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[3]イベント省略バグ

「おお!よくぞ無事に帰ってきたなクレアよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「お父様。皆が見ておりますわ。わたくしに密着するのはおやめになってください」


 俺とファミはクレア王女達と共に王に会うために謁見の間に入った。


 その瞬間、金色の王冠をかぶり豪奢で繊細なローブを纏ったお髭の素敵な、もとい一国の王らしく貫禄のあるその人が、


「しかし!わしは心配で心配で!怪我は大丈夫か!ちゃんと足はあるかの!」


 クレア王女、つまり娘にひっついて離れないただの親馬鹿っぷりを初対面の俺達に対して存分に披露してくれやがっていた。


「大丈夫ですわ。こちらのジン様のお陰で怪我は全快。五体満足の生者として帰ってまいりましたわ」


 一方クレア王女は多少恥じらう様子はあれど落ち着いた様子。多分いつもあんな感じなんだろうなあの親子は。バーバラ達も特に動じてないし。いや、バーバラは少し落ち着きがないな。あれは……羨望の眼差しだな。よし、見なかった事にしよう。


「……ああ、そなたが報告にあったというジン殿か」


 妙な間を置いた後、国王は一瞬前までの親馬鹿面はどこへやら、表情を引き締め国王らしい威厳ある振る舞いを取り戻す。


「今回は我が娘の命の危機を救ってもらい感謝の念に絶えない。国王として、父としてこの恩は全力で返さねばならないと考えている。なにか望みがあれば申すがよい」


 国王からの願ってもない申し出。向こうがそのつもりなら遠慮する事はない。まず俺が望むのはこの国で活動する為の地盤を得る事だ。だが贅沢は言えない。となれば、


「なら、俺達にこの国で生きる市民権を」


「お父様!ひとつよろしいでしょうか?」


 俺の言葉を遮ってクレア王女が国王の前に進み出る。


 え?ちょっと待って何言いだす気なのこの王女様。嫌な予感しかしないんだけど。


「どうしたんじゃクレア?今わしはこちらのジン殿と話しているのじゃ」


「だからです。ジン様のご要望を叶えるその前に、わたくしからお父様に申し上げたい事があるのです」


 クレア王女のつぶらな瞳に映るのは確かな意志。


「ジン様に我が国の爵位を差し上げたく存じます」


「……は?」


「……ほぇ?」


 俺と、そしてついでに隣にいたファミは間抜けな声を出してしまう。


「爵位、とな?」


 周囲からもざわめきが聞こえてくる。


 一方国王様はと言えば落ち着いた様子。


「そうです。そうすればわたくしがジン様と一緒になっても特段怪しまれる事もなく過ごす事が出来るのです!お願いします!」


「なるほどそういう事か……え?ちょっと待って我が娘よ。それってつまりジン殿に好意を抱いてる系とかそういう事?」


 国王の混乱っぷりが如実に口調に出ている。


 多分俺も自分の娘にいきなりこんな事言われたらこうなるだろう。国王も大変だな。


 と他人事で言っているがこの話題、実は俺もその中心にいるのをお忘れなく。


「ど、どうなのじゃクレアよ?」


 国王がめっちゃおろおろしている。一国の王たる前に一人の父親という訳か。


「そ、そんなお父様。私とジン様がそんな深い関係になんてそんなまだそんな段階ではそんなありませんわ」


