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ぼっちの日本迷宮生活  作者: 書創
第一章 ダンジョン冒険者に就職しました
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モンスターの駆除依頼

「母さん。組合から依頼が来てるから行ってくるね」


「気をつけるんだよ。危ないと思ったらすぐに逃げなね。それは恥ずかしいことじゃないんだから」


「あぁ、わかってるよ。じゃあ、行ってきます。戸締りよろしくね」


「はいよ。行ってらっしゃい」


 玄関の扉を開けて外に出る和真。目の前には、小さいながらも母が作った野菜が庭に育っていた。ここが新たな和真の家である。庭付き一軒家の中古物件。持ち主がいなくなり空家となった家屋。それらを政府が活用していいと住処を失った人たちに許可を出したのだ。


 通常ではありえない処置である。しかし、大幅に人口が減り物資も貧しい日本にとって、中古の利用は家屋以外でも必須なのだ。だからこそ、政府は早々に決めたと言える。


 はっきり言って、前の古い家よりも立派だ。

 東京23区内で庭付きの一軒家など中流階級の贅沢といえる。

 乗用車を二台停めてもスペースに余裕のある庭に花壇。和真の母は、そこで野菜を育てている。とても大事な食料になる、野菜が育つ土地は有効活用しないともったいない。


 正式に就職して新たな家に住み始めて一ヶ月。


 冒険者となり本格的に活動を始め、モンスター退治や復興作業の手伝いで生計を立てている和真。母はご近所の手伝いと家庭菜園をしている。今では和真こそが一家の大黒柱となったのだ。そう、彼は社会復帰を果たしたのだ。今では堂々とそう言える。


「ステータス表示」


 仕事場へ向かいながら、鼻歌交じりにステータスの確認を行う。

 すれ違う人など稀だ。日本の人口は大幅に減り、東京とは言え都心から少し外れたこの地域では人が少ない。和真の鼻歌など誰の耳にも届かない、だからこそ鼻歌交じりで歩けるのだ。人ごみが嫌いな彼にとっては住みやすくなったとさえ言える都であった。



 種族:人族 性別:男性 年齢:31歳 血液型:O型

 職業 冒険者LV8 狩人LV5 料理人LV5 暗殺者LV2

 勢力 地球

 特性 孤独LV3 鎖国LV3 食通LV2

 技能 強打LV8 強襲LV4 クリティカルLV3 毒見LV10 投擲LV3 命中LV3 隠密LV3

 ?

 ?


