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[33]皆が笑える結末への開幕

「『デスト』、敵戦艦に向けて攻撃を開始致しました」


セガール帝国軍前線司令部、たくさんのモニターによって映し出される各地の戦況中に、あの『災害』の黒雲があった。


「まさか我々の戦艦を使って突っ込んでくるとはな。跡形もなく消し去ってやれ」


「はっ!」


司令官の椅子に深く腰掛けたウインドは、手の平に紫色の水晶を持っていた。


その水晶の中に映るのは、一人の少女の姿。


少女、ファミ・リーコンであった。


「これがある限り敵はいない。これがある限りあれは私には逆らえない。つまり、今この瞬間この大陸を支配しているのはこの私だ。……ふふ、はははっ」


ウインドは上機嫌に笑う。笑いながら、水晶に閉じ込められたように見える少女を眺めていた。


その様子を遠巻きに見る兵士達。


「なぁ、あの水晶一つで『災害』を操っているって本当かよ」


「ああ、そうらしいぜ。事実ウインド様が言った通りに『災害』は動いている」


「半端ないな。それにしても大陸を支配できるだけの力か。俺には持て余しそうだぜ」


兵士はそう言って笑う。


「俺達は下っ端として地道に働く方が性に合っているんだろうさ」


「という訳でそろそろ下っ端らしく巡回だ。はよ行って来い」


「はいはい」


兵士の一人は軽く手を振りながら巡回へと出かける。


向かった先は地下牢。ここには戦闘で捕まった敵軍の捕虜が主に収容される。


しかし、奥の独房だけはその例にはまらない人物が捕まっていた。


「ウインド様も酔狂な事をするよな」


兵士はこれから向かう独房に捕まっている人物の姿を思い浮かべながら一人ごちる。


「獣人族だしまだ子供だが、素材はいい。あれは後数年もしたらそういう意味ではいい女になるかもな」


膨らむ妄想。兵士はなんだか独房を覗くのが楽しみになってきた。鼻歌混じりに地下牢を通り抜け、そしてお目当ての場所に辿り着く。


「さて、大人しくして……ってあれ?」


空。独房には誰もいなかった。


「あれ、俺間違えて、ないよな」


兵士は独房の番号を確認するが、間違いなくここで合っているはずだった。


「まさか、脱獄かっ!」


兵士に緊張が走る。ここの囚人はウインドが気にかけている特別な囚人。もし逃げられたなんて事が明るみになれば自分は処刑されかねない。


「と、とにかく連絡をと」


兵士の言葉は最後まで紡がれず、白眼を剥いてその場に倒れる。


無様に倒れた兵士を見下ろす形で、二つの影が静かに立っていた。











…………。

……。


『災害』の攻撃は間断なく続き、戦艦は衝撃と共に揺れ続ける。


「お、おい、これ大丈夫なのかよっ」


小型飛行艇の発進準備を進めるスーファの背中に向けて叫ぶような音量で言う。そのくらい声を張らないと聞こえないからだ。


「堕ちる前に私達が出撃すればいいだけの話よっ!」


恐ろしく割り切った考え方である。


「よし、準備完了。いつでもいけるわよ」


スーファがそう声を上げた瞬間だった。


耳を裂く轟音が響き、今までの揺れとは比較にならない震動が俺達を襲う。


「きゃっ」


「おおっと」


俺はバランスを崩したスーファを受け止める。


「……大丈夫か?」


「あ、ありがとう」


素直に礼を言われた。


「どうしたの?」


「い、いや、今度は平手打ちでも飛んでくるかと思って」


馬鹿正直に答えたら凄く蔑んだ目をされた。


「あのねぇ、私だって助けられたら素直に礼くらい言うわよ」


「そ、そうだよな。というか今の揺れって」


俺は無理やり話題を逸らす。と同時に通信装置のベルがけたたましく鳴り響く。ナイスタイミング。


「どうした?」


ボタンを押して答えると、返ってきたのは切迫したクラッシュの声。


『今の攻撃でバリアーの一部が破られた』


