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世界改創  作者: 巫ホタル
6/8

【第五章】船の異変

反異能者団体の襲撃を受けた一同。

能力を行使し撤退させる事には成功したが、意味深な言葉を残していかれてしまった。

混乱の中、十五人はどうするのだろうか……?

 反異能者団体の襲撃を受けた数時間後。

 空はすっかり晴れている。

 しかし相反して、船内の雰囲気はこれまでに例を見ない程落ち込んでいた。

「皆…暗いね……」

 呟く程度の小さな声。

 発したのはこの船で最年少の、小柄な少女。

 ぎんの実妹、瑠色るいだ。

「まぁ、当然かな……」

 そしてそれに答えたのは一人の青年。

 普段はよく一人で居る、紫雲しうんだった。

 襲撃の場に居なかったメンバーにも事の顛末は伝えられている。

 襲撃直後に開かれた緊急ミーティングにて、シルバート、リリ、リケイが一部始終を話したのだ。


 * * *


「ーーとまぁ、こんな感じかな? 今現在で分かる事は四つ」

「一、彼等が反異能者団体の構成員である事。

 二、彼等も多くの異能者を従えてくる事。

 三、かなり大きな後ろ楯があると思われる事。

 四……」

「奴等の目的は、世界の滅亡である事、だ」

 シルバート、リリ、リケイが順に状況を整理すると、一同は揃って表情を曇らせた。

 反異能者団体からの直接攻撃は、別に今回が初めてという訳ではない。

 しかしここまで大掛かりな襲撃は初めてだった。

 過去の襲撃者達には、やはり何処か恐怖めいた雰囲気があった。

 それ故に、大した害にはならなかったのだが。

 今回はむしろ、確信のようなものすら窺えた。

 そしてその理由も、皆大体の見当は付いているのだ。

「世界の滅亡を望んでいる…"誰か"が奴等の背後に付いている……?」

 神楽かぐらが眉を潜めながらそう言うと、それにキリアが反応する。

「世界の滅亡を望む人間が、この世の中に居るのでしょうか……」

 すると不意に、しゅんが口を開いた。

「あの、セシルちゃん……? 何か思い当たる人物が居るのですか? 心が、とても乱れているように”見える”のですが……」

 心配そうに眉を垂らす春。

 対して急に声を掛けられたセシルはハッ、とした表情で顔を上げた。

「あ、いいえ、何でも……」

 セシルにしては珍しく言葉を詰まらせている。

 その様子に、精神状態が纏うオーラの色調で”見える”春でなくとも違和感を覚え、皆首を傾げた。

 またタイミング良く、今までこの場に居なかった三人が講堂に入ってきた。

 扉が開かれると、一斉に視線がそちらに集まる。

「お待たせー!」

「何やえらい時間掛かってもうてなぁ。堪忍してなぁ」

「遅くなったのはアルが邪魔してたせいだけどねぇ~?」

 船の修繕に出ていたアル、銀、クルルが若干騒ぎつつも各自の席に座る。

 修繕班がこのメンバーになった理由は単純。

 この船に居る期間が長いからだ。

 方法として、三人で記憶を辿りつつ、それを銀が《想造》で具現化させるという作業。

 ”アルが邪魔してた”というのは、中々銀に構想が伝わらなかった事を言っているのだろう。

「お前が邪魔してきたんだろ、クルル!」

「僕は真面目にやってたじゃないさ。君がずっと呻いてるから無駄に長くなったんだろう?」

「はぁ!?」

「もう、二人ともやかましいわ」

 銀が心底参ったという表情で抗議の声を上げると、見かねたりゅうが仲裁に入る。