 技能効果

 強打 通常攻撃の2倍のダメージを与える。重複可

 強襲 背面攻撃に成功した場合、通常攻撃の3倍のダメージを与える。重複可

 クリティカル 対象の急所に攻撃が当たった場合、通常攻撃の3倍のダメージを与える。重複可

 毒見 食材に限り、臭を嗅ぐだけで毒素があるかどうかを判別可能

 投擲 物を投げた時の速度と飛距離が小上昇する。重複可

 命中 攻撃時、モンスターに少し回避されにくい攻撃を放てる。重複可

 隠密 格下から見つけられにくくなる


 ※重複可能スキルは他スキルの効果と掛け合わせた効果を発揮します

  尚、特性のスキル効果の詳細は、条件を満たさない限り表示されません



 HP350 SP65 MP0

 STR40

 con43

 AGI45

 DEX41

 INT53

 LUK25



「う~ん。成長したなぁ……」


 右手を顎に添え、そして感慨深く頷きながら歩く和真。


 あれから、モンスターを狩り続けて彼は堅実に成長していた。

 何度となくオオネズミを狩り、何度となくその肉を食らう。

 その度に少しずつ、本当に少しずつ成長して今のステータスになったのだ。

 勿論、オオネズミ以外のモンスターとの戦闘経験も積んでの結果である。


「新スキルに毒見の成長。いやぁ~順調順調」


 そう、スキルは成長するのだ。

 それを理解したのは数日前のことである。



 ◇



 ようやくモンスター肉に害はないと理解した母は、お肉を食べるようになっていた。

 オオネズミの焼肉をタレにつけて食べる。家庭菜園でとれた野菜を使った野菜炒めと一緒にだ。


「美味い! お酒もあれば最高なんだけどな」


「そうねぇ。……うちも密造酒、造っちゃおうか」


 無論、違法である。しかし、暗黙の了解として見逃される世界となっていた。

 ほとんどの酒蔵が災害によりなくなり、燃料不足と道路の状態から車両運送が難しい現状。

 嗜好品など出回るわけがない。


 酒好きな政治家や警察が、家でこっそりと酒を造っていると言う噂まである。

 そして、その噂の信憑性は高かった。


 公務員も一般人も、こっそりと造って酒を楽しむ。

 今ではそれが当たり前となっていた。当然警察も黙って見逃すようになる。そもそも、密造如きで捕まえる余裕がなく、刑務所を維持する余力もない。軽微な犯罪などいちいち相手にしてられない。


 そういった事情がある。日本のモラルや素晴らしい治安など、最早昔の話だ。

 人は環境に適応する生き物で、徐々に崩壊した世界に馴染み始めていた。

 それが人間の強さでもあるのだろう。


「そうだなぁ。造っちゃおうか」


「よし! じゃぁ、お母さんが頑張ってる和真のために造ってみるわ! 近所の知り合いに詳しい人がいるのよ」


「おー。楽しみだ」


 以前の日本では考えられない思考である。しかし、これが今の日本の姿であった。

 そのうち酒が飲めると和真はニヤつきながら焼肉を堪能していく。


「そう言えば、母さんはステータス表示できないの?」


 ふと思いつき、行儀悪く食べながら母に質問をする。


「ええ、私は無理みたい。ネットに書いてあったけど、モンスターを倒さないとダメみたいね」


「ん~。やっぱりそうなんだ」


 想定通りの母の回答に納得する和真。

 彼自身もその情報は知っていた。SNSにも色々な考察や情報が書き込まれており、毎日のチェックは欠かしていない。それでも質問したのは情報を確かめるためでもあり、会話のネタ程度の考えだった。


(SNS……ネット……孤独。うっ……頭がっ)


 突然頭を抱え込む和真。それを訝しげに観察する母と共に食事は進んでいく。

 

 悲しい経験からか、自身の孤独ぼっちを始めとした特性について、彼は積極的に情報収集を行っていた。例えば某巨大掲示板などのSNSで情報提供を呼びかけたが、特性が発動して即dat落ちしたのは新しい悲惨な記憶である。


 自ら聞くのは諦めて、他の人たちが考察している書き込みを確認する寂しい作業を黙々とこなしていた。 勿論、デマ情報などもあるだろうから彼は疑り深く情報を収集していき、そしてある程度の答えにたどり着く。


