表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/37

[8]強烈なる一撃イベント

「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


ファミは走っていた。息を切らし、額に汗を浮かべ、体中に疲労を感じながら、それでも走っていた。


彼女はなぜ走っているのか。


誰かに追われているのか。ジンがクラッシュら武装組織に囚われている今、同じ馬車に乗っていた彼女とて過酷な運命を課されていてもおかしくないだろう。


とか思っていた時期もあった。


が、真相はこうだ。


「あはははは~!ファミ~、こっちだぞ~!」


「こっち、こっち。僕ら早く捕まえて」


「おい、早く捕まえてみよ!もうへばっちまったのか?」


「な、なんのこれしき!今すぐおぬしらを全員捕まえてくれるわぁ!」


なんか子供と鬼ごっこをしていた。ファミよりも3歳くらい幼い三人の子供と。鬼はファミで、しかし全然捕まえられずに体力ばかりを消耗していた。


「ま、全く……。訳の分からぬ連中に捕まったかと思えば今度は子供のお守りか。どんだけ方向性をひん曲げたイベントを積み重ねれば気が済むんじゃ、とかジンの奴なら言うじゃろうな」


ファミは汗を拭いながら、馬車が吹き飛ばされて以来消息の知れない相棒と、そして荷馬車に乗っていた熊の事を考える。


「マイクロブラックボックス。確か自分から武装組織とか名乗っておったの。そんな奴らが目的もなくわらわ達の乗る馬車を襲撃したとは考えにくい。ソニード王国の要人狙いか、それとも……ジンが狙いか」


ファミはぶつぶつと自分の考えを言葉にしてまとめていく。


ジンならばあれで死んでいないならば今も生きているだろう。熊に関しては、皆目見当もつかなかった。前回の一件以来可愛がっていたファミとしてはもちろん生きていてほしかったが。


ファミが目覚めたのはだだっ広い洞窟のような場所だった。そこで訳も分からぬ内に誘われるがまま子供達と鬼ごっこを始めたのだが。


「この子達も、ある意味では普通じゃないからの」


ファミは、自分と鬼ごっこをする3人の子供達の、その頭を見る。


彼らの頭には、人間には無いもの、獣の耳があった。正確には猫科動物のそれに近い耳。


ファミはそうしたものが付いている種族に覚えがあった。


『獣人族』。野生動物の高い運動能力と人間の知性を兼ね備えた種族。しかし人間に比べるとその数は非常に少なく、人間側の誤解、というより身勝手な差別意識も手伝い、獣人族は迫害され一部では虐殺されてきたという過去がある。


今では獣人族は大陸を挙げて守るべきとする動きが活発になってきたが、しかし昔から続く偏見や先入観、なにより見た目の違いを理由に獣人族を認めたがらない人間達は多く残っている。


ファミ自身はそれらの歴史を愚かなものと断じていた。人間とて100人いれば100通りの見た目がある。性格も含めればその組み合わせは天文学的数字になるだろう。それがたかだかちょっと獣の特徴を持っているからと言って迫害し、自分達よりも下の存在にしようとする。本当に、傲慢な人間の恥ずべき愚行。ファミはそう考えていた。


