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[12]その攻撃は……的なイベント

「ようこそ、戦艦『ミロク零番型』へ」


タマと別れていくつかの部屋を抜けた後に出た割と大きめの空間。そこに奴はいた。


「クラッシュ。名前とかどうでもいいからとりあえずこいつ止めてくれないか?」


相変わらず柄の悪そうな金髪野郎に対し俺は試しにと言ってみたが、


「その願いは聞けないな」


当然か、即答で断られた。


「俺は今からこの戦艦でソニード王国の首都を襲撃するんだ。もう止められない」


「ソニードを襲ったところで戦争は起こらないだろ」


「いや違う。起るんだなこれが」


「なに……?」


その時俺が「理解できない」という顔をしたのがいけなかったのか、クラッシュは一つ大きく咳払いをした後、喋り始めた。


「俺がこれからこのミロクでソニード王国の首都を襲うとどうなるか?ソニードが潰れておしまい。では終わらない」


「どういう事だ」


「話はとりあえず最後まで聞いてもらおうか。ソニードが潰れたならば、その救援の為に各国が軍事力をこのソニードへと寄こすだろう。国家間連合の条約に基づくなんちゃらとか言って続々とね。しかし各国の思惑はそんな単純なものではない。その真の目的はソニードに散らばった利権を我が物にしようとする事だ。そしてそれらは次第に加熱しあからさまになり、やがて血で血を洗う戦いになる」


「随分と胸糞の悪いシナリオだな。そんな都合よくいくものかよ」


「世界の、国家の情勢とはいつも表と裏の二つの顔を持つものだ。表側が連合の条約に従順な姿勢を見せる……犬とするなら、裏側はどこかに転がるうまい話をどうにかして吸い上げて自分達のものにしようとするハイエナだ。綺麗事だけで国は動かない。絶対に戦いになる」


