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[32]出撃

「皆様、どうぞご無事で」


いよいよ出発という時、クレアとバーバラ、そして王宮の皆が駆けつけてくれた。


「ジン様、無事のお帰りをお待ちしております。なので、どうか……」


「分かってる。ファミを連れて笑顔で帰って来てやるさ」


俺はそう言って笑ってやった。帰ってきた時も同じ顔をしてやると心に誓いながら。


「テンドウジン」


「バーバラ。出歩いて大丈夫なのか?」


クレアの後ろから、バーバラが痛々しい怪我人の姿で登場する。


「お陰さまでな。それよりもテンドウジン。私はクレア様が悲しむ顔は自分の命に代えても見たくないと常日頃から思っている」


バーバラの目は真っ直ぐに俺の目を、それこそ射抜くような鋭さで見つめてくる。


「だから、絶対に生きて帰って来い。分かったな」


「ああ、死んだって生きて帰ってきてやるさ」


なんだかおかしな事を言っている気もするが、そんなのどうでもいい。


大事なのは、本当に無事に帰ってくる事だ。


一度はこの国を出ようと考えた。ファミの一件を俺が引っかき回す事でこの国に迷惑をかけまいとする一心でそう考えた。実行にも移した。


でも今は、もう一度ファミ達と一緒に、誰一人欠けることなくここに戻ってきたいと心底から思っている。


そうだ。俺はこの場所に帰ってくる。絶対に。


「そろそろ出るぞ。どうせ生きて帰ってくるつもりなら惜しむ名残もないだろう。さっさと行くぞ」


「なるほど、その通りだ」


クラッシュが俺の背中をポンと叩く。めちゃくちゃな言い方だが、しかし俺はそんなめちゃくちゃが大好きだからな。少なくとも今この瞬間だけは。


「じゃあ、行ってくるよ」


「はいっ。お帰りをお待ちしております!」


クレアはつぶらな目に涙を一杯に溜めながら、しかし優雅に一礼する。


俺はそれに笑顔で答えながら、戦艦に乗り込む。


ブリッジには、艦長席にクラッシュが座り、更にソニード軍の兵士達が数人、クルーとして乗り込んでいた。


そして、外の様子がよく見える場所には、スーファの姿。


俺は彼女の隣に立つ。


「いよいよだな」


「ええ」


短くやりとりを交わす。細かい言葉など今さら必要ではない。


「では、これより本艦はファミ・リーコン救出作戦の為、出撃する!」


クラッシュの号令がブリッジに響渡る。


そして間もなく戦艦は唸りを上げながらソニード王宮を出発した。


目指すはファミを鍵として甦った生きた災害、とかいう黒雲へ。


その日の天候は快晴。青い空を戦艦で雄大に飛ぶというのはなかなか感激ものだったが、すぐにそうは言ってられないようなものが眼前の光景として現れる。


「なんだありゃ……っ」


突如として出現した、巨大な黒い雲。それが、まるで周りの青空と白い雲を蝕むようにしてこちらに向かってくる。


「あれこそが、生きた災害『デスト』。セガールが、人類が消滅させる事を未来永劫諦めていた悪魔の存在よ」


昨日あれがエニックの軍勢2万をものの数分で壊滅させる光景を見ているだけにスーファの言葉には重みがあった。


「恐らく近づいただけでも相当な負荷がかかるわ。このサイズの戦艦だってどれだけもつか分からないわ」


「だが行かなきゃならない。そうしなきゃファミを助けられないからな」


ここで決意を鈍らせる訳にはいかなかった。どれだけ相手が強大であろうとも、しかし逃げる訳にはいかない。もし逃げれば、俺は一生後悔する。


「今の内にバリアーを展開させておけ。あれの射程範囲は未知数だ」


クラッシュの号令。やがて戦艦を覆うように青白い膜のようなものが出現する。


「お前らもぼちぼち準備しておけ。飛びこむチャンスはそうないだろうからな」


「分かった」


いよいよ、と言ったところか。俺とスーファは戦艦内部の格納庫に向かう。


そこには最大3人まで乗る事に出来る小型の飛行艇があった。整備は完璧、後は出撃の時を待つばかりである。


「というか、お前これの操縦なんて出来たんだな」


「ウインドの所に居た時に一通り教わったわ。まさかこんな風に役に立つなんて思ってなかったけど」


勝手知ったる様子で操縦席の具合を確かめているスーファ。


「ウインドの事は殺したいくらい憎いけど、でもあいつのお陰でファミを助ける為の最前線に立てると思えば少しは感謝してもいいかもね」


「じゃあ今度あいつに会ったら礼を言うといい。そんでもってついでに蹴り飛ばしてやるとなおいいだろうさ」


そう言うとスーファが笑う。


「いいわねそれ。思い切りぶちかましてやるわ」


闘志に満ち溢れた悪い笑顔。あれは本当にやる気の顔だ。


その時、戦艦が大きく揺れた。


「おおっと!」


「な、なにっ!」


スーファは床に固定されている小型艇にしがみつき、俺はそのスーファにしがみつく。


「って、何どさくさ紛れに触ってんのよ変態っ!」


「これは不可抗力でさぶっ」


スーファの蹴りが俺の頬にクリーンヒット。まさか蹴りをくらうのがまず俺だったとは。


「と、というか今の揺れって一体……」


その時、格納庫内に設置された通信装置のベルがけたたましく鳴り響く。


俺はスイッチを押し喋りかける。


「どうした?」


聞こえてくるのはクラッシュの声。周りが妙に騒がしい。


『どうしたもこうしたもないっ。あの雲が攻撃を仕掛けてきた!』


「は、はぁっ!」


「そんなっ、早すぎるわっ!」


俺とスーファの驚きが共鳴する。


『俺もまさかこれだけの距離から攻撃出来るとは思わなかった。だが、向こうがそうならこっちもそれなりにやり返すだけだ』


「やり返す?」


そう聞いた後、通信装置から聞こえてきたのは、妙に楽しげな声。


『突撃だ』


クラッシュの声にはこれから訪れるであろう激戦に対する高揚感がこれでもかと感じられた。


『すぐにお前らの出番もくるだろうさ。だからさっさと準備しとけ』


そう言ってクラッシュの通信は切られた。


振動音は常に鼓膜を揺らしている。それだって結構な音量だ。なのに、なぜかとてつもなく静かな空間に自分はいるような感覚に陥った。


「やるしか、ないな」


強く拳を握る。ついに来るべき時が来たのだ。ある意味ではもっとも待ち望んだ瞬間が。


俺はスーファを見る。彼女は俺の視線に気づくと、不敵な笑みを浮かべた。


「ええ、やってやろうじゃないの」


互いにとって大事なモノを取り返す戦い。その最後の幕がいよいよ切って落とされようとしていた。







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