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世界改創  作者: 巫ホタル
7/8

【第六章】狂いし歯車

反異能者団体からの襲撃。

神への疑念。

そんな中現れた、新たな異能者。

それぞれが複雑な思いを抱える中、状況は更に……。

明かりが消え、暗く静まり返った船内に月光が降り注いでいる。

その船全体を一望する時計台。

皆が寝静まった船内で、一人の青年が時計台の最上階に佇んでいた。

人の目では辺りが見え辛い、深夜。

しかしその青年にははっきりと見えていた。

ベージュ色の、癖の付いた髪を風に靡かせて船内を見下ろす青年、紫雲しうんには、昼間と変わらない景色が見えているのだ。

と言っても、別に何か目的がある訳でもない。

夜にここを訪れるのは、この船に来てからの習慣だった。

最も、その事を知っているのは一人だけだが。

「今夜は何が見えるの、紫雲」

不意に聞こえた少女の声。

酷く澄んだ鈴の音のような、しかし落ち着いた声。

その声だけで、誰か分かった。

いや、"確信した"と言う方が正しい。

何故なら紫雲には、彼女が来ていると分かっていたから。

階段を登ってくる足音が、彼女のものだったから。

「やあ、瑠色るい。夜更かし?」

「そっちこそ」

十四歳とは思えない程美しい容姿の瑠色。

銀色の髪と青紫色の瞳は夜の暗闇によく映える。

隣同士で並ぶと肩下程の小柄な身長。

大人びて見える真っ直ぐな視線が目下を見下ろし、言う。

「神様は私達を…この世界を、どうしたいのかな……」

「…………」

その問いに答えられたのなら、自分達の歩む道はもっと違っていただろう。

きっともっと、明るく幸せな道だっただろう。

異能者であったが故に両親から捨てられ、誰にも受け入れられず、自身の能力をひた隠している紫雲。

異能者であったが故に両親を殺され、兄と引き離され利用されていた瑠色。

この二人の心の傷は、十五人の中でも重傷の部類だった。

「……瑠色は、どうしたいの?」

穏やかで優しい紫雲の声が、夜風に紛れて耳に届く。

「私は……」

どうしたいのか。

神なんて関係ない。

"自分は"どうしたいのか。

「皆を、守りたいよ。やっと見付けた…銀兄がくれた、私の居場所だもん。絶対、護るよ」

小さな身体。

幼い面差し。

しかしその全てに込められた、"護りたい"という意志。

その言葉は静寂に包まれた夜の暗闇の中に、静かな熱を持って放たれたのだった。

「ん……?」

「? 紫雲?」

暗闇の中で耳を澄ます紫雲。

人並外れたその聴力で聞き取った、遠くで鳴る微かな物音。

「誰か、歩いてる……」

「こんな夜更けに?」

「うん」

「…………」

紫雲の言葉に、瑠色は瞳を伏せた。

深呼吸の後、一瞬息を止めて、瞳を開く。

遠くを見据える青紫色の瞳は、普段よりも暗い色へと変わっていた。

また、彼女の周囲には同色の光線が浮き上がっている。

瑠色の能力《魔眼》は催眠誘導を可能とする能力。

相手の深層意識とメタモルフォーゼする事で操るというもの。

それに加えてもう一つ。

"千里眼"をも併せ持つ。

相手の位置を見通す、遠距離での視認を可能とするものだ。

