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[37]そしてバグは永遠に

最終話です。


どうぞ。

戦いは終わった。セガールは降伏し、後の事はエニックとソニード両国との協議によって処遇が決まるらしい。


バーバラが言うには、戦争は大罪だがセガール程の大国を潰してしまうと大陸のパワーバランスが崩れす恐れがあるから国自体は残るだろう。との事。


難しい事は分からないが、とにかくこれをてんやわんやの最後にして後は平和に向かって一直線に突進する事を祈っております。


そう、難しい政治の話は丸投げです。だって、俺にはそれよりも大事な事が待っているのですから。


ソニード王国、王宮。陽気の穏やかな昼下がりに、ある一室に俺は来ていた。


ドアをノックし、中にいるやつの名前を呼ぶ。


「ファミ、入るぞー」


どうぞという返事が聞こえたので遠慮なく入る。


「ジンよ、一体なんなのじゃこれは?」


部屋には暇を持て余している様子のファミがベッドに座っていた。無理もあるまい。ろくに理由も告げずにこの部屋に閉じ込められていたのだから。しかも朝から。


「悪いな。でももう退屈な時間は終わりだ」


「どういう事じゃ?」


「迎えにきたんだよ。ほら行くぞ」


俺は要領を得ていないファミの手を引く。


「ちょっ、なんなんじゃジンっ!」


部屋から出た辺りで手を振りほどかれた。見ればファミの頬が赤い。


「その反応、男としては割と嬉しい」


「おぬしのその発言は女として叩きのめしたくなったぞ」


といういつも通りのやりとりを交わした。うん、これぞ我らの平常運転……だよな?


「まぁとにもかくにもお前を連れて行かなきゃいけない場所があるんだ。だから来てくれ」


「だから、それはなんなんだとわらわは聞いているのだが?」


「その疑問は至極もっとも。でもここは黙って付いてきてくれ」


ファミは首を傾げっ放しだったが、しかし素直についてきてくれる。ここでもっと追究されてたら正直やばかったかもしれない。


「というかお前、体は大丈夫なのか?」


「平気じゃ。むしろ今の方が調子がいいくらいにはな」


「そか。それは良かった」


ファミが災害の黒雲の鍵として覚醒し、それを俺が鎮めたのはほんの数日前の事。ファミはそれから丸一日寝続けていた。医者は単なる過労だろうとは言っていたが、事が事だけに色々心配はしたくなる。


「それよりもおぬしの方こそ大事ないのか?今回もわらわの知らぬところで大立ち回りをしていたと聞いたが」


「平気だよ。目立った怪我なんかもしていないしね。したところで一瞬で治す自信があるし」


と、俺は胸を軽く叩いて自信のアピール。


俺のステータスはこの世界に来た時点でバグってしまった。攻撃力がマイナスに成長するというバグ。お陰で俺の攻撃は全て回復になってしまうのだ。


だけど、俺はこのバグを得た事に後悔は微塵もしていない。むしろ感謝をしているくらいだ。


このバグがあったから色んな人達を救い出す事が出来た。それだけでもお釣りがくるくらいに満足だ。


「なぁ、ジン」


なにやらファミが改まった表情を見せる。


「どうした?」


ファミは、どこかはにかんだ笑顔を見せる。顔はさっきよりも遥かに真赤だ。


「わらわは、おぬしに会えて本当に良かったと思っている。心から感謝しているぞ」


「……どう致しまして。俺だって、負けないくらいに感謝はしている」


俺はファミの頭を撫でてやる。本当は叫びたくなるくらいに恥ずかしいしそれ以上に嬉しいのだが、それをここで出すのは……まだ早い。


「だが、その感謝の気持ちは俺一人のものではないんだぞ、ファミ」


「どういう事じゃ?」


俺の発言の意味が分からないのか首を傾げるファミ。


それには答えず、俺はちょうどよく辿り着いた扉の前に立つ。


「こういう、事だよ」


そして、勢いよく開け放った。


「な、なんじゃ」


部屋からあふれ出る明かりにファミは一瞬目を背ける。が、その明りの中にある光景を見て言葉を失っていた。


「み、みんな……?」


部屋の中には、クレア、バーバラ、タマとその弟達、スーファ、ついでにクラッシュとジオネ、そしてその他大勢の、ファミがこの地で知り合った人たちがいた。もちろん熊率いるアニマルレンジャーも出席。