「いや、今はもっと考えるべき事があるじゃろう」


ファミは改めて、自分のいる洞窟の入口を見る。


大人一人分程度の大きさしかない出入口。洞窟の歪な穴に無理やり木の扉をはめたその前に、筋骨隆々の屈強そうな男が憮然とした顔で立っていた。


外への出入口はその一か所しかない。あの男は間違いなくファミと獣人族の子供を見張る為にいるとファミは確信していた。


「あれ?ファミ、もう疲れたのか?疲れたのか!」


獣人族の子供の一人が元気よく飛び跳ねながらファミの周囲を回り始める。


「ああ、降参じゃ。だから少し休ませてくれ」


ファミは両手をあげてその場にペタンと腰を下ろした。


すると、さっきからずっと走り回っていたというのに他の二人もまだまだ元気を余らせた感じファミの周りに集まってくる。


ファミは三人を見ながら名前と特徴を頭の中で確認する。間違えると地味に怒られるからだ。


「あはははー!ファミってじきゅうりょく?がないんだなー!あははー!」


何が楽しいのか知らないが笑ってばっかりいるのがミケ。頭髪は白、右耳が茶、左耳が黒という毛の色がポイント。


「よいしょ、よいしょ。ファミが捕まえないなら僕がファミを捕まえるの」


なぜかファミの背中によじ登ろうとしているのがクロ。耳も含め全ての毛が黒一色と分かりやすいのがポイント。


「おいクロ。お前なにファミに上ってるんだよ!」


クロの行いに怒っているのがブチ。栗色の毛で左耳だけ黒いのがポイント。


「んー?じゃあブチも登る?」


「い、いや、おれはいいよ……そ、そんな奴に登ってもしかたねーし」


と、ブチはわずかに頬を赤く染めて顔を逸らす。


クロはその意味が分からないのか首を傾げる。


ファミは別の事を考えていたのかその一連には特に気付かず。


「のう、おぬし達。少し聞いてもいいかの?」


「なに?」


ファミの肩からクロがにょきっと顔を出す。


他の二人も何を聞かれるのかとファミの方を見る。


「おぬし達はなぜここにいるのじゃ?」


ファミは入口の男に注意を払いつつ聞いた。するとミケが「はいはいはい!」と元気よく手を挙げる。


「それはね!お姉ちゃんが頑張っているからだよ!」


「お姉ちゃん?おぬしらには姉がいるのか?」


三人は頷く。


「お姉ちゃんはここの人達と一緒に働いているんだよ。偉いんだよ」


「ね、姉ちゃんはお前なんかよりも凄く強いんだからな!」


クロはおっとりと、ブチはなぜか喧嘩腰に言う。


「ふむ。姉がここで働いておるのか」


「そうだよ!」


ミケが元気よく答える。


ファミはそれに笑顔で応え、彼の頭を撫でてやったが、しかし脳裏にはある可能性がよぎった。


人質。


もし本当にこの三兄弟の姉がこの組織の為に忠誠を誓い戦う覚悟を持っているというのなら、この兄弟達を半ば軟禁状態にしておく必要はないはず。この兄弟達はまだ幼いからか事の意味に気付いてはいないようだが、この状態は明らかに外に出さないようにしてその姉とやらが裏切らないよう人質にしているとしか考えられない。自分と一緒に管理されているという点もファミの中でその推理の確実性を押し上げる。


自分も人質。恐らくはジンを思い通りに動かす為の。


そこまで考えて、ふとファミの脳裏にジンの姿がよぎる。


そして思う。今の自分をジンが見たらなんて言うだろうかと。


『幼女の癖にそんなに頭が回るとかなんか気持ち悪いわ。というかお前本当に幼女か?もしかしなくてもサバ読んでんだろ?実は頭脳は大人、体は子供?名探偵幼女ファミ!とかそういうのなんだろ?ぷぷぷ、寒っ!』


ファミは苛立った。あまりにも鮮明に再生されるジンの姿と音声に大いに苛立っていた。


しかしながら、同時にそんなイライラさせられる相棒の事が気にかかるのも事実だった。


「ジン。お前は無事なのか……?」


ファミはぽつりと寂しげに呟く。


それを聞いて真っ先に反応したのが肩から顔を出しているクロ。


「お?ファミが元気ない。ブチ、元気づけてあげて。ほら、ふぁいとって」


「おぇっ!?な、なんでおれがファ、ファミのやつなんか元気にしてやらなきゃいけないんだよ!」


「あはははははー!ブチ顔が真っ赤ー!あとツバ吐きすぎー!きったねー!」


慌てるブチにそれを笑うミケ。相変わらずのほほんとしているクロ。


ファミは兄弟達の様子を見ていて、自然に笑みがこぼれている自分に気付いた。


そして決意した。


この兄弟達は自分が守ろう。組織で働いているという姉がどういう経緯でこの組織にいるのかなど気になる事はたくさんある。でもそれを確かめるのは二の次。こんな状況下でも笑って生きている兄弟を、元気を分けてくれる三人は絶対に自分が守る。


ファミはそう強く決意した。










…………。

……。


そういえば、ファミはどうしているのかなぁ、とか考えもした。


さっきよりもよりひどい状態で床に転げながら、半ば現実逃避の感覚で俺はそんな事を考えていた。


さっきよりひどい状態ってどういう事かって?


あのね、さっき俺フードの人の手に噛みついたでしょ?うん、噛みついたのよ。理由は後で説明するね。それよりも今はその0.5秒後に起こった出来事の方を先に説明しないとね。


噛みついたらね、そのフードの人がね、悲鳴あげながらね、とんでもない速さで俺の顔面を蹴り抜いたのよ。蹴って、でもって抜いたのよ。何が抜けたのかってのは俺自身も明確には分からないさ。でも体感としてはそんな感じだったね。


とりあえず痛いのと、あと鼻血が出てます。鼻の骨やられてんじゃねーかな、これ。意識あるのが奇跡だよ本当に。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


