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ぼっちの日本迷宮生活  作者: 書創
第一章 ダンジョン冒険者に就職しました
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ぼっちとござる ぼっち編

 数日後の朝。



 ピコポン

 『ピコポン』


 ピコポン

 『ピコポン』



 おい、やめろ。

 ござる一人に悩まされているのに、何故ガイアも真似をする。

 しかも完璧に着信音をトレースして音を出している。どんなスキルなんだ。


 今日もござるからの爆撃を受けて、電源を切ろうかと悩んでいる俺。最近は特に酷い。悪乗りした脳内精霊のガイアまで便乗するのだ。誰か、侍と脳内精霊に特攻の技能を教えて欲しい。そう願い、俺はガイアに文句を言う。


「おい、やめろ。ストレスで禿げそうだ」

『私は一向に構いません』


「いや、俺が構う。頼むからやめてくれ」

『仕方ないですね。貸し一つですよ?』


 どんな悪徳商法だ。

 迷惑かけてる奴の言うセリフと思えない。

 間違いなくコイツは悪魔などの邪悪な存在に違いない。

 俺はますます脳内精霊ガイアの存在に恐怖する。


 そして、いつまでも無視はできないので携帯を恐る恐る確認した。

 すると俺の目に、予想外の内容が映りこんだ。



宮本奥菜「北千住ダンジョンに移ることが正式に決まったでござる。しかも、移動は明日に行う予定なので、すぐにお別れでござるよ。急な話でござるが、寂しがらないで欲しいで候。そこで相談でござるが、今から拙者と二人で買い物に行かぬでござらんか? 大変世話になっていた冒険者の知り合いがいるのでござるが、お礼のプレゼントを選ぶのに付き合って欲しいのでござる。背格好も佐々木殿と同じくらいなので、色々と参考にしたいのでござる。よかったら、拙者の最後の頼みを聞いてくれると感謝感謝でござるよ」


 

 そうか、弓剣隊は北千住に拠点を移すのか。この地域は平和になるけど、冒険者が流れて商店の存続が心配だな。


 それにしても、ござるはお別れにプレゼントを用意するつもりなのか。空気は読めないが、律儀なやつだな。俺と同じくらいの冒険者とは誰だろうか。

 そう思いながら、俺はござるに返信した。最後の頼みくらい快く引き受けようと。

 

宮本奥菜「おお! 引き受けてくれるでござるか。流石は拙者の見込んだ永遠のライバルでござるな! では、今から1時間後に元交番横の公園で待ち合わせで大丈夫でござるか?」


 ライバルになった覚えなどないが、仕方ない。

 一時間もあれば充分間に合うだろう。

 俺は大丈夫とだけ返信して着替えを始める。

 いつものジーパンにいつものシャツ。これで準備完了。


『そんなラフな格好でいいんですか?』

「ん? 十分だろ。買い物の付き合い程度で面倒くさいし」


『はぁー。これだからぼっちは……』

「ぼっち関係ないだろ!」


 あるのか? いや、俺にとっては関係のない話だ。

 なぜ服装に気を使う必要がある。動きやすくて洗濯しやすい、コストパフォーマンスのいい服と言えばこの格好に限る。


 そもそも、調査員との話し合いの後日に、ある理由から一度みんなと会っているのだ。

 その時も適当な格好だったので今更な話だ。

 俺はガイアに惑わされることなく家を出て、待ち合わせの場所に向かう。そこに。


「やっと来たでござるか、ギリギリでござるよ」

「あ、あぁ。時間通りだろ?」

『いや、早めに来いということですよ。察しなさい』


 女性物の浴衣姿で待っていたござるがいた。

 ダンジョンや組合で見る武装した姿ではなく、普段着の姿なのだろう。

 その仕草は女性らしく、とても似合っており着こなしている。

 ギャップのある姿を初めて見て思わず動揺した。


「あー、っと、どこに買い物に行くの?」


「武具屋でござるよ。男性冒険者の武具を買いたいのでござる。そこで佐々木殿のアドバイスが欲しいでござるよ」


「わかった。ここからだと近くのピッコロルだな」

「そうでござる」


 ござると徒歩数分の場所、高架下の武具屋ピッコロルに向かう。

 俺もメイスや強化プラスチック製の装備を購入した数少ないお店だ。

 入店して店員と挨拶を交わし商品を見渡す。


「どんな物を買うんだ?」


「それも含めて佐々木殿と相談でござるな。同じ男子として好みを聞きたいでござる。佐々木殿が買いたいと思っている武器や防具を参考に教えて欲しいでござるよ」


『そこのカツラみたいな兜がお勧めですよ。ぷぷー』


 んー。俺が欲しい装備か。

 ゴーレムとの戦闘でメイスや防具が傷んだし、お金も入ったから買い替え時かな。

 もっと良い装備を買うとしたら……。


「俺はメイス系を愛用しているから、他の人の参考にならない気がする」


「別にいいでござるよ。あくまでも参考程度でござる故。軽い気持ちで選んで欲しいでござる」


 そう言われてもね。改めて考えると難しいもんだ。

 今までのコミュ不足のツケなのか、選択を迫られると尻込みする。


「そうだなぁ。俺ならこのチタン製の装備が欲しいな」


『強化プラスチック男が調子に乗ってますね。今に痛い目にあいますよ』


「錆びにくく耐久力がある金属でござるね。ステンレス製よりも優れた技術で造られている高級武具でござるか」


 数十年前の地球ではチタン製品は高級金属で有名だった。しかし、その技術が確立して大量生産に成功した現代では、その加工技術もさらに進み、比較的に安価で購入できるようになった。ステンレス製品よりは高いがそれほどでもない。


