内心ではドキドキしながら自己紹介をした
「おう、早いな。もう来てたのか」
その声に、待合室の視線が集まり空気が引き締まる。
昨日の討伐隊立役者、斎藤博文がようやく顔を見せた。
次いで、いつものメンバーも顔を出す。
「おはよう。ネズミの……いや、佐々木さん。元気そうでなにより」
「おはよう! 全員元気そうだ。良かった良かった」
「ちーっす。おはようございまっす」
弓剣隊も含めて、それぞれが挨拶を交わす。
これで入院組を除けば全員揃ったことになる。槍隊のメンバーは全員入院中のため参加できないのが気の毒だ。いや、むしろ幸運なのか。
これから冒険者組合本部の調査員と情報のやりとりという面倒な仕事があるのだから。和真としては本調子ではないため、家でゆっくりと休みたかった。
「お早う御座います。斉藤さん、昨日は本当にありがとうございました。改めてお礼を」
「はっ! いつまで気にしても仕方ないだろ。こっちもゴーレム討伐してもらって助かったんだ。お互い様だ」
照れくさそうに頬を掻きながら素っ気なく応える斎藤。
しかし、実際に彼のおかげで助かったのだ。宮城明日香と槍隊が倒れた後、討伐隊を的確に指揮して窮地を救ったのは間違いなく彼だ。脱出後に転進して救援に向かったのも含めて。少なくとも、斎藤がいなければ和真は切り捨てられた可能性すらあったのだ。
斎藤が入室した時に空気が引き締まったのもそれが理由だ。
この場にいる全員。斎藤の実力と指揮能力、そして判断力。それらを疑うものは一人としていない。実力者を前に、空気が引き締まるのは当然のことだった。
そして、担当や本部の方々が来るまで談笑が始まる。昨日の件がきっかけとなり、交流を持つ機会となったのだ。
相手の顔くらいはダンジョンや事務所ですれ違ったり、噂で聞いたりと知っているが、そこまで深い接触はしてこなかった。軽い挨拶や世間話が精々だ。和真に至ってはそれが顕著であった。
「そう言えば、俺、佐々木さんに名前教えたっけ?」
「いえ、知りません。よかったら教えてもらえますか?」
「あぁ、やっぱり。教えた覚えがなくてね。遅れたけど、改めて自己紹介をしよう」
和真の社交辞令に過ぎない。正直、興味はない。しかし、これからもダンジョンですれ違う同業の方々なので、失礼なく聞いておくことにした和真。
彼は斎藤隊のナンバー2。和真のことを「ネズミの人」や槍隊を「槍」と呼んでいた人物だ。
身長は和真よりも低く、175cm前後だ。さっぱりした性格に感じる。見た目は斎藤に次いで逞しい実力派だ。彼の自己紹介が始まる。
「名前は安藤剛、歳は29。もうすぐ三十路になりたくないけどなる。よろしくな」
「年下だったんですか……。では俺も。佐々木和真、31歳。よろしくどうぞ」
「あ……年上だったんですか。タメ口ですみませんでした」
「いえいえ、俺も安藤さんのこと年上だと思ってました。ははは……」
11年も引きこもっていると、肌が焼けずに童顔になりやすい。そのため、和真は臆病な性格も災いして20代そこそこに間違われやすい。
ただでさえ、モンスターの肉を食べると肉体が漲り若返ると言われているのだ。
周りから実年齢よりも若いとはよく言われていた。
もっとも周りとは、母と肉屋のおじさんと前の担当の3人だけだが……。
「マジですか。年上だったんですか、同い年くらいだと思ってました。俺の名前は山本寛。ヒロシと呼んでください。24です。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくどうぞ」
彼は斎藤隊のナンバー3。和真をよく「ネズミ狩り」と呼んでいた青年だ。身長は安藤さんよりも低く、170ちょっとだろうか。少し格好良い顔だなと和真は羨む。
「最後は俺っすね。俺は最近になって斉藤さん所でお世話になってる新人です。名前は本田誠人、20歳ちょうど。よろしくっす」
「よろしくね」
最後の彼は斎藤隊の新人。身長は和真と同じくらいか、やや和真が上か。髪を黄色に染めており目に悪い。顔は眉目秀麗と言える。ここまで来ると、僻む気持ちよりも別世界の住人に思えるので、和真は心中で素直に賞賛する。