「ああ、そうかい。だったら俺は尚更お前とこの戦艦を止めなくちゃいけなくなったよ」


俺は部屋の入口に無造作に積まれていた工具の中から、柄の長いハンマーを取り出した。


それは、言うまでもなく戦う意思。それは傭兵だというクラッシュに伝わらない訳は無かった。


「やる気か。傭兵とはいつ何時でも自分の利益、損得のみで動く生き物だ。この戦艦を止められるのは俺にとっては損。つまりここでお前を倒す必要がある訳だ」


クラッシュは懐から短刀を2本取り出すと、それを逆手に構える。


「お前を捕まえたのは失敗だったようだな」


「今頃気づいたかよ」


俺は軽く言いつつ内心では嫌な緊張に押しつぶされそうになっていた。


相手は傭兵。戦闘のプロだ。対してこちらは戦闘に関してはほぼ素人。


まともにやって勝てるはずがない。何か、何か勝つ為の策を模索しないと。


「時間が無いんでな。こちらから行かせてもらうぜっ」


「え」


返事する間もなく、クラッシュが突っ込んできた。


「くそっ」


俺はハンマーを振り下ろそうとするが、それよりも早くクラッシュの短刀が俺の体を切りつける。


「ぐぁぁっ!」


「まだ悶絶するには早いぜっ!」


そしてとどめの前蹴り。俺の体は見事に吹っ飛んでいく。


「ぐ……っ!」


体中が痛い。だが動かない事はない。俺はそれを確かめながら切られた傷を『攻撃』する。


「へぇ。それがお前の能力か。確かに便利なもんだな」


クラッシュは2本の短刀を手元で遊ばせながら、ゆっくりと近づいてくる。


「だが、攻撃食らう度にそんな事してたんじゃ、絶対勝てないぜ」


地を蹴ってクラッシュの体が空中から襲いかかる。


「くそぉっ!」


俺はハンマーの柄を盾にして攻撃を防ごうとする。


短刀は柄に当たった。物凄い力で押しつけられるそれを、俺は必死に押し返す。


「なかなかの力だなぁ……っ。やっぱりお前放っておくにはもったいないぜっ。傭兵にでもならないかっ?」


「お断りだくそったれがぁっ!てめぇこそなんでそんなに傭兵にこだわるんだよ!別に他の生き方でもなんでもいいじゃねえかよ!」


ジリジリと力と力のぶつかり合いが続く。


「生き方なんてねえんだよ!俺達傭兵なんてのは所詮は世間のはみ出し者が行き着いたどん底の稼業だ!全てを失った奴らが生きる為の最後の手段なんだよっ!」


「卑屈過ぎる考えだな、おいっ!だからって人の命奪って戦争起こしていいとでもいうのかよ!」


「じゃなけりゃどうやって生きていけっつーんだてめぇは!俺達にはこれしかなかったんだ!戦うしか生き残る道は無かったんだ」


「本当かっ?本当にそれしかなかったのかっ?んな訳はない!人間その気になればいくらでも生きる道なんてのはあるんだよ!無論、お前にもな!」


俺は全身にこれでもかと力を込めて、クラッシュを押し返す。これこそが、俺の意志の力なのだと言わんばかりに。


「っざけるなぁ!」


だが、クラッシュの叫びと共に短刀はハンマーの柄を砕く。


「うおぁぁっ!」


俺は思わず後ろに転がる。ハンマーは見事に半分にされてしまった。


「綺麗事じゃ生きていけないんだよ。希望だけじゃ前を向けやしないんだよ。それを、今からてめぇの体に教えてやるよ……っ!」


クラッシュの顔に浮かぶのは、怒りか、それとも哀しさか。


奴は短刀を振り上げて俺へと迫る。


俺には半分にされたハンマーが残るのみ。戦う手段はない。


と、奴は思っている事だろう。


「いいや、教えるのは俺の方だ……っ!」


俺はハンマーを勢いよく、繋げた。それは俺の紛う事なき『攻撃』の意思。


繋がったハンマーを俺は勢いよく振りかぶる。


「世界は綺麗な事ばかりじゃない。嫌な事も辛い事も山ほどあるだろうさ……だがな!」


視界に入るのは、俺の予期せぬ行動に困惑しているクラッシュの姿。


「それでもこの世界は明日を生きたいと思わせる希望に溢れてるんだよ!」


俺は、ハンマーを振り抜いた。


ハンマーは先端の鎚がクラッシュの側頭部を直撃し、そのまま吹っ飛ばす。


「安心しな」


俺はハンマーを放り捨て、先へと進みながら言った。


「俺の攻撃は回復だからな」


倒れるクラッシュに背を向け、足早に先へと進む。




「ふっ……ぬぁぁっ!」


そして行き着いた先の重々しい扉をこじ開け、遂に目的の場所へと辿り着いた。


「これが、この戦艦の動力源」


円形の部屋の中央部にそれはあった。


群青色の巨大な石。そこに沢山の管やら線やらが繋がれていた。


「魔法石、か」


話にだけは聞いた事がある。この世界における魔力とは元来自然界にだけ存在するものであり、人間は独自の技術でそれらを操り魔術という文化を発展させたとか。


魔法石もそうだ。あの群青色の石は魔力を内包するのに最も適した素材だとかでよく魔術師の装備品などに用いられるのだという。


だがあの石は塊のままでは人間達の役には立たない。


加工し、魔術の術式を刻み込んで初めて魔力を放出、使用出来る状態になるのだ。


目の前にあるあの石もそうだ。綺麗に平らにされた断面に文字が刻まれている。


確かあれはルーン文字とかいうもので、魔力を引き出すのに最も効率のいい文字の組み合わせなんだとか。


いや、どんなものが刻まれているのか、そんなのは関係ない。


重要なのは一つだけ。あの石に文字が刻まれている。それだけだ。


あの石さえどうにかすればこの戦艦は止める事が出来る。


「なんだけどなぁ……」


ここで一つの問題に直面した。石の周りには足場が無く、向こうに渡る手段がないのだ。


「タラップの一つも用意してないのかよこの戦艦はぁっ!」


俺は部屋の中を色々探し回るが、しかしどこを見ても石の方に渡る手段は見つからない。


「あそこに辿り着きさえすれば」


俺は恨めしく魔法石を見る。


と、その時、部屋に入ってくる人影が一つ。


「ジン!」


その人影、タマは俺の姿を見つけるやジャンプして抱きついてくる。


「うぉぉっとぉ……っ!」


