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[15]バラバラフラグ

「はぁ、はぁ、はぁ……っ」


俺は服の汚れを気にする事なく王宮の中を走っていた。


あのローブの女にはあのままファミを連れて逃げられてしまった。


「犯罪者はファミ」そう口にしていた女。


ファミの犯した罪。それは恐らく俺を呼び出す際に魔力を無断で使用したその事を言っているのであろう。


確かにそれはファミの罪。それは変わらない。しかし、その罪は少し前に解決しているはずなのだ


この国には、殺人以外の犯罪に適用する事が出来る『罪状相殺』という制度がある。これは、犯罪者がなんらかの形で国や世界に貢献したとみなされた場合に、その度合いに応じて今までに犯した罪については問われなくなるという制度の事。地球生活の長い俺からしたらかなりとんでもな制度だが、その恩恵はあった。


ファミは、クレア王女の暗殺を未然に防いだ事と、クラッシュら武装組織の凶行を退ける為に多大な働きをしたとして、魔力を無断で使用した罪は帳消しになっているのはずなのである。


なのにあの女はファミには罪があるとか抜かしやがった。もし個人的な恨みなら、それこそ放っておく訳にはいかない。すぐに皆に知らせないと。


「ジンっ?どうしたの、すごいボロボロだよ!」


俺を見つけたタマが駆け寄ってくる。


「ちょっと色々あってな。クレア達を知らないか?」


「皆は今王様のところで大事な話をしているみたいだけど……」


「そうか、ありがとう」


それだけ言うと俺は謁見の間へと向かった。タマは俺の後をついてきた。


謁見の間に着くと、国王やクレア、さらにバーバラを始めとする側近達が一堂に会していた。


「ジン様!」


俺の登場に一番早く気付いたのはクレアだった。


「これはこれは皆様お揃いで……。でもまぁちょうどいいや」


ファミが誘拐された事を話してなんとか協力を仰ごう。俺はそう考えていた。しかし俺よりも早く国王が口を開く。


「ジン殿。ちょうどいい。今あなたに関わりのある話をしていたところなのです」


国王は神妙な顔で俺を見る。というか俺に関わりのある話ってなんだ?


「話?いや、ちょっと待ってくれこっちは緊急事態なんだ!ファミが、ファミが誘拐された!」


そう言った瞬間、その場に嫌な空気のざわめきが生じる。


俺が思っていた反応と違う。驚きとかそういう感じではないざわめき。


「な、なんだよこの空気……」


「ジン様、実はお話とはそのファミちゃんに関わる事なんです」


クレアはあまり気乗りしていなさそうな顔で言う。


「ファミに関わる事?」


「そこからはわしが説明しよう」


国王はそう言って言葉を繋ぐ。


「ファミ殿がかつてセガール帝国においてそなたを召喚する為に魔力源を無断で使用した、というのは説明するまでもないな」


「まぁ、その時俺もその場にいたしな」


「そしてそれらの罪は先だってのクレアの件と武装組織『マイクロブラックボックス』の一件を経て罪状相殺に向かうはずだった」


「だった?」


あまり気持ちのよくない言葉の繋ぎ。


「罪状相殺は被害を被った、つまりこの場合ファミ殿が罪を犯したセガール帝国が最終決定権を持つ事になる。ファミ殿の罪と、最近の活躍を天秤にかければ相殺が認められるのはまず間違いない。わし達はそう思っていた。しかし、、セガールの返答は、全くの反対じゃった」


「反対って、つまり相殺を認めなかったって事か」


国王は苦々しく頷く。


「しかもそれだけではなくわしらがその返事を受け取った時点で奴らは既にファミ殿を捕え自国に連れ帰る為の刺客を送り込んでいる事が分かった」


「刺客っ?じゃああの女がそうだってのか!」


だとするならば、その女がファミの罪に関して口にするのはごく自然な事だ。


「いや、でもまだそうだとは分からない。まだただ誘拐された可能性だって」


「いえ。ファミちゃんがセガールに捕えられた事はほぼ間違いありません」


「はぁっ?」


クレアの言葉に俺は思わず語気を強めてしまう。クレアは少しだけ怯えた様な表情を見せるが、すぐにその理由を口にする。


「ジン殿がこちらに来られる直前の事です。セガールより報せが参りまして、ファミちゃんを確保したと通告してまいりました」


「セガールよりって、どういう事だよ!」







「どういうもこういうもありはしまへん。通告は通告、言ったまんまの意味どす」


いきなり聞こえてきたのはイントネーションがとてもおかしい関西弁だか京都弁。声のする方を向くと、見慣れない、ローブを羽織った丸い片眼鏡の女の人が立っていた。


「あんたは……?」


俺は思い切り不審な物を見る目つきでその人の事を見ていた。しかしその女の人は特にそれにより表情を崩すことはない。


「うちはセガール帝国騎士軍所属の魔術師、ヒポリトと申します。今回の事を伝える為にこちらに参上した使者、今はそういう肩書きどすな」


にこり、と場に似合わぬ薄ら寒い微笑みを浮かべる目の前の魔術師。


「じゃあ聞くが使者さんよ。ファミの罪状相殺が認められないばかりか勝手に拉致っていくとはお前の国は頭おかしいのか?」


「ちょっ!ジン様!」


クレア始めソニード側の幹部がざわつく。何か俺の言葉はまずかったらしいが俺はそんなの気にはしない。


「おっほっほっ。頭おかしい呼ばわりはいくらなんでもご挨拶が過ぎる思いますえ」


魔術師は笑う。が、目の底は決して笑っていない。そしてそれをわざと俺に見せつけている。自分には裏があると言わんばかりの態度だ。よく分からないが不気味極まりない。


「確かにいきなり誘拐紛いの事をやったのは色々言われても仕方ないなぁとは思いますよ?でもね、あの子供はうちらの国で罪を犯した罪人。それでもってうちの皇帝陛下はそいつの罪状相殺を認めてはいない。拉致がいかんとあんさんは息巻いとるけども、相手が罪人やったらある程度強引な手段も許されるんちゃいます?」


