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ダイアモンド・ベイビーズ  作者: 雨地草太郎
新東京攻防戦
14/50

青南市救出戦(1)

 壊れた通りを進んでいくと、やがて「青南市(せいなんし)」と書かれた標識が見えてきた。


 灯希(とき)たちは見つかりづらい場所を探しながら、慎重に街の中を探索していく。

 道路には多くの人の死体が転がっていた。中には食い散らかされたものもあり、在歌(ありか)がそうした光景を見るたびに苦しそうな顔をする。花山(かざん)の表情はずっと変わらないままだが、何も感じていないということはないはずだ。


「全然使いがいないわね……」

「どこか一ヶ所に集まってるんじゃねえかな」

「考えられるとしたら……どこ?」

「お前、それ俺に訊くのか?」

「あ、それもそうね」

 灯希は造り直された街の構造には詳しくないのだ。


「……左」

 花山が二手に分かれた道の左を指さす。

「向こう、敵がいると思う」

「よし、行ってみよう」

 花山のサーチ能力を、灯希は信用している。かつてそれで何度も助けてもらった。


 通りの両側には高層ビルや雑居ビル、二階建ての商店や民家などが並んでいる。やはり高い建物ほど狙われるようで、高層ビルの壁は傷だらけになっていた。道路には瓦礫や砕けたガラスの破片が大量に落ちていて、車で通るのが危険なほどの状態になっている。


「密集してる……」

 また花山が言った。

「固まってればまとめて吹っ飛ばしやすいな」

「なんか、脳筋っぽい発言ね」

「それは挑発と受け取っていいのかな?」

「別にそんなんじゃないわ。灯希は強いから自然とそういうことを言っても別におかしくはないし」

「やっぱ脳筋だと思ってるんじゃねえか」


「しっ」

 花山に遮られた。

「見張りがいる」


 三人は素早くビルの陰に隠れた。そっと顔を出して通りの様子を窺う。この道の先は下り坂になって海へと続いている。


 その坂から、虚人がゆらゆらとした歩き方であがってきた。数は二つだけ。


「どうする?」

 在歌に訊かれ、

「やっちまおう」

 灯希は即答した。


「雑魚は私に任せて」

 花山が言って、灯希の前に出た。

「あたしもついていくわ」

「平気。一人で充分」

 言うが早いか、花山は飛び出していった。


 在歌がため息をつく。

「少しくらい信頼してほしいわ」

「あれはあいつなりの気遣いだと思うけどな」


 花山の想波が膨れ上がった。強化された拳によって二体をたちまちのうちに叩き潰す。見事な手際の良さだ。


 灯希と在歌は建物から出て行く。

「高台がある」

 花山が前方を示した。

 道はまっすぐ下り坂だが、その脇に木の植えられた高台がある。看板を見ると、下は広場になっているようだ。

「高台から様子を見てみよう」

 二人が頷いた。


 灯希たちは木に隠れて、高台から下に目をやった。

 広場近くの民家が破壊されていて、人間が廃材を運ばされている。ここから見える街の通りあちこちに、木材でできたバリケードが大量に設置されているのがわかった。


「人間の邪魔を人間にさせるとはね」

「完全に奴隷扱いじゃない……」

「これは一刻も早く解放すべきだな」

「やばい敵はいないわよね」

「うーん……花山、どうだ?」

「そこまで強いのは感じない」

「じゃあ問題ないだろう。一気に突っ込んで敵を全滅させる。先頭は俺だ」

「わかった。兵士級はあたしと花山が引き受けるわ」

「頼むぜ」


 灯希は立ち上がると、高台の急斜面を高速で駆け下りた。


 広場にいるのは柿崎の報告にあった影人猿(えいじんえん)だ。彼らはこちらに気づいた瞬間、一斉に〈影珠(シャッド)〉を放ってきた。漆黒の球体が大量に飛来するが、灯希は問題なく躱していく。

「えらく反応がいいな」

 呆然とする瞬間すらなくただちに反撃してくるとは、よく鍛えられている兵士なのだろうか。


 灯希の背後から想波が膨張する。花山の〈砂礫錬貫槍(サドラス)〉が撃ち込まれて影人猿がバタバタと倒れていった。


 灯希は広場に踏み込むと、指揮官を探そうとする。


「また地上人か」


 探すまでもなく、向こうから出てきた。

 屋根の上に金の鱗に覆われた竜族が立っていたのだ。骨格はガルネアによく似ているが、鱗の色はもちろん、目もこちらの方が小さく見える。


「お前が指揮官か」

「そうだ。イグネア族長である」

「せっかく占領したところを悪いが、返してもらいに来たぜ」

「愚か者め。そうやって何度も失敗を繰り返すつもりか」

「どういう意味だ?」

「数日前にも四人組が現れたが、わけなく潰してくれたわ」

「なんだと……」


 他のガイナーがここに来ていたのか。


「殺したのか」

「いいや。堕天使の指示で女だけは生かしてある」

「……まさか」

 ふん、とイグネアは鼻を鳴らした。

「連中の下らん使命とやらにつきあわされているだけの話。我々としては正面から戦い、殺す。それでよいと思うのだがな」

「なるほどね。じゃあ俺とお前で正面から殺し合おうぜ」

「言ってくれる。複製者の分際で」

「そのコピー品みたいな呼び方は好きじゃねえ。ガイナーと呼べ」

「貴様らの呼称に興味などないわ」


 イグネアが槍を手に飛びかかってきた。灯希は〈炸炎珠(フラーボル)〉で迎撃するが、槍の一振りで粉砕させられた。相手が着地し、高速で突きを放ってくる。灯希は〈鬼身(ボーガ)〉を纏い槍の軌道を見極めながら回避していく。