最も、瑠色は遠視以外は使おうとしないのだが。

「あれは……ウォンとユリズ?」

長く豊かな水色の髪を緩く結い、カーデガンを羽織っているウォン。

そしてその隣を歩く、桃色短髪にパーカーを羽織ったユリズ。

このような真夜中に、一体何をしているのかと、瑠色と紫雲は顔を見合わせた。




「ごめんね、ウォン。こんな遅くに、付き合わせちゃって……」

「構いませんよ。慣れていない場所では何かと不便でしょうし、いつでも気軽に声を掛けて下さい」

「うん……ありがとう、ウォン」

湖の周りを歩きながら他愛のない会話をしていた二人。

「皆って、お互いの事をどれだけ知り合ってるの? その、例えば過去の事とか……」

ユリズが不意にそう尋ねた。

少し驚きはしたが、当然の疑問であると思い、ウォンは微笑んで答えた。

「そうですね……それぞれ抱えているものも少なからずありますから、仲が良い相手にだけつたえている、という人が殆どだと思いますよ」

「へぇ……。能力の事とかも……?」

重ねて問い掛けるユリズに、ウォンも変わらず優しく答える。

「んー、私がよく知らないのは瑠色と紫雲くらいですかね。彼に至っては一度も能力を使っている所を見た事がありません。嫌っていると、以前言っていました」

「自分の能力なのに……?」

哀しげに微笑むと、ウォンは空を見上げた。

その夜空に浮かぶ月を見上げて、言う。

「自身の能力を好いている人って、どれくらい居るんですかね……」

「……能力、なくなって欲しい?」

そんな事を訊いてくる。

能力がなくなって欲しいか、何て。

「……そうですね。夢見た事はあります。自分が普通の人間だったなら、どんな風に生きていただろうって。けれど……」

ウォンの言葉を遮ったユリズ。

不意に手を取り、言った。

「大丈夫だよ」

「ユリズ……?」

何が、大丈夫だというのか。

ただ、一つ。

ユリズの雰囲気が、変わった。

そして暗闇の中で、光線が浮かび上がった。

目を凝らさないと見えないような、透明ながらも光る光線。

「ユ、リズ…何を……っ」

透明な光線に包まれた瞬間、突然身体に違和感を覚えた。

身体が妙に軽くて、冷たい。

遠のいていく意識の中で、薄く笑うユリズの姿が見えた。

(ユリズ…貴方は、何を……?)




「ウォン!」

同時刻。

時計台最上階では瑠色が目を見開き、声を上げていた。

その隣では紫雲も言葉を失い、呆然としている。

「行こう、紫雲!」

「待って」

「紫雲……?」

ウォンの下へ駆けて行こうとした瑠色。

しかし紫雲が腕を掴み、それを制した。

紫雲の意図が掴めず、戸惑いの視線を向ける瑠色を諭すように紫雲は言う。

「ユリズの目的と正体が分からない現状、今彼女達の下には行くべきじゃない。微かにしか聞こえなかったけど、二人が言い争っているようには聞こえなかった。だから恐らくウォンは無事だ。なら夜明けを待って、皆を集めるべきだと思う」

真剣な眼差し。

普段は一人で居る事を好み、目立つ事を嫌う紫雲だが、実際は咲夜さくやぎんにも劣らない程に頭がキレる。

そしてその事を、瑠色はよく知っていた。

「……分かった。紫雲がそう言うなら、そうしよう」

不穏な空気の中、去り際に届いたユリズの声。

"もう苦しまなくて良いからね"


