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ぼっちの日本迷宮生活  作者: 書創
第一章 ダンジョン冒険者に就職しました
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ぼっちとござる ござる編

 

 無事、田中わびすけとか言う冒険者組合の幹部により、明日香は復帰したでござる。

 何やら回復の技能というかなり珍妙な能力を持っているらしく、拙者を含めたメンバー全員の前であっという間に治してみせたのには驚いたで候。


 兎にも角にもありがたい。大切な仲間が傷物にならずに再起したのだ。

 これ以上の喜びはなく、拙者は田中わびすけに言ってやったのでござる。



「お主、なかなかの実力者でござるな! いけ好かない輩とも思ったが、その腕は見事。天晴れでござるよ。拙者よりも背が高く、実力も十分。容姿は残念でござるが、男の価値は顔ではなく実力と甲斐性だと思うのでござる。故に、お主がどうしてもと言うのであれば、拙者との婚姻を前提としたお付き合いを考えてやらんこともないでござるよ? なぁに、覚悟さえあれば遠慮はいらぬ。拙者は見た目通りの傑物であり、心の広さには定評があるでござるが故に」


「いえ、私は結婚しているので。謹んで辞退させていただきます」


「なんと! すでに既婚者でござったか。指輪を付けておらぬが故に勘違いをしてしまったでござる。許されよ、田中わびすけ殿。いやはや、恥ずかしい限りでござる。確かに貴殿ほどの実力があれば、並みのオナゴはコロリやもしれぬな。これからも精進してより高みを目指して欲しいでござるよ。強敵と書いて友と呼ぶ其れがしとの約束でござるよ?」



 そう言うと、田中わびすけは満面の笑みを見せて拙者にこう言った。



「ええ、お互いに切磋琢磨して頑張りましょう。それでは失礼します」


「(え? 田中さん未婚ですよね?)」

「(うるさいですよ。頭がおかしい人に触れてはダメです。行きますよ)」

「(あっ(察し))」

「(僻地の冒険者は怖いですね)」



 何やら黒服の部下たちとこそこそ話しているが、拙者の器の広さと容姿に惚れたのやもしれん。罪な女でござるよ。



「ござ……奥菜。昨日は本当にありがとうね。皆もありがとう。私のミスで迷惑をかけたわ」



 明日香が頭を下げて謝ってくる。

 確かに戦闘中によそ見をして隙を見せるなど言語道断でござる。

 しかし、反省している者を追い詰めても無意味でござろう。



「なぁに、仲間でござろう? この程度、大した事ではないで候。次からは気をつければよし」

「そうよ。今回は散々だったけど、何時もは明日香に負担かけてるんだから。たまには副リーダーの私にも頑張らせなさい」

「oh~友情ですネー。メイリーも混ぜてくださ―イ」

「ふふふ、人間はミスをする生き物だから。仕方ないわよ」



 仲間の励ましの言葉に涙ぐむ明日香。これが仲間、これがパーティ。

 実にいいものでござるな。ボーナスが貰えることも決まり、拙者らは依頼の打ち上げと明日香の快気祝いを兼ねて贅沢にも外食を行うことにしたで候。


 場所は駅前ダンジョンの駅を挟んだ向かい側。

 そこに未だに現役の居酒屋があり、なかなかに旨いのでござる。

 オススメは串焼きにピッチャーのハイボール。かなりお手頃価格でお気に入りの店。

 今では拙者も18になり、堂々と酒も嗜むでござる。


 このご時世、酒は貴重で高いものでござるが、置いてある処には置いてあるものでござる。今日は祝い酒だと張り切って、みなとたらふく食べるでござるよ。



「店主殿! 串焼き5本セットにハイボールピッチャーで! とりま5人分で候」


「へい、まいど!」


「ござる、勝手に頼まないで欲しいんだけど……」



 静は文句が多い。あと、最近は拙者のことをござると呼ぶでござる。喧嘩を売られている気がするのでそろそろ買おうか検討中で候。しかし、拙者は大器故に優しい目をしてこう言うのだ。



