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ぼっちの日本迷宮生活  作者: 書創
第二章 サンロードダンジョンで宝探し
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女神の思惑

 和真にとって長く感じた着信音が途切れて、ようやくその呼び出しに応じる声が聞こえる。


「もしもし。和真殿、何用でござるか?」


 混乱の中、繋がった電話からござるのいつも通りの声が届くと、和真は平静を装い単刀直入に切り出していく。


「ああ、宮本。ごめん、色々と聞きたいことがあって電話したんだ。昨日の事なんだけどさ、何も覚えてないんだ。何があったのか教えてくれないか?」


「なんと!? 何も覚えておらんとは飲み過ぎでござろう、だから一気飲みは危ないと言ったではござらんか!」


「一気飲みなんてしたのか。ごめん、何も覚えてないんだ。詳しく教えて欲しい」


 電話口からは「全く、しょうがないでござるな。和真殿は本当に世話が焼けるでござるよ」と、ござるの呆れたような小声が聞こえて軽くイラついたが、和真はグッと堪えて説明を待つ。


「昨日の夕方でござったか。和真殿から電話が来て、これから気晴らしに飲みに行こうと誘ってきたでござるよ。和真殿からの珍しい誘いに拙者のパーティ全員も参加して楽しんだで候。あの大道芸は凄かったでござるよ! あんな芸を隠し持っていたとは驚きでござる。今度教えてほしいでござるよ!」


「いや、本当ごめん。大道芸なんて俺にはできない。他に何があったか教えてくれないか」


 まったく記憶にない飲み会の話に戸惑う和真。

 電話口から「嘘をつくなでござる! 何度も手品を見せてくれたでござらんか!」と非難の声が上がっているが和真にはどうしようもない。本当に記憶にないのだから。


「……むぅ。拙者と肩を組んで『ズッ友だよ!』と言ってくれたのは嘘だったのでござるか? 拙者、ちょっと傷ついたで候」


「……っ!? ご、ごめん。とにかくごめん。本当に記憶にないんだ」


 全てはガイアの仕業と考えて間違いない。明らかに「ズッ友だよ!」と弄ってやった意趣返しをされているのだ。


 だが復讐にしても過剰過ぎるというものだ、肉体を乗っ取るほどのこととは思えない。

 和真の心にはガイアに対する怒りが湧くと同時に、恐怖心も芽生え始めていく。

 その気になれば、ガイアは和真を操れる力を持っていると分かったのだから。


「もう、お酒はほどほどにするでござるよ! 今回だけは大目に見るでござる。うむ。他の話となると、後は菜々子と槍隊の話でござるな」


「ああ、それを聞かせて欲しい」


 こうして、ござるから昨夜の出来事が詳細に語られていった。何故か和真は菜々子にだけ素っ気なく、逆に菜々子の方は積極的に和真に絡んでいたらしい。


 それと槍隊が数日前にサンロードダンジョンで消息を絶っており、恐らくは死んだものと思われているのだが、知り合いとしてはダメもとで探してみようと話し合ったのだそうだ。


 その情報を咀嚼して、和真は今後の予定を考える。


 槍隊のことは運良く足跡が見つかればいいなと考えて一旦保留する。ガイアのことは電話を切った後に本人から直接聞けばいいだろう。そして、一番気がかりな少女については今日中に探しに行こうと即決した。


 アイは目立つ容姿なのでダンジョン前や事務所などで聞けばすぐにわかると予想してだ。

 大体の予定が決まった和真は、ござるとの会話を早々に切り上げることにする。


「こんな所でござるな。後は和真殿が放電したり、物を宙に浮かせたりという手品が見所でござったよ! 逆立ちしながらの噴水回転大車輪は圧巻でござった! また見せて欲しいでござる!」


 「なんだそれは」と言いそうになったが必死に堪る和真。


「そ、そうか、ありがとう。詳しく話してくれて助かったよ。俺はダンジョンで用事があるから、そろそろ出かけるよ。ありがとな」


「これからでござるか? もしや槍隊の捜索でござるか?」


「ん。まぁ、そんなところだよ。人探しに行こうと思ってる」


 槍隊のではなく、少女のだがと心で呟く。


「それは丁度良かったでござる。拙者たちもこれからダンジョンに行く予定でござるよ! よかったら一緒に行こうでござる。手分けして探せば効率もいいでござるし、『孤独』の範囲外で協力すれば問題ないでござろう」


「ええっと、ありがたいけど槍隊以外の子も探したいんだ。だから一人で行くよ」


「尚更一緒に探せば効率的でござろう。決まりでござる! たまには一緒に捜索も悪くないでござろう! まさか、拙者の申し出を断ると? 大道芸のことを許した拙者のことを!? 拙者のことを!?」