「大丈夫なのか?」


『残念ながら駄目だな。ちょうど動力炉の辺りでな、今も出力がどんどん落ちてきている』


「そんな……っ」


スーファの声に焦りが混じる。この戦艦は俺達にとっての最後の切り札。それが落ちたらもうファミの元に辿り着く手段は無い。


『だから、お前らはここで出ろ』


クラッシュが次に発した言葉は、俺の心情を読み取ったかのような言葉だった。


『ここからなら小型艇でも十分いけるはずだ。いや、もう今を逃したらチャンスはないっ』


力強い声音には、強い焦燥が感じ取れた。もう本当に、この戦艦は落ちるしかなくなったのだろう。


『タイミングはこちらから指示する。だからいいから出ろ』


「お前達はどうするんだ?」


『俺達の心配なんざしてる場合じゃねぇだろっ。こちとらお前らがあの怪物を鎮めてくれねぇと依頼完了で報酬がもらえねぇんだよっ。だからつべこべ言ってねぇで出ろっ!分かったな!』


そこで通信は切れた。俺とスーファは顔を見合わせる。


「行くしか、ないようだな」


「出るタイミングが少し早まっただけの話よ。もうとうに覚悟は決まってたしね」


余裕を感じさせる笑顔のスーファだが、握った手は少し震えていた。


俺は、黙ってその手を包むように握る。


「え、ちょっ」


顔を赤くして俺の顔と手を交互に見るスーファ。に対し俺は笑顔で言ってやる。


「ファミを助けたら、一緒にあいつの誕生日パーティーをしようぜ」


「……は?」


俺の言葉はよほど予想外だったのか、スーファが口を半開きにしたままきょとんとしている。


「あいつの誕生日ってもうすぐだろ?だからあいつに内緒で盛大に祝ってやろうって話になっているんだよ。お前も姉なら妹の誕生日は祝わなくちゃな」


「ファミの、誕生日?」


「そう。こっちでは一般的ではないらしいけど、俺の世界では誕生日がきたら家族や友人を集めて祝う、とにかく無事に年をとった事を祝う、っていう習慣があるんだよ。まぁとにかくファミの成長を祝う行事だ」


「そう、あの子の成長を祝う、ね……。いいと思うわ、やりましょう」


震えが無くなり、自然な笑みを見せてくれるスーファ。


「その為にも、絶対に成功させるぞっ」


「ええっ、もちろんよ!」


俺とスーファの思いはここに一つになった、と思う。


互いにとって大事な存在を、絶対に助けだす。


俺とスーファは小型艇に乗り込む。前方の操縦席にスーファ。その後ろの座席に俺が座る。


小型艇には屋根がなく、操縦席の前にフロントガラスがあるのみである。


「これ、付けといた方がいいわよ」


スーファからゴーグルを受け取る。地球でも昔の飛行機乗りなんかが付けていたようなごついデザインのものだ。


「準備はいい?」


「いつでも大丈夫だ」


そう答えると、一つ頷いたスーファが小型艇に仕込まれた通信装置に向かい、


「こちらスーファ・リーコン。出撃準備整いました、どうぞ」


そう告げると、マイクの向こうから雑音混じりの声が返ってきた。


『了解。今ちょうど敵の攻撃が止んでいる。すぐにカタパルトを開放する』


それが終ると同時に、俺達の乗る小型飛行艇の前方の床が開く。凄まじい量の風がうずまき顔や体を叩いてくる。


「じゃあ、行くわよっ」


「ああ、行こうっ!」


飛行艇を固定しているセーフティ装置の解除される音と同時に、すぐに前進が始まった。


開いたカタパルトから見えるのは気が遠くなるほどに細やかな大地。もし攻撃を受けて墜落したら、絶対に助からない。


俺は唾を飲み込む。そしてそんな最悪の考えを打ち払う。


その時はその時だ。今はまだ成功も失敗もしていない。まだ俺には可能性が残っている。


「出るわよっ!」


俺はぎゅっと身を固める。そしてその直後、飛行艇は空へと飛び出した。


後戻りの出来ない最後の戦いが、今ここに幕を開けた。








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