フードの人はと言えば噛みつかれた手をもう片方の手で庇いながら驚愕と衝撃と侮蔑と困惑が入り混じったような顔で俺を見ていた。


というかもうフードの人じゃないな。


俺を蹴り抜いた際の素早い動きの中で、顔をすっぽりと覆っていたフードは外れ、顔と……あと特徴的なそれが露わになった。


「やっと、顔が見れたな」


綺麗な白い肌に青い瞳。短めで毛先に少し癖のついた薄い水色の髪、そして頭から覗く二つの耳。獣耳。


「え……んんんっ!?」


俺に言われてようやくフードが外れた事に気付いたのだろう。その子は頭を両手で覆い隠し声にならない声を絞り出しながらしゃがみこんでしまった。


「いやぁ、声の感じからもしかしてとは思ってたけど、やっぱり女の子だったんだな」


「見られた。というか鼻血出しながら笑うな気持ち悪い」


しゃがみこんで縮こまっているその子は頬を膨らまして抗議の視線を向けてくる。


獣耳少女が頬を膨らまして怒っている様子。プライスレス。


つまり、可愛い。以上。


業界によってはご褒美です。多分俺はその業界にいます。


よって今結構至福。割と命の危機に瀕している気がするけど幸せなら手を叩こう。あ、縛られてるから叩けない。


「あ、というか右手のそれ、どうなった?」


「え?」


俺の問い掛けに対し獣耳少女は自身の右手の甲、白い包帯が巻かれたそれを見る。


「俺の見たところだと、そこは怪我をしていた……はずだと思うんだけど」


思わせぶりな間を空けて告げる。女の子は俺の言い方に気になる部分を感じ取ってくれたのか左手で包帯の部分を触る。


「あれ?」


すると、俺に対して軽蔑の視線を向けていた険しい表情が一変し何か理解出来ない不思議なものを見る顔になる。


それを見た俺はある事を確信する。


「包帯解いてみな。多分いいことあるぜ」


女の子は俺から見えないように右手を隠しつつ、するすると包帯を解いていく。


「お、え、えぇっ?」


女の子は包帯を解いた自分の手を見て驚嘆の声をあげる。


そして、俺と手を交互に見る。その様子に、俺は自分の狙いが当たった事を確信した。


「お、お前、一体何をしたっ?」


女の子は戸惑った口調のまま言葉を紡ぐ。まだ俺に対する警戒心はさすがに解けてはいないようだが、いい意味で食い付いてはもらったようだ。


「これが俺の力だ。俺は普通の傷ならなんの道具も使わずに一瞬で治す事が出来るんだよ」


「力……。まさか、幻の治癒魔法、なのか?」


「いや、魔法とは違うね。俺にしか出来ない、本来は取り除かれるべき異常な力ってところかな」


バグと単純に説明してもそもそもこの世界にバグという概念の存在自体がないだろう。という訳で無い語彙を絞って説明してみたが、しかし女の子は首を傾げるばかり。


「よ、よく分からないが、その異常な力?でわたしの傷を治したのか?」


「平たく言うとそういう事。ごめんね、いきなり噛みついちゃって」


そう。突然女の子の手に噛みつくという地球じゃなくても即逮捕物の変態行動はその為に行ったのだ。もちろんただの善意で治した訳じゃない。俺の力の副作用ともいえる効果、治した人間から得られるという好意が彼女に発生する事を期待したのだ。


打算ありきの治療。なんか騙しているようであまり気分は良くないが、しかし今は俺の命が懸かった正念場。善人でばかりはいられない。


「い、いや……あの、こちらこそごめんなさい。傷を治す為とは知らなかった」


女の子はぺこりと頭を下げてくる。なんという純粋さ。俺は良心が痛んだ。


「い、いきなり……か、噛みつくのはびっくりした。でも、わたしの為だったのなら、許す。大丈夫」


女の子は口をもごもごさせながらなんとかこちらが聞き取れる音量で言う。なんか頬がおんのり赤く染まって目線は明らかに俺から逸らしてるし、チャームポイントの獣耳もしゅんと垂れてるしってこういう挙動は本当に可愛いと思います異論は認めません。


というかこれ、もしかして副作用きてる?いきなり来ちゃったかな?


クレア王女の一件があるから多少は慎重になる。でも、


「……タマ」


「ん?」


「わたしはタマだ。わたしの名前だ。わたしはお前の名前を知りたい」


とかもじもじと恥ずかしそうに言われたら普通の青少年は1億人中1億人が「やばいこの子もしや俺に気があるんじゃね?鉱脈掘り当てたんじゃね?」と勘違いするだろうさ。言うまでもなく俺も青少年の一人だ。というかこれで副作用かかってなかったら嘘さ。


「俺は天堂ジン。まぁジンって呼んでくれ」


「ジンか。ジンは、その、もちろん、人間なのだよな?」


タマは獣耳をいじりながらまさしく恐る恐るといった感じに聞いてくる。


「うむ。俺は間違いなく人間だな。この世界のではないけど」


「そうなのか」


とタマが言った。


後、訪れた微妙な沈黙。


「いやいやいや!なんで人間かどうかなんて確かめたの?」


「いやぁ、その、わたしを見てもなんとも思わないのかな、と思って」


躊躇いがちにそう言うタマ。しかし俺にはその言葉の意味するところがよく分からない。


もしさっきからいじくり回しているその獣耳の感想を言えというのならばマーべラスの一言だけども。


「わたし、は獣人族だ。正確にはお前ら人間とは違う種族だ。このような分かりやすいものまでついてるし」


だからその獣耳に関してはコングラッチュレーションの一言しか俺には用意出来ないのだけども。ん?もしかしてそういう事か?


ある可能性に辿り着いた俺は、タマの事をじっと見つめてみる。


「な、なんだ。そんなに見られては恥ずかしい、ぞ」


「いや、なんだ、俺は可愛いと思うぞ、その耳」


ボンッ。って音がした。


それは何の音か。タマが照れて顔から火を噴いた音?残念惜しい。


正解は……タマの放った音速の蹴りが鎖で縛られた俺の腹に直撃した音でした。


もの凄く痛い。というか、これは照れ隠しの一撃だと願いたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