 クレア王女は顔を真っ赤にして体をクネクネとさせている。テンぱっているのか知らないが『そんな』の使い方が明らかにおかしい。


「つーかなんでこんなに王女様に好かれてんるんだよ俺」


 と思わずぽつりと呟いたところ、隣のファミが盛大にため息をつく。


「なんじゃ、気付いておらんかったのかこの朴念仁め」


 じとっと蔑むような目。やはり業界によってはご褒美なんだろうが今はそれどころじゃない。


「という事はお前何か気付いていたのかよっ?」


「当り前じゃ。この一年おぬしが助けてきた者達の態度を見れば一目瞭然じゃ」


 俺の助けてきた人達?確かにここに辿り着く前にも何度かバグ能力を使って人を助けた事はあったが、それがなんだっていうんだ。


「その顔。本気で分かってない様子じゃな」


「め、面目ない」


 ファミは幼女らしからぬ老けこんだ顔でもう一度ため息をつく。


「おぬしが助けてきた者達、特に女共は全員間違いなくおぬしに好意を抱いておった。個人差はあつたじゃろうがな」


「な、に……っ!」


 衝撃の事実。


「最初は純粋に命の恩人に対する感情が変化したものと思っとったが、ここまできたらもう原因は明白じゃな」


「と、言うと?」


「おぬし本気でしばくぞ。どう考えてもおぬしの能力が女共の心になんらかの変化をもたらしているに決まっているじゃろうが」


「な、なんだってー!」


 という事は俺は気づかぬ間にフラグを立ててはそれに気づかず立ててはやはり気付かず、を繰り返していたとでもいうのか!


「な、なんてもったいない事を……」


「やっぱりおぬしいっぺん死んだ方がよさそうじゃな。最初に出てくる感想がそれって」


 絶望に打ちひしがれる俺に対し目の前の幼女は厳しい。まぁ、そうされる心当たりはいくらでもあるんだけど。


「そして今回はなんと王女が相手じゃ。このままいったらおぬしソニード王家に婿入りなどという展開も有り得るぞ。いや、今まさにその道を直進しておるぞ」


 ファミがクレア王女達の方を見る。


「ですからお父様。我が国の運命を変える為にも、ジン様は必要な人物なのです!」


 なんだかクレア王女の口調が熱を帯びてきている。


「う、うむ。しかしクレアよ。ジン殿は、言っては悪いが我々にとっては素状の知れぬ者じゃ。その者にいきなり爵位を与えて、し、しかもゆくゆくはお前の婿にするなどという突拍子もない話、わしは、わしはぁぁぁぁぁ……っ」


 国王が泣き出した。もう完全にただの子煩悩な父親じゃないか。


「ジン様には傷を一瞬で治癒する稀有な力もございます。治癒魔法が存在しないこの世界においてジン様の存在は珍重されるべきなのです!」


「しかしそれと婿入りの件は全く話が違うように思いますが」


「バーバラはお黙り!」


「は、はいぃ!」


 バーバラさんが怒鳴られて一瞬で退場。でも本人それでも嬉しそうだったから結果オーライだろう。


「ほら、このままじゃおぬし身を固めるはめになるぞ?」


「そ、そうだな……」


 ファミの言葉に俺は考えを巡らせる。身を固める、か。


 生まれてこの方17年。彼女どころか女友達すら皆無な人生。周りの皆がやれ部活だやれ恋愛だと青春にうつつを抜かす中、俺はただただ、そう、何もしてこなかった。強いて言うならゲームとかしかしてこなかった。あと本も多少は読んだ。後は大体働いてた。


