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ぼっちの日本迷宮生活  作者: 書創
第二章 サンロードダンジョンで宝探し
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後日談 シングルマザー奮闘記


 あの日、息子がサンロードダンジョンに引っ越して暮らすと言い出した時は眩暈がした。

 ついに冒険者特有の病気か妄想でも患って、心が病んだのかと本気で心配したわ。

 詳しい事情を聞いてみれば、凄く重要なプロジェクトに協力するそうなの。


 まさかダンジョンの中で経済活動が行えるように人を集めるなんて、最初聞かされたときは耳を疑ったけどね。


 でも、息子が説明してくれるうちに冒険者よりも危険が少ない仕事だと分かり、私は胸を撫で下ろして諸手を挙げて賛成したわ。

 安全な仕事があるのなら、すぐにでも転職をするべきだわ。安心するし、それが親心というものよね。ただ、一つ疑問があるけれど。


「やりたいことは解ったわ。でも、引っ越す必要はあるの?」


 私は息子の目を見つめながら質問した、当然の疑問よね。

 毎日通える距離なんだし、わざわざダンジョンの中に引っ越さなくてもいいと思うの。

 画像で内部は知っているけど、迷宮はちょっと怖いもの。その時の私はそう思っていたわ。


「中で暮らしたほうが効率的で便利だよ。不自由はしないから引っ越した方がいい」


 疑問に対して息子は淡々と答えた。

 通勤時間がなくなるのは確かに効率的よね。でも、便利かどうかは疑わしいわ。

 だってそうでしょ、トイレもない場所で生活なんてごめんよ。

 私は顔を顰めて訝しげな視線を送ると。


「大丈夫。トイレもお風呂もあるよ。それに個室も作った」


 私の不安を察したのか、息子がさらに詳しく説明を始めた。

 話を聞くと、すでに人が住めるような施設は出来上がっているらしい。

 まったくもう、先にそれを説明しなきゃだめなのに本当に話が下手な子ね。

 てっきり、テント暮らしでもするつもりなのかと思っていたわ。


 私は口下手な息子に溜息を吐きながらも、両腕で円を結んでOKサインで答える。

 ダンジョンの内部というのは怖いけど、息子は当然として、政府の腕利きもいるらしいので騙されたと思って行くことに決めた。親子だもの、一蓮托生よね。


 息子は「ははは」と嬉しそうに笑っているけど、少しは親の気持ちを考えて欲しいわ。

 毎日毎日、息子の無事を心配する私の気持ちを理解してるのかしら?


 腹が立ったので、その日は息子に「いつ結婚するの?」とチクチク攻撃して憂さ晴らしをした。これで大目に見ましょう。


 後日。そんな経緯で私たちの何度目かの引越しが決まったの。

 これが終の棲家になるのかしらね。引越しは大変だから少ないほうがいいわ。


 ◆


 あれから6年、あっという間に時は過ぎ去った。

 還暦を過ぎても見た目がピチピチな自分に吃驚してるわ。

 きっと、食べ物が良質なせいね。ダンジョンの開拓が軌道に乗り始めると暮らしも食事も驚くほど豊かになったの。


 高級なモンスター料理に舌鼓を打つ毎日は贅沢の極みで、不味い密造酒なんて造る必要もなくなり今では上質なお酒を飲める身分で最高よ。

 これも息子と可愛らしいスライムのアイちゃんのお陰ね。


 あの日、アイちゃんと始めて会った時を思い出すわ。

 最近では違和感はないけど、最初にお友達だとスライムを紹介された時はショック死するかと思ったわ。一応ダンジョンの主がいるとは聞いていたんだけど、スライムとは聞いていなかった。それを咎めると「あれ? 説明してなかったっけ」と相変わらず抜けてる息子にため息が出たわ。


 モンスターが人間の協力者だなんて吃驚して当然よね。

 正確にはダンジョンマスターという別種の存在らしくてモンスター扱いすると怒られたけど、どう見てもスライムだから仕方がないと思うの。それに、可愛いからどっちでもいいわとすぐに慣れたわ。


