はじまり2
「え、なに、あれ…?」
妹のつぶやきで我に返った。同時に、このままではマズイ、という危険信号みたいなものが体中に奔りだす。
「…!リナ、こい!」
そばにあった木箱。リナの手を取り、木箱の陰に滑り込む。
何とか、見られなかったみたいだ。
「お、兄ちゃん…」
震える妹を安心させるように抱きしめてやる。それでも、妹の視線は目の前に伸びているバケモノの影にくぎ付けだ。
「大丈夫…大丈夫…!」
静かに、励ます。妹だけでなく、自分のことも。そう、大丈夫だ、ばれてないんだから―――
「ひ、ひぃ!」
―――!?
「た、助けて、…助けて、誰か!」
影が、いつの間にかもうひとつ増えている。女の人、だ。助けなきゃ、いけない。で、でも…
「だ、誰かぁ、あ、あああーーー!」
バキャ、ゴン、という音。
続く静けさに背筋が寒くなる。どうしたらいいんだろう。まだ生きてるのかな。今なら間に合う?でも―――
ガリン、バリン。
―――え。あ、この、音は。どうしよう。まだ、まだ…
ガリン、バリン。
…無理だ。恐怖と嫌悪感。自分の体が、鉛かなにかに感じるくらい。重くて。
全く動けなかった。自分が見つからないように、小さくなって息を殺しているのが精一杯だった。
「ひぃっ…」
自分の胸元で聞こえた小さな悲鳴。しまった、と思った時にはもう遅かった。
押し殺していたけれど、それは、確実に。
「グルう…グルルルル…」
化け物に、気づかれてしまった。