「何やら自己紹介の流れでござるな? では、拙者も改めて名乗るでござる。宮本奥菜18歳。宮本武蔵の生まれ変わりだと思うでござる。特技は剣術と弓術。仲間とは同じ高校で弓道部に所属していたで候。剣術は柳生新陰流兵法を学び、居合が得意でござる。一体一ならストーンゴーレムを一刀両断にする自信ありで候。好きな食べ物は外で食べるバーベキュー。嫌いなものは焦げた玉蜀黍。趣味は剣術の練習など己を鍛えること。夢はダンジョンを全制覇して世界征服。好きなオノコのタイプは質実剛健で拙者よりも背が高い者でござるな。ちなみに其れがしの身長は160cmだから全員合格でござる。あとは切磋琢磨して高みを目指して欲しいでござる。最近のお気に入りは逆立ちしながら――」
「はい。佐藤さんの自己紹介をお願いしてもいいですか?」
「……ええ、何か本当にごめんなさい。私の名前は佐藤静、18歳。メンバーと同じ高校で弓道をしていました。弓の腕は一番あると自負しています。一応は副リーダーですが、特に何もしていません。よろしくお願いします」
そう言うと、可愛らしくペコリと頭を下げた。
その時に弾む物体は何なのか、経験のない和真は思わず考え込む。
身長は奥菜とほぼ同じなので160前後だろう。綺麗な黒髪で前髪をパッツンとオカッパにしており、メガネを掛けているのが特徴だ。顔は見ていて落ち着く、普通の女性だ。苦労人なようで好感が持てる。
「次はメイリーですネー? 弓道ブー18歳で~ス。生まれたのアメリカ合衆コクで、ジャパンに来てましタ。母がジャパンね。好きなフードはアイスクリームデス。彼氏募集中デース、AHAHA」
可愛らしくはにかむメイリー。
ブロンドの髪を奥菜と同じくポニーテールにして揺らす姿が愛らしい。
見ていると、こちらまで元気を分けてもらえるような女の子だ。身長は奥菜や静よりも少し高い。
「では、最後に私ですね。高野菜々子と言います。歳は18。剣も弓も両方得意ですね。あまり、男性とは会話したことがないので緊張しますわ。優しく手解きをしてくださる方が好みです。以上ですね」
髪を真紅に染めた長身の女性、高野菜々子。
水の流れのように美しい髪は、どうやって染めて手入れをしているのか。このご時世、美容院で染めてもらうなんて贅沢は厳しいはずだ。姿勢は理想的で、スラリと伸びた手足はモデルと言われても疑わない。一つ一つの振る舞いが女性らしさを際立たせており、男女問わずを惹きつける魔力を帯びているようだ。
まるで、脳内でアナウンスをしてくる存在。あの声の主、その本体だったとしても驚かない。
それほどの美貌。彼女の金色の瞳に見つめられた和真は、確かに背中に冷たいものが流れるのを感じた。 ゾクリと体が震えたのだ。それは、美しさに当てられた男性の性か、それとも恐怖か。どちらにしても、和真は何故か彼女に恐怖心を覚え、逃げ出したい気持ちになっていた。
菜々子は和真を見つめて、にっこりと女神のように微笑んでいる……。
『ああー暇だわー本当暇だわー誰かに相手して欲しいわー』
「…………」
「まさかな」その言葉を飲み下し、皆との挨拶が終わった。その後に緑茶のおかわりが届き、普段の仕事の話などで時間を潰したメンバー。
それから1時間。あまりにも遅いので苛立ちが生まれ始めた頃。
ようやく冒険者本部より、今回の事件の調査員、幹部の方が到着したようだ。受付から話し合う声が聞こえて、足早にこちらに向かってくる靴音が数人分。
そして待合室の扉がノックされて、その直後には扉が開く。
「いやぁー。遅れてすみませんね。色々と事情があったのでご理解ください。私は日本冒険者組合本部から来ました田中龍造と申します。以後、お見知りおきを。こちらは私の部下たちですが、覚える必要はありませんので。では、さっそく。昨日のことを詳しくお聞かせください」
待合室内。幹部の調査員、長身でメガネを掛けた田中龍造が先頭で入ってきて早々。自己紹介を終えてソファーに座り、早急に説明を求め始める。後ろからは4人の黒服、SPのような男たちも入ってきて田中の後ろに横列に並んだ。
その態度からは、時間が惜しいと急かされるような圧を感じる。
「では、私から質問させていただきましょう。ダンジョンマスターと名乗った人物と最初に接触したのは、報告によると佐々木和真さんと言う方らしいですが、貴方ですね? 写真で見るよりも少々若く見えるのは、よほどモンスターを食べたようですね。結構なことです」
田中はテーブルの上に肘をつき、指を組んで顎を乗せる。そして、ジッと和真を上目遣いで観察する。
しばらくして、満足したのか気色悪い笑みを見せ、和真に質問を始めた。
まるで、尋問のようにじわじわと。




