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ぼっちの日本迷宮生活  作者: 書創
第一章 ダンジョン冒険者に就職しました
23/39

そして、ぼっちは孤独に戦う vsダンジョンマスター 後編

 佐々木和真、彼の11年間は暗闇の中にあった。

 

 部屋の中で孤独に、日々の空虚な時間をネットや読書に費やして。

 現実逃避として自分の殻に閉じこもった。


 きっかけは人により異なるだろう。

 自滅、不運、裏切り、失望、逃避、消失、気力の減退や学習性無力感による諦念。

 人は、様々な要因が重なり成功する者もいれば失敗する者もいる。


 努力で解決できると信じる者もいれば否定する者もいる。

 努力ができる人は努力が報われる世界を知っている。もしくは親や友人、環境から学べた幸運な人なのだ。


 努力ができない者は努力で報われない世界を知っている。もしくは親や友人、環境で学んでしまった不幸な人であろう。

 

 誰かが悪いわけではないのかもしれない。めぐり合わせが悪かったのかもしれない。

 それでも、彼らはいた。ただ、その『闇』を抱えてしまった者は確かに存在した。


                『孤独』


 夢を失い、明日を否定して、現実から逃げ出して、自身の殻に閉じこもり、外界からの隔絶を望んだ存在。そう望むようになってしまった存在。孤独。無意味で空虚な『絶望』の手前。


 それでも、彼らの本心はそうではない。

 本当は夢を見て、明日が欲しくて、現実と向かい合いたくて、自身の殻から飛び出して、外界との友好を誰よりも『渇望』している存在でもある。


 一人でいることが好きなだけの人は孤独なのではない。

 それは、一人で生きる強さを持つ人なのだ。


 本当の孤独とは、強く望もうとも決して届かない。手に入れられない者の特性。

 孤独とは、孤独ではないことを望み、その上で孤独でしかあれない者の本質。


 だからこその効果。

 それこそが『孤独』の本領。


 今、アーガンは『孤独』の中に捕らわれて痛感していることだろう。

 「ああ。これこそが、孤独の恐ろしさなのか……」と。



 ◆



「痛い痛い痛い痛いイタい。何なんだこの痛みは、胸が張り裂ける、誰か僕を助けてくれ。何故こんなことになった。格下相手と油断したからか!?」


 闇に沈んだアーガンは、周囲に向かってそう叫ぶ。しかし、その声は誰にも届くことはない。


「あんまりじゃないか! 僕が僕でなくなっていく最悪な気分だ。自分の体が動かせない、まるで標本にでもなったみたいだ」


 アーガンは嘆いた。己の身体すらも見失う『絶望』の手前に。


 周りからの冷たい目。母なる女神からの蔑みの視線。自分の生まれてきた意味など無いのだと言う存在の否定。それらの感情が心の奥から湧いてくる。そして湧いた感情がそのまま肉体の痛覚に直結しているのか、激痛となって脳を刺激する。


「痛い、痛い。痛くて堪らない。この痛みは何なんだ? いつ終わるんだ? もう何時間も、いや何日も苦しんでいるような気がする。時間の流れる感覚すら希薄になっていく……。自分の中にある大切なもの、それが少しずつ溶け出してるのか? ……嫌だ、やめてくれ。やめてくれよ!」


 それは、周りから置き去りにされる恐怖。決して他者に追いつく事のできない鈍間な自分への失望。

 殻に篭った時間は、そのまま自身の尊厳を奪う最悪な病魔となり、自分自身を蝕む。

 

 辺りを見渡しても誰もいない。誰も見えない。ただ闇が広がっている。

 自分の体が見えない、どこにあるのかもわからない。

 アーガンは今、立っているのか? 座っているのか? 横になっているのか?

