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[9]絶対絶命イベント

「ほ、ほぐぅっ」


タマの放つ強烈な蹴りが腹に命中してその激痛に床でもんどり打つ俺。


「あ、あわわっ。ご、ごめんなさい。なんか無意識の内にやってしまった」


タマはわたわたと慌てた様子で俺のそばにしゃがむ。


「お、おふぅ……っ。いや、俺の方こそいきなり変なこと言ってごめんよ」


この激痛のそもそもの原因は、俺がタマの素晴らしき獣耳の事を「可愛い」と発言した事だと俺は思っていた。なんでまた突然そんな事を言ったかというと、タマが自分の姿について何らかの感想を求めている事はなんとなく分かった。それで俺なりに考えた末に、もしやタマは褒められるのを待っているのではないかという今考えたらアホ丸出しな結論に達し、そして発言に至る……という訳である。


「だ、大丈夫か?」


「ああ……なんとか落ち着いてきた。鎖越しだったのが幸いだったよ」


俺は呼吸を整えると、タマの方に視線を向ける。


「で、だよ。一つ確かめたいんだけど」


「な、なんだ?」


「君のその耳を今俺は可愛いと言った訳だけど、それってなんかまずかった?」


もし先ほどの蹴りが照れ隠しでないとするならば、純粋な怒りや敵意からくる攻撃だとしたら一大事である。と俺は自分の失言を謝罪する準備を内心固める。


しかし、そんな決意は必要なかったらしい。タマが首を振り、


「い、いや。まずくはないっ、まずくはないん、だけど……」


と言いよどむ。


ならばやはり照れ隠しか。とアホの一つ覚えみたいな短絡的思考を脳内で展開する俺に対し、タマはぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始める。


「ジンも知っていると思うけど、わたし達獣人族は、その、人間達から差別されてきた種族だ」


これのせいで、とタマは獣耳を触る。


「これがあるから、普通の人間と違うものがあるから差別される。人間と遊ぶ事も、働く事も、対等に生きる権利も無くなってしまう。だから、わたしはこれが大嫌いだった」


なるほど、初めて会った時にフードを被っていたのも、それが取れた時に慌てたのもそれがあったからなんだな。


というか、なんだその世界。いやこの世界か。


「だから、ジンに、その、これを可愛いと言われて、びっくりして、どうしていいか分からなくなって、あの、気付いたら蹴ってしまっていた。ごめんなさい」


タマはぺこりと謝る。その際獣耳も彼女の心情を表わしてかぺろんと垂れている。


「やっぱり、可愛いと思うな」


「ふぇっ!?」


もう一度言われてタマは顔を真っ赤に染める。


「……ああ、そんな可愛いオプションでその獣人族、なんかもうこの言葉から気に入らないな、とにかく差別しようとするなんざ俺この世界に心底絶望したわ。マジであり得ない。こんな見てるだけでも癒されるものを差別しようなんざ人間も落ちたもんだな」


今だってタマは獣耳の良さを存分に体現してくれている。癒される。俺この世界に来て良かった。本当に良かった。この世界変態ばかりだったからどうしようかと思ってたんだよ。あと最初の間はもう一度蹴りがくるんじゃないかと身構えたせいです。来なくてよかった。


「ジ、ジン……」


震えた声を出すタマ。の目からほろり光る粒がこぼれ落ちる。


「って、なんで泣くのっ!」


女の子の涙に滅法弱い俺はぼろぼろと泣き出したタマに狼狽するしかない。


「だ、だって、そんな風に言ってくれる人、初めてだからぁ……っ」


軽く嗚咽を漏らしながらタマは俺のそばに来て、そして俺の体にしがみつく、そして泣く。


……なんだこの状況はっ!?


