表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/37

[7]勧誘、からの変態イベント

「戦争、だとっ?」


クラッシュの口から飛び出した不穏当な言葉。俺は思わず聞いてしまったが、それは奴にとって「待ってました」な台詞だったようだ。


「その通り。俺も、ジオネも元は傭兵だった。知ってるか?傭兵ってのは戦争が起こって初めて飯が食える仕事だ」


と機嫌よさげに言う。


俺も傭兵という言葉は知っている。地球の方にもそういう事を生業にしている人達がいたしな。


「ちょっと前までは良かったぜぇ。まだ国家間連合の条約が締結されてなかったから、領土と資源の取り合いがそこかしこでバンバン起こっていた」


いつかファミが言っていたな。産出資源量はそのまま国力に繋がると。


つまり戦争とは自国の国力を高める為の手段という訳か。


「その度に重宝されていたのが俺達傭兵だ。今日はあの国、明日はこっちの国って具合にな、バリバリ稼がせてもらってたよ。でも、それも終わっちまった」


クラッシュの顔に影が落ちる。


「国家間連合のお陰で各国は綿密な条約を取り交わした。詳しい内容なんてのは知らないし興味も無いが、その中の一文……『武力による国家間の軋轢の解消を固く禁ず』だけは焼印みたいに心に刻み込まれたな。俺達は思ったよ。ああ、これで俺達は世界に不要になっちまったんだなぁ、ってな」


「だから戦争を起こそうってのか?」


「その通りだよ。俺達から生きる道を奪いやがった連中に一泡吹かせて、それからまた混沌とした戦いの日々を取り戻す。それが俺達の最終目標だ」


クラッシュは、言うなれば頑張った後のご褒美を楽しみにする子供のような期待感に満ちた顔をしている。


胸糞悪い顔だ。


「おい、最終目標って今言ったよな」


「ああ、それがどうした?」


「戦争を起こしてからはどうするんだよ。まさかただ戦うだけとか抜かすんじゃねーだろうな」


俺の言葉にクラッシュはにたりと笑う。


「抜かす気だがそれがどうした?」


「そんな事して何になる。戦争なんて永遠に続くものでもない。お前らは戦争が終わる度に戦争を起こすとでも言うのかよ」


そうだ。戦争は命を奪い合うものであると同時に、他の全ての物事と同様に必ず終わりがある。それがどんな形であれ、必ずだ。


俺はクラッシュの言う事の盲点を突いたつもりだった。しかしクラッシュは,


「だったら戦争が終わる度にまた新しい戦争を起こしてやるよ」


と事も無げに言った。


「どうしてそうまでして……っ」


「簡単な話だよ。俺達には他に生き方がないからだ。俺達には戦うしか出来る事は無いんだよ」


「本当にそうなのかよ。いや、それはお前らの思い込みに過ぎない。たった一つしかな生き方がない人間なんて」


「うるっせぇ!」


響き渡る乾いた発砲音。


クラッシュが腰のホルスターから引き抜いた拳銃で天井を撃っていた。


「俺はてめぇと戦争と平和について語り合う気はねぇんだよ」


「じゃあ、じゃあなんで俺を捕まえたんだ?」


「俺達が欲しいのはお前であってお前でない。お前の能力が必要なんだ」


「能力……っ?」


俺の能力、と言えば思い当たるものなど一つしかない。


攻撃力マイナスバグ。攻撃が回復になってしまう力。


「そうだ。お前のメタルギア鉱山での活躍は見せてもらった。見事なもんだな。普通なら何か月もかかるような怪我がお前の手にかかれば一瞬で治っちまう。なぁ、あれって魔法なのか?」


「魔法じゃない。少なくともな」


俺は曖昧に答えを濁した。何故かと言えば答えは単純。これ以外に答えようがないからだ。バグだなんだと言ったところでこの世界の奴らに伝わるはずがないしな。


「へぇ。まぁ、その能力の本質が何かってのは正直興味は無ぇ。重要なのは、それがあればいくら傷を負おうが一瞬で元通りになれるって事だ」


「……一体どうしようってんだ」


こいつらが俺のバグの力を欲しているのは分かった。問題はその理由だ。


と考えて俺はすぐに答えに行き着いた。


戦争、傭兵。たった二つのワードに答えはあった。


「自分で気付きましたって顔だな。じゃあ答え合わせだ。俺がお前の能力を欲しがるのは一体なぜか?……無敵の傭兵集団を作り上げる重要な礎にするんだよ」


クラッシュは機嫌良さそうに言葉を繋げる。


「戦場で兵士が傷つくのは日常茶飯事だ。致命傷を負った奴が死ぬのは当たり前の話だが、しかし現実の戦場を見てみると、死んでいった奴らは何も最初に致命傷を負った訳じゃないんだなこれが」


「どういう、事だ」


「いきなり致命傷喰らう様なのはつまりただのバカだ。死んで当たり前のクズだったんだよ。大体の場合最初は小さな傷を負う。そしてその傷のせいで動きが鈍り集中力が切れ、やがて死に至る致命傷を負う。それが戦場における兵士の死への道のりだ。実際に見てきた俺が言うんだから間違いない」