 何回目かの突きを左腕を上げて回避する。そのまま腕を下ろし、脇で槍をホールド。右手で槍を掴んで強引に奪い取った。


「貴様ッ!」

 イグネアが素手で掛かってくる。槍の柄で防ごうとしたら一撃で真っ二つにされた。爪が鋭いから迂闊に受けられない。灯希はステップを踏んで避けながら後退していく。相手の左腕を避けた瞬間、灯希は〈竜四肢(ドラテア)〉を発動させた。超力の右拳をイグネアの胸部に叩き込む。――反動ばかりが大きく、思ったよりも手ごたえがない。


「竜族に竜族の真似事が通用すると思うか」

 イグネアの声は怒りに満ちていた。


 こいつらは大きさが人間並みでも体のつくりは竜と同じと考えなければいけないのか――そこまで思った瞬間、灯希は胸部に拳を返された。右腕でガードしたが威力に押し込まれてかなり後退させられた。


「侮辱である。許せん」

「別に許してもらう気はない。これから消えてもらうお前には」

「好き勝手言いおって……!」

 イグネアが姿勢を下げた。


 灯希は火口をイメージして〈紅炮灼烈波(ヴォル・ゲイル)〉の高火力熱波を撃ち込んだ。イグネアが横に飛んで躱す。これは躱す以外ありえないだろうと、灯希は相手の移動先を読んでいた。イグネアの移動地点に移動して、強化されたままの拳を連続で叩き込んだ。的確な攻撃で頭部を集中攻撃。さすがの竜族も頭部にはダメージが入るようで、イグネアが呻く。


 拳でよろめいた相手に蹴りを叩き込んで後退させると、灯希は膨大な想波を込めて再び〈炸炎珠(フラーボル)〉を発現、撃ち込んだ。


 イグネアはむりやり受けようとしたが、火球の密度は尋常じゃない。激しい爆発が起きて、煙が晴れると鱗がいくらか溶け落ちていた。


「ぐう、おのれ……」

「人間も生きるために必死なんだ。――だから悪いな」


 灯希は鬼の刀をイメージし――〈想錬剣(エスワード)〉の想術を発動させた。右手に刀を持ってイグネアに急接近する。

「ぐ――」

 もう反撃は許さなかった。

 強烈な斬撃がイグネアの首を綺麗に飛ばす。火球の熱で鱗が弱っていたから、刃がしっかり通った。竜族の首は血を吹きながら宙を舞い、地面にごろりと転がる。


 ふう、と息を吐きだすと、

「イグネア族長は倒した!」

 周りに向かって大声で叫んだ。


 おそらく兵士級の奴らは灯希の言葉を理解できていないだろう。それでもリーダーが倒されたことだけはわかったようで、虚人や影人猿といった連中が、せっかく作らせたバリケードを蹴散らして逃げていくのが見えた。


 広場の外周には、在歌たちが倒した敵の死体が多く転がっていた。

 在歌と花山は無事で、傷もなさそうだった。在歌のシャツやショートパンツは返り血を浴びていくらか汚れている。花山のスカートとパーカーはどちらも黒だから血の色はわかりづらいが、同じように汚れているはずだった。


「皆さん、敵は撤退しました! もう安心していいですよ!」

 灯希の無事を確認してから在歌が大声を張った。


 広場には安堵の吐息がこぼれ、働かされていた人々がへなへなと座り込んでいった。


 灯希は近くにいた、白髪の目立つおばさんに声をかける。

「大丈夫でしたか」

「ええ、ありがとうね。でもそれより――」

「はい?」

 おばさんは震える手で、広場の端にある円筒形の建物を指さした。


「何日か前に、助けに来てくれた女の子たちがやられちゃって、裸にされてあの中に――」


 イグネア族長も四人組を倒したと言っていた。

「その子たちは生きてるんですね⁉」

「わからないわ……。ただ、とてもひどいことをされて……」

「とにかく行ってきます」


 灯希は全力疾走で円筒形の建物まで走った。

 建物は二階が展望室で、東京湾の風景が眺められるようになっているらしい。


 灯希はドアの前に立つと、ドアノブを回した。わけなく開く。まあガイアの使いがわざわざ鍵なんてかけないだろうが。


「誰かいる――」

 言いかけて、灯希は硬直した。

 円形の部屋の壁には、十字の形に磔にされた、三人の少女たちの姿があったのだ。

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