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ダイアモンド・ベイビーズ  作者: 雨地草太郎
新東京攻防戦
12/50

作戦会議(一回目)

「で……まず今後の動きを考えないといけないね」

 口火を切ったのは関城だった。

「最初に昨日作った垂れ幕を下ろすだろう? そしたらどうしようか」


「ぶっちゃけ、やることが多すぎてどれから手をつければいいのかわからない感じですね」


 それが灯希の率直な感想だった。


「まずは近隣を巡ってなるべく告知することじゃないか? 人が集まれば情報も増える。そうすればより行動しやすくなる」

「そうですね。地図はありますか?」


「そうだな……」

 関城は苦々しい表情で携帯を見せた。

「充電が切れているが、コンビニの携帯充電器を借りれば使えるはずだ」


「そっか、充電も満足にできないんですね」

「まあ、これについてはやりようがあるから大丈夫だ」


「行動と言えば……」

 在歌がぽつりと言った。

「東京湾周辺は大丈夫かしら。海に面しているから被害が大きくなっていてもおかしくないわ」


「確かにな」


 ガイアの使いは太平洋上から襲撃してくるのだ。海沿いの都市は占領されている確率が高い。


「だが港湾都市を一つ一つ回るなんて厳しいぞ」

「わかってる。でも一つ思いついたことがあって、青南市(せいなんし)にはガイアの使い迎撃用の防空陣地があったはず。あそこの様子を見に行ってみる価値はあると思う」

「そういえばそんなのも造られたんだっけ」


「ガイアの使いには銃弾が有効ですからね」

 今度は柿崎博士が入ってきた。

「映画に出てくるようなクリーチャーと違い、ガイアの使いには現代兵器が有効なのです。うまく当てれば一発の銃弾で殺すことも可能。とすれば、防空陣地があるに越したことはありません」


「そんな重要な拠点を敵が放置しているとは思えませんね」

「だからこそ奪いに行くんでしょ。――よし、決まったわ。最初にそれを実行しましょう」

「手が足りないぞ」

「え? 戦力なら充分――」

「そうじゃなくて、奪還したあと土地を守る手が足りないと言ってるんだ」

「あ、そうか……」


 ここにいるガイナーは五人。

 二人、三人のチームに分けるだけでも戦力がガクッと落ちる。二つのチームで青南市と東都駅を同時に守るのは難しい。灯希も片方だけなら守り切ってみせるという自信はあるが、距離のある二ヶ所では話が変わってくる。


「とりあえず、青南市の様子だけでも見てきたらどうだい?」

 関城が提案する。

「まずは方々に拠点ができたことを触れ回るべきじゃないかな。無理に何ヶ所も守ろうとするんじゃなくて、現段階では東都駅に結集してもらう。それじゃ駄目かい?」


「灯希君がいるんだし、集まった方が安全ですよね」

「時雨、あんまり期待しすぎると俺が負けた時に心折れるぞ」

「と、灯希君は負けたりしませんよっ」

「わからねえぞ。将軍級だってまだ見たこともないし」

「わたしは信じてます」


 ……これは意地でも負けられねえなあ……。

 自分がやられたら時雨まで戦意喪失しそうだ。懐かれすぎるのもよくない。


「では、ガイナーの皆さんは青南市に向かうのですね?」

 再び柿崎。


「そうですね、まずは偵察で」


「では、注意すべきガイアの使いについて説明を一応しておきましょう。この四年間、数々の戦闘データをまとめていたのですが、特に危険なのが竜族と堕天使族ですね」


 うんうん、と全員が頷く。誰もが身をもって体験していることだ。


「竜族は単純に身体能力が高い。脚力や腕力も他の使いとは桁が違います。人間のような大きさで二足歩行しているとはいえ、攻撃の威力は――そうですね、恐竜のパワーが小さな拳に宿っているとでも言いましょうか」


