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[18]崩壊フラグ

「ねぇバーバラ、わたくし決意を固めましたわ」


「決意?一体どのような?」


クレアは立ち上がると、窓の外、広がる広大な街と平原を見ながら力強くその決意を口にする。


「わたくし、強くなります。ジン様が全てを取り返した時、この場所へと帰ってこられるように」


その決意に、バーバラは優しく微笑む。


「分かりました。では、私はそのお手伝いをさせていただきます」


そう言ってクレアに対し跪く。


「ありがとう、バーバラ」


自分は王族であり立場がある。今のままではジンを迎える事など到底出来はしない。だからこそ、いつかジンがファミを連れて戻ってきた時に彼らの帰るべき場所になれるように、強くなろう。クレアは決意を固めた。


と、その時部屋のドアがノックされる。


「はい。誰ですか?」


クレアは答えるが、しかしドアの向こうからは応答がない。


「クレア様、私が参りましょう」


バーバラは素早く立ち上がると、ドアに向かう。


「クレア様がお尋ねになっているというのに答えぬとは無礼とは思わぬのか?そこにいるのは誰だ?」


バーバラはドアの前でそう大きく声を出すが、しかしやはり反応は無い。


「い、一体誰でしょうか?」


クレアが不安そうな声を出す。


それに対し「自分がいるから大丈夫だ」とクレアを安心させようとして振り返ったバーバラ。


その視界の隅に、紫色の魔法陣を捉えた。


「クレア様!」


バーバラは弾かれるようにクレアの元へ駆け寄ると、何がなんだか分かっていないクレアの体を抱えて飛んだ。


直後、クレアの立っていた場所に巨大なカプセルが覆い被さる。


「こ、これは……っ」


その異様な光景に、二人は息を飲む。


「誰だ。一体誰がこんな事をっ!」


クレアを自分の背に隠し、バーバラは立ち上がり腰に帯びた剣に手を伸ばす。


「あらら。外れてもうた。なかなか上手くはいかないものやねぇ」


ドアがゆっくりと開かれ、そしてローブを着た片眼鏡の女魔術師、ヒポリトは姿を現した。


「貴様はセガールのっ。一体なんのつもりだこれは!」


「つもりも何もありはしまへん。戦争中の敵国に対して攻撃を仕掛けるのは世にまかり通った道理だと思いますが、いかがでしょう?」


「戦争中、だとっ?」


「あら?まだ知らんのですか?うちの属するセガール帝国はソニード、エニックの両国に対し宣戦を布告したんどす。ついさっきね」


その言葉に、バーバラとクレアは驚き言葉を失う。


「まぁ、ちょいとタイミングが早かったお陰でうちは一人でこの王宮の人ら倒して回るはめにはなったんやけどね。それもあんたらでしまいや」


「しまい……?」


ヒポリトは機嫌良さそうに笑顔で頷く。


「そう。もう国王達もその側近もみーんなうちが固めたんや」


ヒポリトは手を上に向ける。


「こんな風にな」


瞬間、二人の頭上に魔法陣が出現する。


「くっ!」


バーバラはクレアの体を抱えると、素早く魔法陣の下から脱する。


「流石は親衛隊長さんや。王女さん抱えた状態でそないに速く動けるとはねぇ」


「言っている場合ではないぞ!」


バーバラはそのまま部屋の中を円を描くように回転しヒポリトの背後に回る。


「容赦は、しない!」


バーバラは剣の切っ先をヒポリトの背に向ける。


「ほんま、動くのが速い敵っちゅうのは戦うのが難儀で仕方ないわ。でもな」


次の瞬間、バーバラの体が衝撃で揺れる。


「がぁっ!」


クレアにダメージが及ばないようにかばいながら、バーバラは床を転がる。


「ただ上から被せるんだけが能とちゃいますねんなこれが」


ヒポリトの周囲では、先ほどバーバラに体当たりをしたカプセルがふよふよと浮いていた。


「さて、じゃゆるりと固めさせてもらいましょうかね」


ヒポリトは上空に手をかざす。


「何をっ!」


バーバラは頭上に魔法陣が出現したのを察知し後ろに飛びのく。


それを見たヒポリトの口元が、嬉しそうに歪む。


「ほんま、素早いこっちゃ」


ヒポリトの意図。奴の行動が、その言葉が何を意味するのか、バーバラは飛びのいた直後に気付いた。


「クレア様っ、申し訳ございません!」


「えっ?」


バーバラはクレアの体を、窓に向けて放り投げた。


「な、んで……っ」


クレアは窓ガラスをぶち破り外に投げ出された状態で、バーバラを見る。


「どうか、ご無事でっ」


そして、彼女を左右から捕らえたカプセルを見て、行動の意図を悟った。


自分は、救われたのだ、と。






「ほんま、厄介なこっちゃ」


上から出現させたカプセルは囮。それを避けたところに左右から半分のカプセルが合体し対象を閉じ込める。その作戦は半分成功し、半分失敗した。


「王女を始末せんといかんかったんやけどなぁ」


目の前で像と化したバーバラを見て、ヒポリトはため息をつく。


「まぁええわ。そう遠くには行かれへんやろうし、もうこの王宮にあの子の味方はいない。ゆるりと固めにでも行きましょか」


