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ぼっちの日本迷宮生活  作者: 書創
第二章 サンロードダンジョンで宝探し
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再出発の朝。新しいダンジョンへ!

 北千住への引越しが終わり、これからお世話になるであろうモンスター肉を買い取る肉屋などで買い物や挨拶を行う。まだ数日だが新居での生活は落ち着き始めていた。

 もっとも、片付けはまだ終わってはいないが。


「和真ー。食器、お願いしてもいい?」


「いいよ。後はやっとくよ」


 食器棚の前に皿やコップが入った重いダンボールが置かれている。

 その全てを棚に入れるのは、今年で56歳となる佐々木佳代には重労働だ。


 引越し後は財布の紐が緩んで外食三昧。食器を使わなかったツケだろう。

 そういう訳で、重いものは息子に頼んで彼女は自室の整理へと向かう。


 今日で、北千住の空家に引っ越して三日が経った。

 二人で住むには丁度いい広さ。狭すぎず、洗濯物を干すベランダが大きめなのが好印象の物件だ。ちなみに無料ではない。和真の収入が安定して、家賃をしっかりと払っている。

 家を失った避難民への救済処置、その対象から外れたのだ。


「家の中も、大分片付いてきたな」


『そうですね。豚小屋よりは綺麗ですね』


「比べる対象がおかしいんだよなぁ……」


 何にしても。これでようやく和真のダンジョン生活は、めでたく再開となる。

 荷物の片付けで凝った肩を軽く回しながら。


「母さん、やっといたよ。そろそろ事務所に挨拶に行ってくるよ」


「はーい。ありがとね。気を付けて行ってらっしゃい。夕飯は焼肉よー」

 

 母に一言、声をかけて。奇麗にした玄関をくぐり外に出た和真。

 家を出てすぐ。日光街道沿いの歩道を南に歩いて潰れた自転車屋を目指した。

 今では改装されて北千住の復興支援事務所となっており、隣に冒険者組合支部が造られている。


 冒険者にとって利便性のいい配置だ。冒険者組合支部で直接割りの良い仕事を探すこともできる。

 もっとも、そういった話は地域の古参冒険者に流れるのが常で、和真には関係のない話だろう。


 和真の目的は挨拶と活動地域の変更登録である。

 今は亡き駅前ダンジョンからサンロードダンジョンに活動場所を移すため、その動向を組織が管理監督する為にも手続きは欠かせないのだ。


 和真は支部と事務所の両方で用事を済ませた後、サンロードダンジョンの近くを散策した。しかし、さすがは北千住。支部も事務所でもそうだったが、一般人も冒険者も多くて活気に満ちていた。前の住居からはそこまで離れていないのだが、こうも地域で違うものなのかと和真は思う。


 自衛隊や警察官の数も心なしか多い。いや、自衛隊はかなり多いかもしれない。

 恐らくは特殊なダンジョンであるサンロードの警備のためだろう。

 和真はバリケードの向こう側を見つめて呟く。


「あれがサンロードか……」


『独特な景観ですね。風情があると思います。グッドです』


 サンロード前に着いた和真。


 その眼前には大地震で崩れたままの建物や、残った建物。

 それらを全て取り込んで一体化したかのような不思議な町並みがあった。

 木造家屋やコンクリート製の建物、その全てが得体の知れない白く輝く物体で綺麗に繋がっているのだ。


 政府のダンジョン研究機関では、この物体がダンジョンの一部であると公表している。

 つまり、サンロードダンジョンとはかつての街をそのまま取り込み迷宮化した特殊なダンジョンなのだ。


「どうなってんだ、これ……」


『いやー神秘的ですね。和真さんも死んだら一部になれるかも?』


「怖いこと言うなよ。洒落にならない」


 そもそも、どうやってダンジョンの中に入るんだ? そう考え込んでいた和真の後ろから、聞き覚えのある声が掛かる。


「おお! 佐々木殿ではござらんか! 下見に来たのでござるか?」


「おお? ござ……宮本か。そんなもんだよ。凄いな、このダンジョン」


「うむ。拙者も最初に見たときはしばらく眺めていたでござるよ」


 弓剣隊のござること、宮本奥菜が話しかけてきた。どうやらダンジョンに向かうつもりのようで、後ろから他メンバーがやって来ている。


「おー佐々木サーン。お久しぶりデース」

「お久しぶりです」


「メイリーと佐藤さんもお久しぶり」


 元気な挨拶でメイリーがにこりと笑い、副リーダーの静がペコリとお辞儀する。

 見たところ、どうやら彼女たちも元気にやっていたようだと和真は安心して微笑みを返した。


「佐々木さん、お久しぶりです。北千住に引っ越したと奥菜から聞きましたけど、本当だったんですね。また何かあれば、よろしくお願いしますね」


「こちらこそ、ご丁寧にどうも。宮城さんもすっかり回復したようで、よかったですね」


「ええ、皆のお陰で何とかやれてます」


 そう言って、照れくさそうにメンバーの顔を見やるリーダーの明日香。

 チーム仲はとても良いようで、和真が羨望の眼差しを密かに向けていると。


「佐々木さんは、これからどうするつもりですか? 私たちはこれからダンジョンに稼ぎに行く予定ですけど。斥候として一緒に来ますか?」


 菜々子がじっと和真の目を見て質問をしてくる。金色の瞳が不気味に輝いた気がした。

 思わずドキリと胸が脈打ち、和真は慌てて返事をする。


「俺は下見に来ただけだから、そろそろ帰るよ。本格的な活動は明日からで、今日は家でゆっくりする予定」


「そうでござるか、では拙者たちは行ってくるでござる。帰ったら連絡するでござるよ!」

「それでは佐々木さん、失礼します」

「またデース!」

「失礼します」

「……ふふふ、残念。佐々木さん、またね」


「ああ、またな。みんな気をつけてなー!」


 引きつる笑顔に気付かれないように、和真は彼女たちに手を振り大げさに見送った。奥菜はリーダーでもないのに堂々と先頭を歩いてダンジョンに向かっていく。男らしい振る舞いだ。