 電話口から圧力をかけてくるござる。色々とお世話になっているのは確かであり、和真に断る勇気はなかった。少女に惚れてることは悟られたくないのだが、一緒に探せば確かに効率的だと考えを改める和真はポリポリと頬を掻きながら。


「わかったよ、一緒に行こう。ありがとな宮本」


「うむ!」


 時間を決めてダンジョン前に集合する約束をした和真は、ようやくガイアとの会話を始めるのだった。


「……それで、ガイア。どうしてこんなことをしたんだ? 俺の体を乗っ取ったんだろ?」


 ベッドに腰をかけて宙に向かって話し出す和真。その言葉に。


『和真が私のことを誰かに話そうとした罰ですよ』


 少し拗ねてるように不機嫌そうな口調のガイアが応答した。


「そうか、それが理由なら今後気をつけるよ。約束する。ごめんな」


『……約束しましたよ。ま、精々あのぶりっ子とよろしくやってください。ぺっ』


「そんなに怒るなよ。ちなみに、何で人に話しちゃいけないか聞いてもいいかな?」


『面倒で不都合だからです。それだけです』


 「そうか」と返事をしながら頭を悩ませる和真。

 知られて不味い事情なんて厄介事しか有り得ないのだ。それがいつ自分を巻き込むか、気が気じゃないのは当然だろう。


「それで、昨日はアイちゃんとどうやって別れたんだ? まさか暴力を振るってないだろうな?」


『いいえ、そんなことしませんよ。急用を思い出したので帰るよクソビッチと言っただけです』


「ふざけんなバカ!」


『それより、早く昼食を食べないと怒られますよ?』


「あ、忘れてた。くっそ、アイちゃんが許してくれなかったら恨むからな!」


『あのぶりっ子の何がいいのか、さっぱり理解できませんね! ふんっ』


 何故かアイに対する悪口が酷いガイア。

 すっかり母との会話を忘却していた和真は慌てて昼食を摂って謝った。


「ごめん。すぐ食べる」


 「まったくもう、夜遊びするなら彼女を連れ込むくらいしなさい!」と母の小言が耳に痛い。

 それに、アイにどうやって誤解を解いて謝ろうかと頭も痛める和真だった。

 そして集合時間になり、ダンジョン前にて。



 ◆


「「「こんにちはー」」」


「お、来たか。こんにちは」


 アイに関する情報収集を行ってからダンジョン前で佇んでいた和真。そこに見慣れた女性たちからの姦しい挨拶が飛んできた。


「和真殿、今日は珍しく先に待ってるでござるな! 感心感心」


「ああ、なんか人聞きが悪いな。俺は遅刻したことはないよ? 宮本が早いだけだよ」


「そうでござるか?」


『和真が早かったのはぶりっ子に会えると興奮してたからですけどね。ぺっぺっ』


 あれから組合支部や事務所で情報収集を行なったが結果は収穫なしだった。

 そのため、早くダンジョン内を捜索してアイと再会して昨夜何があったのか弁明したいと焦っていた和真。早めに着いたのはそれが理由だった。

 

「こんにちワー和真っち! 昨日は楽しかったデスヨー、また手品見せてくだサイネ!」


「え、あ。こんにちは。できれば手品のことは忘れて欲しいな」


 メイリーがかなり親しく挨拶をしてくる。無邪気な笑顔がとても眩しい。

 和真の返事に「エー!? もっと手品を見せてくだサイ!」と駄々っ子のようにお願いしてくる姿はとても微笑ましいのだが、本当に昨日は何があったのかと和真は不安になってきた。


「こら、メイリー。和真さんが困ってるでしょ! 本当にすみません。今日はモンスターで稼ぎながらの探索になりますが、よろしくお願いします。ござるから聞きましたけど、和真さんの知り合いの子も探すんですよね? 特徴を聞いてもいいですか?」


 メイリーの手綱を引く静がペコリと謝りながら聞いてくる。

 和真は顎に手を当てて、詳しい特徴を彼女たちに伝える。


「見た目は10歳前後の女の子で身長は130cmくらい。髪の色は綺麗なシルバーで目立つと思う。髪型はボブで名前はアイと言って天真爛漫な可愛い子だよ。彼女は冒険者で実力にも自信があると言ってたな」

 