 そんな俺がこの世界に呼ばれて一年。なんだか知らないけど手に入れた能力のお陰で女の子の好意を得る事が出来るようになった。


 能力で得た好感度。それでよいのだろうか。そんな偽りのものともとれる感情に流されてよいのだろうか。いや、俺は、


「ジン様」


 クレアが俺の方を見る。上気した頬、潤んだ瞳。


「わたくしはジン様と共に未来を歩みたいのです」


 それはとても魅力的だなって、俺は思うんだ。


「うん。そういう未来もありだと思います。いやその未来しか有り得ない」


「こやつ雰囲気に流されおった!」


 流されたくもなる。だって相手は一国の王女で可愛くてスタイルも良くて性格まで太鼓判なんだぞ?今時こんな超優良物件宝くじ当てるよりも発見が難しい。


「お前だってこのままいけばこの国で貴族としてやり直せるんだぞ?」


「は?……は!」


 それまで俺の事を薄汚れたゴミ虫くらいの感じで見ていたファミの表情が変わった。


 ①この男が王女と結婚すれば、自分もそれなりにいい待遇を受けられる。

 ②そうすれば貴族としての位を取り戻せる。

 ③御家復活。今は亡き家族や先祖の顔も立てられる。


 という思考トレースがあの小さな頭の中で行われた事だろう。分かりやすくて助かるぜ。お互いにな。


「そ、そうじゃなジン。これはあくまでおぬしの問題じゃが。しかしな!わらわもおぬしと1年もの間旅をしてきて知らぬ仲ではない。おぬしがぁ、うん、ここでぇ、そうだな、王女とぉ、えと、結婚するぅ、というならわらわは止めはせん。いやおぬしはそろそろ自分の幸せを掴みに行ってもいいとわらわは思うぞ」


 要約。自分が貴族として再び返り咲く為にお前結婚してコネを作っとけ。


「そうだな。俺はこれまで他人の傷を癒す事ばかりを考えていた。そうだよな。お前みたいないたいけな幼女を連れて明日の命も知れぬ危険な旅を続けるのはこの辺りでやめるべきなんだよな。そうだよここがまさに潮時、人生のハッピーエンドにしてハッピースタートがここにある!」


 要約。幼女のお守り疲れたし社会的地位と富と権力と可愛い奥さんが一度に手に入るなんて好機逃す方がどうかしている。


 こうして俺と幼女の利害は見事に一致した。後は王女の説得に国王が折れてくれるのを待つばかりだが。


「お待ちくだされ」


 ここで新キャラ登場。ラブコメチックでふわふわとした空気に包まれていた謁見の間にずかずかと恰幅と身なりは良さげな中年のおっさんが現れた。


「メガドではないか。軍の司令官たる貴公が一体どうしたというのじゃ?」


 メガドというらしいおっさんはなぜか俺を睨みつけながら国王の方へ歩み寄る。


「恐れながら陛下。この旅の者は陛下や王女殿下を騙し国を乗っ取ろうと画策しておりますぞ」


「え、そうなの?」


「そうじゃったのかジン」


 真っ先に俺とファミが反応してしまう。なんだかよく分からないが寝耳に水過ぎる。


「メガド。こちらのジン殿はクレアの恩人。その様な事を申すからには確たる証拠があるのであろうな」


 国王からの問いかけに、メガドは不敵に微笑む。


「もちろんです。こちらをご覧下さい」


 そう言って懐から取り出した一枚の紙。いや写真か?なにやら絵柄のようなものが映っているが。


「これは……」


 この場の皆が困惑する中、メガドは声高らかに、


「ここに映っているのは王女殿下を襲った魔物、そしてここにいる旅の者でございます。さあ、両者の様子をよくご覧下さい」


 と言い出した。


「よく見ろったって……」


 その写真に写っているのは確かに俺だ。だが俺の正面に立っている熊みたいなやつは全く見覚えがない。


 この写真、偽物だ。


 他でもない写真に写った当人である俺はそう確信したが、しかしメガドは止まらない。


「お分かりいただけましたかな?この者は魔物を操り王女殿下を襲わせ、その上で自らの手で王女殿下を治療したのです。あたかも自分が救世主であったかのように振る舞いながら!」


 ざわ……!と謁見の間に嫌な雰囲気の静寂が流れる。


「いやいやいや、ちょっと待とうよおっさん。まず聞きたいのはさ、その写真どこで手に入れたの?」


 この流れはなんだか知らないがまずい。このおっさんが何を目的にしてあんな合成写真を持ってきたのか知らないが、ここは冷静に取り乱さずに対応しなければ。


「私には専属の諜報員がいてな。そやつがこれを持ってきた。今回の王女殿下暗殺未遂の全容を解明する大きな手掛かりとしてな。もはや言い逃れは出来んぞ、大人しく縛につけ」