その目には真剣な色が見て取れた。嘘は言っていない。少なくともそう思わせるだけの迫力はあった。


「じゃあ傷を負う度に治療を施せばいいのか?いや違う。それだって今の医療技術じゃとてもじゃないが間に合わない。そこでお前の出番だ。お前なら傷が無かったかのようなところまで回復させる事が出来る。そうすれば兵士は死への道を外れ更なる活躍をする事が出来る様になる。どうだ?素晴らしくねぇか?」


「そうだな。確かに俺の力を使えばお前の言う通りにはなるだろう」


「だろ?そうすれば俺達傭兵は今まで以上に活躍する事が出来る。なに、てめぇにただ働きさせる気はねぇよ。それ相応の報酬をだな」


「しかしながら断る。絶対にだ」


「……は?」


俺の回答は予想通りというかクラッシュにとって不服の回答だったのであろう。やつの顔がみるみる内に戸惑いというか苛立っている様な顔になる。


「おうおう。なんで断るんだよ?てめぇの能力を存分に活躍させる事が出来るチャンスなんだぞ?」


「俺の力は人の傷を治せる力だ。でも俺はこの力を使って戦争の手助けをしようなんて絶対にごめんだ。だから断る。以上!」


言い終わった瞬間、ジオネさんの蹴りが俺の腹に直撃した。


「ぐはっ!」


椅子に体ごと拘束されていた俺はそのまま倒れてしまう。


「……ジオネ。全くもってナイスタイミングな蹴りだが、俺何も命令していないぞ」


「もしクラッシュ様がこの男の立場だったならこうして欲しいのだろうなと思いまして、つい」


ジオネさんは真顔のまま舌をぺろんと出して軽く握った拳でおでこをこつん。シュールだ。腹が痛くてそれどころじゃないけど。


「なるほど。一理ある考え方だ」


クラッシュが頷いている。どこにどう一理あったんだよ。


「おいお前。まだ時間はある。もし自分の命と、あの子供の命が惜しければ大人しく俺達の命令に従っとく事をお勧めしとくぜ」


「おい、子供ってまさかっ!」


「ああ、あの銀髪のチビの事だよ。あいつを生かすも殺すもお前の態度次第だ。その辺よく考えて、賢明な判断をする事を期待するぜ」


「クラッシュ様。そろそろ行きましょう」


「おぅふっ!……ああ、分かった」


ジオネさんにお尻をつねられたクラッシュがそう言うと、二人は共に部屋を出ようとする。


と、開いた部屋の扉の先に、人が立っていた。


「おう、しっかり見張っとけよ」


クラッシュは立っていたその人に言って、そのまま去って行った。


入れ替わりにその人が入ってきた。小柄な人だ。フードを目深に被っているから顔は確認出来ない。


入れ替わりに入ってきたその小柄な誰かはクラッシュ達の出て行った扉を閉めると、その前に立つ。相変わらず顔は見えない。


「あ、あのー……」


と俺は恐る恐る声を掛けてみるが、しかし反応なし。


フードの人はわずかに覗く口元を真一文字に結んだまま微動だにしない。


文字通りの見張り役ってところか。まぁ、どのみち手足を封じられた今の状態じゃ抜け出す事なんて出来ないんだけどな。


「なぁ、俺はこれからどうなるんだ?どっか連れて行かれるのか?」


とか聞いてみるが、やはり反応はない。


流石はテロリストの一員といったところか。いや、そういう教育が行き届いているとかっていうのも俺の勝手な想像な部分は強いけども。


「ん?」


とか余計な事を考えていたら、フードの人の上着に隠れた腕の部分に、ある物を見つけた。


もしかしたら、あれが今回の光明かもしれません。


という訳で俺は作戦を素早く組み立てる。目の前の見張り、フードの人に動いてもらう作戦だ。


「……というかですね。俺倒れたままなんですけど、これ起こしてはくれませんかね?」


ピクッ。とわずかだがフードの人に反応があった。わずかだが体が動いた。いや本当にわすかだけど。


だがそれでも今の俺には十分だ。


ふむ、この方向性だな。


「……ぐっ」


俺は拘束されている体をなんとか縮こませる。そして絞り出す様な呻き声。


「え、えと」


声が出ました。甲高い声。やっぱり助けを求める方向性がよろしいようで。


「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉっ!腹がぁぁぁぁぁ!」


と、大げさな位に痛がって見せる。これは滑れば大惨事だが、しかし、


「あ、あわわっ!だ、大丈夫かっ?」


フードの人は駆け寄ってきた。そしてしゃがみこんで俺の顔に自分の手を当て、更に顔を覗き込むようにして、


「違ってたらごめんよ」


俺は『それ』が射程圏内に入ったのを見計らい、小さく呟いた。


「え?」


フードの人がそうして俺の発言に戸惑うような間があったかどうか。


「失礼!」


次の瞬間、俺はフードの人の手に噛み付いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