 なんとなくだが言いたいことはわかる。


「そして堕天使族は想術の多彩さが厄介です。影を使ったり黒色系の攻撃をよく使いますが、火炎や氷なども使っている事例があります」


「連中は思い出して複製してるわけじゃないんですよね」


「そこまでは解明できていませんが、便宜上奴らの使う術も想術と呼んでおけばいいかと。――それから虚人や鬼は腕力と機動力が高いのです。速い、そして強い」


 なるほど実にわかりやすい。


「あとは白魔(びゃくま)族ですね。こいつらが寄生するのはすべて人間の死体です。寄生された人間は死んでいますから、ためらいなく攻撃しなければこちらがやられるでしょう。同族の見た目だからと遠慮してはいけません」


 ――俺はそれができたから生き残った。


「それから、エイジンエンというものがいます」

「どう書くんですか」


「影の人の猿です。ガイナーさんから聞いた話では、そういう文字を書くんだと本能的に理解されている方がいました。こいつらは虚人に近い種族だと思うんですが……確証はありません。真っ黒な外見で二足歩行、もっともわかりやすい特徴が常に前傾姿勢をとっているということです。極めて猿に近い骨格をしていますが、猫背の背中から黒いオーラ……うーんなんだろう、とにかくエネルギーが常に噴き出しているようです」


「見た覚えがないですね」

「四国から上がってきた報告ですので、東京には現れなかったのかもしれません」


 そうか。

 敵も軍を組織しているのだから、場所によって割り振られた種族が違っていても当然かもしれない。


「で……女性の方に気をつけていただきたいのは堕天使と鬼、そして影人猿です」


「なんで女性なの」

 今日初めて花山が口を開いた。


「この三種族には人間の女性と交わろうとする動きが確認されています」


 女子三人の表情が硬くなった。


「そういえば……」

 時雨が思い出したように言う。

「わたしが堕天使にやられた時、地上人の雌には利用価値があるって言っているのを聞いたんです。それで、お腹を撫でられて……」


 その時の光景が蘇ったのか、時雨は両腕で自分の体を抱えた。


「……どうやら事実のようですね。ですから、女性は気をつけてください」


「男も一応注意すべきじゃない?」

 キリカが苦笑いしながら灯希を見ている。

「たまたま被害者がいなかっただけで、男を狙ってくる奴もいるかも」


「やめろ、考えたくない」

「まあ、以上の点を踏まえて慎重に行動してください。それと、敵の数が多い場合、逃げる相手を追いかけて深入りしないこと。罠を張って待ち伏せする種族もいます」

「よくわかりました」


 灯希は立ち上がった。

「だが、全員で行ったら関城さんたちを守れる人間がいなくなるな。どうする?」


「昨日の班分けでいいんじゃない?」

 キリカがゆっくり立ち上がりながら言う。


「僕と時雨さんは隠れる系の想術ならいくらでも使える。今のうちなら関城さんたち三人を隠すだけで済むからね」

「わたしも、行っても足を引っ張りそうな気がします……」


「……そうか。じゃあ在歌、花山、俺の三人で青南市の様子を見てくる。垂れ幕を頼んだぞ」


「うん、手早くやっちゃうよ。それで、使いが先に気づくようだったらさっさと取っ払っちゃうね」

「そうだな、その辺の判断はキリカに任せる」

「後方はしっかり固めておくよ。だから安心して行ってきてちょうだい」

「わかった。――二人はそれでいいか?」


 在歌と花山が頷いた。


 灯希は関城に向き直る。

「それじゃあ、出かけてきます」

「食事はとらなくて大丈夫かい?」

「コンビニからなんかもらいます」

「代金は後払いで?」

「店名はちゃんと覚えときますよ」

 にやりと笑うと、灯希は歩き始めた。


「できれば、青南市も無事であってほしいんだけど……」

 背後からした在歌の声には、祈りの調子が感じられた。

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