絶賛鎖に縛られ中に獣耳の女の子に泣かれながら抱きつかれている。


ありがとうございます。


じゃない、えっと、こういう時男はどうすればいいんだ?いや、どうする事も出来ないな。いま俺縛られてるから動けないし。


と一通り慌てたところで、俺はある事に気付く。


「タ、タマ。お前さっき、自分は獣人族だから働けないって言ってたよな?」


「うん。そうだ」


タマは涙と鼻水を俺の服で拭いながら答える。何も言うまい。男なら気にしたら負けだ。


「だからこんな武装組織なんてところにいるのか?」


「ああ。そうでもしないと弟達を養っていけなかったから……だからクラッシュに協力している」


「弟達?タマって兄弟いるんだ?」


そう聞くとタマは頷き、


「うん。ミケにクロにブチ。みんな男の子だ」


と指折り数えながら教えてくれた。なんかどれも猫の名前っぽいな。地球的感覚だけど。


「その弟達って今どこにいるの?」


「分からない」


「は?分からない?」


タマは不安そうな顔で頷く。


「みんなクラッシュが連れていった。わたしは何度も居場所を聞いたけど教えてくれなかった。しつこく聞くと弟達を売り払うって言われたから今はもう聞くに聞けない」


と、弟達に会えなくて寂しいのだろう。顔に影を落とす。


ちょっと待て問題はそこではない。


「いや、それ脅迫じゃねーかよ!」


「きょうはく?」


なんの事、とでも言いたげにタマは首を傾げる。その様子に俺はもどかしさを感じてため息を一つ。


「お前の弟達はクラッシュに人質に取られてんの!つまりお前はいい様にこき使われているだけなんだよ!」


「そ、そうだったのかっ!」


今初めて知る衝撃。みたいな顔のタマ。なんか知らんが疲れてきたぞ俺は。


「そうだよ!悪い事は言わないからそんな連中とはさっさと縁を切った方がいい。なんなら俺も手伝う」


「で、でも、ここを離れても、わたし達には行く場所がない」


哀しげに訴えてくるその目の奥には一体いくつものそう言わせる『過去』がある事だろうか。でもそんなのも今日限りだ。


「だったら俺と一緒に来い。こう見えて俺はある国で爵位を得る予定になっているからそうなったらお前と弟達を召し抱える、って形を取って住む場所とか仕事とか諸々いくらでもくれてやるよ」


