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[2]好感度カンストバグ

 やぁみんな。早速だけど俺とファミの現在の状況を伝えるよ。


「ジン様。あれが我がソニード王国の王宮でございますわ!」


 俺達は今王女クレアと共に王族専用の馬車に乗り込み王宮に向かっていた。


 ちなみにクレア王女は俺の隣で俺の腕にひしと抱き着いている。前にも話したが俺は綺麗な女性相手だと緊張してしまう。しかも王女様割と豊満。故に割と色々ピンチです、いい意味で。


 ただ俺の心を支配する緊張の本当の正体は向いに座る親衛隊長殿のそれだけで人を殺せるんじゃないかというくらいに鋭い視線のせいだと思う。うん、人間素直に恐怖を感じると動けなくなるものよな。多分動いたら本当に殺されると思う。うん。


「ジ、ジンよ。なんかトントン拍子で大変な事になっている気がするのはわらわの気のせいじゃろうか?」


 そして王女と反対側に隣には真っ青な顔でガタガタと震える幼女ことファミの姿があった。


「でも、この展開はお前の望みに近付いていると思うんだが」


 と俺は思った。こいつの望みは御家断絶に追い込まれたリーコン家の再興。それならばこの国の王族とコネを作っておくのは百利あって一害無しだと思うのだが。


「そ、それはそうなのじゃが……うまく行き過ぎて怖いのじゃ」


 そう言ってファミは俺の服の裾を掴む。


「まぁ、なんとかなるさ」


 こいつはこの歳で自分の家と家族が無くなるという悲劇を経験している。それを考えれば『うまくいっている状況』に素直に喜べなくなっているのもある意味納得だ。


「ジン様?」


「え、ああ、はい?何でしょう?」


 そんな幼女の反対側ではクレア王女がきゅっと、それでいてふわっとした感じで俺の腕を抱きながら上目遣い。


「王宮に着いたらですね。ぜひわたくしの父に会ってほしいのです」


 もじもじと顔を紅潮させながら躊躇いがちにそう言ってきた。


「へ?父って事は、国王様にって事?」


 クレアはこくんと頷く。が次の瞬間にはなぜかはっとした顔になりわたわたとしながら、


「あ!でもそれはわたくしの命の恩人としてご紹介したいのであって、その、いや、でも、出来たら末長いお付き合いをさせていただきたいと思っておりますので、あの、そういう感じの紹介?という意味でも私は一向に構いませんが、いかがでしょう?」


 一瞬マイ頭脳がフリーズした。質問の意味が分からない。というか問われている内容が途中ですり替わっているような気がする。そして親衛隊長殿の歯ぎしりが女性として、いやもはや人間としてレッドカードなレベルに達している。いやこれは俺悪くないですよ、とは本当は口に出したいがそれやったら多分明日の朝日どころか今夜の月すら拝めない気がするのでお口チャック。


 フリーズした直後の一瞬の中で、俺はなぜこうなったのか、という事を思い出していた。


 俺はクレア王女を自慢のバグ能力で助けた。


 この時点で俺の中にある程度の打算があった事は認めよう。


 打算。即ちこの行いによる地位と富の獲得である。この国に恩を売り、この世界で名を成す為に必要な地盤を整えようと思ったのだ。


 まぁ最悪の場合でも謝礼金くらいはもらおうとは考えた。


 しかし事態は治療の直後より大きく俺の予想しうるパターン達の範囲外、斜め上へと突き抜けることになる。


 傷が治り苦しげな顔から一転して穏やかなそれへと変わったクレア王女はおもむろにベッドから体を起こす。


 そしてクレア王女は俺の顔を潤んだ瞳で見て、


「出会い、見つけました」


 と呟いたのである。俺としてはその発言の意味はよく分からなかった。それよりも背後で破滅の闘気を放ち始めた親衛隊長殿への対策の方がえらく急を要した。


 なんで親衛隊長がそんな物騒な事になったかというと、原因はクレア王女にあった。


 この王女、上半身に何も着ていなかったのである。そんな状態で起き上がりやがり下さったのである。


 もう、丸出し。青少年の青少年が辛抱たまらん事になりました。


 そんな早くも混沌としてきた状況の中で、クレア王女は俺の手を取りこう言った。


「この方を王宮にお連れ致します。この方は命の恩人」


 とね。そこで終わらせればいい感じだったのにしかしこの王女ちゃんは、


「そして、わたくしの大事な方、なってくださるかもしれない方、ですから」


 と恥じらいながら言いきったのである。その恥じらいを早期の着衣という方向に向けてほしかった。


 いや、正直ありがたがったけどね。何がってのは言わない。世界よ、それが青少年だ。


 そうして俺とファミはクレア王女の強い要望という形で王宮に向かっているのだ。


 いや何が奇跡って親衛隊長殿の手にかかっていないこの状況が奇跡ですよ。


 そして現在に至る。なんだかよく分からないがとにかく俺はこの王女様にえらく気に入られたらしい。


 ファミを紹介した時なんかも、俺は妹みたいなもんだと言って紹介したのだが、


「ジン様の妹君とあらばわたくしにとっての妹も同然ですわ。……きゃっ、言っちゃった」


 って両手を頬に添えてヤンヤンと体を揺らすというぶっちぎりの乙女モードで言ったのだ。


 ファミはと言えば俺の妹扱いがあまり気に入らなかったのかご機嫌斜めだったが。


「どうせおぬしにとってわらわは妹程度にしか映らんのじゃろう」


 とか言って拗ねていた。いや、妹って結構大事なポジションだと思うよ?


「王女殿下、ジン殿達も、そろそろ王宮に入ります。降りる準備を」


 向かいに座り相変わらず人間の殺意は空気の色をも変える事を証明し続けている親衛隊長殿が表情だけは穏やかに言う。


 しかしこめかみの青筋を俺は見逃さなかった。


 そうして今日何度目か分からない命の危機を感じたところで馬車は王宮へと入っていく。


「流石は国の中心、立派なもんだな」


 と俺はそびえ立つ宮殿を見上げてなんとなしに呟く。


「いえ、これでも周辺の列強国のそれに比べたら大した事はございませんわ」


 馬車を降りると流石に俺の腕を解放してくれたクレア王女が少し悲しげに言う。


「そうなんだ?」


「はい。我がソニード王国は隣国であるセガール帝国やエニック共和国などに比べて国力も低く領土も広くありませんし」


「しかしそれ故に民の、今日を生き明日をより良きものにしようという意識はいずれの他国にも劣るものではありません」


 そこで親衛隊長殿が力強く言葉を差し込んでくる。その目には力強さが溢れていた。


「バーバラ……そうね。ありがとう」


 クレア王女はにこりと実はバーバラという名前だったらしい親衛隊帳殿に微笑みかける。


「いえ、この国の臣下として当然の言葉を申し上げたまでです」


 バーバラさんは凛々しい顔で右手の拳を心臓に当てる。これぞまさしく国に仕える騎士の姿。見た目だけでなく内面も美しい女性。完璧ではないか。


 鼻から血が滴ってなければ、ね。この人どんだけ王女様に弱いんだよ。


「あら?バーバラ、また鼻血が出ているわよ」


「ぎにじないでぐだざい」


 もうダメだこの人。またとか言われてるし。


 とまぁまったく残念な感じのまま俺達は王宮へと入ったのさ。


 そして入って早々俺はえらい目に遭う事になるのである。


 次回に続く。


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