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[20]人間をやめた兵士vsどこまでも人間な傭兵

はてさて、反撃の開始です。


では、どうぞ。

ウインド達の乗る列車は海沿いを抜け、いよいよセガール帝国の領土に入り最初の大きなターミナル駅へと到着した。


彼は駅のホームに降り立つと、現地で待機していた帝国軍兵士達の敬礼に迎えられる。


「セガール帝国陸軍、カービィ大佐です。ウインド皇子殿下を帝都までお送りするよう命じられ参上致しました」


兵士達の先頭に立つがっちりとした体つきの男がそう言うと、ウインドは軽く頷く。


「よろしく頼む。目標とされていた少女は中にいる。抵抗される事はないだろうが、丁重に扱ってくれたまえよ」


「はっ、了解です」


「あと、行き掛けに猫を一匹拾ったんだ。そっちもよろしく頼むよ」


「猫、でありますか?」


大佐は眉間にしわを寄せる。ウインドはそれを見て軽く微笑みながら、


「ああ、猫だ」


とだけ言った。


意味の分かっていない大佐は困惑している様子を隠せていない様子だったが、ウインドは彼の肩を軽く叩いて駅の出口をへと向かう。


「そういえば、ヒポリト達はうまくやっているだろうか」


と、ふと思い出して立ち止まり、ソニード王国の方角の空へと視線を向ける。








一か月前、俺は敗北した。自分達の生きる唯一の道、傭兵として戦うという道を守る為にとんでもなく馬鹿な事をした挙句にだ。


戦艦なんていうご大層なもんまで出して挑んだのにも関わらず、結果として俺も戦艦も全部海の底に沈んじまった。


と思っていた。


しかし俺は生きていた。海の底に沈んで藻屑と化す運命かと思っていたが、俺はもう一度地上で目を覚ます事が出来た。


どこの馬鹿だか知らないが、海上に浮かんでいた俺を助けた奴がいるらしい。


そして俺はその後ソニードの軍隊に引き取られ、何不自由しない牢獄暮しって訳だ。


「つーわけだがもっと説明いるか?」


「い、いえ。大丈夫です。というか大体知っていましたので」


目の前でへたり込んでいる女は、なぜか驚いたような顔で俺の事を見ている。


「くっ、くそぉ……っ!」


「あん?まだ動けたのかよ。無駄にタフネスだ、なっ!」


俺は足元に転がっているセガールの兵士の顔を蹴りあげる。


というか10人以上、しかもしっかり武装してんのに丸腰の俺一人に敵わないってどうなんだよ?と、俺は廊下を埋め尽くす気絶したセガール兵士の群れを見てため息をつく。


「というかだよ」


俺は女の方を見る。


「俺、お前の事どこかで見たことある気がするんだけど?心当たりある?」


「え?えっと……思い当たる節が無い事もないというか?」


女は視線をさまよわせながらはっきりとしない言い方。


「まぁいいや。なんでこんな所にいるのかは知らないがどのみちここは危険だ。早くどっか適当な所にでも逃げるんだな」


「に、逃げるって言われても、今この王宮には多くのセガール帝国の兵士がいますわ。わたくし一人では到底逃げ切れるとは……」


女はぶちぶちと己のか弱さをアピールし始める。うざい。


「だったらその辺で適当に縮こまって待ってろ」


「ま、待つ?い、一体何を待てば」


「あれだよ」


俺は顎で通路の先を示す。


「え?」


そこにいたのは、セガールの軍服を着た兵士。だが、その体格は転がっている奴らの比ではなかった。


「……同志達がやられている。やったのはお前か?」


筋肉の塊を無理矢理人の形にしたような巨躯の兵士は低めに通った野太い声を出す。


その問いが俺に向けられたものである事はもちろんすぐに分かった。だから俺は笑ってやった。そしてこう答えた。


「その通りだよ。お前の仲間は驚く程脆弱だったよ。鍛錬が足りねーんじゃねーのか?」


「そ、そんな挑発するような事は」


女が本当に俺の言った通りに端の方にいる。そして何か言っているが聞いても無駄なので特に触れてはやらない。