「え、で、でも……」


「そうすればお前も弟達も一緒に平和に暮らせて万万歳。俺もそれとなくなんか業界的にご褒美を得られるから誰も損しないハッピーエンドだ」


躊躇うタマに対し俺は自分でも驚くほどに舌を滑らせて畳み掛ける。


その甲斐あってかどうすべきか逡巡していた様子のタマが、視線を真っ直ぐ俺へと向ける。


「ほ、本当に、いいの?」


その問いに、俺は笑顔で、


「ああ、むしろウエルカムだ」


と笑って答えた。


「じゃ、じゃあ」


とタマは口元に笑みを浮かべ返事を口にした。


しかしその返事は聞き取れなかった。


いきなり響渡った強烈な衝撃。その音のせいで。


ぴちゃり、と俺の顔に粘り気のある液体がつく。


それがなんなのか、答えは一瞬で分かった。


目の前で、さっきまで笑みを浮かべていたタマが驚いたような顔をしている。そんな彼女の右胸、そこから弾け飛んできた血、それが俺の顔に飛んできたものの答えだ。


「タ、マ……っ」


なんとか絞り出した俺の呼びかけに答える事なく、タマはその場にどさりと力なく倒れた。


「お、おいタマっ、タマっ!」


俺は声を張り上げた。しかしタマからの返事はない。ただ、か細い呼吸と胸から溢れ出る血だけが彼女の周りの時間が動いている事を証明していた。


「やっぱり、裏切ったのね」


いきなり部屋の扉が蹴破られ、クラッシュと共にいた女、ジオネが現れる。彼女の手には拳銃が握られ、その銃口からは硝煙が白く立ち上っていた。


「クラッシュ様の言う通り、こいつはもう用済みだったわね。さすがクラッシュ様、ナイスタイミング。後でしっかりお仕置きしてあげなくちゃ」


ジオネはたおれているタマの事を見下しながら淡々と言う。


それが、俺にはどうにも許せなかった。


「おい、てめぇ。なにしやがるっ」


「なにって、もう使う必要の無くなった道具の削除よ」


なんで目の前の女はこんなに平然としているのだろう。なんで怒っている俺の方が滑稽に映るのだろう。


「使わないなら解放してあげりゃ良かったじゃねぇか!なんで殺す必要がある!」


怒鳴った。我ながら結構な音量で怒鳴った。しかし目の前の女は平然としている。


「あなた馬鹿じゃないの。これは私達の内情を知っているの。それを分かってて野に放すなんて、それこそ馬鹿のやる事よ」


「こいつには弟達がいるはずだろう。そいつらはどうするんだっ」


「当然。大好きなお姉ちゃんの後を追わせてあげるに決まっているじゃない。いえ、もう先に行っているかもしれないわね」


そう言って、ジオネは俺に銃口を向ける。


「その感動の再会の立会人は、あなたよ」


ジオネは笑っていた。










…………。

……。


「な、なにをするのじゃ!」


「なにもくそもねぇ。そのチビ共を殺せっていうボスからの指示だ。そこをどけ、でねぇとまずお前がハチの巣になるぞ」


洞窟に閉じ込められていたファミと三兄弟。に対し突然見張り役の男がライフル銃を構え怒りの形相で迫ってきた。


「なぜこの子らが殺されねばならないのだ!まだこの子らは幼いのだぞ!」


恐らくはこの三兄弟の姉がなんらかの動きをした事はファミにも察しがついた。組織を裏切ったのか、それとも、この子達を捨てたのか。


ファミは後者の考えを打ち払う。そんな訳はない。きっとやむを得ぬ理由があったに違いない。獣人族とはなによりも家族の絆を尊ぶ種族。こんなに可愛い幼子達を見捨てるなどするはずがない。


いや、今はそんな風に考えても仕方がない。ファミは目の前に突きつけられた黒い銃口を見つめながら思う。今は考えても結論は出せない。この子達を守り、そしてその姉に会い真相を確かめる。自がやるべき事はそれだけだ。そうファミは決意を新たにし、足に力を込めて踏ん張る。そうでもしないと震えて腰から砕け落ちそうだったから。


「お前もまだ十分子供じゃねーか!いいからそこをどけっ!てめぇから殺してやろうか!」


男は洞窟内に響渡る大音声で怒鳴り散らす。その声にファミの背後に隠れる三兄弟達は怯え震えだす。


しかし、それでもファミは動かない。


「そうじゃな、わらわも子供じゃ。じゃがわらわとて由緒正しきリーコン家の人間!民を見捨て己のみが生き残るなど言語道断!断じて出来ぬ!」


ファミと男とでは体格も身長も比べる必要のない位の差があった。しかしファミの放つ気迫は確実に男を圧していた。


「そんな獣野郎どもの盾になって死ぬのかよ!」


「獣ではない!この子らは人間じゃ!お前らなんかよりもよほど心根の綺麗な人間じゃ!」


ファミの食らいつくような声と目に男は明らかに困惑していた。


なぜ目の前の、こんなに小さな女の子が、自分よりもでかい、しかも武器を持った自分に真っ向から立ち向かう事が出来るのか。なぜ逃げて命乞いをしないのか。


その困惑はやがて怒りと変わった。女の子に翻弄されている自分に対する怒り。


それを解消する手立てなど、冷静さを欠いた男には一つしか思いつかなかった。


「うるせぇんだよっ!だったらまずはてめぇから死ね!」


男は引き金に指を掛ける。その動きをファミは見ていた。


「わぁぁぁっ!」


ファミは大声を上げた。先ほどの男の怒鳴りにも劣らぬ大声。驚き、男の動きが一瞬止まる。ファミはその瞬間を見逃さなかった。


「うぁぁぁっ!」


ファミは男に飛びかかる。


「なにしやがるっ!」


腕にしがみつき、銃を奪おうとするファミを男は必死に振り払おうとする。


「おぬし達!今の内に逃げるのじゃ!逃げるのじゃっ!」


ファミの必死の叫び。しかし怯えきった三兄弟は、体を震わせ目に涙を浮かべるばかりで動こうとしない。


それは当然の事。普通の子供、いや人間であれば銃口を向けられて平静を保てるものなどいない。こうして相手の意表を突き飛びかかる事に出来るファミの冷静かつ大胆な捨て身の判断力が異常なのだ。


