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ぼっちの日本迷宮生活  作者: 書創
第一章 ダンジョン冒険者に就職しました
22/39

そして、ぼっちは孤独に戦う vsダンジョンマスター 前編

 冒険者組合本部の田中龍造がダンジョンを閉鎖して一週間。

 その間に和真の周りの環境は随分と変わっていった。


 最初に弓剣隊が北千住のサンロードダンジョンに移り、後を追うように槍隊も続いた。

 実際に後を追ったのだろう。槍隊のリーダーである恭司は、弓剣隊リーダーの宮城明日香に惚れているのは見ていればわかる。こうして二つのパーティは地域から消えたのだ。


 そして、斎藤隊も。


 自己紹介をして知り合った同業者との短い付き合いが終わり、再び孤独に戻った和真。

 さらに駅前ダンジョンが消滅間近と聞いた商店などが、慌てて対応を始めたのは当然だろう。

 武具店や肉屋など、冒険者を客層としていた商売が成り立たなくなるのだ。


 その影響は、もちろん和真にも及ぶ。


「……そうか、佐々木さんも移るのか。寂しくなるな」


 復興支援事務所の担当の言葉だ。

 受付のおばちゃんにも挨拶を済ませた。短い付き合いになったが、またどこかで会うかもしれない。和真はお世話になった人への挨拶回りをして、引越しの準備を始めていた。


「あれから一週間か、ダンジョンは消滅したのかな」


 部屋の中、荷物をまとめている作業中にふと思う。

 田中の話ではそろそろ封鎖が解けるはずだ。今頃、ダンジョンは崩壊したのだろうか。

 それとも、これからするのだろうか。

 そんなことを考えていた和真の手が止まる。


 冒険者になり始めての最初のダンジョン。一年も経っていないのに懐かしく思う。

 和真にとって始まりの冒険。無性に寂寥がこみ上げて、思わず作業を中止して外に出た。


「最後に、駅前ダンジョンがどうなったか見ておこう……」


 冒険者として、関わった者として。最後を見届けたいと思い至る。


『……それはいいですね。私も大賛成です。きっと良いものが見られますよ。ですが念のために、武装していくことをお勧めします』


「……」


 ガイアの不吉な言葉に和真はゴクリと息を飲み込む。

 正体不明の存在からの意味深な忠告。何かがあると感じた和真は急いで部屋に戻り、装備を整えてからダンジョンに走り出した。


「なんだ、何も起こってないぞ」


 駅前に到着してショッピングモールを見るも、建物に目立った変化は見られない。

 周囲に冒険者の影はなくなり、以前の光景が見られなくなった程度だ。

 だがそれは不自然なのだ。


「ダンジョンの封鎖が解かれていない。しかも、見張りがいないのはおかしい」


 違和感。昨日までは見張りがおり、誰もダンジョンに近づけなかった。

 田中龍造は他の冒険者が関わろうとするのを嫌い、直属の部下たちだけで攻略していた。

 何か事情があるのだろうが、邪魔を排除するための見張りを外すだろうか。


 何か嫌な予感がする。何かが起こっているのではないか?

 和真の心にざわざわとした不快音が鳴り始めた。


「……行って、みるか? ガイアはどう思う?」


『私は行くべきだと思いますよ。周囲に誰もいないのは明らかに異常です。冒険者として見過ごすべきではないでしょう』


「……そうか」


 和真は考え込む。ガイアから誘導しようとする意志が感じられたため躊躇したのだ。

 脳内精霊は全ての冒険者にアナウンスをしている存在だ。ならば、田中龍造たちが何をしているかも全て把握できる存在のはず。


 もちろん、和真に語りかける存在と他の冒険者たちに語りかける存在。

 それらが同一人物とは限らない。しかし、ネットの書き込みや研究機関の発表では同一人物がアナウンスをしているとされている。


 何百万人以上いる人間の同時監視か、それとも自動的にアナウンスするシステムなのか。それは明らかではない。熱心な宗教信者の中には神の御使いであり、同時監視する偉大な力を持った大天使だなんだと主張する者もいる。