 高級と言えば高級かという程度だ。ゴーレムの魔石を売った小金持ちの俺には安い買い物である。本当は大金持ちになっていたが、分配してしまったので小金持ちだ。それでも気分がいいので後悔はない。僻まれるのも嫌だしな。


「相手の冒険者の実力次第だけど、ステータスが高ければ重装備でも問題ないからね。できれば相手の強さがわかればいいんだけど」


「強さも佐々木殿と同じくらいでござるな。この地域での平均くらいでござろう。佐々木殿はどのくらいの防具なら装備できるでござるか?」


 なるほど。俺と同じくらいなら選びやすい。だから俺に頼んだのかと納得する。

 じゃあ、そうだな。


「それなら戦闘用のチタン合金製武具一式がいいかな。俺もそのうち買い換える予定だしね」


「なるほど! かなり参考になったでござるよ。お礼に昼食をご馳走するでござる」


『……この反応は』


 ござるも喜んでくれたようで何よりだ。

 お昼も近く、お礼に奢ってくれるとのことだ。

 普通は男が奢るものだと思うけど。まぁ、かなり稼いでるからいいか。


 俺たちは近所のめし処で平日ランチを一緒に食べて。

 帰り際、とぼとぼと歩きながらお互いのことを話した。

 これが今生の別れにもなり得たし、隠すようなこともない。

 

 ござるは弓剣隊での出来事や仲間の話など楽しそうにしている。羨ましい。

 俺からはソロでの活動内容やどこに住んでるかなど、どうでもいい話ばかりだった。

 パーティのことを話せるござるが眩しく感じる。妬ましい。

 そして。


「今日は本当に助かったでござるよ! 短い間だったでござるが、楽しかったでござる。ありがとう」


 ござる……いや、宮本奥菜は今までに見せたことのない満面の笑顔を見せながら、俺の胸をコツンと小突いた。


「あぁ。俺も楽しかったよ。ありがとう。また、何処かで」


 ああ。奥菜の無事を祈るよ。

 こんな世界でも、知り合いがいなくなるのは寂しいもんな。

 お互いに、この日本のどこかで長生きできるといいな。

 ぼっちの俺と買い物するなんて変わった奴だよ。本当に。

 ありがとう。また、どこかで。どうせ携帯でも連絡取れるし、寂しくはない。


 そして、弓剣隊は街から去った。


 その後を追うようにして槍隊も北千住に向かったそうだ。

 斎藤隊はわからない。彼らの実力ならこの辺のダンジョンは余裕だろう。

 きっと気ままに決めるに違いない。なぜなら俺たちは冒険者なのだから……。



 数日後。



 我が家に珍しいお届け物が届いた。

 誰からだ? 差出人は不明。実に怪しい。 

 恐る恐る中を開けると、梱包された荷物と一緒に手紙が一通入っていた。

 俺は手紙をとり、中を読み始める。


 拝啓 


時下ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

あれから拙者たちは北千住の新たな拠点にて活動を開始し致しました。

佐々木殿がどうするのかは分かりませんが、どうか無理せずにご自愛ください。

ところで、前にも一度言いましたが改めて手紙で言わせて頂きたく思います。


ゴーレムの魔石を討伐隊全員に分配する姿勢は素晴らしいです。誠実さを感じます。

ですが、冒険者はそこまでする必要はないのです。救助されたことに負い目があったのかもしれませんが、救助を行うのは部隊として当然。ですが、魔石はゴーレムを討伐した佐々木殿の貰いで当然。勿論、佐々木殿がパーティを組んでいれば分配は必要です。ですが、パーティを組んでいない者が討伐隊全員に払う義務は生じないのです。お人好しは美徳ですが悪徳にもなる。拙者はそう思い、しつこいとは思いますが、再度書いて言わせて頂きました。ご無礼をお許し下さい。さて、そこで拙者からのお返しです。お人好しの佐々木殿では貯金ができずに金欠のことと思いますので、何故か魔石の分配でお金が余っている拙者からのプレゼントをお受け取りください。返品はお断りします。

お互い、また生きて会えるといいですね。


 敬具  

                         宮本奥菜


 


 梱包を開けると、中にはチタン製の装備一式が入っていた。


 なんだろうな、この気持ち。

 きっと俺は、この日のことを忘れないと思う。

 ぼっちの俺を気遣ってくれて、本当にありがとう。

 ありがとう。


 手紙だと語尾が普通なんだな。


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