「そんなの暴論だ!」


「暴論結構。でも実際のところもうあの子はうちらの手の内やし、もうソニードさんの側は一切の手出しは出来まへん。それともなんですか?国家間で定めた法に逆らってまであの子の事、助けますか?そんな事したら後が怖い思いますけどね」


現時点ではファミは罪人だ。確かにやり方が乱暴だからと言ってソニードが国として抗議したら、却って問題視されるのはこちらって事か。


「あんさんはあの子の魔力でもってこの世界に召喚された。それは知ってます。情も移っている事でしょう。でも悪い事は言いまへん。今あんさんが考えているような事はしないが吉どすえ」


ヒポリトはそう言って背を向け、謁見の間を出ようとする。


その直前、ぴたりと足を止める。


「あんさんなんてセガールという巨象に比べたら一匹の蟻にも満たない存在。なんや戦艦潰したとかでいい気になっとるようやけど、身の程を弁えてこの国で大人しくしとるんがいい思いますよ」


それだけ言って謁見の間を出ていく。


「ほな」


最後に胸糞の悪いくらいに清々しい笑みを残して。


残された俺達の間に漂うのは、なんとも居心地の悪い空気。


「あ、あの、ジン様」


それに耐えかねたのか、クレアが俺の前に進み出て無理やりひねり出したのがよく分かる笑顔を浮かべる。


「ファミちゃんの事に関しては、もちろん出来るだけの事は致します。ファミちゃんが罪状相殺の結論に至るその説得力に関しては誰もが認めるところですから」


必死に言葉を並べるクレア。しかしそれを聞けば聞くほど、俺の中の何かはどんどん冷めていった。


「どうにか出来るのか?」


「え?」


「本当に、ファミの事どうにか出来るのかって聞いているんだ」


自分でも少し驚く程に声が冷たかった。


「事実ファミはセガール帝国の奴らに連れて行かれたんだ。そしてあいつが過去に罪を犯したという事実は揺るがない。それでも、本当にこの国の力でどうにか出来るのか?」


「え、えっと……」


クレアの真ん丸で可愛らしい目が左右に泳ぎ、表情には困惑している様子がありありと見て取れた。


そしてその変化を見逃さず、親衛隊長のバーバラが俺達の間に入る。


「ジン殿。クレア様はファミ殿の為に尽力すると明言されているのだ。そのように語気を強めるのは……気持ちは分かるが、相手を間違えているだろう」


それはバーバラの言う通りだ。俺の中に渦巻く苛立ちを今クレアや他の皆にぶつけてもどうしようもない。


「悪い。でも、じゃあ俺は待っている事しか出来ないのか?」


「現状は、そうなるな。ファミ殿が今どこにいるのかは分からないが、なんとか国外に出る前にセガールに意見しようという考えも出ている」


「奴らはどうやってファミを自分の国に連れて帰るんだ?」


その問いに対し、バーバラは明らかに疑わしげな視線を向けてくる。恐らく、俺の考えている事そのものずばりを想像している事だろう。


「それを聞いてどうするんだ?」


それは、鋭く放たれた疑問。


「そんなもん決まっているだろ」


だからこそ俺は正直に答えた。


「あいつを救いだす」


その回答に、謁見の間の空気が固まる。


クレアは俯き、バーバラは顔をしかめる。


「やめておけ。そんな事をすればこの国に、いやこの世界にいる事が出来なくなるぞ」


バーバラの言葉は、つまり警告だった。


だがそんなものは百も承知だった。


「そうかもな。でも、だからってあいつの事をこのまま放っておく事も出来ないんだなこれが」


「ならば待つのだ。我々とてセガールの非道を見逃すつもりは毛頭ない」


「でも向こうの領地に行かれたら望み薄。違うか?」


決め付けたような俺の言葉。バーバラは何か言いたげに口を動かすがなかなか言葉は出てこない。


「お前は素直だな、バーバラ」


俺は目の前でやはり嘘をつく事が出来ず悔しそうに目を逸らす女剣士を見て肩をすくめる。


そして、俺はゆっくりと国王を正面に見据え、全員に見える位置に移動する。


「皆さん。俺はこの国を出ます。今まで短い間でしたがお世話になりました」


「ジン様っ!?」


真っ先に反応したのはクレアだった。驚きに目を丸くしている。


「俺はこれからファミを追いかけます。なので、もう俺はこの国とは無関係な人間になります」


「ジン様っ、一体何を仰っているのです!」


クレアが縋るように俺の服の裾を掴む。その手から悲痛なまでの力強さを感じた。


それを感じて、俺は多少でも躊躇いを覚えたかも知れない。でも、もう止まらない。


「俺にとってファミは大切な相棒。こんな形で見捨てる訳にはいかない。だから……」


俺はもう一度、自分の決意を宣言した。


「俺は、この国を出ます」



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