[31]決戦の夜明け
「では、作戦の概要を説明する」
ブリッジに一同、俺とスーファにクレアとバーバラ、そして艦長席にクラッシュがいてその横にジオネさん、が揃った状態で、クラッシュがモニターに映る地図を見ながら説明を始める。
「今回の作戦の目的はファミ・リーコンの奪還とタマの救出、そしてセガールのくそったれ皇子の出鼻をくじく事にある。最後のはまぁソニードとエニックの軍隊にでも任せておけばいいから別に気にするな」
クラッシュは続ける。
「作戦の内容そのものはごくシンプルだ。この戦艦であの雲の塊に突撃。更に小型の飛行艇でテンドウジンが突撃してあれの核になっているというファミに一撃を入れる。そこの姉ちゃんの見立てが正しければこれで全部決着するはずだ」
と、そこまで言ってからクラッシュは俺の方を見る。
「今回の作戦、一番危険なのは間違いなくお前だ。核まで無事に辿り着けるかどうかも怪しければファミに一撃ぶちかましてどうにかなる保証もねぇ。それでもやるのか」
それは最終確認の問い。だが答えは決まっている。
「もちろんだ。ダメだったらその時はその時だ」
と笑顔で言ってみるが、しかし実際そんな状況になったら間違いなく絶望するだろう。しかし、ここで何もせずに絶望しているよりかは億倍ましだ。
「そか、なら問題はないな」
クラッシュはそう言って、それ以上この話には触れなかった。
それから、細々とした確認と打ち合わせを行った後、
「では作戦開始は明日早朝、それまで全員体を休めておけ」
という号令で解散になった。
俺は自分の部屋に行くと、早々に床に入った。
しかし、いよいよ明日、全てを終わらせる戦いが始まる。そう思うと心が高揚してなかなか寝付けなかった。
俺の部屋は戦艦の中の一室。クレアなどは宮殿で休んではと勧めてくれたが、何かあった時にすぐに動けるようにと俺はこちらを寝床に選んだ。
心は高揚していても体は正直なようで、俺はその内眠りについた。
浅い眠り。次に目覚めたのは、もうすぐ夜明けという時間だった。
二度寝をする気にもなれず、俺は部屋を出ると甲板に向かった。
なんとなく外の空気を吸いたいから。とかそんな事を薄ぼんやりと考えていたかどうか、まぁ感覚的には単なる思い付きに近い。
しかし、甲板に行ってみると、そこには先客がいた。
「あら?ずいぶん早起きなのね」
スーファだった。銀色の長い髪を風になびかせながら欄干に上体を預けるような体勢のままこちらを見る。
「なんだか変に目が冴えちまってな。そういうお前こそ、なんなら俺よりも早いじゃねーか」
と返すと、スーファは苦笑しつつ「そうね」と言って視線を景色の方に戻す。
その姿がなんとなく様になっていて少々見惚れてしまった。
「ありがとうね」
「へぁ?」
だからだろう。スーファの口から出てきた言葉にまるでまともな対応が出来なかったのは。
「ファミの事よ。あの子は言っている事ややろうとしている事は立派なんだけど、でも子供は子供、1年もの間無事でいられたのは間違いなくあなたのお陰だと思うの。だからありがとう」
「そういう事か。いや、おれの方こそファミにはお礼を言いたいよ。こんな退屈知らずな世界に連れて来てくれてありがとう、ってな」
それは心から思っていた事。ファミにこの世界に連れてきてもらっていなかったら、俺はいつまでもつまらない世界で無駄にくすぶっていたことだろう。ま、命の危機がちょいちょいあるのは考えものだがな。
「ふふ。あなた変わってるわね」
スーファはくすくすと笑いだす。
「そうか?」
「ええ。多分そんな事を言った転生者は誰もいないと思うわ。大体の人達は自分の想像していたものとは違っていたとかなんとか言ってどこかに消えてしまうのがオチだもの」
それが日本の中高生、中でも中二病的なものを患っている者達の憧れ異世界転生の現実か。そうだな、現実と理想は違うもんだよな。
「でも、あなたがそういう人だからこそ、私だってこうしていられるんでしょうね」
「へ?」
いきなり話がスーファの方に飛んでちょっと追いつけなくなった。という俺の事は構わずにうスーファは言葉を続ける。
「もしあなたがいなければ、ファミの事も、自分の事も、全部諦めていた。ファミを助けるチャンスを得る事なんて絶対に出来なかった」
言いながらスーファはゆっくりと俺の方に近寄ってくる。
「だから、ありがとう」
「ど、どう致しまして」
近付いてきたスーファ。心なしか瞳が潤んでいるようにも見える。
それはなんというか、とてつもない破壊力があったのは間違いなくて。
しかしこういう時何をするのが正解なのか分からないのが俺という青少年な訳で。
そして何か言わなくてはと口を開こうとすると、
『あー、テンドウジン。起きてたら今すぐブリッジに来い。寝てても来い。とにかく来い。分かったな。以上』
というクラッシュの大音量の放送によってなんだかうやむやになってしまうのであった。
ブリッジに到着。
「で、こんな朝早くから呼び出してなんの用だこの野郎」
「え?なんか機嫌悪くね?寝てたの?」
無意識に心の内側にあるもやっとしたものが出ていたらしい。クラッシュが面食らっている。
「いや、起きてたけどさ」
「ならいいじゃねぇかよ。なんかしてたのか?」
してたというかなんというか。俺はこの問いに対し「いや、別に」としか返せなかった。ああ、悲しきかな青少年よ。
「そんなことよりもだ。奴らが動き出した」
その一言で場の空気が一変した。それは確かに重要な情報だ。
「ファミも一緒なのか?」
「ああ、というか雲の塊がこっちに向かって来ている」
「は?こっちに?」
「そうだ。あの塊の進行方向は間違いなくここソニードの首都を目指している」
戦慄。ブリッジの空気は否応がなしに緊迫した雰囲気になる。
「エニックの出鼻をくじいた今、先にこっちを潰しておこうとか考えているんじゃねぇか」
「どちらにしろ向こうから来てくれるってんならありがたい。迎え撃って返り討ちにするぞ」
俺は強く拳を握り締める。
「そうね。あの子を助ける為にはどのみちこうなる事は避けられないんだものね」
スーファも頷く。
「俺は報酬さえもらえればどんな依頼だってやってやる。特に今回のは上手くいけばかなり名を上げられそうだしな」
クラッシュもやる気なようだ。
「ってあれ?ジオネさんは?」
いつもクラッシュさんの傍らにいて彼を見守っているか痛めつけているかをしているジオネさんの姿が見えなかった。
「ああ、あいつには既にもう一つの作戦に入ってもらっている」
「なるほど。そういう事か」
俺は納得する。戦いはここだけではないからな。
「で、出発は?」
「今宮殿の方から人を回してもらっている。1時間もあれば出られるだろうさ。お前らも準備しとけ」
「分かった」
もうすぐ、夜が明ける。
ファミ奪還の為の最後の戦いが、ついに始まる。




