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ダイアモンド・ベイビーズ  作者: 雨地草太郎
新東京攻防戦
17/50

新戦力は活きがいい

 ようやくの思いで東都駅に帰還すると、時刻は午後三時を回ったところだった。


 駅舎は破壊された際の危険を考慮して使わないことになった。移動してきた青南市民がロータリーのあちこちに腰を下ろして一息ついている。


 何人かの犠牲を出してしまったことに対して食ってかかってくる人間がいるのではと灯希は気にしていたが、今のところ何もない。


「おかえりなさい」

 バス停の屋根の下に入ると、時雨が迎えてくれた。


「あれ、ちゃんと出しておきましたよ。すでに効果も出ています」

 時雨が駅舎を指さした。


 緊急避難所の垂れ幕が下がっている。

 言われてみれば、まだ十数人程度だが一般市民がやってきていた。近くで身を潜めていたのだろう。


「敵はどのくらいいたんですか?」

「数えきれないくらいだ。こっちは戦力が足りなすぎる」

「……ごめんなさい」

「待て待て、別に時雨を責めてるわけじゃないんだ」


 この少女は急にネガティブになるから焦る。


「敵の総勢がどのくらいなのか想像もつかないけど、その気になれば物量で押してくるかもしれない。こっちはガイナーと銃器を持った人間しか戦えないから、その時点でかなり不利だ」

「……自衛隊がどうなっているかもわからないんですよね」

「ヘリもまったく飛んでないしな」


 せめて電話が使えればいいのだが、それすらも妨害されている。日本はあらゆるところで後手に回っているのが現状だ。


「そういえば、女の子が三人運ばれてきましたけど……」

「ああ、ガイナーなんだけど敵にやられちまったみたいだ。重傷だから戦わせることはできないぞ」

「わかってます。灯希君は人に無茶はさせませんもんね。自分は無茶するのに」

「……そういう性分だからな」


「あれ?」

 いきなり時雨が顔をそらした。

 彼女の視線は駅舎の屋根に向けられている。


「どうした」

「今、屋根に何かいたような……」

「なんだと、また使いか?」


 灯希も屋根に目をやった。セレーとの戦いでボコボコになっている東都駅の屋根。そこに立っているのは――

「……人間か?」

 どうも人間そっくりのフォルムをしている。

 というか、人間だ。


 灯希は〈源生眼(シアル)〉で視力を強化する。

 彼の目に映ったのは、ライトグリーンの髪をサイドテールにしている少女の姿だった。ガイナーになった途端、外見が変化する場合があることはすでに誰もが知っている。それにしても、あそこまで目立つ髪の色は初めて見た。


 少女はかなり小柄で、在歌よりさらに小さい。一五〇センチもないのではないか?


 そして彼女は左目に黒い眼帯をつけている。海賊がつけているようなアレだ。服装はショートパンツにミリタリージャケット、ごつめのブーツ。なんだか軍人の真似をしようとして滑っているような印象だ。


 少女がこちらを見たので、灯希はとりあえず手を振ってみた。

 ぶんぶんと振り返してから、少女はジャンプした。屋根から一気に降りて、地面に見事な着地を決める。


 少女はつかつかと灯希と時雨の前まで歩いてきた。


 そしていきなり、ビシッと敬礼を見せる。


「はじめましてっ! 自分はシマキトドロと申します! 人類の危機を救うため馳せ参じた次第であります!」


「お、おう」


 ――なんだこいつ。

 灯希は謎の勢いにちょっと押された。


「えーっと、普通にお話しできますか?」

 時雨が優しく話しかける。

「はっ、できますであります」

「できてねえぞ」

「しかし、自分は軍人になるべく言葉遣いを勉強し……」

「なんか間違ってる気がするからやめといた方がいい」

「そんなぁ」


 少女――トドロがショックを受けた顔をした。緑の髪に黒い瞳というのは意外に合う、というのが灯希の第一印象だった。


「で、なぜここに?」

「ガイナーの気配を感じたので。自分は前回の戦争時、すでにガイナーになっていたのでありますが、両親がそれを隠そうとしたので参戦できなかったのであります」

「ちなみに年齢は」

「十四歳であります」


 ……世の中が平和だったらただのイタイ女の子だよなぁこれ。


「この数日の間に両親がともに死んでしまったため、自分はガイアの使いと戦うことを決意した次第であります。そこで、まずは人が集まっているところに行こうかと思いまして、あそこに」

「なるほどね。俺たちは今ガイナーを必要としてるんだ。新戦力が加わってくれるのはありがたい」

「それはよかったです。期待を裏切らないよう全力を尽くしますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 キビキビと言って、トドロは頭を下げた。


「とりあえずは作戦が一つ終わって休憩中なんだ。すぐには動かないから、まずはみんなに挨拶でもしてきてくれ」

「はっ!」


 敬礼すると、トドロは人々の方へ歩いて行った。


「え、あっちに挨拶するんですか?」

「ちゃんと主語をつけとくべきだった……」


「みなさまー! 自分は今後本部隊での作戦に参加させていただくシマキトドロと申す者であります! どうかお見知りおきを!」


 トドロは元気いっぱいの声を張り上げた。


 民衆は「そ、そうですか……」と戸惑いを隠せない様子である。

 重傷の三人を見ていた在歌と花山も「なんだあいつ」といったような視線を向けている。


 そんな視線にまったくひるむことなくトドロは続ける。


「自分は先日、ガイアの使いに家族を奪われました! 奴らは絶対に許しません! 自分のためにもみなさまのためにも、敵は一匹残らずぶっ潰してやるのであります! 期待していてください!」


 一気にしゃべると、トドロは一礼してこちらに戻ってきた。背後でパチ、パチ……と微妙な拍手が起きている。


「ではあらためまして、よろしくお願いいたします。トドロと呼んでください」

「わかった。俺は颪島灯希だ」

「火潟時雨です」

「灯希さん、時雨さんですね。覚えました! ともに奴らを打倒しましょう! おー!」

「お、おー」

 ちゃんと乗ってあげるあたり時雨は優しいなあと思う灯希だった。


 ともかく予期せぬタイミングでガイナーが一人加わった。ガイナーが一人増えるだけでも作戦の幅はかなり広くなる。完全にお先真っ暗というわけでもなさそうだ。


 ただ、見ている限り、トドロは一人で突っ走りそうな性格をしている。近くにフォローできるガイナーがいた方がいいかもな、と灯希は思った。

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