 特性とは、その者の性格や生き方と深い関わりがある。

 そして、一つの特性にはプラス効果とマイナス効果が必ずある。

 特性もまた成長し、成長とともに効果が顕著となる。


 これが信憑性の高い情報だった。

 和真自身も経験から納得できる情報であり、恐らくは正しいと捉えている。

 問題は信憑性が怪しい次の情報だ。


 特性が高レベルになると進化して新しい特性に変わる。

 特性のレベルが上がるとマイナス効果がなくなり、プラス効果だけ発揮できる。

 特性の効果が通じない相手もいる。


 この3つの情報は怪しいものだった。そもそもの問題として、特性のレベルは上がりにくい。

 この短期間で特性を進化させたり、マイナス効果がなくなるかの検証をしたりするのには無理がある。

 例えば、自衛隊の方々は日夜モンスターと戦い、日本で最初に冒険者として力を発現させたはずだ。

 そんな彼らですら特性のレベルは10にも届いていないのだ。


 それに、そういった大事な情報は随時研究機関から発表されている。

 それなのに、自衛隊ですらたどり着かない領域の情報がネットの肥溜めに書かれるわけがなかった。

 以上の点から信憑性は低いと和真は考えていた。


 それから食事を済ませて、日課となった食後のステータスチェックを行う。

 ここで始めて和真は気づく、毒見のレベルが10になり、効果の内容が変わっていることに。


「……おおっ!? スキルが進化した」


 初めての経験だった。SNSでもそんな書き込みが有り、研究機関からの情報開示でも発表されていたのだが、自身で体験することで改めて情報が正しかったと認識したのだ。スキルは進化する。それを自分の経験として本当の意味で理解した日であった。  


 確実に成長している。

 その証とも言える出来事に、彼は充実感を覚えながら眠りにつくのであった。



 ◇



「日本冒険者組合から復興作業に派遣されてきた、佐々木和真です。担当の方はいらっしゃいますか?」


 数日前の出来事を思い出し、ステータスの確認作業をしながら歩いてきた和真は歩を止めた。

 家から20分。散歩がてらで行ける近場の復興支援事務所だ。

 話は冒険者組合から伝わっているはずなので、自身の素性を受付の年配女性にお伝えする。


「えーっと、佐々木和真さんですね。念のため身分証もお見せ下さい」


「はい」


 和真は財布を取り出し、今では存在価値の薄いゴールドとなった運転免許証を提示する。

 一応は更新しているが、もう必要ないから返納しようかとも考えていた。

 高校卒業後に取得した、MTの普通免許。今では乗り方すら覚えていない。


「はい、ありがとうございます。確認できました。少々お待ちください」


 そう言って、受付の人は奥の部屋へと消えていった。

 辺りを見渡す和真。急ごしらえの事務机に、くたびれたおじ様方が突っ伏して寝ている。

 連日の作業で疲れているのだろうか? 事務職も現場の人も大変そうだ。

 そんな事を考えていると、奥から50代くらいの無精ひげを生やした担当の者がやってきた。


「あー、佐々木和真さん? さっそく仕事の説明してもいいかな。簡単ですぐ終わるから」


「はい、お願いします」


 挨拶もなく単刀直入に仕事の話をする担当者。人との会話が苦手である和真にとって、それはありがたい対応だった。実はこの事務所に来るのは初めてではなく、何回も来ていた。最近になって受付と担当者が変わったため、改めて身分証明をしただけだ。

 

「組合からも説明されていると思うけどさ。まぁーた、モンスターが駅前ビルから出る兆候が見られると報告が来たんだわ。そこでダンジョンに入って駆除してもらいたい。復興作業の一環ということで頼むね」


「分かりました。駆除数の報告と肉はどうしますか?」


「あぁ、一応証拠は持ってきてくれ。耳でいいから。肉は好きに処分して構わない」


「わかりました。では、さっそく向かいますので。失礼します」


「あぁ、気をつけてな」


 本当に簡単な説明を受け、和真は駅前のダンジョンへと向かった。

 この手のやり取りは慣れたものだ。しょせんは駆除した後に証拠を持っての報告だけで終わる仕事だ。

 危険な仕事ではあるが、きちんと準備をして無理をしなければ通用する。和真が生き残れるくらいなのだ。無理さえせずに運が悪くなければ誰でもやれる。


「今日も一日がんばるぞっ、と」


 公園沿いを歩きながら口に出して気合を入れる和真。

 今の彼に怯えは感じられない。それもそのはずで、駅前ダンジョンの低階層であれば何回も探索しているからだ。もちろん孤独ぼっちで。オオネズミは顔なじみとなり、いないと逆に不安になるほどだ。最近では夢にも出てくる。


 オオネズミの討伐は冒険者組合からの駆除依頼と食料調達も兼ねており、和真にとっては馴染みの仕事だ。何度も潜った勝手知ったる駅前ダンジョンに今日もまた向かう佐々木和真。


彼のダンジョン生活はまだまだ始まったばかり。



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