 瑞々しくて触っていると気持ちいいから、なでなでして可愛がってしまう。

 抱き枕に丁度いい大きさで魅力的な子よね、いつか枕にしたいわ。

 ついつい撫ですぎて「やめてください! 私の体を弄ばないで!」と何度も怒られたけど、本人はスキンシップに喜んでいる気がするの。


 だって、本当に嫌がっているなら何度も遊びに来ないだろうし、私の近くにも来ないはずだもの。アイちゃんは素直じゃないスライムね。

 

 そんなアイちゃんと和真たちが政府の人達と一緒に、このダンジョンを6年掛りで豊かにしていった。もっとも、まだまだ成長の余地はある発展途上なんだけど、前よりは見違えたわ。


 最初は100人もいない場所だったのに、今ではダンジョンの中に街ができている。

 見渡せば、今日も住人は忙しそうにそれぞれの仕事に精を出しているわ。


 朝になると、保育所に子供を預けに行く親御さん達の挨拶を交わす声が聞こえる。

 昼になれば、お腹を空かせた労働者で飲食店は賑わいを見せる。

 家から歩いてすぐの大通り、武器屋の隣にある和食屋の日替わりランチは私の最近のお気に入りだ。今では色々なお店ができて商店街がいくつも生まれた。


 夜になると、繁華街に街灯が灯り仕事帰りの人々で溢れかえる。お酒に酔ったおじさんたちがトラブルを起こすのは今も昔も変わらないわね。まったく、酔っぱらいはこれだから。

 和真にも飲みすぎには注意するように言っておかないとね。宮本さんとよく飲みに行くようになったから、迷惑かけてないか心配だわ。


 街から離れると人は疎らになるが、その代わりに豊かな自然が顔を覗かせる。

 整えられたアスレチック公園や、人工的に作られた林や山が色彩を豊かにしている。

 郊外にある畑には瑞々しい作物が育ち、草原では家畜が長閑に食事をしている。


 見ているだけで癒されるわね。

 今では当たり前の光景になっているけど、その成長を見守ってきた私には感動的な景色よ。


 ただの草原だったこの場所が、今ではビルすら立ち並ぶ場所ですもの、それを行った初期メンバーの中に息子がいると思うと余計に感動するわ。

 誇らしい気持ちになるのは親として仕方がないでしょう、誰よりも近くで息子たちが頑張るのを見てきたんですもの。


 そんな訳で、息子の自慢話を町内会でよくしている。

 あれから自治会などの地域組織が生まれて、私は町内会の会長をやらせてもらっているの。色々と面倒くさいけど、古株ということで顔が利くので適任らしい。


 だから、自慢話でストレスを解消しても許されるはずよ。

 そろそろ裏で煙たがられてそうだから自重するけどね。


 ◆


 夏の昼下がり。

 私にとって待ち望んでいた日がやってきた。

 40も近いのに未だに独身である息子がついにお見合いをするのだ。


 相手は18歳と若く、歳の差からロリコンと思われそうだけど、そんなことは決してない。

 息子は見た目だけなら20歳前後に見える童顔だし、傍から見ても不自然ではないわ。

 それに、これは純愛よ。純愛。


 だって、お見合いの話は向こうから持ちかけてきたんだもの。

 しかも、6年以上前から和真を好きだったという子供が成長してね。

 このお見合いは絶対に成功させると私は決めている。


 ここでこの子を逃せば、和真は絶対に生涯未婚のままだと思う。

 還暦を過ぎた私にとって、孫の顔が見られるかどうかの最後のチャンス、だから息子を無理やりにでも結婚させるつもりよ。


 6年間も好きでいてくれる女性なんて、そんな貴重なお嫁さんを逃すなんて有り得ないわ。

 渋々お見合いを承諾した和真だけど、既成事実を作ればこっちのものよ。


 既に相手のご両親とは裏で結託していて、もう結婚は確定路線なの。悪いわね和真。

 向こうから見ても稼ぎのある和真は優良な物件だからノリノリよ、私とウマがあいそうだし結婚は決まったも同然。私はようやく孫の顔が見られるのだと歓喜した。


 さぁ。息子の尻を蹴り飛ばして、今日のお見合いに叩き出さなきゃ。


 

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