[14]波乱へのフラグ
こっから最終章でござんす。
今までよりちと長いでありんす。
ではどうぞ。
少女は夢を見た。とても懐かしい夢。
緑に囲まれた自然豊かな場所に建つ屋敷。そこに少女はいた。
よく手入れされた庭で愛犬と戯れていた。
着ていた綺麗なドレスが汚れるのも構わず庭にごろんごろんと転がりながら遊んでいた。
どれくらい遊んだだろうか。屋敷の方から少女を呼ぶ声が聞こえた。
少女が屋敷の方を見ると、庭と繋がっているテラスに母と、年の離れた姉の姿があった。
二人は笑顔で少女に手を振っている。
少女は愛犬と一緒に二人のいる方へと駈け出した。
しかし、いくら走っても二人のところへは辿り着けない。それどころかどんどん二人の姿が遠のいていく。
いつの間にか隣を走っていた愛犬の姿も無い。
少女は必死に二人を呼ぼうとするが、しかし声が出ない。
そうしている内に周りがどんどん暗くなっていく。
もう、自分以外には何も見えない。聞こえない。感じない。
少女は孤独を知り、その重圧に耐えかねて泣き出した。
そこで、少女は目を覚ました。
…………。
……。
突然だが、俺は困っていた。
どのくらい困っているのかと言えば、朝のラッシュ時の電車に乗っていて周りが全員女子高生だった時くらい困っていた。
この例えは駄目だな。この世界に電車がないし女子高生という響きの良い言葉も存在しない。でもなんとなく分かってもらえると思う。
「ねぇ、そう思うでしょ?」
「いきなり何を言っているのじゃ、ジン。またしても変態に目覚めたか」
いきなり失礼な事を抜かすのは俺をこの世界に連れてきた張本人、ファミ。ドーナツを頬張りながら一週間放置した生ゴミを見るような目で俺を見る。業界が業界ならごほ……もうこの件いいな。マンネリ反対。
クラッシュとの一件から一か月ちょっと。俺の周りのゴタゴタはようやく落ち着きを見せ始め、こうして街をのんびり歩きまわれるくらいには余裕が出てきた。
で、今まさにのんびりと街を散歩している。訳でもない。少なくとも俺は。
この何も目的の無いようにみえる散歩にも実はある重要な目的があるのである。
というのも、実はあと少しでファミが誕生日を迎えるのである。
で、俺はならば祝ってやろうやろうではないかという殊勝な心がけモードを発動し、現在水面下でファミのお誕生日作戦を進行中なのである。ネーミングセンスないな俺。
どうせやるならとことんやろうではないか、と思った俺はメイン企画である誕生パーティーをファミに内緒で開催までこぎつけ、いざ当日になったら……といういわゆるサプライズを敢行しようと考えたのだ。
この散歩だって立派な計画の内だ。こうして街を回り色々な店を見て回る事でファミが欲しがりそうな物を調べるのだ!
ん?1年以上も一緒にいて好きな物の一つも分からないのかこのバカちんが!だと?
