ガルネアが近づく。横から新たな影が接近した。セッカだった。


「はあああああっ!」


 気迫のこもった声とともに斬りかかる。しかしガルネアは左手で受けた。セッカの剣は刀身をへし折られる。


「そのような武器で私は倒せぬ」


 セッカが懐を取られる。ガルネアの左足が上がった。膝がセッカの腹にめり込む。


「ぐふっ!」


 すさまじい一撃だった。セッカの体が吹っ飛んで勢いよく路面を転がっていく。街路樹に背中からぶつかって大きく揺さぶった。


 倒れた彼女に竜兵が襲いかかろうとする。


「させませんっ!」


 トドロが駆けつけていき、竜兵を一気に蹴散らしていく。


「セッカさん、大丈夫ですか!」

「平気……ではないかも……うう、いてて」

「歩けるようでしたら後方に!」

「待った、そこまでじゃないから……」


 セッカがトドロの手を借りて立ち上がった。


 それを横目に、ガルネアが花山を攻撃した。花山も回避に専念した。相手の腕の動きを見てひたすら躱していく。


 在歌はその背後から隙を窺っていた。貫通系の〈青尖氷槍(アクルピス)〉はいつでも発現させられるようにしている。ガルネアが花山に夢中になっている間に、タイミングを掴むのだ。


 ガルネアが拳の連打を放ち――そして不意に、体を左に向けて尻尾を出した。


「うっ⁉」


 花山が足をすくわれて大きくバランスを崩す。ガルネアが右腕を振りかぶっていた。あの超硬の爪で引き裂くつもりだ。


 ――ここだっ!


 在歌は踏み込んだ。


青尖氷槍(アクルピス)〉を発現しながら接近し、ガルネアの背中めがけて致命の一撃を――!


「やはりな」


 敵が振り返った。


 放った氷の槍が受け止められる。くるっと鮮やかな手つきで、槍の向きが変わる。一瞬にして立場が逆転した。ガルネアが氷の槍で突いてくる。


 ――躱せない……


 在歌は瞬間的に悟った。槍はまっすぐ心臓に迫ってくる。ここを貫かれたら回復する余裕など奪われる。


 すべてがスローに映った。


 迫る槍。突かれて倒れ、呼吸を奪われる自分の姿。


 死ぬのか。

 ここで。

 世界を変えることなく。


 一秒とない時間の中で、そんな思いが在歌の中に爆発する。


 そして、槍が心臓をまっすぐに――


「そこまでだ」


 ――とらえることはなかった。


 在歌の横から手が伸びてきて、氷の槍を止めたのだ。


 在歌はその手の先を見た。

 涙が、あふれそうになった。


「灯希……」


「よく頑張ったな。もう大丈夫だ」


 そこには、何度も何度も助けてくれた彼が、颪島灯希が立っていた。


 スーツがあちこち裂けて傷だらけだ。それでも、彼は笑顔を見せていた。黒髪の下に、いつもの優しい顔があった。


「貴様は……」


 灯希は氷の槍を握りつぶした。そしてガルネアに向き直る。


「よう、一騎討ちは俺が勝ったぜ」


「まさか、シャ・リュー将軍が……」


「最期まで大将の風格たっぷりだったよ。いい上司を持ったな、お前ら」


「貴様……きっさまああああ!」


 ガルネアが激昂し、灯希に飛びかかった。


 その拳を灯希はがっちり受け止める。


「在歌、下がってろ。あとは俺がやる」


「う、うん!」


 ガルネアが拳の連打を放つが、灯希は軽々とさばいていく。在歌たちでは受け止めることすらかなわなかった拳。それを難なく封じていく。


「――らあっ!」


 反撃の拳が返った。


 灯希の右腕から全力のストレート。ガルネアが止めようとして押し込まれる。相手は圧力に負けてビルに激突した。


 灯希は手を緩めない。跳び蹴りをガルネアに叩き込む。


「ごはぁ……」


 ガルネアが地面に倒れ込んだ。


「とどめだ――」


 灯希が右手を掲げた瞬間、真っ白な閃光が周囲を包んだ。ガルネアが〈白閃(ミネイ)〉を使ったのだ。


「くっ……」


 さすがの灯希もひるんで硬直した。


 その隙をついてガルネアが立ち上がる。しかし攻撃はしない。仲間の方へ向かって走り出した。


「シャ・リュー将軍が倒れた! 退け! 退くのだ!」


 彼の叫び声と同時に、上空から巨大な気配が接近してくる。


 上を見ると、あの飛竜が迫っていた。


 ガルネアは驚異的な跳躍を見せてビルの屋上に飛び乗る。そこからさらに、急降下してきた飛竜に飛び移った。


「あっ、逃げられちゃう!」


「くそっ!」


 灯希が追いかけてビルへ跳んだ。しかしガルネアほどは跳躍力が出ない。相手より低いビルの屋上に着地し、隣のビルへ移っていくが、飛竜はすでに高度を上げている。


 間に合わない。逃げられる――。


 その時だった。


 かなり向こうのビルで何かが赤く光った。


 光の束が伸びて、飛竜の足に絡みつく。それで飛竜の体勢が崩れた。


 あれは、あの位置にいるのは……


「キリカだ」


 花山が言った。


「〈赤蜘鎖(チェレッダ)〉で止めたんだ」


 飛竜の速度が著しく落ちた。鎖を振り切って上空へ向かおうとするが、その隙は、灯希が接近するには充分な時間だった。


「吹っ飛べええええええええっ!」


 灯希が絶叫する。


 彼の右腕が赤い光に包まれ、最高火力の〈紅炮灼烈波(ヴォル・ゲイル)〉が発現!


 熱波が、飛竜と、乗っているガルネアを飲み込んだ。


 遠い悲鳴が聞こえた。無念さの詰まった声。それが、ガルネアが消滅していくのを確かに教えてくれた。


 飛竜は両翼だけを残して消滅した。

 羽は落下し、一川(いちのがわ)へ大きな音を立てて着水した。


 竜兵たちは、もう勝ち目がないことを悟ったようだった。


 全員が背を向けて逃げていく。トドロとセッカ、ビルの上からはアイネが追撃を加える。


 在歌は色々と整理できていなくて、花山はダメージが大きくて、追撃には加わらなかった。


 一川はまだ燃え上がっている。

 それを強引に突破しようとして、かなりの竜兵が倒れたようだった。


 灯希がビルから飛び降り、在歌たちのところに戻ってきた。


「灯希……」


「おいおい、俺たちが勝ったんだ。もっと嬉しそうな顔しろよ」


 そう言って、灯希が頭を撫でてくれる。今度はきっと、無意識の行動じゃない。在歌のために、手を伸ばしてくれている。


 感情がふるえるのを抑えきれなかった。


「灯希!」


 もう恥ずかしいなんて関係なかった。在歌は灯希に抱きついて、大声で泣いた。どの感情がそうさせたのかはわからない。在歌はただ、幼い子供のように泣き続けた。そして何度も灯希の名前を呼んだ。涙がいつまでも止まらなかった。


「本当に頑張ったな。未来は変えられるって、そんな気がしてきたよ」


 灯希は優しい声で言ってくれた。


 それがまた嬉しくて、在歌はさらに声を上げるのだった。

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