皆拍手喝采で今日の主役を歓迎していた。


「さ、入れよ。主役はこういう時堂々としているものだぞ」


俺が背中を押してファミを部屋の中へと促す。


「しゅ、主役?一体なんの事じゃジン?」


「あれだよ」


俺が示した先には、


『お誕生日おめでとう!ファミ』


という無駄にカラフルで無駄にでかい横断幕が。俺のアイデアさ。


「たん、じょうび?」


「そう、いや本当に間に合ってよかったよ。これの準備するのに皆がどれだけ苦労したか」


「ジン様。そういう裏話は後に致しましょう?」


「ごもっとも」


クレアからの忠告を素直に聞き入れると、ファミを部屋の中央へと案内する。


「おめでとう、ファミちゃん」


「おめでとうファミ殿」


満面の笑みのクレアと、いつも通りに真面目に見えて今までで一番ほがらかな顔をしているバーバラがまず声をかける。


「あ、あの、今日は本当にありが」


「おめでとう!ファミ!」


貴族らしくきちんと返そうとしたであろうファミにのしかかるように急襲する存在が四つ。


タマ率いる獣耳ブラザーズである。なんだかファミがもみくちゃにされとる。


「あははははははは!めでたいなファミ!」


「おめーでーとーうーファミ」


「め、めでたい時くらいこういうのも悪くないよな」


三兄弟もそれぞれ自分の事のように嬉しそうだ。


「あ、ありがとうなのじゃおぬし達」


ファミは一人一人の頭を丁寧に撫でていく。出来た子だ。


「ファミ」


静かに歩み寄ってきたのはファミの姉、スーファ。


彼女は妹に歩み寄ると、跪いて手を取る。


空気を呼んだタマとクレアがブラザーズをはがす。


「ファミ、本当におめでとう。この日をあなたと共に過ごせる事を本当に幸せに思うわ」


「姉様……。わらわも、姉様に祝福してもらえてとても嬉しいです」


互いに互いの手を包み込む。


「私は、あなたにとてもひどい事をした」


スーファのその言葉に、その場の全員が一瞬緊張した。いずれは触れねばならない事と分かりつつ、しかし本人達が言うより前に言う事がはばかられたからだ。


「本当なら私はこの場にいる事すら許されないかもしれない。こうしてあなたに笑顔を向けてもらえる権利も、姉と呼んでもらう事だって、本当は」


「姉様」


震える姉の手を妹の小さな手が撫でる。


「わらわは姉様の事を恨んでなどいません。確かにジンに対して少しひどい事をしました。でも姉様はジンを助けてわらわも助けてくれた。わらわにはそれだけで十分です」


そこでファミが俺の方に顔を向ける。俺は笑顔で大きく頷いてやった。


俺だって、スーファを恨んじゃいない。許すも許さないも最初からなかったんだ。


「だから姉様。顔を上げてください」


「ファミ……っ!」


スーファはファミを抱きしめた。


この場にはもはや言葉はいらない。そう誰もが思っていた。


という美しい瞬間の直後だった。


ぎゅるる。という地を鳴らす音がしたのは。


何かと思いその発生源を探ると、


「ぶふん」


と熊が鼻を鳴らしていた。口元にはよだれ、なにやらお腹をさすっている。そんでもって目の前には豪華絢爛な食事達。


「あはは」


誰が最初に笑いだしたか。笑顔の輪はあっという間に広がり、ファミとスーファもいつの間にか笑っていた。


「ファミ。もしお前の許しさえ得られたらそろそろ乾杯としゃれこみたいところなんだが、どうだい?」


王宮の侍女達がグラスを配り始めたのを見て俺は言った。


するとファミは笑顔で、


「もちろんじゃ」


と頷いた。


全員にグラスが行き渡ったのを見計らい、本日の主役であるファミに乾杯前の挨拶をお願いする。


最初は恥ずかしそうに戸惑っていたファミだったが、一つ深呼吸をするとグラスを掲げる。


「今日はわらわの為にこのような場を設けて頂き感謝のしようもない、です。ありがとうございますっ」


一礼。そしてファミは俺を見る。


「よっし、では、ファミの健やかなる成長を祝し、乾杯っ!」


こうして宴の幕が開いた。


ファミは皆からのプレゼント攻めに遭い。


スーファはその最中また感極まって泣き出すし。


タマとブラザースが雑技団みたいな余興をやりだしたり。


クレアが非常にはっちゃけてそれをバーバラが鼻血を出しながら止めてたり。


そしてそれを笑いながら見ている俺とファミがいた。




という様子を部屋の外、バルコニーからぼんやりとみている影が一つ。


「一匹狼な俺格好いい、みたいな心境ですかクラッシュ様」


「ああいうどんちゃん騒ぎは性に合わないんだよ。乾杯まではいたんだから義理は立てたはずだ」