いや、この世界に来てから俺とファミが何をしてたかと言えばだよ?いきなり一国の軍隊相手に逃亡劇を演じ、更に国境を越えて逃れたかと思いきや王女様に見初められてその暗殺計画に巻き込まれて、でもって武装組織に拉致られて激闘の末戦艦を撃墜。波瀾万丈過ぎんだろ。女の子の趣味を確かめている時間なんてあったとは思えない。
ようやく手に入れた休息の時間。を利用して俺はファミにリサーチをかけているのである。
そういえば、誕生日の事を皆に聞いた時にある事が分かったんだった。
それは、王宮に戻ってから以前にも増して接近戦を仕掛けてくるようになったクレアに誕生日の事を聞いた時のことだった。
『誕生日?でございますか?』
『そう。こっちではなんかやるの?』
そう聞くと、クレアは『はい』と肯定してから、言葉を続けた。
『我がソニード王国では王家の人間が20歳になるまでは5歳毎に健やかなる成長を祝福する為に祝賀の行事が開かれます』
『へ、へー。それってどんなの?』
『はい。3日の間、王宮も街も華やかなお祭りムードに包まれてとても楽しい行事です。去年もわたくしの三度目の祝賀行事が行われましたが、その時も大変賑やかで』
『ほ、ほぇー……』
なんか思っていたよりも壮大なのがきた。そうだよな。なんか忘れがちだけどこいつ王族だったよ。
『それにしてもジン様?そのような事を聞いてどうなさるのですか?』
『あ、ああ、まだ話してなかったっけ。実はファミの』
『はっ!?もしやジン様もご自身の誕生日の祝賀を行いたいと!そういう事なんですね!』
『うん、微妙に違うんだけど。とりあえず話聞いてくれる?』
しかしクレアは止まらない。
『分かりました。王族ではない方の誕生日を祝うというのはあまり前例のないことではございますが、しかし他ならぬジン様のお申し出!このクレア、全身全霊をもって祝わせていただきます!』
『そのやる気は嬉しい。だけど方向性がおかしいから一旦止まってみようか?』
『あ、で、でも、全身全霊とは申しましても、あの、プレゼントにわたくしを、とかそういうのはまだ早いかなぁ、なんて……キャッ』
顔真っ赤にして両手で隠している。ごめんなさいちょっとだけうざいって思っちゃった。
『待て貴様!何しれっとクレア様を手籠めにしようとしているのだ!けしからん叩き斬ってくれる!』
窓の外から面倒臭い筆頭、もとい親衛隊長バーバラが颯爽登場。顔は般若の形相。手には抜き身の剣。というかここ4階なんだけどあんた変態の上に地獄耳でおまけに超人かよ。手に負えんわ。
『違いますからまずは剣を収めてくださ』
『ジンが敵意を向けられている!ジン、ここはわたしに任せて逃げて!』
『うぅむ。なんだろうこの関連キャラクター共の都合のいい集結具合。嬉しくて泣きたくなるね』
どこに待機していたのか知らないがタマが俺とバーバラの間に立ちふさがる。タマの周囲からは素人でも分かるくらいにビンビンに闘志が滲み出ている。
『どけ雌猫!そこの不埒者を私は斬らねばならないのだ!』
『どかないよ!ジンを傷つけようとする奴はわたしが許さない!』
『二人ともやめて!元はと言えば本能の赴くままにTPOを弁えない発言をしてしまったわたくしに責任があるのです!』
クレアの涙ながらの叫びも木霊するこの空間、まさに一触即発の事態である。
『なんだこれ』
俺を除いて。
それから誤解を解き本当の目的を説明し理解してもらうまでに数時間を要した。人生で1、2を争うであろう無駄な時間だった。
『ファミちゃんの誕生日の祝賀行事ですか。それは素敵な事だと思いますわ』
『王族ではない者の生誕を祝うなどあまり聞いた事はありませんが、先日の一件の礼もまだ出来てはいませんからね。結構な事かと』
『わたしも賛成!ファミは弟達の恩人だから喜んでくれる事はなんでもやりたい!』
『お前ら……』
話さえ通じてしまえば後は早い。みんな基本的にはいい奴らだからな。ただバーバラは態度変わり過ぎてなんだか怖い。
『で、祝賀の行事はいつ行いますか?民に触れを出さねばなりませんからなるべく早めに』
『い、いやいや!そんな大げさにやるつもりはないんだよ。ただ仲のいい奴らを呼んでささやかに祝ってやれたらな、って』
バーバラがとんでもない事を言い出しそうになったのを慌てて制する。すると、バーバラと、あとクレアも不思議そうな顔をする。
『ささやかに、ですか?』
『そう。こっちではどうか知らないけど、俺のいた世界では誕生日のお祝いなんてのはそんな感じだったんだよ。家族とか友達とか集めてさ。プレゼントとかご馳走なんか用意して、わいわいがやがやと楽しい時間を過ごす。そんな感じの気楽なのをやりたいんだ』
『そんなのでよろしいのですか?確かに我が国は裕福とは言えませんが、他でもないジン様の依頼でありファミちゃんの為ならば多少の贅沢くらい許されますわ』
『ありがとうクレア。まぁこれは俺のわがままみたいなものかもしれないんだけど、でもそういうのがやりたいんだよ』
『そう、ですか』
クレアはどこか納得のいっていない表情。
『わたしはファミが喜んでくれるならなんでもいい!』
対照的にタマは大分乗り気だ。先日のクラッシュとの一件以来彼女はファミの事を弟を守ってくれた恩人としてかなり慕っている面がある。それも一方的なものではなく、ファミも満更ではなく彼女達姉弟と一緒にいる時間が多い様だし、俺としては微笑ましい限りだ。結構結構。
『分かりました。ジン様がそう仰るのであればそう致しましょう。でもそれならばそれで出来る限り華やかな催しと致しましょう!』
クレアのやる気がいい感じの方向に向く。ただ一国の王女が鼻息荒く言うのはどうかと思う。
『ならば諸々必要な物の手配は私が引き受けましょう。で、肝心のファミ殿の生誕の日付は』
『ああ、それは……』
といった感じに割とトントンと話は進んだ。いや、トントンでもないな。間に数時間のロスが含まれているし。本当に克明に描いてほしい位の苦労だったよ全く。
まぁ、他でもない俺が面倒臭いから描かれないんだろうけどね。
というかこっちでは誕生日ってのは一般的には王族のそれを祝うだけで一般層はあまりそういう事はしないのね。なんだか少しだけ寂しい気もするな。
だが、だからこそファミの誕生祝いは身内で盛大にやろうじゃないか!