* * *


「ユリズ、これはどういう事か説明して貰えるかな。ウォンに何をした」

時計台一階にある講堂。

ミーティングルームとも言えるその場所に、早朝ながらも二人を除く全員が顔を揃えていた。

二人、ウォンと咲夜を除いて。

大扉の前に座るユリズ。

一同の視線を集める彼女は戸惑いの表情でか細く声を漏らした。

「えっと…皆は何を……」

「惚けても無駄。昨日の夜の事、私と紫雲は知ってる」

ユリズの言い分を冷たく論破する瑠色。

そしてユリズは、再び黙った。

「貴方の目的は、何?」

瑠色が鋭い視線を向ける。

同時に、その瞳が色を変えた。

その僅かな変化に気付いた紫雲、銀、クルルが一瞬警戒態勢に入った、が。

不意に開かれた扉により、それは杞憂となった。

「ウォン! 目が覚めたんですね!!」

「ええ。心配掛けてごめんなさい、キリア」

安堵の表情でウォンに駆け寄るキリア。

対してウォンも柔らかく微笑み掛けた。

しかし、

「いいえ、ウォン。本当に無事で良かった」

という一言に、ウォンは一瞬瞳を波打たせ、次いで哀しげに微笑んだ。

そしてその隣に立つ咲夜の拳に力が入った。

咲夜が一歩踏み出そうとすると、しかしウォンが先に前に出て、言った。

「ユリズ、私の"力"返して?」

ウォンの発した言葉に、全員が目を見開いた。

ウォンは、何を言っているのかと。

「目が覚めた時、私の能力は失われていました。……私に何をしたんですか? 貴方は、何がしたいんですか?」

「ウォン……」

思わず、しゅんが声を漏らした。

何故ならウォンから感じ取れたのは、怒りではなく哀しみだったから。

室内が静寂に包まれた。

全員が驚愕に身を凍らせ、動揺に目を見開いていた。

その中、ユリズが瞳を伏せて俯いた。

そして、

「……あはっ、あはははははははは!」

突然、ユリズの雰囲気が変わった。

声色も、面差しも。

「ユ、リズ……?」

キリアが不安そうに眉根を寄せる。

そして不意に、春が声を上げた。

「キリア、気を付けてください!」

「! 春……?」

「何故かは分かりませんが…ユリズさんの心が見えません。恐らくは、彼女の能力だと思うのですが……」

「そうだよ」

「!?」

春の推測を肯定したのはユリズだった。

そして、続ける。

「あたしの能力は《封神》。貴方達十五人を封じる為に、神様から与えられた力だよ」

淡々と、当然とでも言うように、そんな事を言うユリズ。

「神様、って……」

「あたしが仕え、従い、神と呼び敬うのは《創成神》唯一人」

《創成神》

それは世界を生み出し、また《世界改創》による《最後の審判》を彼等に言い渡した、この世界の唯一神。

その神が、"十五人を封じる為に、ユリズを遣わした"……?

「君は…何……?」

シルバーとがそう訊いた。

するとユリズは不敵に笑い、答える。

「あたしは《創成神》により作られた《人工異能者》の一人。反異能者団体ロストに所属する使徒」

《ロスト》

その名前には、全員聞き覚えがあった。

現在地上で最も強大で強力な反異能者団体だ。

「《ロスト》って、まさか……っ」

アルが唇を戦慄かせてそう言った。

そして、

「そうだよ。先日この船を襲撃したのは《ロスト》の先遣部隊。彼等の任務は君達の調査と《火》の能力者、主要人物の特定だったんだ。……君達って、案外チョロいよね」

ユリズが皮肉めいた口調で言葉を並べた。

誰も、言い返せなかった。

しかし一人疑問を持った人物が声を発する。

「《火》の能力者、だけかい?」

「「…………」」

クルルが言うと、銀と紫雲が表情を曇らせた。

その質問の意味を、察したから。

『私達が会いたくなかった危険人物は二人。攻撃力に特化した《火》の能力者と、催眠誘導を可能とする《魔眼》の能力者。それだけです』

そう、言っていた。

しかしユリズが言ったのは《火》の能力者だけ。

だから訊いたのだ。

するとユリズは「ふっ」と笑い、言う。

「何も聞かされていないんだ? 《魔眼》の瑠色。彼女は昔……」

「やめて」

ユリズは、全てを知っているのだ。

白い肌から更に色を失くして、瑠色がか細く拒絶するが、ユリズはやめない。

「彼女はロスト日本支部の実験場に居たんだよ? 異能力研究の被験体としてね」

「嫌……っ」

「そこで何をさせられてたか分かる?」

「やめて……っ」

「《非覚醒異能者》の覚醒化実験の被験体を何人も操り、泣き叫ぶ彼等を強制的に戦場へ向かわせ殺してたんだよ」

ダンッ!

