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ぼっちの日本迷宮生活  作者: 書創
第一章 ダンジョン冒険者に就職しました
16/39

ござるの恐ろしさを学ぶ

 その後、幸運なことに何事もなく。彼らは脱出に成功する。

 意識を失った和真は、しばらくして。


「おう。目は覚めたか?」


 体の不調から立ち直り、重い瞼を開いた。

 目の前には、30代半ばを過ぎた中年男性のイカツイ顔が浮かんでいる。

 寝起き早々、見たくもないおっさんの顔を見せられた和真は呟く。


「……ここは?」


「復興支援事務所にある医務室だ。症状から特性の副作用と判断して、病院じゃなくて医務室に運んでベッドに放り込んだんだよ」


「……なるほど。斉藤さんが運んでくれたんですか? みんなは無事ですか?」


「覚えてないか? そうだ、俺が運んだ。他にも深手を負ったのが数人でたが、全員無事だ。命からがら脱出したわけだ。ゴーレムは討てなかったがな。まぁ、オオトカゲ100体ちょいにクイーンリザードを仕留めたんだ。クイーンリザードの牙しか証拠は持ち帰れなかったが、報酬はふんだくるつもりだ」


 そう言うと、斎藤は肩を竦めて苦笑した。和真の知らないところで、討伐隊の方も危機的状況に陥っていたらしい。兎にも角にも仲間は無事。その報告を聞いた和真はようやく安堵のため息を吐いた。


「あぁ、ストーンゴーレムなら倒しましたよ。証拠の残骸の欠片と魔石もあります。依頼は成功ですよ」


「なっ!? 一人で仕留めたのか? そうか、だから特性を使ったのか! まったく、無茶しやがる。一歩間違えれば死ぬんだぞ? だがまぁ、よくやった。報酬の引き上げ交渉はまかせろ」


「……ハハハ。お任せします」


 和真の討伐報告に目を見開いた斎藤。しかし、すぐに納得したように頷き、厳しい顔を綻ばせた。和真は笑い返し、上体を起こしてベッドから下りようとした。そこに。


「あっ!? 目を覚ましたでござるか?」


「おお、佐々木さん。無事ですか? 体調の方は?」


 医務室に二人が顔を見せる。ござると担当の人が驚いたような、安心したような。そんな表情で和真の下に行き尋ねる。


「はい。もう大丈夫です。ご心配おかけしました」


「全くだ。だが、無事でよかった。始末書や報告書で大忙しになるところだったよ」


 などと言い。担当のおっさんは照れ隠しなのか「ハハハ」と頬を掻きながら破顔した。

 本音もあるのだろうが、仲が悪いわけでもない仕事相手に死なれるのは寝覚めが悪いのだろう。ましてや、説明された依頼内容よりも難易度がかなり高い危険な任務を人手不足で決行したのだ。担当者が悪いわけではないが、居心地が悪かったのが本音だろう。


「無事でよかったでござるよ! ぼっちのまま死ぬなんて可哀想でござるが故に」


「……し、心配かけたようで。あと、べ、別に、ぼっちじゃないので」


「ハハハ、またまたご冗談を。無理をせずともいいでござる。拙者もネットで情報収集はしているでござるから、孤独の特性を持っている哀れな者たちの性格に少々理解があるでござるよ。せめて其れがしが友人になってあげるでござるから。気を落とさずに喜ぶでござるよ。拙者は自惚れているわけではござらぬが、なかなかの容姿と自負しております故、自慢できるでござるよ? あくまでも友人としてではござるが、これでぼっちは卒業。孤独ではないでござる。ただ、あまり馴れ馴れしくLineやメールを送られても困るでござるが故に、あくまでも親しき仲にも礼儀ありでいこうでござる。もっとも、拙者からはバンバン連絡を送るでござるから、寂しくないでござるよ。安心したでござるか? 良かったでござるね。これからもよろしくでござる。さっそく連絡先を交換するでござるよ」


「「「(……うっぜぇ)」」」


 ござる猛攻。

 無礼にもズケズケと心の傷をナチュラルに抉るスタイルのエセ侍。

 空気の読めないことで有名な宮本奥菜こと、エアーブレイカー(空気破壊)ござるの二つ名は伊達ではなかった。ついに真価を発揮して和真に迫る。その場にいた面々も渋い顔をして小声でぼそっと。

 

「(顔面殴りてぇな……)」

「(こいつに報酬払いたくないな……)」

「(腹パンして黙らせたいな……誰がぼっちだ、くそ)」


 などと、それぞれが呟いた。

 それが聞こえていないござるの猛攻は続く。


「拙者、男子と恋仲になるなら其れがしよりも強く、賢く、勇敢な男子と決めているのでござる。しかし、不運が故に生まれてこの方18年間。未だにお眼鏡にかなう相手がいないのでござる。一度はなかなかの強者がおり、婿にしてやってもいいと伝えたのでござるが、何故か辞退されてしまった経験があるでござるよ。思えば、拙者の気高さや強さに付いてこられない、そんな気概のないオノコだったのでござろうな。拙者、軟弱な者には惹かれぬが故。佐々木殿も日々精進して頑張るでござるよ!」


