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[11]イベントオブ女の闘い

「これが、あの戦艦の内部か」


俺は息を整えてから、改めて自分が乗り込んだ場所を見渡す。


「うん。ここは恐らく武器庫。で、あの窓は狙撃用の窓」


と言ってタマは俺達が突っ込んできた窓を指さす。なるほど、だからあんな所に都合よく窓があったのね。


「さて、じゃあ無事に乗り込めた事だしこの戦艦を止めますか」


「うん。でも、どうやって止めるの?」


タマからの素朴な疑問。


「ああ、それなら考えがある。目指すは動力源のある場所だ」


俺は戦艦について絵なら見たことがあるとさっきも言ったが、同じ様にそうした戦艦を動かす際に使用される動力源も見た事がある。もしそれらと同じものがここでも使用されているのならば、打つ手はある。


「分かった。動力源は奥の方だと思うから、奥の方に向かおう」


タマはそう言うと先導する形で部屋を出る。


「いや、危ないぞっ」


と俺が声をかけても、


「大丈夫。少なくともジンよりわたしの方が強い」


そう自信ありげに微笑むのみ。


「ま、まぁそれもそうか」


そして納得してしまう俺の弱さの自覚よ。というか俺の攻撃は攻撃として成り立たないしな。


「じゃあ、前衛は任せたぞ」


「うん!」


と俺達は意気込んで戦艦内部にを進む。


が、歩き始めて10分くらいで、俺達はある事に気付いた。


「……なんか、人がいないな」


「うん。いない」


てっきりあれだけでかい戦艦なのだから大勢が乗り込んでいるのかと思いきや、いくら歩いても誰にも会わない。一体どうなってんだこの戦艦は。


「不用心が過ぎんだろ。これじゃああっさりとたどり着けちまうぜ」


「でも、それはわたし達にとっては幸運だよ」


「まぁ、そうだな」


この状況は不気味だが、しかし戦闘が避けられるならばそれに越したことはない。


「でも油断は禁物だ。いきなり横から、なんて事も考えられる訳だしな」


「そうだよ。でも大丈夫、ジンは私が守るから」


タマは頼もしく笑顔を見せる。なんだか小っ恥ずかしいけど、まぁ悪い気はしないわな。


「そういえば、今は大体どの辺りに」


「ジン!伏せて!」


言うが早いかタマは俺の上に覆い被さってくる。


「ぶほっ!」


押されるままに倒れこむ俺。状況はまるで呑み込めない。


「な、何が……っ?」


俺は上にのしかかる形になっているタマの方を見る。すると、彼女の頬から血が一筋垂れているのが見えた。


「お、おい!一体どうしたんだよ!」


「敵の、攻撃。大丈夫、こんなのかすり傷」


言いつつタマは立ち上がる。


そして見る。俺達を攻撃した者の事を。


「あらら。流石は蛮族、反射神経は無駄に高いわね」


「ジオネ……っ?」


俺が捕らえられていた部屋でタマに倒されたはずのジオネ。そいつが今まさに俺達の前に立ち塞がっていた。


「お前、なんでここに……」


「そんなのどうでもいいじゃない。今ここに私とあんんた達がいて、そして互いは敵同士。……余計な事は考えずに戦えばいいのよ」


そう言ってジオネは手に持った鞭、いや剣を振り回す。


俺は見間違えた訳じゃない。あれは剣であり鞭である武器だ。普段は一本の剣だが、使用者の操作一つで剣がいくつもの房に分解し鎖かワイヤーで繋がれたそれが鞭のようにしなり敵を攻撃する。確かファンタジーのゲームなんかで見たことがあるな。