 それすらもわからない。己が認識できなくなっていく恐怖。


 他者との関わりを絶ったが故の孤。比べる相手がいなければ、自分が何者かも定義できない事実。


「わからない。痛い、痛くて怖くてたまらない。時間だけが無意味に過ぎて、大切なものが消えていく。僕を置いていかないでくれ! 誰か僕を助けてくれ! 僕はどうすればここから抜け出せる? 僕は、僕はどうしたらいい?」


 アーガンの嘆きは届かない。闇の中で蹲っている者の叫びなど、光の住人には届かない。誰も手は差し伸べてはくれない。

 『孤独』だけがアーガンと寄り添うのだ。


「なぜ、なぜ上手くいかないんだ。どいつもこいつも、アーズも僕を馬鹿にする。思い出しただけで腹が立つ。あの視線、あの蔑み、あの笑い、あの仕草。全てが不愉快だった!」


 しかし、やっと絞り出せた怒りすらも失って消えていく。


「……あぁ。僕の感覚が消えていく。ただ闇だけが広がって、痛みだけが残る。地獄だ。ここは地獄だ……」


 考えるのが辛い。痛みに耐えるのが辛い。闇の中に置き去りにされるのが辛い。

 このまま何日も何日も闇の中で彷徨うのか? 助かる可能性はないのか?

 自分は敗北するのか? そう考えてしまったアーガンは、諦念を抱き始めてしまう。


 今はもう。この地獄から抜け出せるのなら敗北してもかまわない。

 だから誰か助けてくれ。この暗黒から見つけ出してくれ。

 こんな痛みの中で、一人寂しく『孤独』に死ぬのか、と。

 アーガンは地獄のような恐怖と苦痛に顔を歪ませて蹲る。

 しかし、本人には自覚がない。もう、蹲っているのかも認識できない。


 孤独は闇を生み、闇は諦念をアーガンに与えた。


「僕は、こんな……結末を、迎えるために……生まれて……きたわけ……じゃ……」


 その想いを最後に、アーガンはあっけない終わりを迎える。

 『孤独』の闇に精神が敗北した、アーガンの哀れな最期だった。



 ◆



 あれから、和真が入院してから一週間の時が流れた。


 あの日、田中龍造のパーティが脱出に成功して援軍を呼んだ日。

 到着した応援とともにダンジョンがある場所へ向かうと、すでにダンジョンは消滅しており、その前には意識を失い倒れていた和真が発見された。


 すぐに病院へ運ばれた和真。

 命に別状はないが、激しく衰弱しており意識は戻らなかった。

 そんな彼が目覚めたのは、つい先程のことだ。

 

「和真! 目が覚めたの? よかった……どこか痛いところはない? 大丈夫なの?」


『おはようございます。いい夢は見られましたか?』


 安心したのか、大粒の涙を流す母がいた。あとガイアも。

 

「ああ……。ごめん。心配かけてごめん」


 母はしばらくの間、和真を気遣ったり怒ったりまた泣いたりと大忙しだった。

 和真も困ったような嬉しいような、でも辛そうな。そんな表情で母に付き合った。

 母を悲しませてしまった自分の軽率な判断を和真は恥じたのだ。

 それからすぐに、異常が見られないと退院の許可が下り、和真は我が家へと戻る。


「あぁー。そう言えば、引越しの準備の途中だった……」


『これからすればいいんですよ』


「そうだな。忙しくなるな」


 そして、これから目覚めの後処理が待っているのだ。

 冒険者組合本部からの事情聴取や携帯に溜まったござる爆撃476件。

 この不発弾処理のような仕事が待っていた。


 引越しの準備どころではなく、しばらくは事後処理のために冷や汗を流した。奥菜からのプレゼントを壊したことを謝罪したり、メイスと盾を買い直しに行ったり。あとは田中龍造と再会して色々と話したりと、ここ数日はバタバタとしていた。入院生活で鈍った和真の体には丁度よかったのかもしれないが。


 ちなみに、メイスと盾を壊したことを電話で話して謝ったときは「やれやれ、しょうがないでござるね。今度はもっと良い装備をプレゼントするでござるよ」などと言われてしまい、思わず涙が溢れそうになっていた。


