作戦会議(二回目)
作戦会議は、セントラル一川というホテルのロビーで行われることになった。
参加者は、見張りを引き受けたトドロ以外のガイナーと、関城、柿崎博士、自衛隊の三人――藤丸と、山下、池原というメンバーである。
ガイナーは全員、洋服店を訪れて新しい服に替えていた。灯希もスーツを新しくしたので、気持ちがまた引き締まった感じがした。
「まず、一川市の地図を用意してみました」
藤丸車長がテーブルの上に大きな地図を広げた。
「敵は街の西側――この一川橋を渡って攻め込んでくると思われます。そこで、敵が来る前にこの橋を落としてしまうのも一つの手かと思います」
「竜族の身体能力なら跳んで渡ってきそうですがねぇ。何せ一川はそこまで広いわけではないですからねぇ」
白衣が新しくなった柿崎博士が言う。
「ですが、川を飛び越えるという行為が追加されることによって、敵の動きに無駄が生じます。我々はその隙を突いて倒していく」
「はい!」
在歌が挙手する。
「対岸に伏兵を配置するのはどうでしょうか」
「伏兵?」
藤丸が首をかしげる。
「敵がこちらに夢中になっているところを、側面からガイナーが攻撃するんです。そして、ある程度の効果が出たらすぐ引き上げる」
「それは危険じゃないか?」
灯希も割り込んだ。
「ガルネアみたいな強いのが出てきたら逃げ切れずに包囲される可能性がある」
「あ、そうかも……」
「じゃあさ」
今度はキリカだ。
「敵を分断するのはどうでしょう」
「ほう、分断」
「半分くらいはあえて橋を渡らせます。それで、頃合いを見計らって橋を落とすんです。敵を二つに分けて、別個に叩く」
「ふむ……それも一つの手ではあります」
例えば、と藤丸が顎に手を当てながら言う。
「渡ってきた連中はガイナーの皆さんに相手を任せ、フタマル式は橋の向こうを攻撃する」
「それなら充分に効果はあると思いますよ。あと、在歌さんの意見に近いんですが、橋の近くに伏兵を置きます」
「それは?」
「橋が落ちれば敵は飛び越えようとするでしょう。誰かが風の想術で連中を川に叩き落とします。――そうですね、川に想術で複製した油も流しておきましょう。〈獣絞金油〉という想術ですが、こいつで出した油は発火性がとんでもないんです。川を炎上させて後続を完全に断つ」
さすがだ、と灯希はひそかに思った。
キリカはおとなしそうに見えるが、彼の提案する作戦はいつだって大胆だ。
「敵の分断について、意見のある方は?」
藤丸が全員を見回す。
「俺はキリカの作戦を支持します」
灯希が言うと、
「私も」
花山も同調した。
やがて在歌や時雨も賛同し、関城と柿崎も頷いた。
「問題があるとすれば」
キリカが再び発言する。
「例の飛竜ですね。あいつが降下部隊を連れてくるのをいい加減止めないと、作戦に支障が出ます」
「そいつは俺が引き受けるよ」
灯希が言った。
「ビルの最上階からジャンプして、〈吹翔〉で距離を伸ばす。そこからなんか撃ち込めば届くだろ」
「灯希君じゃなきゃできないことだね」
「あとはシャ・リュー将軍だ。そいつが出てきたら俺に任せてくれ」
「それしかないわよね」
在歌が苦笑する。
「あ、あの!」
ここで時雨が手を挙げた。
「わたし、川の向こうで敵の後続に攻撃しようと思うんです」
「はあ⁉ 時雨、急に何言い出すのよ!」
藤丸も驚いたような顔をしている。
「えっと、〈黒尖兵〉を使って、数十体の兵士で側面を叩くんです。走り回って色んな場所から攻撃すれば、敵も必要以上に伏兵を心配するんじゃないかなって……」
「危険だと思う。ガルネアみたいなのが他にもいるかもしれないし、そういうのに追撃されたら逃げ切る自信ないでしょ」
花山が冷静に指摘する。
「う……でも……」
「あ、そうだ」
キリカがパチンと指をはじいた。
「川の向こうは微妙に下り坂になってたね」
「え、そうだったような気がしますけど……」
