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ぼっちの日本迷宮生活  作者: 書創
第二章 サンロードダンジョンで宝探し
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最終話 ありがとう お幸せに


 結婚式をあと数日に控えた日、懐かしい客人が和真の家を訪ねた。


 足を運んでくれたのは都心で活動していた斎藤隊である。別れてからの話や昔話で盛り上がり、懐かしい思い出が和真の脳裏に蘇った。


 そのひとつだが、和真が『孤独』の特性を隠して活動していた頃、ダンジョンの中で斎藤から一人での行動は危険だと忠告されたことがある。


 その時の和真は事情を説明せずに話を聞き流していた。

 説明しようがパーティは組めないのだ。ならば、自分の恥ずかしい特性を教えたくはなかった。


 必然、斎藤からの忠告を受けても和真は一人で戦い続ける。

 ソロで安定して倒せるモンスターは限られるため、和真は長い間オオネズミを狩ることで生計を立てて過ごしていた。それこそネズミばかりを倒していたため、変なあだ名が付くほどにだ。


 当然だが、せっかくの忠告を無視された斎藤は面白くなかった。

 ただでさえ彼は正義感が強いのだ。女子供や覚悟のない素人がモンスターと戦うこと自体に否定的な考えである。


 そのため、斎藤は和真のことを毛嫌いしていた。

 忠告も聞かずに一人で行動する協調性のない奴だ、命を粗末にする愚か者だ。

 そう考えていたのだ。もっとも、その時の和真は自身の価値を軽視していた愚か者であることには違いない。


 引きこもっていたため協調性も他より低いだろう。斎藤の考えは間違っているわけではなかった。むしろ適切な評価と言える。ただ、和真にパーティを組めない理由があるなどとは考えてもみなかった。


 その誤解が解けたとき、斎藤は和真を認めたのだ。

 一人きりで戦う覚悟を持った戦士だったのだと和真を認めた。

 斎藤からそんな話を聞いた和真は、なんだか照れくさくなり笑ってごまかした。


 「結婚の前祝いだ」斎藤達はそう言って、朝まで和真と飲み明かした。



 ◆


 

 結婚式前日。


「美紀、本当に俺でいいのか?」


 不安そうな面持ちで、和真が婚約者に尋ねてみた。

 結婚式は明日だというのに今更な質問だ、自分に自信が持てない和真の人間性が伺える。

 

「はい。和真さんがいいんです」


 少し顔を赤らめながら、美紀が和真の瞳を見つめながら力強く答えた。

 不安そうな和真であったが、その純粋な気持ちが伝わり思わず視線を逸らして赤くなる。


「あのとき。怯えていた私に『もう大丈夫だよ』と声をかけてくれた時。あの時からずっと好きでしたよ」


「……そ、そっか」


 はにかみながら語る美紀。その話は何度もされていた。

 幼い頃の美紀にとって、自分を助けてくれた和真はヒーローに見えたのだろう。

 恋は盲目。彼女はその典型なのかもしれない。


「和真さん。ちゃんと、責任とってくださいね?」


 上目遣いで和真に花笑みを向ける美紀。

 思わずドクンと胸が高鳴った。美人というほどの容姿ではないが、和真からすれば天使のように可愛く見える。和真にとっても恋は盲目だったのだ。


「……当然だよ。ずっと守るから」

『くっさ』


 照れくさそうに和真は答えた。

 お見合いの日から数ヶ月、少しずつ交際を重ねてすっかり恋に落ちていた。

 純粋な好意をぶつけてくる可愛い女性。免疫のない和真が落ちるのは時間の問題だったのだ。


「和真さん……」


 美紀を抱きしめながら和真は思う。

 この出会いに感謝して、最期まで彼女を守っていきたいと。

 感情表現が苦手な自分でも、言い訳をせずに美紀を愛していると伝えなければと。

 和真は思った。



 ◆



 結婚式当日。

 そこには鬼気迫るござるの形相が他を威圧していた。


「――花束は拙者のでござるよ! 誰にも渡さないでござる!」


 美紀から放られたブーケ。

 未婚の女性を押しのけて、鬼と化した奥菜が持ち前の身体能力を生かして空中で奪い取った。


 他の参加者はドン引きしており、友人枠でアレを呼んだ和真に新婦側の冷たい視線が突き刺さる。

 