 そして、大きな変化が一つ。


「ステータス表示」


 種族:人族 性別:男性 年齢:31歳 血液型:O型

 職業 冒険者LV29 狩人LV25 料理人LV21 暗殺者LV19 挑戦者LV10 忍LV10 僧侶LV8

 勢力 地球

 特性 孤独LV9 鎖国LV9 食通LV9

 技能 強打LV19 大強打LV5 打撃LV11 大打撃LV3 強襲LV13 夜襲LV4

    クリティカルLV15 致命撃LV5 毒見LVMAX 毒無効LV7 投擲LV14

    大投擲LV4 命中LV12 大命中LV4 隠密LV18 防御LV12 大防御LV3

    回避LV10 大回避LV3 俊敏LV11 大俊敏LV3 手当LV5 解毒LV5

 迷宮 自動マッピング 特定トラップ無効  

 ?


 技能効果

 強打 通常攻撃の3倍のダメージを与える。重複可

 大強打 通常攻撃の5倍のダメージを与える。重複可

 打撃 強打と大強打の威力が小上昇。重複可

 大打撃 強打と大強打の威力が中上昇。重複可

 強襲 背面攻撃に成功した場合、通常攻撃の5倍のダメージを与える。重複可

 夜襲 暗闇判定される場所での通常攻撃が2倍の威力となる。重複可

 クリティカル 対象の急所に攻撃が当たった場合、通常攻撃の5倍のダメージを与える。重複可

 致命擊 クリティカルが発生した場合、ダメージがさらに2倍になる。重複可

 毒見 食材を見ただけで毒の判別が可能。成長限界

 毒無効 効果の低い毒であれば無効化する 

 投擲 物を投げた時の速度と飛距離が小上昇する。重複可

 大投擲 物を投げた時の速度と飛距離が中上昇する。重複可

 命中 攻撃時、モンスターに少し回避されにくい攻撃を放てる。重複可

 大命中 攻撃時、モンスターにかなり回避されにくい攻撃を放てる。重複可

 隠密 同格以下から見つけられにくくなる

 防御 防御力が小上昇する。重複可

 大防御 防御力が中上昇する。重複可

 回避 敵の攻撃が少し当たりにくくなる。重複可

 大回避 敵の攻撃がかなり当たりにくくなる。重複可

 俊敏 行動速度が少し上昇する。重複可

 大俊敏 行動速度がかなり上昇する。重複可

 手当 対象のHPを少回復させる

 解毒 対象の軽い毒状態を回復させる


 ※重複可能スキルは他スキルの効果と掛け合わせた効果を発揮します

  尚、特性のスキル効果の詳細は、条件を満たさない限り表示されません

  迷宮の効果はダンジョン内限定の効果となります



 HP 650 SP 230 MP 0

 STR 101

 con 97

 AGI 104

 DEX 98

 INT 127

 LUK 76



 青いホログラフに表示される急成長を遂げたステータス。

 あまりの変化に和真はポカンと口を開きながら。


「……成長しすぎぃ。ダンジョンマスターを倒したからか? それ以外に思い当たらない」

『少しは成長できてよかったですね。やっと中級程度ですけど……』


「この新しい項目の迷宮も、やっぱりアーガンを倒したからか?」

『さて? 私が教えることはありませんね。ご自身でお調べになってください。ぷっぷくぷー』


 相変わらずのガイアであったが、恐らくはそうなのだろうと和真は勝手に解釈している。

 正しい答えはどうであれ、これからの冒険は楽になるはずだ。そうなれば、もっと母を楽にしてやれる。

 それが正直な和真の感想だった。


 それから話し合った結果、引越し先も北千住のサンロードダンジョンの近くに決まり、母と二人で慌ただしく荷造りの最中だ。そして。



 ピコポン

『ピコポン』



 そのうち、うるさい友人ともまた討伐隊で一緒になるかもしれない。

 そう考える和真の口元には、何とも言えない笑みが浮かんでいた。

 母と二人、ときどきガイア。ござるを添えて。


 彼の孤独なダンジョン生活は、少しずつ変化を始めたのだった。


ここまで読んで下さった方も。最後だけ読んで下さった方も。


ありがとうございました。

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