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後日の記録-9

 結局、その日のミッションは予定通りに達成され、僕らはミッション達成報酬の残り、18,000円を獲得することに成功した。

 さらにドロップ終了タイムまで稼ぎ続けた僕らは、結局それぞれが12,600円ずつを獲得して、その日の活動を終えることになった。




 その日もカプセルホテルに宿泊した僕は、その翌日の土曜日に不動産屋とともに物件巡りをし、最終的に月4万円の賃貸アパートの一室を借りることにした。


 ただ計算違いがあったのは、最初に部屋を借りる際、敷金・礼金・初月の家賃のほかに、不動産屋に仲介料を支払う必要があったことだ。

 敷金・礼金が0というような物件も見当たらなかったため、そのとき僕は、結局16万円の出費を余儀なくされ、何かあったときのためのプールとして持っておく予定だったお金までもが、軽く吹き飛んでしまうこととなった。


 まあともあれ、賃借ながら「自分の家」を手に入れることに成功した僕。

 4畳半ほどのワンルームの部屋で、当然ながら家具も何もないがらんどうの空間だったけど、その感動はひとしおだった。


 新築の匂いのする畳の上を無駄にごろごろ転がりながら、その娯楽にいい加減飽きた午後には、最低限必要な家具として布団を買いに行った。

 もはや4万円を下回った所持金と睨めっこしながらホームセンターをうろちょろし、最終的には1万円ほどの敷布団と千円ほどの毛布、枕を購入。

 それらを自分の家に敷くと、再び飽きるまで布団の上でごろごろする遊びを堪能した。




 そうして僕は将来に向けて、着々と足場を組み上げていった。

 それは僕が、将来に向かってこのニート矯正収容所という施設内で、自らの力で暮らしていかなければならないのだろうと、何の疑いもなくそう信じ込んでいたからだ。


 だから、そのときが唐突にやってきたとき、僕の頭は真っ白になってしまった。

 このニート矯正収容所での生活に終わりが来ることを、僕はまったく想定していなかったのだ。




 それは翌週末のことだったから、僕がこの施設に来て2週間が経とうとしていた頃のことだ。

 僕はもっとずっと長い時間、この施設で暮らしてきたように錯覚していたけれど、それはまだたったの2週間目だった。


 その週の月曜日には、ゲーム内で再びミッションが発表されていた。

 この週では、前週同様のポヨン退治のミッションに加えて、洞窟でのジャイアントフロッグ&ヴァンパイアバットの退治ミッションを選択できるようになっていた。


 僕はナナと相談した結果、再びポヨン退治のミッションを受けることにした。

 洞窟のモンスター退治のミッションは報酬額の係数が5割増しで高かったが、情報不足もあって、結果の安定性を確保できないと判断したためだ。


 それに何より、前週はとても効率が良いとは言えなかったポヨン退治のミッションを、今度は最大効率でこなしてみたいという欲求があった。

 ミッションが火曜日スタートだった前週と異なり、この週は月曜日スタートだったこともあって、Xの値は思い切って350に設定した。


 そして僕らは、金曜日の午後が始まった頃に、その目標をクリアした。

 ミッション達成報酬の総額がなぜかX×140に上がっていたこともあって、僕とナナの2人はこの週、それぞれ42,000円という額の収入を得ることに成功した。

 週7日で割ったとしても、1日あたり6,000円の収入だ。


 生活費を1日4,000円で計算しても、大きなお釣りが来るだけの収入。

 ナナはこれでようやく服が買えると喜んでいたし、僕もこれから何日の活動でパソコンを買えるかなどと計算し始めていた。


 そして、一旦ログアウトして生活保護費を貰おう、それから次週のためにもう一度洞窟での戦闘を試しに行こうという話になって、死亡回復のためにパーティを分断しようとしていたときのことだった。


 ──唐突に、まったく唐突に。


 僕の視界は、ブツッと寸断され、真っ暗闇に投げ出された。




 目蓋を開けば、視界に移ったのは殺風景な天井だった。

 ゲームにログインするために使う、あの寝台の並んだ部屋の天井だ。

 僕は自分の寝台の上で目を覚ます。


 ──強制切断。


 そんな言葉が僕の脳裏を過ぎる。

 と同時に、言いようのない焦りが僕の頭を駆け巡る。


 待ってくれ。

 僕らはまだあの、ミッション達成報酬を含めた3万円近いゲーム内資金を、生活保護費に換金していないんだ。


 それを強制切断なんかされたら……まさかとは思うが、あの3万円が、この1週間の苦労が、無にされるのか?

 散々理不尽には遭ってきたつもりだけど、それはいくらなんでも、あんまりすぎやしないか……?


 そんな焦りの気持ちとともに体を起こすと、しかし、僕の脳は更なる混乱を押し付けられることとなった。


 その部屋の様相は、いつもとまったく異なっていた。

 いつもなら、その寝台の並んだ広い部屋にはニートたちと黒服がいて、さらには所長が壇上で偉そうにふんぞり返っていた。


 だけど今は、黒服たちに倍する数の()()()で部屋はごった返しており──部屋は人が多すぎて何がなんだか分からないような状態になっていた。


 その中でも確実に見えたのは、あの所長が、複数の警察官に取り押さえられて、壇上で屈服している姿だった……。


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