 ふむふむと説明を聞いて頷く静たち。そして明日香は疑問を口にした。


「その女の子がダンジョンにいるんですか? そんなに目立つ容姿なら顔が知られてると思うんですけど聞いたことがないですね。本当に冒険者なんですか?」


 明日香からの鋭い指摘が入る。

 冷静に考えれば当然だ。10歳前後の綺麗な銀髪少女で実力派冒険者など有名になるに違いない。しかし、そんな噂は聞いたことがなく存在が疑わしい。明日香の指摘は至極真っ当だった。


「私は和真さんを信じます。どうせ槍隊も探すのだし、本当かどうかを議論しても意味はないと思うわ」


「確かにそうでござる。菜々子の意見に拙者も賛成でござるよ。探してから考えればいいでござろう」


「確かにそうね」

「ござるの言う通りね。探しながらでも考えられるのだし出発しましょう」

「賛成デ~ス」

『槍隊はどうでもいいけど、私はアイを見捨てても許すわ!』


 菜々子と奥菜から前向きな後押しもあり明日香や静も納得する。メイリーは気楽に流れで決めているようだが、ガイアよりはマシだろう。

 そして和真が「じゃあ、そろそろ行こうか」と促して、全員はついにダンジョンの大階段を下っていった。


 果たしてアイと再会して許して貰えるのだろうか。

 一段ごとに和真の不安と焦りは大きくなっていく。


 ようやく階段を下り終えて大草原に入った和真たち一行。

 捜索方法は単純でそれぞれ探索を行い、手がかりを見つけた場合や危険な場合は狼煙で合図をすると決めてある。見渡しのいい草原では有効な手段だろう。


 勿論、安全を考慮して弓剣隊は二人組みでの行動だ。余った一人を除いてだが。

 搜索で本人が見つからずとも痕跡さえ見つければ希望は繋がる。

 和真は祈るようにアイを探して草原を捜索した。


「……あぁ。アイちゃんは無事なのかな、許してくれるのかな。あぁ、アイちゃん可愛いよアイちゃん」

 

『気色悪いんですけど! ナメクジ並みに気色悪いんですけど!』


「うるさい! ガイアが余計なことをしなければ俺は今頃パーティが組めてたんだぞ!」


 草原の中を歩きながら罵り合う和真とガイア。

 しばらくは続くだろうと長期戦を覚悟していた和真の目に、待ち焦がれた希望の狼煙は意外にもあっさりと上がった。


 アイの発見を伝える赤色の狼煙。

 それは、地下であるはずの大草原の青空の中で一際目立つ和真の希望だった。

 もっとも、その先にあった光景は、和真の想像とはまったく違う最悪なものだったのだが。



 ◆



「明日香! 静! メイリー! 菜々子! どうしたのでござるか!? こんな少女に対してあんまりでござるよ!」


「ござる! 退きなさい。副リーダーとして命令します!」

「そうよ! 退きなさい。ござ……奥菜! そのムカツク女を今すぐ叩き斬るべきよ!」

「そうdeath! そいつは女の敵デス! ここでタコ殴りにするデスヨ!」

「……そう。敵は殺すべき」

『やってよし!』


 眼前には信じられない光景がまっていた。

 傷つき倒れるアイ、それを守る宮本奥菜。それを退かして止めを刺そうとする他メンバー。


 意味がわからない。どうしてこうなる?

 何がどうなったらこんな状況になるのか和真には理解できない。

 わかるのは一つだけ。傷つき倒れて泣きながら震えているアイを守りたい。


 その感情だけが和真を動かす燃料となり燃え盛る。

 例え、弓剣隊と戦うことになろうとも、和真はアイを守るのだ。

 そうしなければならない。そうだ、そうなのだ、それ以外に答えはない。


 弓剣隊がアイの害となるならば、和真は敵を倒さなければならない。

 どんな手段を使っても、アイという存在を和真は守る必要がある。

 それ以外に選択肢はない。そう、無いのだ。


 この場で選択肢を持つ『人間』がいるとすれば、たった一人だけなのだ。

 ならば答えは一つ。戦おう、アイを守るために。


「宮本、手伝ってくれ。アイを守るためにあいつらを倒す」


「――は!? な、何を言ってるのでござるか! 和真殿、みんな仲間でござるよ!?」


 そして弓剣隊は和真とアイの前に敵として立ち塞がり、その切っ先を次々と向けた。

 その目は敵意に満ちている。獲物を守る障害物を排除するための敵意を向けたのだ。

 ただ一人の中立者を除いて。


「皆! おかしいでござるよ! 正気に戻るでござる!」


 宮本奥菜の悲痛な叫びが、サンロードの草原に消えていく。


 彼女は思い返す。

 なぜこんな事になったのか、その糸口を探すためにあの日の出来事から振り返る。

 佐々木和真が柄にもなく、気晴らしに飲みに行こうと誘ってきた時の話だ。




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