 しかし、和真は違う予想を立てていた。

 ガイアは神々の一柱であり、今回の騒動に何らかの形で関わっている存在。

 最悪の場合は首謀者の一人なのではと勘ぐっているのだ。


 だが、これはあくまでも推測。妄想の枠内でしかない。証拠なんてないのだから。

 彼は長い熟考を終えて、結論を出す。

 

「迷っていても仕方がない。慎重にダンジョンを調べてみよう」

『…………ええ。それがいいでしょう。何かあったらすぐに逃げればいいのです』


 薄闇の坑道。

 考えた結果、ダンジョンに侵入してみたが内部の様子がおかしい。

 一歩足を踏み入れた和真に悪寒が走る。


「血の匂いが強すぎる……」


『盛り上がってまいりましたね』


 ダンジョン全体に染み込んでいるかのような強烈な血の臭い。

 一体何が起こったのか、田中は無事なのか。和真に不安が募る。

 正直、田中が死んでいる可能性は十分にあるのだ。

 

 同時にアーガンが生きていても不思議じゃない。

 そうなると何が起こるかわからない。最悪の場合は地域にも被害が出るだろう。


(明らかにおかしい。音を立てずに進むか……やっぱり戻るか)


 判断を改めるべきかもしれない。撤退して応援を呼ぶべきかもしれない。

 その考えが次第に強くなる和真。


 しかし、その判断は遅すぎた。



 コツン コツン コツン



 周囲に靴音が響く。

 悪寒が冷や汗となり、和真の思考力を奪う。

 以前にも似た経験がある。あの時、死を覚悟したあの時だ。


(……ま、まさか。アーガンなのか? 最悪だ、逃げなきゃ!)


 心中で狼狽する和真。

 全力で逃げれば撤退は可能かもしれない。

 少なくとも、生き残る可能性はあるはずだ。

 そう思い、足に力を込めようとした時、変化に気がつく。


 コツンコツン コツンコツン


 最初は反響して二重に聞こえていると思い気にしなかった。

 しかし、これは複数人の足音。つまり、アーガンの可能性は低い。

 走っている様子もなく歩いているようだ。


(討伐が終わって戻る途中なのか?)


 冷静さを取り戻す和真。

 その可能性が高いだろう。戦闘中なら足音の間隔も早くなるだろうし、違う音も聞こえるはずだ。純粋に足音だけならばパーティを組んでいる人間の可能性が高い。そう推測するのが妥当。和真は万が一に備えて逃走も念頭に置き接触を試みる。


 前方、靴音の方向よりうっすらと確認できる人影。

 それに向かって呼びかける。


「……田中さんですか? 俺は佐々木です。外に見張りがいないので、偵察に来ました」


 坑道に和真の声が反響する。

 それに反応して人影が止まり靴音が消えた。

 そして。


「……さ、佐々木さん……ですか? ハ、ハハ……私の悪運も、なかなか」


「た、田中さん? どうしたんですか!」


 薄闇の向こうから傷だらけの田中の姿が徐々に浮かび上がる。靴を通して血をひた垂らせて、それでも足を引きずらずに意識を保とうとする人物。

 その姿を確認して和真が慌てて駆け寄ると、田中の後ろから満身創痍の黒服たちが現れる。彼らもなんとか無事のようだ。


「何があったんですか? アーガンですか?」


「いいえ……アーガン、なら、まだよかった。……もっと、悪い……展開ですね」


「……もっと悪い展開!?」


 その言葉に耳を疑う。

 ダンジョンの主であるアーガンよりも悪い展開。意味がわからない。

 そもそも坑道に崩壊の予兆がないということは、アーガンも倒せていないのだろう。

 田中の言葉を脳内で反芻する和真に不安が堆積していく。


「他の、強力な、マスターが……アーガンと、手を組んで……」


 和真に体を支えられて何とか歩きながら話す田中。

 無意識に出口に向かう途中、その口からは想定外の話が語られた。

 