「静よ。まずは拙者の奢りでござる。ありがたく食べるがよいでござろう」


「……はぁ。ありがとう。ありがたくいただくわ」



 そして注文の品が運ばれてくる。

 揚げたて焼きたての串焼きが香ばしくて食欲を刺激する。

 だが抑えてまずは一言。



「今回の依頼の達成と、明日香の快気を祝い。乾杯でござる!」

「「「乾杯」」」



 乾杯の挨拶は手短に簡潔にするのが拙者の流儀。

 5人での打ち上げでは拙者が音頭をとるのが常でござる。

 乾杯とともに串焼きに齧り付き、ハイボールを流し込む。美味し!



「ぷはぁ~。ここの串焼きはゼッピンで~ス」

「うん。相変わらず美味しいわ。できれば魅力的な男性もいれば最高なんだけど」

「菜々子はいつもそれね。3人と付き合ってるのに、まだ足りないの?」

「3股は感心せぬでござるよ」

「お子様の意見ね。明日香と奥菜は男性と経験して大人になりなさい」


「ぷふぅー。そんなことより、副リーダーの私としては、これからの活動の話がしたいわ。駅前ダンジョンが潰れるなら引越し先を考えないと……」



 そうでござった。快気祝いの場に相応しくない会話でござるが、早めに話し合って行動しておいたほうがいいでござろうな。新たな職場を探す気分でござる。



「引越しデスかー。しずしずのお勧めはありま~スカ?」


「近場だと北千住、金町、西新井、上野が有名ね。都心部に近づくほど強力なモンスターが出るダンジョンが多くて危ないから、私たちの実力ならこの辺りがいいと思うわ」


「うーん。北千住と上野は有名ね。金町と西新井は詳しくないから調べないと何とも言えないわ。こんなリーダーだけど、命を預かる以上は情報が少ないダンジョンには行きたくないな」


「そうね、私も同じ意見。その中なら上野がいいかしらね。いいお店と男性がいそうだし」


「どんなモンスターが相手でも一刀両断でござるよ! けふっ」



 流石にハイボールをピッチャーで一気飲みは堪えるでござるな。

 拙者は空になったピッチャーを店主に掲げ。



「ピッチャーおかわり! クイーンラットの煮込みも頼むでござる」


「へい、まいど!」



 今日も元気でお酒がうまい。

 話し合いの結果、一番近い北千住になったでござる。

 まぁ、お酒も回っているため、後日改めて相談して変更もあり得るでござるが。

 一応の予定として決まったので候。そして、その帰り道。



「本当にありがとね。皆、いつも、私なんか、リーダーなのに……。助けて貰ってばかりで」



 泣き上戸の明日香が再びめそめそと謝り出す。

 その話は終わったのでござるのに、引きずり過ぎでござるよ。



「明日香。大丈夫でござる。この中には仲間を許さない小心者などいないでござるよ!」

「そうよ。ござるの言う通りよ。たまには良いこと言うわね」

「イエース。オケツの小さいヤツはいませ~ン。みんなナカマでス」

「そうねー。いつまで引きずってても仕方ないわ。また5人で頑張りましょう」



 みなで励ますと、再びポロポロと涙を流す明日香。

 面倒くさいでござるな! だが、これぞ仲間でござる。

 気の置けない仲間だからこそできるやり取り。最高でござる。


 そう思った拙者に、ある人物が脳裏を過ぎる。

 それは、決してパーティを組めない可哀想な男子。


 長期間の孤独を経験した者だけに発現する、呪われた特性を持つ者。

 佐々木和真、その人物を思い出したのでござる。


 彼はこんなに素晴らしい仲間を一生持てないのであろうか。

 共に笑い、共に涙し、共に困難を越えていく仲間。

 それに手が届かないぼっちなのでござろうか。


 そう思うと、無性にやるせない気持ちになる。故に。

 拙者が構ってやるしかござらんな!

 そして、拙者は懐から携帯を取り出して。



 ピコポン

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