「二人とも落ち着いてください。お互いに頑張ってくれたんですよね? ありがとう、アル、クルル、銀もね」

 最後に銀を言い忘れないのは流石紳士というべきか。

 琉の言葉にすっかり大人しくなったアルとクルル。

 ふぅ、と一息吐くと、銀も席に着いた。

 そして全員が揃った為、ミーティングの本題を咲夜さくやが切り出す。

「さて、今後俺達が最優先にすべきは襲撃者についての情報収集。中でも、彼等の背後を探るべきだと思う。そこで皆の話を聞きたい」

 咲夜の話に、一同は頷いた。

 それに咲夜も薄く微笑み、

「じゃあ、誰か思い当たる人物…または組織に心当たりのある人は居るかい?」

 と重ねて問うた。

 すると不意に、

「”人物”、ねぇ……」

 そう言って銀が苦笑した。

 全員が彼を見遣り、代表して瑠色が口を開く。

「銀兄…何か知ってるの……?」

 小首を傾げて問う瑠色に、銀はふっ、と笑う。

「ん~、せやなぁ。何やこれは、言うたら意見分かれそうやと思てな。せやからセシルも言わへんかったんとちゃうか?」

 苦笑しつつそう言うと、銀はセシルに視線を向けた。

 セシルは何処か渋い表情をしている。

 また、銀は暗に、セシルから説明するよう促しているのだ。

 その事に気付いていたセシルは一つ溜め息を吐くと、話し出した。

「……皆は、自分達の現状に違和感を覚えたり、その状態を作り出した神に、疑心を持った事はない?」

 その発言に、銀を除く全員が目を丸くした。

 それはつまり、《創成神そうせいしん》に疑いを持っているという事だから。

「何を根拠に、そう考えている?」

 リケイが問うと、セシルは落ち着いた声で、続ける。

「……一つ、世界の滅びを記した伝承がある」

「旧約聖書の創世記、”ノアの箱船”の事を言っているの……?」

 小首を傾げてそう言ったウォンに、セシルは頷く。

「堕落し切った人類を一掃し、大地を甦らせたという伝承。この話が真実ならば、神は一度世界に干渉しているのよ」

 一同は、何も言わなかった。

 言えなかった。

 もしセシルの言葉が正しければ、分からなくなるから。

 自分達が集められ、旅をしてきた理由も。

 そもそもの存在意義が、揺らいでしまうから。

 その中で、唯一口を開いた者が居た。

「私は……神様、”信じない”」

 全員の視線が彼女一人に集まった。

 彼女、瑠色の下に。

「……理由は、あるのかい……?」

 普段から感情が抜け落ちているかのように表情が乏しい瑠色。

 しかし今回は珍しく、微かに不機嫌の色が表れていた。

 もっともそれを見て取れたのは、彼女と近しい数人と、感情の変化を視覚的に感知出来る春だけだったが。

 クルルの問い掛けに一瞬口をつぐむと、不意に立ち上がり、瑠色は一人講堂を後にした。

 そしてその後を追い、紫雲も出ていった。

 取り残され、動揺と混乱を隠せない一同。

 その中で、銀とセシルだけは取り乱さなかった。

「神を”信じない”、か……」

 ポツリ、と声を漏らした銀。

 流石のセシルもその意図を汲み取れず、首を傾げる。

 セシルの反応にふっ、と苦笑すると、

「”信じられない”の、間違いやろ……」

 そう、銀は言った。

「……何が言いたいの?」

 訝しげに銀を見遣るセシル。

 しかし銀はその視線に構わす、宙を見上げて薄く失笑を浮かべた。

「ここに居る十五人であっても、全員が同じな訳やあらへんいう事や」

 銀が何を思ってそう言ったのか、その場の誰一人として理解出来なかった。

