[5]まだバグは終わらない
国王の弟の息子サターンと、軍の司令官メガドの仕組んだクレア王女暗殺計画は失敗という結果に終わった。
王宮のあちこちで俺の功績を称える声が聞こえるが、俺が何をしたのかと言えばバグったパンチを数発熊と悪党にぶち込んだだけだ。それ以外は何もしていない。
まぁ牢屋に入れられたり命を地味に狙われたり内心ヒヤヒヤもんの思いはした訳で、事件が解決した今、とりあえず一息をつけそうだ。
と、その時の俺は呑気に思っていた。
事件解決から数日後、謁見の間。
俺はそこでグロッキーになっていた。
「ですから!わたくしがジン様の魔法にはかかっていなかった事は既に証明されているのです!ですので今わたくしの中にあるこの気持ちは真実のものなのです!」
クレア王女がよく通る声で父親である国王に言葉をぶつけている。
「むしろだから問題なのじゃとわしは言っておるのじゃ!」
国王も負けじと険しい表情で強い言葉を放ち迎え撃つ。
「何が問題なのだと仰るのですかっ?ジン様は今やわたくしだけでなく国を救ってくださった恩人でございます!むしろ問題は減ったくらいだと思いますが」
「いや、だから問題が減ったのが問題だと言っておるのじゃ!わしが反対する理由が無くなってしまうではないか!」
国王の言い分がもはやただの親馬鹿でしかない。
俺はそんな親子の応酬をクレア王女の隣で聞いていた。
「もうなんか一国の主ではないな、あれは」
そんな俺の隣では熊の背中に乗ったファミが欠伸をしていた。そのポジション気に入ったのかな。というか宮殿に熊入れちゃったよ。
「ああ、ただの娘思いの父親だよ。思い方だけ考えたら十分に国王失格だけどな」
俺はなおも続く親子の会話という名のバトルを苦笑しつつ見守る。
「別にすぐに結婚しようとかそういう訳ではありません!」
「でもゆくゆくは、とか考えておるのじゃろうどうせ!」
「ええもちろん!しかしお父様とてわたくしが自分の命の恩人に対して親しく接する事まで制限すると仰るのですか、いえ仰れるはずがない!」
「ぐ、ぐぅっ!は、反論が出来ない!」
国王がすごい切羽詰まった顔してる。でも話の内容考えたらギャグでしかない。この国が大丈夫かどうか本気で心配になってきた。
と、俺がこのまま王女と雰囲気任せにくっつく事に疑問を感じ始めたその時だった。
「国王陛下!」
慌てた様子の兵士が一人、駆け込んできた。
「どうしたのじゃ」
すると国王一瞬にしてバカパパモードから国王モードへとチェンジ。その変わり身になんかちょっと安心した。この国に安心した。
「南方のメタルギア鉱山が地崩れを起こし数百名近くの負傷者が出ているとの報せが!」
「なんじゃとっ!」
兵士からもたらされた報せに謁見の間がどよめく。
「こうなれば一刻の猶予もあるまい。すぐに医療班と救出班を編成し出発するのだ!」
国王は指示を飛ばす。
「国王様、ひとついいですか?」
そこへ手を挙げた俺が割って入る。
「なんじゃ?おぬしの問題はとりあえず棚上げじゃ」
「でしょうね。なのでその医療班とやらに俺も入れてはくれませんか?」
「なんじゃと?」
「俺は普通の傷であればすぐに治す事が出来ます。絶対にお役に立てると思いますが」
俺の言葉に、国王は頷く。
「そうじゃな。確かにおぬしの治癒の力があれば多くの民を救えよう。ジン殿。よろしく頼む」
「喜んで」
そう言って俺は隣のファミに目を向ける。
「っていう事になったんだけど、お前はどうする?」
そう聞くと、ファミは熊に乗ったままにやりと笑う。
「わらわを侮るなよジン。もちろんわらわも行くぞ!こやつと共に民を救うのだ!貴族としてな」
ファミの言葉に同意するように熊は低い声で唸る。
「そうか。じゃ話は決まったな」
この国で一息つくのはまだまだ先になりそうだ。
だが、俺のこのバグの力が誰かを救えるというのなら、落ち着く間もなく働いてやるさ。
そしたら、今度こそひと息ついて、
「ジン様。わたくし、あなたの御帰りをこの身を焦がしてお待ちしております。なのでジン殿もわたくしの事を忘れないようにこのわたくしの写真と抱き枕とあとは」
「クレア!おぬしらの話は棚上げじゃといったろう!ジン殿!それは置いてゆけ!絶対に置いてゆくのじゃ!」
……いや、ひと息もつけそうにない。
でもいいか。それこそ異世界転生の醍醐味かもしれないしな。
波瀾万丈上等ってな。
バグまみれの俺の旅はまだまだこれからよ。
次話より第二章入りますです。
では。