言いながらクラッシュは煙草に火をつける。ジオネは彼の隣に陣取り持っていたケーキを食べ始める。


「ジオネって甘いの好きなんだっけか?」


「そうですよ。私だって女の子ですから」


誇らしげに言いきるジオネを見てクラッシュはぼそりと一言。


「女の子って年じゃないだろ」


直後、バルコニーから人が飛んでいく様子を庭師の男が目撃。彼によると、その人はとても幸せそうな顔をしていたという。





という一幕があったらしいが詳しくはよう知らん。


俺は部屋の端に移動して一人静かに料理を食べていた。


今中央ではタマがヘラジカの角に曲乗りしているところだ。ていうかヘラジカ入れたんだ。この国動物に対して異常に寛容だよな。


「隣いいかしら?」


と来たのはスーファだった。少し頬が赤いのは恐らく酒を飲んだからだろう。


「別にいいけども」


俺は視界の端に大道芸を楽しむファミの姿を捉える。


「あいつの傍にいなくていいのか?」


せっかく何もかもが解決した後の祝いの席だ。姉妹水入らずとはいかないが一緒に楽しめる時に楽しんでおいた方がいいと俺は思った。というのは心配し過ぎかな?


「いいのよ。今はあなたの所に居たい気分だったから」


言いつつ隣に陣取ってくる。


「それにしてもさすがは王宮ね。出てくるものみんな美味しいわ」


上機嫌な様子のスーファ。ただなんというか……


「あなたも食べたい物があったら今の内に食べといた方がいいわよ。取ってきてあげましょうか?」


すげぇ近いっ!肩とか普通に当たってるしっ!


「い、いや、俺は大丈夫だよ。割と食ったから」


「そう?ならまぁいいんだけど」


肩が露出したドレスを着ているスーファさんならばこの密着には気付かない訳はないのだが。


「ねぇ」


「ひゃいっ?」


上ずった。お手本みたいに声が上ずった。


「ありがとうね」


「……え?」


「ありがとう、って言ったの。ファミの事とか。私の事とか」


スーファは真剣な表情をしていた。


「私はウインドに騙されてあなた達を傷つけた。確かに海であなたを助けたのは私だけど、でもそれで自分の行いがチャラになったとは思ってなかった。少なくとも、私はね」


「俺はチャラになったと思っている。というか最初からチャラにしなければならないようなものはどこにもなかったんだよ」


本心で思っている事。それを口にしたら、スーファは微笑を唇の端から漏らす。なんとも妖艶な光景なり。


「そして私はあなたにチャンスを与えてもらった。ファミを助けるっていうチャンスを。最初は無謀極まりないって思った、正直な話」


「奇遇だな。俺もだ」


そう言って、二人笑う。


「でもあなたは成し遂げた。全部を取り戻してみせた。ファミも、私も、皆も笑顔で今この場にいられるのはあなたのお陰。だから、ありがとう」


スーファは頭を俺の肩に乗せてくる。


「……どう致しまして」


青少年である俺はそう返すのが精いっぱいだった。


そして、なんともむずがゆくも心地よい時間が流れ始めたその時だった。


「……ジン様?」


冷たく氷のような声。その正体は笑顔で俺の横に立っていた。


「ク、クレア?」


いつも天真爛漫な笑顔を見せてくれる王女様が、光を失った目をして立っていた。傍らにはバーバラの姿。


「クレア様。ご命じいただければいつでもこの男を斬りましょう」


「物騒な事言わんといて祝いの席で」


「そうですわバーバラ。ここでは駄目」


「その限定的な言い方は誤解を招くぞクレア氏」


一瞬にしは謎の修羅場空間と化してしまったその中で、スーファがゆっくりと姿勢を直し不敵な笑みをクレアに向ける。


「なに?嫉妬?」


「なっ!嫉妬などではありませんわっ!ただなんというかあなたがジン様の近くにいると凄く胸がモヤモヤするというだけですわっ!」


「クレア様。それを世間一般では嫉妬というのです」


バーバラの冷静極まるツッコミ。それだけ冷静ならとりあえず剣から手を離そうよ。


「ジーン!こんなところにいたんだね!」


そして正面から抱きついてくるタマ。


「あ、あああああっ。わ、わたくしも負けてはいられませんわ!」


そう言ってクレアがスーファがいる方とは逆に回りこんで俺の腕をとる。


「わぁお」


すると俺の腕に触れるのはクレアの豊かな膨らみ。ありがたや。


「おいおいハーレムとは恐れ入ったなテンドウジン」


外野から野次を飛ばしてくるのはクラッシュだ。なんでか知らないが片足ギブスで松葉杖をついていて鼻から血が出ている。一体奴に何があったんだ。


「いや、ハーレムっていうか…………ハーレムっ?」


俺の左右と前方を女が囲んでいる。え?なにこれハーレムなの?ハーレムなのかいっ?