「きっと、結婚は無理だな」


 居心地の悪い和真の口から思わず本音が漏れる。

 いい出会いが奥菜にもあるといいが、恐らく希望はないだろう。

 明日香や静も未婚だが、奥菜のような必死さがない分余裕を感じる。

 

「ohー結婚できない負け犬は哀れデスヨ」


 弓剣隊で唯一の既婚者が余裕の表情で奥菜を見下す。

 その言葉が耳に入った奥菜は「ぐぬぬ」と忌々しげにメイリーを睨むも、勝利者を前に何も言えないようだ。


「……ブーケを手にした故、次は拙者の番でござるよ! 度肝を抜くようないい男と結婚するでござる!」


 奥菜の精一杯の強がりが虚しく式場に響いていく。

 息子の結婚式で感動のあまり泣いていた母も、すっかり真顔に戻っていた。

 「あいつを呼んだのは失敗だな」和真は呟いた。



 ◆



「ふぅ~。なんとか終わったね」

「はい。緊張したけど楽しい結婚式でした。宮本さんも幸せになれるといいですね」


 結婚式も無事に終わり、部屋の中、二人きりで語り合う。

 親族や親しい友人だけで行った小規模な結婚式だったが、二人にとっては掛け替えのない思い出となる。


 これからは二人で支えあって生きていくのだ。

 勿論、家族や友人も助けてくれるだろう。その人との温かい繋がり、面倒でもあるが尊い繋がりを大切にしたい。それが二人の共通した思いであった。


「……後悔させないように頑張るよ。だから、これからもよろしく」

「……はい。私も結婚してよかったと思わせるように頑張ります」

『おお~熱い熱い』


 その夜、和真と美紀は熱い抱擁を交わした。

 静かになったベッドの上で、和真は美紀に語りかける。


「……子供の名前を考えておかないとな」

「そうですね。なんて名前にしようかな~」


 将来を考える美紀の笑顔は輝いて見えた。

 和真は思う。この笑顔を守っていきたいと。


 そして、いつか子供が生まれたとき、子供に愛していると伝えたいと彼は思う。

 ガイアのように、子供を利用する親にはなりたくない。

 できることなら母親から受けてきた愛情を子供に伝えたい。


 その連綿と続く親心が、どうか途切れないで欲しいと和真は願った。

 親から伝えられてきた想いを、次の世代にも残したい。

 美紀と熱い抱擁を交わしながら和真はそんな事を考えていた。


 自分のように、道から外れてしまう子供はこれからも出てくるだろう。

 そんな時、気休めだとしても手を貸せる人間でありたい。

 親として、最後まで子供への義務を果たしたい。


 それこそが、和真が母親から譲り受けた子供へのプレゼントなのだ。

 そんな事を考えていた和真はポツリと呟いた。


「ありがとう」

 

 その感謝の言葉は誰に向けた想いなのだろうか。それとも、全てに対してだったのだろうか。

 

『お幸せに』

「ああ、ありがとう」


 彼は願った。

 これからも、掛け替えのない家族や友人と過ごせるように。

 どうか、未来は幸せでありますように。


 ぼっちだった彼の、たどり着いた一つのゴール。

 母親と友人に恵まれた、彼の物語の1ページ。









これにて、ぼっちの日本迷宮生活は終わりです。


ここまで読んでいただきありがとうございました。中には「つまらない」と思った人も絶対にいたはずです。それでも、本当にありがとうございました。心が折れそうになったり感想で喜んだり、色々と貴重な経験を積ませていただきました。書いていて、後悔や反省は尽きません。それでも小説が書きたいので失敗を次に生かして成長できるように頑張ります。機会があれば、また読んでやってください。一期一会の出会いですが、またどこかで会いましょう。その時は「面白かった」と言わせたいです。色々な作品を書いてみます。


私の作品を最後まで読んでくれてありがとうございました。

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