その一瞬の衝撃音の後、全員が一斉に身構え、息を飲んだ。

肩を小刻みに震わせ縮こまる瑠色。

そしてその痛々しい姿に激昂した銀が、《想造》によって造り出した刃をユリズの首筋に突き立てていた。

「ちょっ、銀!」

「君等の目的は何や。何の為にここに来た。今すぐ言わへんなら喉元掻っ切るで?」

酷く冷たい、聞いた事のない声。

怒気の中に狂気までもが滲んでいる。

銀の激怒している姿は、皆初めて見た。

「待ちなさいよ、銀! いきなり刃物向けるなんて……っ」

「悪いけど、いくら君の言葉でも聞かれへん。こいつらのせいで、瑠色が今までどれだけ苦しんできたかっ」

セシルの言葉でさえ、今の銀には届かなかった。

「ははっ。君は《想造》の能力で私達の同胞を沢山殺したものね。私一人を殺すくらい、訳ないか」

鈍色に光る刃物を前にしても、ユリズは平然としていた。

変わらず、狂気的な笑みを浮かべていた。

「じゃあ、良いよ。教えても」

まるでプレゼントを前にした子供のように。

明るく、無邪気に笑うユリズ。

楽しそうに笑って、言う。

「君達が与えられた使命は偽りの命。神様は……」

直後。

船が大きく揺れた。

「なっ、今の音は……っ」

「また敵襲か!?」

キリアとアルの声に続き、ユリズが再び不敵に笑う。

「君達は《ロスト》にとって、神にとって邪魔な存在。いくら君達と言えど、反異能者団体の全てを相手にするのは難しいんじゃないかな?」

最中も、船への攻撃は止まない。

それどころか、勢いは増す一方で。

「ユリズ……っ」

キリアが喰って掛かろうとした瞬間、一際大きな衝撃が皆を襲った。

そして、

「ユリズ」

聞き覚えのない声が響く。

「団長。早かったですね」

船内に突如現れたのは黒い外套に身を包んだ男。

団長と、呼ばれていた。

「ん? ……ああ、懐かしい顔が居るな」

とある一点に目を留めると、男は不気味に笑った。

その笑みを見て、少女は身を凍らせた。

「カリム…ヨクシエル……ッ」

瑠色の瞳には、恐怖が映っていた。

カリム・ヨクシエル。

それが《ロスト》の総統の名。

「久しいな、使徒。魔眼の悪魔」

「……っ」

瑠色を被験体とし、覚醒化実験を行わせていた男だ。

「フッ、まぁ良い。ユリズ。時間が無い。やれ。神の意向を叶えろ」

「了解し……」

「よくもまぁここまでの虚言を思いついたものよなぁ、人間」

『!?』

再び聞こえた声に、十五人は一斉に目を見開いた。

「神の意向とな。よもや私の名を使うとは、覚悟は出来ておろうな、人間共」

床に届く程の長い、透き通るように薄い水色の髪。

意志の強そうな、凛とした面差し。

白い肌。

華奢な手足。

色の薄いワンピースを纏うその姿は、この世のモノならざる儚げな印象を持たせる。

そしてその人物こそが、

「唯一神…どうしてここに……」

神楽かぐらがそう呟くと、カリムとユリズは目を見開いた。

彼女、《創成神》に会った事のある者は、世界にただ十五人の少年少女、彼等のみなのだ。

「元気そうで何よりね、皆」

柔らかく微笑むその笑みには、皆覚えがあった。

しかし、カリムに向けた冷酷な瞳には、覚えがなかった。

「カリム・ヨクシエルと言ったか。私の名を語りこの子達に偽の情報を与えた。自らの生み出した、洗脳したそこの少女を送り込み、世界を破滅させる為に」

唯一神の言葉には強さがあり、それが真実であるとその場の全員に知らせる。

そしてその真実に、ユリズが目を丸くし、動揺を見せた。

「洗、脳……? 団長、どういう事ですか……?」

戸惑いに揺れる瞳。

その瞳を見ないまま、カリムは深々と溜め息を吐いた。

「《非覚醒異能者》を探し出し、両親を殺して集め、自らが真の神の使徒であると虚言を教えこみ洗脳し操る……よくもここまで非道な事を行えるものよ」

神の言葉と信じて疑わなかった、ユリズの目に涙が浮かぶ。

信じていたのだ。

両親を殺され孤児となった自分達を保護し、手を伸べてくれた恩人であると。

しかし神本人から告げられた真相は、彼女の心を深く傷付けるには充分だった。

前話に引き続き、それ以上にご無沙汰してしまい大変申し訳ありませんm(_ _)m

こう考えると何て所で更新停止していたのかと思いますが、次話完結予定です。

是非ご一読ください。

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