「ソニードでは確か貴族は一夫多妻が認められているんだったな。誰が第一夫人なんだ?」


クラッシュが軽く放り込んだ言葉。その名は爆弾。場の空気が一気に緊張する。


「え?なに、なになにこれ」


青少年的には嬉しいような厳しいような空気。というか人生に三回あると言われるモテ期がきたのか。俺としてはもうちょっと緩やかにきてほしかったが。


クレア、タマ、スーファ。三人の視線が俺に突き刺さる。明らかに答えを求めている顔だ。


どうする。どうやってこの状況を切り抜ける。


と、俺が贅沢な悩みに身を焦がしていると、今度は後ろから軽く引っ張られるような感覚。


今度はなんだと顔だけ振り向いてみる。


「……ファミ?」


そこには俺の服の裾を遠慮がちに摘むファミがいた。真っ赤にした顔を若干俺から逸らしている。


「ど、どした?」


いつもとはがらりと雰囲気の違う幼女の姿に俺は戸惑わざるをえない。


「わ、わらわも……」


「ん?」


ファミは上目遣いでこちらを見ながら消え入りそうな声で言った。


「わらわも、その、いるからな……」


少し首を傾げながらつぶらな瞳でこちらを見るという行為の破壊力について俺は知らなすぎた。正直かなり心にきました、はい。


「ファミちゃん……ここにきて最大のライバルの登場ですわっ」


クレアが凄く真剣な顔でたらりと頬に汗を垂らしている。なんだこれ。


「そうだよね。ファミだってジンの事好きだもんね!」


無邪気に言いながらファミに抱きつくタマ。


「のわぁっ!ちがっ、いや、違わないけど……違わないけど表現が、その、ストレート過ぎるんじゃタマ!」


ファミが喚きながらタマを振りほどこうと暴れている。


その様子を微笑ましく見守るスーファ。


「全く、うちの妹までたらしこむなんて、あんたも罪作りね。一生かけて償いなさい。ね?ね?ね?」


「え、いやあのっていたたたたたたたたっ!肩超痛いっ!やめて外れるから外れるからぁぁぁ!」


と、笑顔だが凄まじい握力で俺の肩を潰しにかかってきたスーファ。お気持ちを察する余裕はありませんですお姉さん。


「なんだか知らんが楽しそうで結構だな」


「そうですね。はいクラッシュ様あーん」


「あー、ってあっつ!その超熱いはんぺん目にぶつけようとすんなよ!」


「間違えましたクラッシュ様。てへりんこ」


そして視界の外では元傭兵の変態バカップルがなんかやってるし。てかはんぺんあんのかよぱねぇなこの世界。


俺は女性陣にもみくちゃにされながら今の自分とはなんぞやと考える。


地球の平成現代日本からこの世界に飛ばされて。


ファミと一緒に旅をして。


クレアやバーバラに出会い、彼女らを助け。


クラッシュとジオネ達に誘拐され。


そこでタマと出会い、共に戦い。


スーファとは最初にこそ色々あったがすぐに味方になり。


ウインド達に一緒に立ち向かい。


奴らを倒し、そしてファミを取り戻した。


で、平和になった今、俺の周りには笑顔が溢れている。


俺はバグっている。この世界にあってはならない力を持っている。


もしかしたら本当は取り除かれるべきモノを。


と、俺は一体何回考えたか分からない。


だけど、そんなネガティブな考え方はもうしない。


俺はバグっている。が、そのお陰で守りたいモノを残らず守る事が出来た。


それでいい。それが全てだ。


「なぁ、ファミ」


「なんじゃ、ジン?」


俺は笑顔を向ける。


「ありがとう。俺をこの世界に連れてきてくれて」


そう言うと、ファミはまたしても顔を真っ赤にして俯いてしまう。その様子を見て俺とファミを冷やかしに回る面々。


本当に、平和で。


本当に、楽しくて。


本当に、下らない。


最高の日常がそこにあった。


俺のバグもその何気ない最高の日々の為に役に立っているのならば、バグも案外悪くない。


と、そんな事を考えるバグ持ち男でした。


めでたしめでたし


それではまたどこか、別の作品で。

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