「本当にお前一人でここにいる全員を倒したというのであればそうかもしれぬ。だが、仮にそうだとしてもやはりお前の強さに私は注目せざるを得ない」


巨躯の兵士は体の大きさの割に隙の少ない歩き方でゆっくりと歩いてくる。


「我が名はヨロイ。セガール帝国軍に属する者だ。弱くとも同志は同志。その無念は私が直に晴らすとしよう」


ヨロイとかいう兵士の体が一瞬沈む。いや、膝を曲げてエネルギーを溜めているんだ。


という事は、次の奴の行動は。


「突撃か」


という一言が発せられたかどうか。


若干沈んだヨロイの体は直後、銃弾のようにその巨体に似合わぬ速さであっという間に俺の眼前にまで迫る。


「男に迫られる趣味は無いんで、ねっ!」


俺は床に転がっていた兵士の腰を蹴りあげる。


「なにをっ!」


ヨロイは一瞬俺の行動に違和感を覚えたようだが、すぐにこの蹴りの意味に気付く。


手榴弾。兵士の腰に付いていたそれをヨロイに向けて思い切り蹴ったのだ。


空中に跳ね上がった手榴弾は信管の取り付けられている出っ張りから勢いよく煙が噴き出す。


煙幕。この手榴弾は爆発による殺傷を目的としたものではない。もちろん俺はそれを分かった上でこれを蹴ったのだ。傭兵やってて良かったぜ。


煙幕は瞬く間に空間に充満する。ここは地下。空間はかなり限定されるからその効果も絶大だ。


俺も視界は塞がるが、しかしそれはイコール奴も同じ状況って事だ。


「さて、今の内に武器を調達するか……」


俺は足元に転がる兵士達を見る為視線を落とした。


直後、俺の体は吹き飛んでいた。


「がっ……はあっ……!?」


腹にくる強烈な鈍痛。盛大に飛んだ俺はほぼ直線に放物線を描き壁に叩きつけられた。


「ク、クラッシュさん!」


女の声が妙に遠く感じる。視界も微妙にぼやけている。


ああ、この感覚覚えがある。傭兵として戦場を駆けずりまわっていた時に嫌という程経験した感覚だ。


「な、んでだ、よっ」


俺はかすれた声で辛うじてこの不可解な状況に対する悪態を口にする。


ぼやけた視界が段々と明瞭になってくると、その中心にあのヨロイが煙の壁を破るようにしてゆっくりと歩いてくる。


その姿がなんだか冒険活劇の主人公のように見えて俺は苦笑する。


あんなムッチムチの筋肉だるまが主人公って、それはねーわ。


主人公ってのは、もっとこう、俺みたいにスタイリッシュに格好よくねーとな。


「何を笑っている」


目の前にまで来たヨロイが俺の腹を踏みつけてくる。


「ぐぅ……っ!」


「痛いか。私とてこのように敵を痛ぶるのは趣味ではないが、しかし貴様は同志を数多く傷つけた。故に同志の痛みの分は受けてもらおうか」


「へ、へへ……で、それが済んだら殺そうって事か」


「その通りだ。貴様は敵、生かしておく道理など最初から存在しない」


ヨロイは淡々と言い切る。いい人間ではないが、いい兵士ではあるようだな。


「なるほどな。だったら冥土の土産に一つ教えてほしいんだが」


「なんだ?」


「てめぇ、人間じゃねぇな」


ヨロイの動きが一瞬止まる。どうやら俺個人の気の狂った考えじゃないようだ。


「さっきの煙幕の中での正確すぎる動き。そして攻撃の時の手ごたえ。どっちも俺の知っている人間のそれじゃねぇ。魔法を使っているという感じもないみたいだしな」


そこまで言うと、ヨロイは「ふん」と息を漏らすと、


「そうだ。私はただの人間ではない」


と返した。


「私は改造人間だ」


「改造人間……」


「体の表面から内部のあらゆる器官に至るまで機械化を施し強化された存在、それが私だ」


ヨロイは何事も無く普通に自己紹介をするように口にするが、言っている内容の方は果たして全く穏やかではない。


「話には聞いた事があるな。戦争で傷つき体の一部を欠損した兵士なんかを勝手に死亡扱いにした挙句本人の意思など全く無視して研究機関で体をいじられまくり……だったっけかな?」