 ただ、春のみは違和感を抱いていた。

 自嘲気味に声を発した銀の心が、酷く不安定である事に気付いたから。

 しかしその理由を訊く事は、しなかった。

 それは、聞いてはならない気がしたから。

 心の奥深くにある、暗い部分に触れてしまう気がしたから。


 * * *


 講堂を出ていった瑠色は、そのまま自宅へは向かわず、三階に上がる階段を歩いていた。

 そしてその後を、紫雲が追う。

 不意に瑠色かも足を止め、言う。

「……どうして付いてくるの…紫雲」

 その声は普段通りの冷静な声だった。

「それ、本気で訊いてるの?」

「…………」

 紫雲の問いに、瑠色は応えなかった。……応え、られなかった。

 視界が歪んで、嗚咽を堪えるのが精一杯だったから。

「……君が一番、複雑なのかも…しれないね……」

 それは瑠色の過去故に。

 幼い少女に刻まれた、残酷な記憶。

 通常なら朧気になってしまう年齢の、しかし鮮明に脳裏に焼き付いてしまった地獄の三年間。

「君に地獄を見せたのも、そこから助けたのも…神様だからね……」

 瑠色に苦痛の運命を課せたのも、この船に招き入れたのも、神本人だ。

 ならばこそ複雑だろう。

「まだ、見るの? ……あの夢を」

 夢。

 悪夢。

 人を操り、殺し、殺させる夢。

 瑠色の過去を鮮明に映し出す、悪夢。

 以前はそのせいで、夜な夜な銀の下へと駆けていっていた。

「……ごめん。嫌な事を訊いたね」

 紫雲が小声でそう謝ると、瑠色は下唇を噛み、再び足を進めた。

 恐怖を振り払おうとするかのように、早足で歩き出した。




「二人が居なくなってしまったけど、仕方がないね」

 瑠色と紫雲が退出した後の、講堂。

 一同は何処と無く重苦しい空気の中に居た。

 咲夜が口を開くと、全員が顔を上げる。

「……一人、また来るそうだよ」

 その一言に、皆真剣な表情に変わった。

「神から、そう報告があったのか? 新しい異能者がこの船に来ると?」

 リケイが訊くと、ウォンが瞳を伏せて頷いた。

「何だってこんな時に……」

 キリアが困惑気味にそう呟く。

 そしてそれは、全員が思っている事だった。

 神に疑惑が掛けられている今、神の言葉を信じるのは……。

「信用出来るのか?」

 となる。

 神楽の問いに、全員が押し黙った。

 そんな事、分からないから。

 けれどここに、矛盾が起きる。

 神が自分達をこの場所に集めた。

 そしてその神を疑うとするのなら……もう何を信じれば良いというのか。

「……ほんなら、僕がその人見張っといたるよ」

 銀の一言に、皆が目を見開いた。

「銀、貴方……正気?」

 狼狽したままそう尋ねてくるセシルに、、銀は肩を竦めて苦笑した。

「ああ。どちらにせよ、招かん訳にはいかへんやろ。その人も、異能者やろうしなぁ」

「それは…そうだけど……」

 何故か曖昧に言葉を濁すセシル。

 その意図を知ってか知らずか、

「何や、君に心配して貰えるなんて光栄やなぁ」

 などと冗談めかして言う銀に、

「なっ、心配なんてする訳ないでしょうっ!」

 と目を見開いて抗議の声を上げるセシル。

 怒号とは裏腹に赤く染め上げられた顔。

 そんな表情で反論しても全く効果などない。

 けれど、

「僕は大丈夫。丈夫やし、仲間を疑うような事はしたないからな」

 なんて言って、銀は柔らかく微笑む。

 その笑みに、セシルは何かを言おうと口を開くが、しかし何も言わなかった。

 ”仲間”