「話が早くて怖い。そんな写真一枚で俺が王女様を襲撃したかどうかなんて分からないじゃないの。その写真だって本物かどうかも分からないのに」


 ここがやつのウイークポイントなはず。俺はそう楽観的に考えていた。しかしメガドの余裕の笑みは崩れない。


「そうだな。わしも先ほどまでは半信半疑であったよ。しかしこの場での王女殿下の言動を見聞きして確信した。王女殿下は貴様に操られているとな!」


「は……はぁっ?」


 今度こそ意味が分からなかった。俺がクレア王女を操っている?何を言い出すのこのおっさんは。


「陛下、あなたも不審に思われませんでしたか?聡明であるはずの王女殿下が命を救われたとはいえ会って一日と経っていない男との結婚を熱望するなど」


「そ、そんな。わ、わたくしは熱望などはしていません。ただこのジン様と一緒にいたいと、あわよくばずっといたいと、そうですね将来的にはたくさんの家族に囲まれながら皆で幸せに暮らしたいと、子供は3人くらいかなぁと、その程度にしか考えていませんわ!」


「クレアよ、その願望を世間では結婚というのじゃよ!……しかし確かに今までのクレアであれば確かにそんな事は考えられないな」


 国王は神妙な顔をして黙り込んでしまう。


「そうでしょう!この男には疑惑が多すぎます!一度身柄を拘束し徹底的に調べ上げるべきかと!」


 国王の様子を好機と見たのかメガドは声を張り上げる。そして待機させていた兵士達で俺達の周りを囲む。


「なっ!メガド、わたくしの恩人に対して非礼な真似は許しません!」


「王女殿下。お言葉ではございますがいくらあなたのお言葉でも、いえ今のあなたのお言葉だからこそ従う訳には参りませぬ」


 メガドは力強く言い放つ。確かにクレア王女の感情の変化は俺の能力によるものだという疑いは強い。しかしその王女に魔物をけしかけたというのは全くのでっちあげだ。でも誰が何の為にそんな……。


「そやつらを地下牢に連れて行け。よろしいですな、陛下」


「……証拠もある以上仕方あるまい。確かに今回の件は不可解な点も多い」


 それは国王からの許しの言葉。


「では、あとはこのメガドにお任せを」


 その瞬間、俺は見逃さなかった。メガドの口元に浮かぶ小さな微笑みを。








…………。

……。



「で、なんでこうなるのじゃ?」


 じめっとした雰囲気の地下牢。そこに収められて10分ほど経過した辺りでファミが現状にまるで納得していない風に言葉を絞り出す。


「なんだか知らないが俺達ははめられたらしいな」


 あの偽写真が出てきた時点でそこまでは分かっている。俺は魔物なんぞ操っていないし魔物に遭遇もしていない。つまりねつ造写真である事は明らかなのだ。


「問題は、誰がなんの為にそんな事をするか、だな」


「おぬし、わらわの知らぬところで勝手に誰かの恨みなど買っていたのではあるまいな?」


 ファミの冷たい目が突き刺さる。


「この国に入る過程も入ってからも大体お前と一緒だっただろうが。俺はクレア王女達としか会っていない。あの状況でいきなり謂れのない罪を被せられる理由はない……と思う」


「なんで最後は自信なさげになっとるんじゃよ」


「人間だもの。自分のやった事の全てを把握することもそれが他人にどう影響するのかを理解する事もどちらも完全に行うのは不可能ってこった」


 俺は地下牢の床にごろんと寝転がる。


「おい、寝とる場合か。このままではわらわ達は処刑にでもされる勢いじゃぞ」


「分かってるよ。そうならない為に今考えているんだろうが」


 とは言ったもののあまりにも急すぎて展開についていけていないのが現状だ。


「こういう時に大事なのは状況を冷静に整理分析し結論を導く事だ」


「なるほどな。じゃあわらわはこの牢の中でも調べとるかの」


 と言ってファミは牢屋の中をうろうろと歩き始めた。


「さて、まず考えるべき事は、だ」


 と俺は思考の渦へと自らを誘い、


「おい、ジン」


 誘われようかというところでファミに声をかけられた。


「なんだよ。こっちは今から推理のラビリンスにだな」


「この牢、鍵が壊れとるぞ」


「え?」


 見れば、ファミは牢屋の扉を普通に開閉していた。


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