第一章 4日目 壊れる平和
「遅いのォ…。買い物にそんな時間がかかるものか…、道草食っとるに違いないわい」
独り、愚痴を溢す。
外を眺めていると、何やら騒がしい。黒に赤、青、黄のラインの入ったトラックだ。それが何台も通り過ぎて行く。
「治安維持部隊?」
1台、トラックが止まる。そこから武装した兵隊が降りてくるのが見える。
スピーカーから、知らされた出来事。
「タネガシマシティのサウスエリアの公園で、合成獣と思わしき生物が出現しました。既に被害者が多数出ています、早くトラックに乗って下さい!これは避難訓練ではありません!」
サウスエリア…、アイツが買い物に行ったところではないか!
里音の学校もあの近くじゃと言うのに…。
急いで外に飛び出した。隊員が誘導をしている。
「おじいさん、貴方もあのトラッ…グハッ!?」
血飛沫。
その隊員の喉笛を易々と切り裂いた合成獣は、ケーケーと鳴き声をあげ空を舞っている。
一体だけではない。
しかもそいつ等は10は居るだろうか、群を成すタイプの様だ。
「何年ぶりじゃろうな、この光景は。出来ればもう二度と見たくは無かったのじゃが」
一撃。
先程までそこにいた合成獣の一体は、首の骨を折られて絶命した。
既にここでも、隊員、市民が斃れている。元軍属としては、見過ごしては置けない状況だ。
落ちているスピーカーを拾う。
「ワシは元国連軍ベルリン支部第6部隊所属、天笠拳造!貴様等、ヤツは攻撃をかわされると中々止まれん。そこを蜂の巣にするのじゃ!」
叫ぶと、隊長格と思わしき男が近づいてくる。
「天笠拳造…!知ってるぞ、ヒンメル・ファウストだ!おォォ!」
軍属で、その名を知らぬ者など居なかった。心強いと、パニックになっていた状況が緩和されていく。
瞬く間に、合成獣は殲滅された。
「ありがとうございます、天笠さん。なんとか切り抜けられました…。死者が出てしまいましたが…」
この治安維持部隊は、サウスエリアに向かうらしい。
「ワシも同行させてくれ…」
孫たちが無事で居てくれれば…、それだけの理由だった。
気付けば、隊員よりも先に駆け出していた。