「早くするのじゃっ!生きて姉に会いたくはないのかっ!」


ファミは執拗に男の腕にしがみつく。しかしがぅちりとした筋肉質の男と、ごく普通の女の子であるファミでは力の差は歴然。男は最初こそ突然飛びかかってきたファミに戸惑いはしたが、しかし遂に彼女の首根っこを押さえ、自分あら引きはがそうとする。


しかし、その時彼らが動いた。


「う、うわぁぁぁぁぁっ!」


最初に動いたのは三兄弟のブチ。意地っ張りでファミとまともに目も合わせられなかった彼が、勢いよく突進し男の足にしがみつく。


「な、なにをして」


「わぁぁぁぁっ!」


「むぅぅぅぅっ!」


ブチの行動に驚くファミ。に暇を与えず続けてミケとクロも男に飛びかかる。


「あいてててっ!なにしやがるこのくそチビ共がっ!」


男は突如襲いかかってきた三兄弟に驚きつつもやる事は変わらずファミ同様振り落とそうとする。


「何をしておるのじゃおぬし達!今の内に逃げろと」


「いやだ!ファミにばっかりかっこういい事はさせない!」


ファミの言葉を遮ってブチが声を上げる。


「そうだよ!ファミと遊ぶのはすんごい楽しかった!だからまだ遊びたい!だからぼくもファミと一緒に逃げる!」


ブチとは反対の足にしがみつくミケ。


「ファミはいい人。ぼく達の事見てもさべつ?しなかった。嬉しかった」


と言いつつ男の頭にしがみつきべたべたと顔を触りまくるクロ。


「おぬし達……っ」


ファミ達は男にしがみつきなんとか無力化しようとするが、


「いい加減にしろこのクソ餓鬼どもがぁっ!」


「うわぁっ!」


男は大きく腕を振り回し体も回転させ、ファミ達を振り落とす。最後までしがみついていたクロも男に捕まり地面に叩きつけられる。


一般に獣人族の身体能力は人間の平均値のそれと比べ3~5倍と言われている。しかしそれはあくまで同じ年齢と体格の持ち主だった場合の話。いくら1対複数とはいえ、幼い3人では人間の大人には太刀打ち出来なかった。