「貴様、どこでそんな話を聞いた」


「こちとら傭兵稼業やってたんでね。戦争にまつわる血生臭い話は耳を閉じてても入ってくるんだよ。で、そんな反応するって事は図星みたいだな」


そう言って笑ってやると、ヨロイは無愛想な顔を更に憮然とした顔になる。そして、その顔のまま言った。


「貴様はあらゆる意味で生かしてはおけぬ。故に手早く殺すとしよう」


奴の足にかかる力がいよいよ強くなってきた。まずい、このままじゃ本当に殺されかねない。なにか、なにかないか。


焦る俺。の耳に乾いた発砲音が届いたのはその直後の事であった。


それはヨロイの背後、手元が震えまくっているそいつの手に握られた銃から放たれた一発。


「何をする」


軍服に穴が開き細く煙が上がっているにも関わらずヨロイは全く気にする様子もなくその背後の人物、あの女に向かって言葉を吐く。


女は体中が震え、目には涙が溜まっているというのに、銃口をヨロイに向けたまま離そうとしない。


「わ、わたくしはこの国の王女ですっ。罪人とはいえ今この国に身を置いている方を見殺しになど出来るはずがありませんっ!」


女は震える声で、しかし威勢よく言い放つ。


てかあいつ王女だったのか。道理で見覚えがあると思ったぜ。


「王族としては立派な誇りだ。しかし生死を賭けた戦いの場においてはその誇りは命取りだ」


「そうだな。命取りだ」


瞬間、ヨロイの表情が歪み体勢が崩れる。


「こんな風にな」


奴が体勢を崩した原因は足首に深々と刺さったナイフにあった。


「戦場においては一瞬のよそ見すら死に繋がるんだよ!」


そのナイフを突き刺したのは言うまでも無く俺だ。ヨロイが王女に注意を向けたその一瞬を狙って隠していたナイフでぐさり。改造人間というだけあって表面の防御力は銃弾すら通さないとんでも仕様だが、しかし全身をその硬さにしてしまってはどうしても不具合が生じる。一昔前の甲冑なんかがいい例だ。全身を分厚い鉄板で覆い攻撃から身を守る。

その防御力は当時盾を必要としない程で、それと戦う敵兵士は如何にその装甲を『叩いて』破るかという事に熱心になり、『斬る』事を主眼に置いた剣の進化が完全に止まったとすら言われている。それほどに強固な鎧の装甲だが、弱点はある。関節だ。関節部分まで装甲で固めてしまうと単純に動きが取れなくなる。故に鎧には関節に装甲がない。