「……他のマスター?」


「ええ……アーガンを、追い詰めたのに……まったく、やっかいな……」


 まさに最悪の展開である。

 底知れない力を感じたアーガンの他にもダンジョンマスターが現れる事態。

 少なくとも、今の和真に何かができる状況ではない。


 組合本部の幹部。実力者である田中龍造すらこの様なのだ。

 しょせん、下級に毛が生えた程度のひよっこでは分が悪すぎる。


「事情は分かりました。とにかく、一旦引きましょう」


「ええ……逃げられれば、の、話ですが……」

 

「まったくだよ。僕から逃げられると思っているのかい?」


 突如、出口の方向から人影が現れる。

 その言葉は、その声は、その言い方は紛れもなくアイツ。

 瞬時に窮地を理解した和真は狼狽して叫ぶ。

 

「何で!?」


「くそっ……ここ、までか……」


「何で? 君は馬鹿なのか? ああ、馬鹿だったか。哀れだね。ここは僕のダンジョンだ。僕の城だ。その主がいるのは当たり前じゃないか。そんなことも理解できない羽虫と再会するなんて不幸だよ。いや幸運だよ。憎たらしい君たちを、僕たちの女神に捧げられるんだから!」


(最悪だ……どうする? どうすればいい!?)


 悪辣なるアーガンとの再会。和真にとっては最悪のケースが実現した。万全な状態でも和真では勝てる気がしない相手。

 アーガンは田中たちとの戦闘で手傷を負っているようだが、それでも分の悪さは変わらない。そのくらいの力量差がある。


 今では田中たち、上級冒険者たちは満身創痍で戦力にならないだろう。

 逃げるにしても、田中たちを見捨てる必要がある。


 今、和真は二択を迫られている。

 一つは戦って死ぬ道。もう一つは田中たちを見捨てて逃げる道。


 生きていれば必ず訪れる選択。人生の分水嶺。

 その決断が人の運命を変える。


「……佐々木、さん。行きなさい……そして、本部に救援を……。我々は助からない……ならば、報告を……頼みます」


「……田中さん、すみません。力及ばずに申し訳ない」


「あー。何やら相談に忙しそうだけど。逃げられると思っているのかい? 前回とは違い逃げられないよ。救援を呼んで来いと言うことは、まだ連絡してないんだろう? つまり助けは来ない。以前のように仲間はいない。僕は頭がいいからね。図星だろ?」


 その通り、図星である。

 討伐隊の時のように仲間はいない、助けは来ない。

 ダンジョンの内部では電波は繋がらずに連絡できない。

 完全に詰んでいるのだ。


「ひとつ聞きたい。他のダンジョンマスターはどうした? なぜ傷を負い、一人で来た?」


 だからこそ、和真は質問したのだ。


「君たち程度、僕ひとりで楽勝だからね。アーズにはもう帰ってもらったよ。そもそも余計なお世話だったんだ。何が「僕が協力しようか」だよ。そっちの雑魚たちなんて僕一人でも倒せてたのに、でしゃばりやがって」


「そうか、一人か。そうか……」


 だからこそ、和真は確かめたのだ。

 アーガンがお喋りな馬鹿であるのに期待して。

 そして、結果は和真が望んだものだった。


「さて、そろそろ終わりにしよう。僕の魔剣オオネズミで女神の下に逝くがいい。光栄に思い、幸せにむせび泣け。偉大なる神に抱かれることに感謝しろ。さぁ、決着を!」


 アーガンは禍々しい魔剣を抜き放ち、和真にその切っ先を突きつける。


「……そうだな。決着は、大事だよな……」


 田中から離れた和真は、初めての友達がくれたチタン製のメイスを握り締めた。


「……さ、佐々木、さん? まさか……無理、だ。あなたの、実力では……」


「……田中さん。改めて、力及ばずにすみません。最後まで、出口まで案内できずに。今すぐ迂回して逃げてください。孤独の特性が邪魔をしますので」


「…………本気、ですか。わかりました。武運を、祈ります」


 彼は選択したのだ。

 見捨てずに立ち向かう蛮勇の道を。

 