 その背中に続いて明日香とメイリー、静と菜々子がついていき、徐々に姿が遠のいていく。

 それを見送り、改めて和真は思う。


「菜々子さん苦手だなぁ……綺麗なんだけどね」


『ぷぷぷ。惚れないほうがいいですよ。多分、後悔しますよ』


 意味深なガイア。問いただすも『さぁ?』と、いつもの回答。答える気はない様子。

 それもいつものやりとりで、和真は肩を竦めて家へと帰る。


「ただいまー」

「おかえり。じゃあ、そろそろ夕飯にしましょうか」


 そして食事が終わり、睡眠前のベッドで。

 和真は携帯をいじり、自身のステータスの特性や技能などを検索して勉強する。

 より効率よく、より有効にスキルを使う。中級冒険者クラスのステータスに急成長した以上は、予習復習はしっかりしないといけない。


 意識と肉体能力の齟齬をなくさないと、十全な実力が発揮できないからだ。

 一人きりで冒険をする以上は当然のことだろう。

 自分の身は自分で守るしかないのだから。


「んー。なるほどなぁ……職業はこういう効果なのか。あぁ、ダンジョンの構造も調べないと」


『ぼっちらしい独り言ですね。見ていて泣けてきます』


「泣きたくないなら、もう見ないでいいんだよ?」


『いえ、笑い泣きなのでガン見します』


「あ、そう」


 ガイアと脳内で乳繰り合いをして夜は耽けた。そして、ついにサンロードダンジョンに挑む朝がやって来た。

  手早く朝食をすませて支度をする和真。昨夜から、新しいダンジョンに行くとあって年甲斐もなく興奮している。


 装備のチェックとダンジョンの基本情報のおさらい。

 和真はテキパキと済ませて冒険に出かける。


「母さん、行ってきます。夕飯には帰るよ」


「気をつけるんだよ。絶対に無理はしないでね。また入院とかやめてよね」


「わかってるよ。……じゃあ行ってきます。戸締りよろしくね」


「うん。和真、行ってらっしゃい!」


 母との挨拶が冒険の合図だ。

 和真はまだ見ぬダンジョンの攻略に向けて、新しい我が家を出発した。


「よしっ! 目標は、サンロードダンジョン名物の地下大草原で宝箱の発見だ!」


『おー!』


(なんか最近、ガイアのノリがいいな……)


 道中、朝日を浴びながら期待を胸に宿らせて。和真は、サンロードダンジョンへと向かっていく。

 そして、ダンジョンの手前。自衛隊の見張りに冒険者を証明する顔写真付き資格者証を提示してダンジョン領域に足を踏み入れる和真。

 その瞬間に新たなる力、『迷宮』による自動マッピングが発動する。


 青いホログラフに自分を示していると思われる緑の点が表示され、和真に目視可能な範囲が地図のように書き込まれていく。


「おぉぉ……。これは便利だ、すごい助かる」


『どうやら目に見えない死角まではマッピングされないようですね』


「本当だ。気をつけて進もう」


 改めて歩き出す和真。

 入口はネットで調べて把握しており、後は情報通りに向かうだけだ。

 和真と同じ方向に進む冒険者も見られるため、間違えることもないだろう。

 そして、バリケードから10分は歩いただろうか。


 居酒屋や民家が密集している通り。かつては活気に満ち溢れていたであろう繁華街の奥に、鳥居型の【宿場町通り】と大きく書かれている看板を発見する。

 本来はその先にも民家や様々な店があるはずだったのに、今はこの看板が地下へと続く入口に変化していた。


「ここか……」


 緊張した面持ちで奥を覗き込む。

 誰が用意したのか地下へと続く大階段。先が見通せないほど続いている。

 階段のまわりには緑色に光るコケが生えており、灯りとして視野の確保に貢献していた。


「……よし、行くか」


 意を決して入口を通り、大階段を下り始める。

 十段、百段と。地下深くまで階段は続き、その奥から眩い光が射し込んでいるのが見えた。

 逸る気持ちで和真は階段を駆け下りて、射し込んだ光の先を視認する。

 そして。


「うおあぁー。本当だ。本当に地下に草原がある……凄いな……」

 

 そこには、見渡す限りの大草原が広がっていた。

 天井は青空で雲が流れており、草原には小鳥が休んでいる場所もある。

 和真には、ここが本当に地下なのか疑うことしかできなかった。


 眩い太陽が冒険者を出迎えて、ここがダンジョンであることを忘れさせる。

 その光景に言葉すら出ず、和真は呆然と眺め続けていた。


「おい、あんた邪魔だよ。どいて」


「あ、はい。すみません」


 後ろから来ていた若い冒険者に注意されて、和真はようやく意識を取り戻した。

 すぐに通行の邪魔にならないように端に移動して、大草原に再び視線をやる。

 そして、改めて感動する。まさに冒険者として、これから未知への冒険が始まるのだと。

 これが、冒険なのだと。


「……行こう」


【おー!】


 地下に広がる大草原に、和真は新たな一歩を踏み出していく。


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