あともう一つ、鎧というものには弱点がある。


「どっせぇい!」


俺はナイフを更にえぐるように刺しながら、回転するように奴の足の下から脱出する。


「小癪なっ」


ヨロイは膝をつきながらもそのぶっとい腕を俺めがけて振り下ろす。


俺は咄嗟に腕で顔を庇う。


その上からヨロイの強烈な一撃が命中し腕に痛みが、そして全身にその余波たる衝撃が伝わる。


「ぐぅっ」


一瞬飛びそうになる意識。だがここで終わらせる訳にはいかない。


「こいつの頭を撃て!」


俺は叫んだ。いまだ銃を持ったまま俺とヨロイの攻防戦をぼけっとした顔のまま見ているあの王女に向かって。


それはもちろんヨロイの耳にも入った事だろう。奴の目が王女へと一瞬向けられる。


しかし王女は突然自分にスポットライトがあたった事に戸惑うばかりで肝心の引き金を引かない。


それを見て王女は自分に対して害はないとでも思ったのだろう。ヨロイの目が再び俺に向けられる。


向けられたその顔には、「残念だったな」とでも言いたげな表情が張り付いていた。


「そうでもねぇさ」


奴のその胸糞悪い顔は一瞬だった。本当に一瞬。


だって、俺がこいつのあご蹴りあげたんだからそりゃ見れなくもなるわな。


「がぁっ!」


ヨロイの顔が天を仰ぎ、その口が大きく開かれ息が吐き出される。


「という訳で、ずどんだっ!」


次に奴の視界に映ったのは、俺の実に凶悪な笑顔だった事だろう。


それはあながち間違いではないな。これから俺がやることを考えれば。


手近に落ちていた武器、それは中型炸裂弾頭を発射する武器、いわゆるグレネードランチャーだ。


それを手にした俺は、ヨロイの顔まで駆け上り、大きく開かれたお口に突っ込んでやった。もちろん銃口を奴に向けてだ。


「ひぃっ!」


王女の悲鳴が聞こえる。


まぁ、平和に生きてきた連中には少々刺激の強い光景かもしれないな。だが、


「これが傭兵の戦い方だ」


俺は迷わずに引き金を引いた。


くぐもった発射音。そしてそれから間もなく、奴の体内にて弾頭が爆発した。


「どんだけ硬い装甲なんだかしらないが」


口から煙を噴き出し、白眼を剥いてヨロイはゆっくりと倒れる。


「鎧の中まで丈夫にする事は出来なかったみたいだな」


俺は奴が完全に倒れるのを見届ける。そしてもう動く様子の無い事を確認し、武器を床に置いた。


「で、だ。こんな奴が城内に侵入してくるぐらいに混乱してるってのはどういう事だ。戦争か?」


俺は銃を握りしめたままぽかんと間抜け面を晒している王女に尋ねる。


「へ?」


しかし王女は間抜け面のままこきんと首を傾げるのみ。


俺はそれを見て呆れてため息が出る。


「奴に弾丸ぶっ放した勇ましい王女様はどこにいったのやら……。今この国はどういう状況かって聞いてるんだよ!」


「は、はい!えっと、セガールが我が国とエニック共和国に宣戦布告し、そしてセガールが空中戦艦を用いて兵を送りこみ強襲を仕掛けてきたのですわっ」


と、えらく慌てた早口で答えてきた。どんだけ戦いに免疫がないんだよこの王女様は。流石は平和の国ソニードだな。


「なるほどな。あの国ならいつかはこういう風に強硬策に出る事はあるだろうとは思っていたが、しかしこんなに早く、しかも大胆な作戦に出るとはな」


だが逆にいえばこれはチャンスでもある。俺は傭兵で今まさに戦争が起こっていて目の前にはその戦争中の国の要人がいる。まさしくビジネスチャンスだ。


「なぁ、王女様。俺と一つ取引をしないか?」


「取引、ですの?」


「そうだ。と言っても単純な話だがな。俺を雇わないか?これでも傭兵としての腕前は、まぁ見ての通りだ。あんたの安全確保くらいの仕事ならこなせると思うが」


「なるほど。それで、わたくしはそれに見合う報酬をあなたに出す、と」


「話が早くて助かるな。で、どうだよ?」


俺は王女様の顔色を伺う。王女様は少し思案するような素振りを見せた後、ひとつ大きく頷いた。


「分かりましたわ。あなたの事を全面的に信用した訳ではありませんが、現状わたくし一人の力ではこの状況を打破出来ないであろう事も事実。傭兵としてのあなたと契約を致しましょう」


「よっしゃ、交渉成立だな」


俺はその証とばかりに手を差し出す。王女も、少しためらう様子はあったものの手を差し出してくる。


さて、久々のビジネスの時間だ。









俺の記憶はここまでだった。


何が起こったのかよく分からないが、しかし最後に、


「見つけたでぇ、王女様」


というねちっこい女の声が聞こえた気がした。


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