 アーガンから逃げ切れる保証はなく、戦うよりも幾ばくかマシな程度だ。ならば、自分に正直に生きたい。

 可能性があるならば逃げるべきだが。それでも、どうせ死ぬのなら理想に殉じて胸を張りたい。


 母を残して死ぬことには強い罪悪感がある。申し訳なく思う。

 それでも、運良く生き延びても田中たちを見捨てた負い目で自分は潰れる。

 和真は自分自身を理解していた。


 目の前にいる誰かを見捨てて生き延びても、その負い目が彼を殺しに来る。

 どんなに正しい判断でも、世間が味方をしたとしても、彼自身がそれを許さない。


 ならば、戦おう。

 田中たちを見捨てず、自分の生も諦めず、母の顔をまた見よう。

 その1%にも及ばない可能性に賭けて。

 

 和真はそう思い、覚悟を決めた。

 メイスを握り感触を確かめる。外に出てから初めて出来た、年下の友人からのプレゼント。

 思えば、こんな立派なプレゼントを誰かから貰ったことはない。人生で初めてだ。

 和真は着ている防具を撫でて、その友人との再会を願う。



「さぁ、ダンジョンマスターアーガン。決着をつけよう!」

「殺してやるよ脆弱な冒険者。お前の傲りを打ち砕き、その魂を僕たちの女神に捧げよう!」

 