俺は意気込みを新たにする。
「失礼」
と、新たにしたところで俺達の前に怪しい風貌の、声からして恐らく女と思われる奴が現れる。後は、全身を黒いローブで覆っている為顔から体から何も確認出来ない。
女は、自分の突然の登場に俺達が戸惑っているのなどまるで気にしていない様子で言葉を繋ぐ。
「あなたがテンドウジンね。そして隣にいる可愛らしい子が、ファミ・リーコン」
女は俺達の名前を口にする。
一体この女はなんなのか。俺はそれを確かめようと一歩足を進め口を開こうとした。
「あなたに用はないの」
俺と女の間、距離にして数メートル。それを女は一瞬で詰めてきた。目の前にあるのは真黒なフードとそこから覗く形の良い唇。
「なっ」
「飛んで」
そう言った女の手が軽く俺の胸に触れる。
そして全ては終わっていた。
果たして俺に驚く間があったかどうか。次の瞬間、俺は背後の石壁に叩きつけられていた。
「が……っ!?」
強烈な痛みが全身を襲う。口の中に広がる血の味。一瞬の呼吸困難によるパニック。とてもじゃないが平静なんて保てなかった。
「ジ、ジン!」
ファミは叫ぶように俺の名前を呼ぶと、そのままこちらに駆け寄ろうとする。
「駄目、あなたはこっち」
しかし女がファミの前に立ちふさがる。さっきと同じ、一瞬の内に距離を詰めて。
「ファミ……逃げろっ!」
俺達の周りにはたくさんの人がいる。そこに逃げ込み、助けを求めれば、と俺は考えた。事実、何事かと兵士がこちらに向かってきた。
助かった。俺はそう考えた。
「近づかないで」
しかし、女がそう口にすると、兵士はぴたりと足を止め、無表情のままあらぬ方向を向き始める。
「な、なにを……っ」
さっきからこの女は一体何をしているんだ。まさか魔術かなんかの類を使うのか。
未だ倒れたまま動けないでいる俺は、目の前で展開する奇妙な光景に困惑していた。
そして女は、ファミに近づくと、彼女の額に手をあてる。
「眠って」
優しいトーンでそう口にすると、ファミは急に目が虚ろになりふらつき、そして本当に眠ってしまった。
眠りに落ちたファミを女は抱きかかえる。
「てめぇっ、ファミをどうする気だっ」
「残念だけど、あなたに教える義務はないわ」
女はこちらに背を向けたまま素っ気なく口にする。
「ただ、この子は私達にとって必要、それだけ」
女は堂々と歩いてその場を後にしようとする。
「待てっ!」
「待たないわ。あと、一つだけ忠告させてもらうけど、私とこの子を追おうとしても無駄よ」
「んだとっ、犯罪者が偉そうな口を聞いてんじゃねぇぞっ!」
「いいえ。私は犯罪者じゃないわ」
女が振り返り、そしてフードから覗いた目が俺を冷たく睨みつける。
「犯罪者は、この子よ」