 その言葉の意味を、悟ったから。

 恐らくは同じ異能者としての、”仲間”。

 異能者であった故に人間に拒絶され、命を狙われてきた銀。

 そんな彼は優しさなどではなく、自分の過去に重ねて、受け入れると言い出したのだろう。

 同じ思いを持つ異能者にまで拒絶される悲しみを与えないように。

 気まずい空気が室内に満ちる。

 そしてその空気の中で口を開いたのは、咲夜だった。

「銀だけに背負わせるつもりはないよ。勿論全員でやろう」

「ええ。当然です」

 咲夜の一言に、ウォンも頷く。

 いや、全員が頷いていた。

 唯一納得のいっていない様子の、セシルを除いて……。




 翌日。

 神から報告を受けていた小さな街外れの森に、一時船を降ろした、

 そして乗船してきたショートヘアの、黄緑髪の少女。

「はじめまして。ユリズ・フォルティクトといいます。どうぞ宜しくお願いします!」

 にこやかにそう言ったユリズ。

 第一印象としては明るい少女。

 見た所十五、六歳程だろうか。

 黄緑色の落ち着いた印象を受けるショートヘアの髪と整った容姿が大人びた雰囲気を纏わせているが、対して丸く大きな瞳と絶やさない無邪気な笑みに幼さが窺える。

「僕は服部はっとり咲夜。こちらこそ宜しく、ユリズ」

 咲夜が微笑むと、続いてウォンもユリズに向き直る。

「私はウォン・レイ。気軽にウォンと呼んでください」

 ウォンがニコッ、と微笑み、そして何故かユリズは頬を赤らめた。

 全員が小首を傾げると、慌てて言う。

「あっ、あっ、ごめんなさい。ウォン…が、あまりに美人で、つい……」

 その答えに苦笑する者、頷く者。反応はそれぞれだった。

 何にせよ、疑心の色はなかった。

 皆普段と同じように、笑っている。

 無論、そう出来ない者も居るが。

 結果、この場に瑠色、紫雲、セシルの姿はない。

 全員が同じ境地に居る訳ではないのだ。

「建物自体は沢山あるんだけど……多分汚れてるから。ユリズは今日ウォンとキリアの家で休んで貰えるかな?」

 咲夜が言うと、ユリズは頷き、

「はい! お邪魔でなければ!」

 そうウォンとキリアに向き直った。

 二人は微笑んで頷き、その後すぐに三人で講堂を離れていった。


 * * *


「……どう思う?」

 三人が去っていった講堂の中。

 残る十人で話し合いが行われた。

 咲夜の一言に全員が首を捻り、まず最初に銀が口を開いた。

「見てた感じ、悪い子には見えへんかったなぁ。嘘吐いてはるようにも見えへんかった」

「私もそう思います。彼女に心は、至って平常でした」

 と春も続き、なればこそ一層首を捻った。

 ユリズは嘘を吐いていない。

 しかしそれは、ユリズを信用するに足るものなのだろうか。

 自分達に害を成す存在ではないと判断する理由に、なるのだろうか。

 それはあの笑顔に裏がないと言い切れる、確かな理由になるのだろうか……。

「どうもこうも、今は様子を見る他ないだろう。この場に居る全員で奴を見張る。それが現状での最善策だ」

 淡々とそう述べたのはリケイだった。

 困る、悩むといった様子はなく、ただ普段通りに冷静に発言をする。

 が、中には情に流されやすい者も居るのだ。

 まさに現状の、春のように。

「”見張る”なんて……もっと他に言いようがあるじゃないですか……。仲間を、まるで敵みたいに……」

 戸惑い気味に言う春。

 そして彼女に対し、珍しくも情け容赦のない言葉を投げたのはクルルだった。

「悪いけど、今それを聞き入れる事は出来ないよ。誰が敵かも分からない現状なんだ。僕はこの船に元から居た十四人しか信じないよ」

 冷たく良い放つクルルに、春は言葉を詰まらせた。

 彼女の思いは決して偽善ではない。

 それでも、クルルの考えは全員の意思である事を、春も分かっているのだ。

 重苦しくなってしまった室内。

 そんな曖昧な空気の中、結論も出ないまま、その場はお開きとなった。




「わぁ、綺麗なお部屋ー! 二人はここに住んでるの?」

 花が綻ぶような明るい笑み。

 嬉々として建物内を歩き回り、見回しているユリズ。

 その後を追いながら、ウォンが言った。

「ユリズには使っていない奥の部屋を使って貰いましょうか」

「そうですね。何ならずっとここに居ても良いんですよ、ユリズ」

 ニコッ、と笑顔で同意するキリア。

 和気あいあいとした空気が流れ、

「ありがとう、ウォン、キリア」

 と、ユリズも自然に笑っていた。

 年頃も近い三人。

 それだけでも打ち解けるには十分な要素だ。

 終始明るく接してくるユリズに、ウォンとキリアの疑心はすっかり解けていた。

 ユリズは仲間なのだと、思い始めていた。

 そんな頃、ウォンとキリアの家に来客があった。

 扉のノック音が聞こえ、ウォンが出る。

 扉を開くと、立っていたのは二人の少年。

「あら、咲夜に神楽。どうしましたか?」

「うん、ちょっと。様子を見に」

 ふっ、と微笑んで咲夜が答えると、ウォンも微笑んで頷いた。

「キリアは?」

 そう神楽が尋ねると、

「奥でユリズと一緒に居ますよ」

 とウォンが答えた。

 が、その矢先に、

「あたしはここですよ?」

 というキリアの声が、ウォンの真後ろから響いた。

 見るとユリズも居る。

「キリア、今ちょっと良いか?」

 言うとウォンと咲夜は静かにユリズを連れて中へ入っていった。

 恐らくはリビングに向かったのだろう。

 扉が閉まった事を確認すると、口を開く。

「……気を付けろよ、キリア」

 何処か気遣わしげな、神楽の声。

 何に、気を付けろと言うのか。

 何を根拠にそう言ったのかは分からない。

 しかし、無言で去っていく後ろ姿に、キリアは何かを感じ取った。

 そしてその事を追求する事も、否定する事も、キリアはしなかった。

 ただ神楽の姿が見えなくなるまで、行く道を見詰めていた。

ご無沙汰してしまいましたが、ようやく【第五章】を書き終えました。

お待たせしてしまい申し訳ありませんm(__)m

けれど懲りずに最後までお付き合いくださると嬉しいです。

今後とも宜しくお願いします!

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