序章 とある博士と兵士の脱出
第一作目です。さらっと読んで、じっくりこの世界を感じてください。なんちゃって。
「もうこれ以上は無理だッ!ここから離脱するぞ!」
分かっている、と白衣を纏った男は席を立つ。扉一枚、その向こうでは銃声が聞こえているというのに。どうにもマイペースというか、変に落ち着いているというか…。
「データはすべてコピーした。そしてここの区画を15分後に崩落させる。一緒に沈みたくなければ、早く来なさい」
ピッピッと、タイマーの電子音が鳴り響く。白衣の男はしかめっ面で、そそくさと潜水艇に乗り込む。
「はぁ…、相変わらず自分勝手なオッサンだぜ」
隊長格の男が、軽快に叫ぶ。
「ありったけの閃光弾をばらまいてやれ!俺たちも撤収、離脱する!」
乗り込む指示と同時に、銃声がピタリと止む。そして、沈黙。眩い閃光。潜水艇は軽快にエンジン音を響かせ、深い海へと姿をくらませる。
筈だった。
複数の銃弾が、船体に直撃する。
敵の兵が閃光弾に対応し、こちらまで来ているようだ。
「隊長、潜水艇が発進出来ません!第1エンジンに異常あり!出力が低下しています!」
一人の部下が異常を通達した。が、白衣の男はため息をつきながらモニターに目をやる。
「他のエンジンだけでは出られんのかね?」
部下が言うには、発進には推進力が足りないという。
手は無いか色々考えているが、まだ案が思い付かない。敵の銃撃はむしろ増している。こちらは動かない的…、やられるのも時間の問題だ。何か、手は…。
そんな考えている中、白衣の男がキーボードを打つ。
「ってオイ…博士さんよ、何やってんの?」
問うてみる。
「あぁ、実はこの潜水艇は魚雷を装填しているんだよ。私の趣味で武装を施してみた。…こいつを後ろの壁に撃って、その衝撃で発進…」
(ただの潜水艇に武装をつけるなよ!)
魚雷が勢いよく発射された。
ドォォオォォン!
そして着弾、爆発。部下たちは唖然としている。
…発射された魚雷は隔壁で爆発し、海流で潜水艇は押し出された。
轟音が、遠ざかって行く。上手く発進出来たようだが…無茶苦茶すぎる、本当に。
「後は残りのエンジンで行けるだろう。ともかく、こいつを渡すわけにはいかないのでな」
そう言い椅子に腰かけた白衣の男の片手には、『cell motion』と書かれたファイルがあった。
「それが…、敵さんも躍起になって求めるデータってやつかい?」
「あぁ、そうだ。私達、人類の新たな力…なのだよ」
白衣の男は、そう言った。