「昔さ、怪獣映画で見たことがあるんだ。爆弾積んだ電車を敵にぶつけるってやつなんだけど、トラックで似たようなことができないかな」
「トラック?」
「そう。道路の北側に車両を待機させておく。ブレーキは解除しておいて、タイヤストッパーだけで維持しておく。敵が橋の手前に集中したら、〈黒尖兵〉で複製した兵士にストッパーを外してもらう。あとは彼らに軌道を調整してもらいながら敵の隊列に突っ込ませる。さすがに爆弾は積めないけど効果があるはずだ」
「それはいいですねぇ」
柿崎が楽しそうに言う。
「大型トラックなら進軍の邪魔もできますからね」
藤丸が池原操縦士を見る。
「トラックは探せばあるかな」
「この規模の街ならあると思われます」
池原操縦士は身長が低めだが非常にがっちりした体格の持ち主だ。
「じゃあ、君と山下でトラックを橋の向こうに移動させてくれるか。緊急事態だから勝手に動かすのは許してもらおう」
「了解しました」
「私の秘書にも手伝わせましょう。たぶん大型も運転できるはずです」
関城もキリカの策に賛成のようだ。
「よし、だいたいの形はまとまりましたね。足りないと思われる部分については我々がこのあと詰めておきます。――では、一川を中心とした本作戦は以後、イチカワ作戦と呼称します。今夜中にすべての用意を完了させ、敵の総攻撃に備えましょう」
藤丸が締めくくり、全員が「了解!」と返した。息はぴったりだった。
†
会議の後、ガイナーたちはトドロのいる一川橋まで移動した。
「現在のところ、異常なしであります。作戦は決まったのでありますか?」
ミリタリージャケットを新調したトドロが訊いてくる。
「そうだ。これから配置を考える」
ガイナーが円陣を作った。
「キリカ、配置はどうする?」
「灯希君は自由に動けるよう、配置は決めない。他は――橋を落とすのと、川に火を落とすのに一人必要だね。それから突撃トラックの作動に一人。戦車を守るのにも一人ほしいかな。これで四人だから、あとの二人には最前線で敵を迎撃してもらわなきゃいけないね」
「最前線が二人か……。厳しくないか?」
「最初は灯希君にもそこにいてもらいたいな。敵の動きに合わせて途中で離脱してもらう感じで」
「ああ、それは問題ない。だが、それでも手が足りないだろう」
「ねえ!」
背後から声がした。
月明かりの中を、三つの人影が歩いてきた。
「私らも協力するよ」
それはセッカ、シーナ、アイネの三人だった。
「三人とも、もう大丈夫なの?」
在歌が心配そうに訊く。
「うん、おかげさまでかなりよくなったよ。私らも役に立てると思うからさ、使ってちょうだいよ」
「うん、助かる。――いててて」
キリカが嬉しそうに言った直後、花山に指をつねられていた。
「にやけてる」
「ご、ごめん。思わぬ加勢でテンション上がっちゃって」
ああ、あいつ苦労しそうだな……と灯希はキリカに同情した。
「でもセッカさんたちにはあまり無理はさせられないかな」
「平気だよ? 私らだってさ、こう見えても戦闘経験は豊富なんだよ。どう見えてるか知らないけど」
「わたしは一対一とかが苦手なのですが……」
シーナが遠慮がちに言う。
「じゃあシーナさんには戦車の護衛をお願いしよう。――アイネさんは?」
「ま、なんでもできるっちゃできるよ。もう堕天使とは戦いたくねーけど」
彼女がまともにしゃべるのを聞いたのは初めてだが、かなりぶっきらぼうな話し方をする。
「でもまー、今回は竜が相手だもんね。いーよ、最前線立ったげる」
「わかった。じゃあ、もっと具体的に配置を決めていこう」
その後の話し合いで、誰がどこで待機し、どんな行動を取るのかが詰められていった。
みんな、竜族との戦いに勝利することで流れを変えられると確信していた。
次の一戦には、東京を取り戻せるか否かがかかっている。
誰もが気合十分の顔をしていた。