俺はそれをなんとか受け止める。


「ジン!クラッシュが倒れているのを見つけたからもしやと思ったけど、勝ったんだね!さすがはジン!」


「そういうお前こそジオネをどうにかしてここに来たんだろう?とにかく無事で良かった」


と、互いの無事を喜び合う中、俺はタマの姿を見てある事を思いつく。


「そうだ。タマ、一つ頼みがある」


「なに?なんでも言って、ジン」


「俺をあの石に向けて投げ飛ばしてくれ」


「うん、わかっ……えぇっ!?なんでそんな事頼むの!」


タマはこちらが驚くくらいに驚いていた。互いに驚くというよく分からない状況です。


「いや、あそこの魔法石さえどうにかすればこの戦艦は止めることが出来る。だから俺をあそこへ投げ飛ばしてくれ」


「だ、だめだよ!そんな事してもあんな大きな魔法石はどうにも出来ないよ!」


タマは首をぶんぶんと横に振りながら否定の言葉を口にする。


まぁ、確かにそう思うだろうな。普通なら。あの石に辿り着くだけならまだしも、石の周りは堀のように底が深い。落ちればただでは済まないだろう。


「まぁそう言うな」


俺は言いながら、タマの頬を軽く弾いた。


「わふっ!な、なに?」


「傷がついていたからな。ちょいと攻撃させてもらったぜ」


タマの頬についた傷。それは俺の攻撃によって回復していく。


「あ」


タマは自分の頬を触りながら、恐らくは俺の言わんとする事の意図を察したのであろう。


「ここにはあれをどうにか出来るような道具も装置もない。あったって多分俺には使えない。だけど俺の力だったら、今すぐにあれを止める事が出来る。頼む、タマ」


真っ直ぐにタマの目を見ながら言う。タマは視線を左右に泳がせて逡巡するような間があった後、俺の目を見て、


「分かった。わたし、ジンの事投げる」


そう力強く口にした。


「よし。じゃあ善は急げだ。さっさとやるぞ」


俺は石の、文字が刻まれた面の方に回り込む。


「あそこ目がけて思い切り頼む。……おい、タマ?」


なぜか反応がないタマの方を見た瞬間、なにやら首筋に暖かな感触が。


「あむ」


噛まれていた。いわゆる、あま噛み?ってやつ。タマが優しく俺の首筋にそれをやっていた。やってのけてくれた。


「……はっ。な、何すんの突然!」


俺はあまりにも急な行動に驚き今日一の慌てっぷりを披露する。タマの方はと言えば、なんだか頬を赤く染めて恥ずかしそうに身をよじっている。


「ジン……絶対に死なないでね」


そして、真っ直ぐに俺の目を見ながらそう言った。言ってくれた。


「……ああ、分かってるさ」


だから、俺も意志も強くそう答えた。


「さぁ、やるぞ」


「うん」


タマは俺の体をひょいと持ち上げる。


本当に、こんな華奢な体のどこにこんな力があるんだか。


「じゃあ……ジン、いくよ!」


「ああ、いつでもいいぞ!」


この戦艦を止めて、そして全員でハッピーエンドを迎える為に。


その最後のピースをはめる為に。


今、俺は飛ぶ!


「うりゃぁぁ!」


「うぉぉぉぉ!」


気合い一発。タマに放り投げられた俺は、一直線に魔法石へと向かっていく。


ぐんぐんとその巨大な石の塊が迫る。俺は拳を振りかぶる。


「ルーンだかなんだか知らないが……!」


そして、拳を振り下ろす。


「消えろぉぉぉぉぉ!」


渾身の一撃。俺の出せるほぼ全力の『攻撃』。


俺のステータスはバグっている。


攻撃力はマイナスに振り切られている。


つまり『攻撃』が『回復』になってしまうのだ。


魔法石にはルーン文字が『刻まれている』。つまり、表面に『傷』がついている。


俺の拳は石の表面に強烈に衝突した。


そして次の瞬間から徐々に、ルーン文字が、魔法石に刻まれた傷が消えていく。


「や、やった……っ!」


こうなればこちらのもの。ルーン文字さえ消えれば魔法石は魔力の放出が行えなくなる。


この戦艦は、もう持たない。


「ジン!危ない!」


「へ?」


喜んだのも束の間、戦艦がいきなり大きく揺れ始めた。


「も、もう影響が出始めたのか!」


俺は何とか石に繋がれていた管に捕まるが、揺れはどんどん大きくなりついに俺は振り落とされる。


下は底も見えない奈落。俺はここまできて終わりを覚悟した。


「ジンっ!」


しかしターザンのようにワイヤーに掴まり飛んできたタマによって俺の体は確保され、そして外周に無事に辿り着く。


「お、おぉぉ……!助かったよ、ありがとう」


足を着いたはいいが、ここにきて今までの疲労と緊張の反動がきたのか、壁を背にして崩れ落ちるように座り込んでしまう。


「良かった。ジンが無事で良かった」


タマはそう言いながら俺の胸に顔を埋める。


……俺のバグの副作用ありきとはいえ女の子に密着されるのはいついかなる時でも照れる。それが青少年だ!なんか久しぶりに青少年な感じを取り戻した気がする。


「とか言っている場合じゃないよ!早く脱出しないと!」


少し名残惜しい気もしたが、俺はタマを優しく引きはがすと、脱出の為の手段を……。


と考え始めた矢先、戦艦がまた大きく揺れた。


「こ、今度はなんだぁ……!」


「多分、海に落ちたんだと思う」


「え……てかそんな事分かるの?」


「うん。だって、あれ」


タマは恐る恐るといった感じに天井を指さす。


俺は彼女の指さした先を見てみる。


「え」


天井から、確かに水滴が落ちてきていた。


いや待てよ。あれは設備的な何かの水分が落ちて来ているだけじゃ。


と、心中で理由をこじつけようとしていた最中、水滴はやがて一本の水流となり、そして滝のようになってこの空間に流れ込んできていた。


「やべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


最後の最後にして、最大の危機、到来。


何回最大の危機更新すれば気が済むんだおい。


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