 言葉とともに地を蹴るアーガン。

 踏み込んだ大地からは衝撃で砂埃が上がった。

 圧倒的な加速は音を置き去りにする勢いで、一瞬で和真の間合いに飛び込んだ。


 目で追うことが精一杯で、和真は後手に回ってしまう。

 とても怪我人の動きとは思えない。やはり地力が違いすぎるのだ。

 和真は盾をなんとか構えて魔剣の攻撃をそらそうと試みる。


 その直後に放たれるアーガンの斬撃。

 魔剣の切れ味は凄まじく。チタンの盾が削られていった。

 強化プラスチックのままならば、今の一撃で終わっていただろう。


 攻撃をそらしただけ。それだけで威力の余波を受けて体勢が崩れた。


「終わりだよ」


 返す刀で和真の首を狙うアーガン。

 体勢が崩れている無防備な状態に斬撃が迫る。

 しかし、このまま死ぬわけにはいかない。


 こんな所で死ぬわけにはいかない。

 和真は無理な体勢のまま、メイスを体と魔剣との間に無理矢理ねじ込んだ。

 その直後、金属と金属が衝突して耳障りな音が響く。


 同時にチタン製のメイスが魔剣による斬撃でヒビ割れていくのが確認できた。

 ピキピキと嫌な音が和真の耳に入ってくる。


「ぐうぅぁ……メイスがっ……!」


「しぶといな……死んでおけよ!」


 もう立っていられなかった。

 大地に片膝をつき、アーガンの上段からの斬撃をメイスで受け止め続ける和真。

 鍔迫り合いの様な摩擦音がギリギリと坑道に木霊する。


 だが終わらない。アーガンの攻撃は止められない。

 アーガンの膂力に和真は勝てなかったのだ。

 片膝のまま無理をした和真が、ついに押し切られて尻餅を付いた。


「ハハハ……無様だね。今度こそ終わりだよ!」


「くっ!」


 和真を見下して嘲笑うアーガン。

 再び魔剣を上段に構えて、その凶刃を振り下ろす。

 無様に尻餅をついたままの和真は、苦し紛れに盾で防御した。


 次の瞬間、魔剣を受け止めた盾からガギンと嫌な音が鳴った。

 これは和真にとって最悪な音であり、アーガンにとっては祝音である。


「あぁ……盾が……」


「ハハハ……もう、防げないね」


 チタンの盾が二つに割れて、ドサリと地面に落ちたのだ。

 友人から貰った記念の盾。和真にとっては大切な思い出。

 僅かな期間で失ってしまった悔しさ。これは和真にしかわからないだろう。


 盾を持っていた左手からも血が滴り落ちていく。

 貫通した魔剣が和真ごと盾を切り裂いていたのだ。

 だが、その痛みよりも。盾を失った痛みの方が強く和真を責め立てた。


「宮本……ごめん。ごめんな」


「んん? 盾の心配よりも自分の心配をしなよ。まぁ、すぐに君も真っ二つだけどね!」


 再び魔剣が放たれる。尻餅を付いたままの和真の顔面を切り裂く横薙ぎの一閃。

 和真は再びメイスを魔剣の軌道に入れて、必死な悪あがきを実行した。

 その結果はさらなる悲劇。さらなる痛手。


 命の代わりに砕け散ったメイス。まるで金属の破壊音が断末魔の叫びのようだった。

 悲痛で顔を歪ませた和真。それを見てさらに嘲笑うアーガン。その悲しみが、その痛みが、アーガンの嗜虐心を満たしていく。


「本当にしぶとい。君、本当に虫みたいにしぶといね。でも、これで本当に打つ手がないよね」


「ううぅ……」


 傷ついて動かすのもやっとな左腕。

 砕け散った盾とメイス。

 そして、顔を歪ませた和真。


 アーガンにとっての至福の瞬間だった。相手は打つ手なしの虫けらだ。

 その両手には武器はなく、自身を守る盾もない。まさに虫けら、踏み潰して終わりなのだ。


「じゃぁね。これで本当の本当に最期だ。偉大なる女神様の下へ逝け!」


 魔剣による最後の一振。この戦いにおける本当に最後の一振であった。

 加速する斬撃、行き先は首元。哄笑するアーガン、俯いた和真。

 この瞬間、全ての結末は確定した。


(あぁ……こんなにあっさりと終わるのか。【今の】俺の強さではこんなものなのか……)


 覆せない地力の差。圧倒的な武器の性能差。

 その壁はあまりに大きく、その現実はあまりに無慈悲だ。

 和真は諦念を抱き目を瞑る。


 戦うと決めた時から覚悟はしていた。こうなることは予想の範疇。

 自身の無力さを嘆き、決して覆らぬ実力の差を学んだ。


 次の戦いの糧とするために……。


 和真は諦めたのだ、地力で勝つことを。

 和真は覚悟していたのだ、大きな対価を支払うことを。

 和真は知っていたのだ、『孤独』の使い方を。

 そして、ただ一言呟いた。



 「『孤独』発動」



 『使用条件は満たされています。孤独が発動されます。……頑張れ』


 その瞬間、和真の肉体から漆黒のオーラが解き放たれた。

 迫り来る魔剣の刃は、濃密なオーラにより飲み込まれていく。


「――――なっ!? なんだよ! これは!」


 狼狽するアーガン。

 眼前にあるのは濃密な『闇』。

 すでに和真の姿は見えず、坑道は暗黒に飲み込まれていく。


「一体何をしたんだ!? くそっ! 離れなくちゃ」


 慌てて『闇』から距離を取るアーガン。

 しかし、迫り来る『闇』の侵食速度は彼の回避をも上回った。


「ぐあぁっ! い、痛い。痛い痛い痛い痛い。は、離せぇ!」


 剣を持つ腕が飲み込まれていく。その『闇』はアーガンの肉体を捕食するように貪り始めて、抵抗しようにも『闇』を触った箇所から飲み込まれていくだけだった。


「あぁぁぁ゛あ゛! いっだい゛ぃィ」


 激痛に顔を歪ませるアーガン。

 今まで味わったことがないような痛みだったのか、涙を流し叫びながら食われていく。

 肉体は蝕まれ、まるで瘴気によって穢されていく生物のようだ。


 アーガンは懸命に抗うように手足を振り回していた。

 しかし、腕も足も飲み込まれていく。胴が、胸が、首が、顎が、鼻が、耳が、目が、頭が。徐々に徐々に、じわりじわりと蝕んでいき、アーガンの叫び声すらも『闇』の中へと消えていった。

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