そんな武器を振るいながら、ジオネは妖しい光を瞳に浮かべながら笑う。


「さぁ、早く戦いましょう。時間は無いのだから」


ジオネは機嫌良さそうにその剣の鞭を振るい続ける。


「時間が無いのはこっちも同じ。さっさと抜けさせて」


と俺が避けられぬ戦いに身を投じようとした時、なぜかタマが俺の体を持ち上げた。


「あの、タマさん?この再びのリフトアップはどういう意味が?」


「ここはわたしに任せて。ジンは先に行って」


タマはぐぐぐっと俺の体を両手で持って大きく振りかぶる。


「え、ちょっ、待って、この動きは」


スローイン。タマは勢いよく俺の体を放り投げた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」


俺は大きく放物線を描きながら、ジオネを飛び越えて一段上の足場に着地する。


「し、死ぬかと思った……。まさか一日に二度もこんな思いをするとは」


俺は嫌な意味で高鳴る鼓動を抑えつつ、大きく息を吐く。


「ジン!早く行って!」


「わ、分かった!お前も絶対無事でいるんだぞ!」


俺はタマの思いを無駄にはすまいと大きく声を張り上げて、そして戦艦の奥へと向かった。





…………。

……。



「いいの?あの男だけ先に行かせて」


ジンの去った後、ジオネは鞭を振り回しながら尋ねる。


「大丈夫。ジンならやってくれる」


「その自信はどこからやってくるのかしら。まぁいいわ、どのみち私がお仕置きをしたいと思っていたのはあんただから」


ジオネは鞭を畳み、剣の状態にしてその切っ先をタマに向ける。


「さっきはよくもやってくれたわねっ!」


「わたしとジンは生き残るにはああするしかなかった。だからやった!」


「うるさいわよっ!」


ジオネは剣から鞭へ、手に持った武器の状態を変化させてタマに向かいそのしなる一撃を見舞う。


「大丈夫」


しかしタマの動きは素早く、鞭を難なく避ける。


「今度はこっちが」


タマは攻撃を避けると、一気に加速してジオネの懐に迫る。


「なっ!」


「鞭は連続攻撃や機動戦には不向き。獣人族相手にはあまり有効ではない」


タマは拳を握りつつ淡々と口にする。


「あ、そう。ご忠告痛みいるわっ」


瞬間、ジオネは武器を握っていない方の手を振るう。


「え……っ!?」


ザクッ、という音がした。タマは飛びのきジオネから距離を取る。


彼女の右手の平は大きく裂かれ、血が溢れ出していた。


その光景をジオネは満足そうに眺める。


「私の武器の弱点を使用者である私が把握していないとでも思ったの子猫ちゃん?」


ジオネは血が滴るナイフを片手で操りながら妖艶な微笑み。


「前回はあんたのまさかの復活で油断したけど、こうやって正面からやれば油断はしない。私だってこれでも傭兵の端くれなの」


ジオネは再び鞭を振るい始める。


「遊んでいる暇はないの。さっさとあんた片づけてあの男を始末しなければならないから」


「なんで、そうまでしてあいつに従うの。あなたは、あいつよりも強いんじゃ」


あいつ、それは即ちクラッシュの事であろう。


「単純な強弱で人間の関係は括れないのよ子猫ちゃん。クラッシュ様は私に生きる道を与えてくれた。戦う事を奪われ世界から置いて行かれたこの私に」


「なんで、傭兵をやめなかった。こんな風に誰かを傷つけようとするなんて間違っている」


「お黙りなさい」


ジオネの冷たい視線がタマに突き刺さる。


「私から戦いを取ったら何も無くなる。そんな血生臭い人間に世界は生きる道なんて欠片も示してはくれない。あんただって見てきたはずよ。この世界の人間達の醜さを」


「……っ」


そう言われて、タマの脳裏に何がよぎったか。両親を謂れなき罪で殺された時か。それともどの町に行っても蔑まれ迫害された時の事か。


何度泣いたか分からない。何度自分が獣人族に生まれた事を悔いたかも分からない。


何度、人間を憎んだか分からない。


「そうだよ。人間は勝手だよ。自分達と違うって理由だけでわたしや弟達をいじめたよ」


タマはぽつりぽつりと言葉を零す。その顔に暗く影が落ちたのを見て、ジオネは満足そうに、


「そんな人間共を守る為に命を尽くすなんて、馬鹿らしいと思わない?」


と聞いた。


「そうだね、馬鹿かもしれない」


タマは即答した。ジオネはそれでタマの心を戦いからぶれさせる事が出来たと考えたかもしれない。


だが、それは間違った予測だった。


タマは俯いていた顔をあげる。その表情を見て、ジオネは息を飲む。


真っ直ぐに澄んだ瞳。力強く結ばれた唇。そこに迷いは一切感じられない。


「でも、でもでも……いるんだよ。中にはね、わたしを認めてくれる人もいるんだよ。わたし達が蔑まれてきた事を怒ってくれる人もいるんだよ」


タマは姿勢を低く、足を曲げて膝にエネルギーを溜め込む。それは、小細工無しに正面から挑む構え。


「その人がこの世界を守りたいと言っている。だったらわたしも一緒に守る。お前達を倒して、この戦艦を止めて、一緒に守る!」


「小賢しいわね。あのまま私の言葉に籠絡されておけば少しは可愛げがあったものを」


ジオネは鞭を振るい横に薙ぎ払うようにタマを狙う。


タマはさっきナイフで負った傷口を軽く口に含む。それは鞭が飛来するギリギリ行っていた。


が、鞭がぶつかる直前にタマは弾丸のように強烈な加速で飛びだすと、一気にジオネの懐を目指す。


「万策尽きて正面から来ようっての!」


ジオネは鞭を戻しつつもう片方のナイフでタマを迎え撃つ。


刹那、ジオネはタマの動き、とりわけ腕の動きを見ていた。今はどちらも後ろに伸びきっている。一体どちらが奴の攻撃の本命なのか。それを見極めていた。


「……はっ!?」


しかし、ジオネの眼前にまでタマが迫るも腕は動かない。まさかそのまま体当たりを仕掛けるのか。ジオネは頭を急回転させて考えていた。


だがとにかく正面からくるのであれば迎撃するのみ。ジオネはナイフでタマの顔を攻撃する。


が、それより一瞬早くタマが仕掛けた。


頬を膨らまし口を尖らせた次の瞬間、彼女の口から何かが飛び出し、ジオネの顔を直撃した。


「くっ!?なに……」


ジオネの鼻を突く鉄の臭い。それはタマの血だった。タマはジオネの負わされた傷口から血を吸って口に溜めていたのである。


目に血がかかり完全に不意を突かれたジオネ。


そして、この時点で勝負は完全に決していた。


直後、ジオネの脳天を強烈な衝撃が襲う。


痛みと、そしてすぐに意識が薄らぐような感覚。


何をされたのかは分からない。が、確かな事が一つ。


自分は、負けたのだ。


ジオネは薄れゆく意識の中でそれを自覚した。





倒れるジオネを見つつ、タマは口元の血を拭っていた。


そして自分の右足の踵を気にする。


ジオネに踵落としを食らわせた、その踵を。


気を失っているジオネに一瞥をくれた後、タマは彼女を越えて先を急いだ。


自分を認めてくれた者の助けになる為に。


「待ってて、ジン」


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