「手間取らせやがって、まとめてぶっ殺してやる!」


男の銃口がファミ達を捉える。男が握っている銃は散弾銃。もう大声をあげて意表を突くような事も通用しないだろう。


「っ!」


ファミは男に背を向け、三兄弟を力の限り自分の小さな背中に収まるように抱き寄せた。


こんな事をしても気休めにもならないかもしれない。でも、何もせずに死ぬのは他でもない自分自身が許さなかった。


でも、せめて、せめて、もう一度だけ、相棒に……ジンに会いたい。


ファミはぐっと目を閉じ、そして自分の短い人生の最後を覚悟した。










…………。

……。



「もうすぐクラッシュ様の念願も叶う。そうすればこの世界は混沌の渦の中」


ジオネは銃口を真っ直ぐ俺の額に向けたまま、ぽつりぽつりと言葉を吐く。


「クラッシュの念願ってあれか、戦争を起こす事か?」


俺は聞いていた。全身に湧き上がる怒りと恐怖の衝動を必死で抑えつけながら。


「そうよ。それこそがあの人の本望」


「そんな簡単に戦争なんて起こせるのかよ?俺の知る限りそういうのは大分複雑な回り道をしないと起こらないイメージだけどな」


そう聞くと、ジオネは小さく微笑みをこぼす。こんな時でなければとても魅力的に映ったであろう微笑み。


「そうね。その認識は、まぁ間違いじゃないわ。そしてそれは私達も、いえ私達の方がよく知っている。だからクラッシュ様は用意したのよ。戦争を起こす切り札を」


「切り札?」


「そう。私達の切り札……『ミロク』」


「みろく?」


何かの兵器の名前でも飛び出してくるのかと思ったが、ジオネの口から飛び出してきたのはなんとも判断のつかない言葉だった。


「なんだよそのミロクってのは?」


「それはあなたが知る事ではないわ。でも、あれさえあれば確実に戦争は起こす事が出来る。それだけは断言できるわ。……あれをぶつけさえすれば」


ジオネの言葉はさっきから情報が小出し小出しで要領を得ない。


でも、どうやらクラッシュには秘密兵器みたいなものがあるということは分かった。そしてそれを使って戦争を起こそうとしている事も。


「で、肝心の正体は教えてはくれないんだな?」


これは、最後の質問。


「ええ、いくら死にゆく者に対してでも、情報は漏らさない。信頼される傭兵の鉄則よ」


「ああそうかい。それはなかなかいい心がけだと思う、ぜっ!」


瞬間、おれのからだを縛っていた鎖が、俺が両腕に込めた力によって引きちぎれた。


「なっ!?」


ジオネの顔が驚きに染まる。


「俺の怪力舐めんなよ!」


嘘です。実は先ほどタマにどつかれた時にいい感じに鎖に亀裂が走っていたので、今このタイミングを利用してあたかも俺が凄いみたいな感じに引きちぎったのだ。


「さぁ、今度はこっちの番だ!」


俺はちぎれた鎖の中から、少し長めの奴を手に取り、振りかぶる。


「させるかっ!」


ジオネは拳銃の引き金を引く。強烈な発砲音と共に発射された弾丸は俺の頬を掠めていく。


その瞬間頬に走る焼けるような痛み。


だが俺は怯まない。


「おりゃあ!」


俺は思い切り鎖を振り下ろす。


「おっと」


しかし、一歩引いたジオネには鎖は届かず、地面やらを叩きつけるだけ。


「あなたは治癒の能力はあるけど戦闘に関してはまだまだなようね」


ジオネはずいぶん失礼な事を決め付けると、再び拳銃を構えその銃口を俺へと向ける。


「さぁ、終わりよ」


「そうだな」


ジオネはじりじりと俺に歩み寄る。


俺は、その様子を見て確信した。


勝ったと。そして知らず内に俺は笑っていた。


「ん?何を笑ってっ」


ジオネの言葉は途中で不自然に止まる。


それもそのはずか。


体が浮く位に強烈な一撃を顎にもらったんだ。喋れる訳がない。


それは、俺ではない、タマの放った一撃。


上下に180度開脚して放つ蹴り。それがジオネの顎にクリーンヒットしたのだ。


だがそれで終わりではない。タマは素早く体勢を整えると、その時点でようやく体が落ちてきたジオネの腹に、


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


ボディーブロー。拳が見えなくなるのではないかという位にジオネの腹部に沈んだタマの拳。しかしそんな光景も一瞬だった。


パチンコ玉の様に弾かれたジオネの体は部屋の扉を破り、その先にあった大木の幹に轟音と共に体を打ちつける。


そして、そのままずるずると地面に倒れていく。どうやら気を失ったようだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ」


見事なコンボを披露してくれたタマだが、直後にふらりと体が揺れる。


「おっと、大丈夫か?」


倒れそうかというところを支えてやる。見ればタマの顔は汗でびっしょりと濡れていた。


「大丈夫。ジンが、治して、くれたから」


まだ辛いだろうにタマは笑顔でそう答える。


というか、そう、タマの傷は俺が治した。


もう予想も見当も付いている事と思うが答え合わせ。


俺が先ほど振り下ろした鎖。あれはそもそもジオネを狙ったものではない。


その手前に倒れていたタマを狙って振り下ろしたのだ。


俺のバグの力が物をも伝達するという事はメタルギア鉱山ですでに証明されていたから可能性は十分にあると思っていた。半ば賭けのようなものだったが、しかし俺は見事その賭けに勝ったのだ。


俺のバグの力は、俺の攻撃全般に適用される。武器を使ってようが全てが回復になる。また一つ自分の力について理解を深めたな。


そのお陰でタマの傷を治す事は出来た。しかしタマは撃たれてから回復するまでに大分血を流している。常人なら貧血になるだろうってなくらいの出血だ。


しかし、タマは俺の支えを抜けると、力強く俺に言った。


「行こう、ジン」


と。辛いのは間違いなく自分の方なのに、しかしタマは笑顔すら浮かべている。


それを見て、俺の拳に自然えと力がこもる。


「ああ、お前の弟達助けて、クラッシュの野郎をどうにかして、んでもって全部解決だっ!」


そう決意を新たにした直後だった。


激しい地鳴りと轟音が辺りに響いたのは。


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