「あ、はい(聞いてねぇよ。黙ってろ)」


 黙っていれば容姿端麗なござる。しかし、黙ることはなさそうで、致命的な欠陥を抱えていると言っていい。美しい黒髪のポニーテールを揺らしながら、彼女のどうでもいい独白が続いていく。それに嫌気が差した男3人は。


「では、詳しい話は待合室でしましょう。実はストーンゴーレムも倒したんですよ」


 和真は証拠の欠片を取り出して担当に見せた。


「なっ!? 本当に? ……確かに本物だ。これなら依頼は完遂と判断して報告できる。オオトカゲの証拠はないが、クイーンリザードの証拠はあるから群れがあったのは確実。討伐した可能性が高い以上は文句は出ないだろう。本部と掛け合って報酬の増額を相談してみる」


「おお、話が早いじゃねーか。これから俺が交渉しようと思ってたんだが助かる。なんとか増額してくれ。割に合わないからな」


 詳しい話し合いを行うため、3人は医務室から移動する。

 そこには、興奮して独白を続けるござるの姿だけが残されていた。



「あれ? みんなはどこに行ったでござるか?」



 それから情報の整理や報告など、色々な事で時間を消費した。何よりも衝撃を与えたのは、和真による驚愕の報告だった。

 駅前ダンジョンの主、ダンジョンマスターと名乗るアーガンの登場。


 そのアーガンが語った興味深い内容の数々。その報告は、復興支援事務所と冒険者組合を大変混乱させたのだ。詳しい情報を収集するために、冒険者組合本部からは幹部が調査に来ることも決まり、駅前ダンジョンを巡る地域の情勢は、少しずつ変わっていくことになるのであった。


 そして和真の長い長い一日が終わりを迎える。その夜。


「ただいまー。疲れたぁ」


「お帰りなさい、和真。ご苦労さま。も~。今度からは夕方よりも、もっと早くに連絡してよ。夕飯時に帰ってこないから心配しちゃったじゃない!」


「ごめん。今日は本当に忙しくて、連絡すのも忘れてたよ。気をつける」


「そう。大変だったのね? それならしょうがないわ。次からは気をつけてね。夕飯温め直すから、その間にお風呂でさっぱりしちゃいなさい」


「わかった。ありがとう」


 疲れきった肉体をなんとか動かし汚れを落とす。夜食となった夕飯を味わい、終わる頃には睡魔が和真を襲い始めていた。堪えながら歯磨きを終えて、ようやく自室のベッドに潜り込む。きっと今日は、ぐっすりと眠れるに違いない。考えることは多いが、全ては明日からだ。そう思い、重い瞼を閉じる。すると。


『悪運の凄さに驚きました。これからも頑張ってください。応援しております()』


「はいはい。もう眠たいから、話は明日にしてくれると助かる。どうせ正体とか聞いても教えてくれないし、また今度ね」


『ええー。もっとお喋りしましょうよ。私は眠る必要がないので暇なのです』


「脳内アナウンスさんはネット世界だと有名で、美少女として擬人化までされてるよ。彼らと好きなだけイチャイチャすればいい。喜ばれるよ。じゃあ、おやすみ」


『起・き・ろ! 起・き・ろ! さっさと起きなきゃしっばくぞ!』


「……」


『……』


「……ぐぅ……ぐぅ……」


『……ふぅ。仕方ないですね。では、また明日』


 意識を手放して暗闇に堕ちる。微睡みは安らかな寝息となり、和真はようやく眠りについた。

 オオトカゲとストーンゴーレム討伐依頼から始まった今回の騒動は、これからが本当の始まりとなるのだ。

 そのことを、今はまだ知らない駅前ダンジョンの地域冒険者たち。彼らが目指すものの先には、一体何があるのだろうか……。そこに。



 ピコポン ピコポン



 突如、謎の音が耳を打つ。びっくりして目覚める和真。音の出処を探ると、自身の携帯から聞こえてくる。

 母以外、冒険者組合と復興援助事務所と肉屋くらいしか登録先がない携帯に起こった異変。


 それは、あの後に無理やりに連絡先を交換させられて登録した人物からだった。



宮本奥菜「やっほーでござる。まだ起きてるでござるか? 拙者は起きてるでござるよ。これからはよろしく頼むでござる。実は拙者、あの剣豪、宮本武蔵の末裔だと思っているのでござる。剣の才能からして間違いないと思うのでござるよ。故に、佐々木殿には何かを感じるのでござる」


 ピコポン


宮本奥菜「あ、でも。何かを感じるとは言っても懸想とかではないでござるので、勘違いはしないで欲しいでござる。あくまでも友として、いや。強敵と書いて友と呼び合う仲になれる可能性を感じているのでござるよ」


 ピコポン


宮本奥菜「何故ならば、佐々木殿は……そう。もうわかるでござるな? そうでござる。佐々木殿は嘗ての剣豪、宮本武蔵のライバル。佐々木小次郎の末裔である可能性が微粒子レベルであると思うので候。だからこれからは、ライバルとして友として仲良くしようと思うのでござる」



 ピコポン



 和真は電源を切って眠りについた。



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