ヒポリトはそう言ってクレアの部屋を後にした。











…………。

……。



ソニードを出てから一体どのくらい経っただろうか。俺は熊の背に乗りながらぼんやりとそんな事を考えていた。


「ジン!やっぱりファミは列車に乗せられたみたいだよ!」


隣ではヘラジカにまたがったタマがヘラジカの角に止まったワシから色々と報告を受けていた。


獣人族ってそんな事も出来るのね。本当獣耳って万能。素晴らしや。


「列車……国境を越えるってやつか。それでセガールに入られたらアウトだな。それまでになんとかしないと」


「でも駅にはたくさんの兵士がいるって言ってるよ!」


「まぁ、そりゃそうだろうな」


列車を動かすという事はそれだけの労力が必要という事になる。兵士でなくとも敵は多くいるだろう。


こちらにはタマがいるとはいえもし大量の敵を相手にする事になったら……。


「くそっ」


俺は痛い位に拳を握る。


俺の力はバグっている。でもそれは色々な物語で語られるようないきなり強くなるとかそういう類とは全く違う。むしろ戦うという一点に限って言えば弱体化している。攻撃すればするほど回復するとか未だに意味が分からねー。




「でも今はそんな事を言っている場合じゃない。タマ!そのワシに俺の頼みを伝えてくれないか?」


「うん?何を頼むの?」


自分の力の無さを嘆くのは全力を尽くして何も出来なかった時だ。そして俺はまだ、出せるであろう全力を出していない。と思う。


「列車は山間部を走って海沿いを抜けるって言ってたよな?」


「うん。そうだよ」


「だったらその行程の中で上手く列車の頭上を取れるポイントへのショーカットは無いかを探ってくれ、って伝えてくれ」


駅には敵が多く列車の出発までに到着しなおかつファミを助け出すなんてのは現実的にはかなり難しい。そしてもちろん列車がセガールに到着したらその時点でもアウト。


だったら、列車が走っている間を狙うしかない。


「ジン!ワシさんが、それならいいポイントがあるって!ここからそう遠くもないから間に合うだろう、って」


「ナイス!じゃあ早速そのポイントに向かうぞ!頼むぞ熊」


俺は走り続ける熊の頭を撫でる。


熊は鼻を大きく鳴らすと、そのままスピードを上げた。


「にしてもタマ。本当に良かったのか?」


「何が?」


ヘラジカの背に器用に乗りながらタマは首を傾げる。


「いや、俺と来た事だよ。俺はもうソニードには戻れない人間だ。このままじゃもしファミを助けられても良くて流浪の身。弟達の事も考えたら」


「大丈夫だよジン」


タマは笑顔だった。


「わたしはジンのお陰で救われた。だからジンが困っているならどんな事でも手伝いたいって思っている。それに弟達は王女様が面倒を見てくれるって約束してくれたから大丈夫」


「でも」


「あの子達もね。ファミの事を助けてほしいって言ってたんだ。あの子達にとってファミは命を救ってくれた恩人で、自分達に対して『普通』に接してくれた数少ない友達。だから私も助けたいし、もしここで何もしなかったらわたしはそっちの方が後悔すると思う。だからこれでいいの!」


「タマ……ありがとう!」


驚くほど素直に口から出たお礼の言葉。タマはすこしだけ頬を赤くして、にっこりと笑顔で返してくれた。


そして俺達はワシの先導により、山道へと突入した。


待ってろよファミ。お前の事は俺が必ず助けてやる。


俺はうっそうとした木々の中を駆け抜けながら、そう決意を新たにした。











…………。

……。




セガールの列車は既に出発していた。その車内、ある貨物車両でそれは起こった。


「何をするのっ!」


スーファは妹であるファミから引き離されセガールの兵士達によってその車両に押し込められていた。


「そいつは言霊使いだ。言葉を口にするだけでその事象を引き起こす事が出来る。早く口を塞げ」


その兵士達に指示を出すウインド。その目は冷淡な色をしていた。


「ふぐぅ……っ!」


布を噛まされ、手足も縛られた状態で、スーファは鋭くウインドを睨む。


「貴様の役目はこれで終わりだ、ご苦労だったなスーファ・リーコン。一時でも妹に会えて嬉しかっただろう?」


ウインドはスーファを見下ろしながら淡々と言葉を紡ぐ。


「我々の目的はリーコンの『鍵』を持つ存在の奪取だ。そしてその『鍵』、ファミ・リーコンはお前の活躍で私の手に入った。故にな、スーファ・リーコン」


ウインドは右手の指を鳴らす。すると兵士の一人が車両の扉を開ける。


外に広がるのは、真っ青な海。


「お前はもう用済みなのだよ」






乾いた音が数回響く。


そして、海沿いを走る列車から、スーファ・リーコン。彼女の体は虚しく落ちて行き、静かに海中へと没した。


その様子をウインドは、既に見てすらいなかった。


「さぁ、計画を次の段階へと移行する」


彼の目は、スーファの妹、ファミへと向けられていた。


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