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16/24

後日の記録-3

 翌朝、目覚まし時計が鳴る前に、僕は目を覚ました。

 時計を見ると、時刻は6時12分。

 一瞬、夜の6時なんじゃないかと疑ったけど、時計にはしっかり午前を意味する「AM」が表示されていた。


 えっと、昨日寝たのが多分16時過ぎ頃だったから、ひの、ふの……うわ、14時間も寝てるよ。

 人間、寝溜めはできないっていうけど、不足した分の睡眠時間のリカバーはあるんだなぁ……。


 それはさておき、狭い寝所からもぞもぞと外に降りて、うんと伸びをする。

 気分は爽快。頭すっきり──うん、これが寝起きだよ。


 よし、それじゃあ時間もあることだし──

 僕はチェックインの際にフロントで受け取ったタオルを持って、寝室フロアをあとにする。

 そして──




 ──かぽーん。


「はああぁぁぁ……」


 僕は大浴場の湯に浸かりながら、極楽を満喫していた。

 気持ちいいわー……昨日と一昨日の疲れが、湯に染み出て行くようだ。


 このカプセルホテル併設の大浴場は、カプセルホテルの利用者ならば無料で利用できる。

 この大浴場の使用が8時30分までということだったので、僕は少し余裕のある時間の7時30分に目覚ましをセットしたのだ。


 けどまあ何よりね、この……時間を気にせずゆっくり疲れを癒せるってのが、最高だね。

 前日のネットカフェだとこうはいかなかったからなぁ……いや、ネットカフェが悪いわけじゃない部分もあるんだけどさ。

 それにしてもどうしたって、3,240円というお金の威力を感じずにはいられない。


 それからさらに、併設のサウナ、水風呂、もう1回普通の風呂とたっぷり時間をかけて廻った僕は、


「……あかん、はしゃぎ過ぎた」


 自分の寝室に戻って、布団の上にぐでーっと突っ伏していた。

 体がだるいよー、動きたくないよー。


 いや、別に体調が悪いというわけでもない。

 ただ至福に浸かりすぎたせいで、だらけて動けなくなっただけだ。


 時間は……と見ると、まだ7時過ぎ頃だった。

 うん、このまましばらくだらけていても、全然問題ないな。


 でも、お腹が減ってきた。


 そして、そう意識したら、もう我慢できないぐらいお腹が減ってきた。


 空腹が、体のだるさを凌駕した。


 よし、ご飯を食べに行こう!

 空腹というモチベーションによって急に元気になった僕は、フロントでチェックアウトを済ませ、愛しのカプセルホテルをあとにした。




 カプセルホテルを出た僕が向かった先は、立ち食い蕎麦屋だ。

 入り口の食券機で、370円の「朝食セット」を購入する。

 これで残金は205円。問題ない。


 朝食セットの内容は、ゆで卵1個に、お稲荷さん2個、それにメインの天ぷら蕎麦とで構成されていた。

 もちろん、立ち食い蕎麦屋なので天ぷらはかきあげだけど、それにしたって370円の食事にしたら豪華すぎる。


 まあ普段だったら、朝からこの量は重すぎるだろ常考……なんて思うんだろうけど。

 この時の僕は、実質的には昨日の夕食を抜いている身なのだ。

 そのボリューム満点のご馳走たちを、ハフハフもぐもぐガツガツと猛烈な勢いで平らげてゆく。


「はー……ご馳走様」


 食事を終え、合掌する。

 そしてセルフサービスのお茶サーバーから緑茶を出して、いただく。


「ふー……」


 熱々のお茶を少しずつ胃に流し込むと、体が自然と落ち着いてゆく。

 まあお茶に関して言えば、あの牛丼屋の粉茶のほうがクォリティ高いんだけど、贅沢は言うまい。




 そうして人心地ついたところで、今後の方針について思いを巡らせる。


 無理ゲーかと思っていた状況は、ミッションシステムによって一変した。

 昨日の結果を見れば、むしろ余裕が出てきたぐらいだ。


 昨日はだいたい15時までの活動で46匹のポヨンを撃破し、日次報酬と合わせると、僕とナナが各自4,000円以上の収入を得ることができた。

 ドロップタイム終了の18時までフルで動けば、さらに20匹以上のポヨンを撃破し、各自1,000円以上の予備収入を得られると予想できる。


 土日に収入がないことを考えると、その分の備蓄は今日からの3日間でどうにかしないといけない。

 最終的なミッション達成ではかなりの額がもらえるから、それで土日の分はある程度カバーできるだろうけど……うーん、さすがに毎日カプセルホテルは無理そうか?

 でも最大限頑張って、うまいことやりくりすれば……どうだろう、ひょっとしたら行けるかもしれない。


 ……けどなんていうか、アリとキリギリスの童話を思い出すな。

 冬に備えるアリ。土日に備える僕。

 ニートの誰かが平日遊びほうけて土日に泣きついてきても、絶対に助けてやるもんかと思う。


 そんなことを思いながら、僕は一方で、ミッション受注時にXの値をもっと大きくしていれば、もっと稼げたのになと悔やむ。

 だけどそれは、今更言っても詮無い話だ。

 それに、余裕のある数字を入れておいたからこそ昨日あのタイミングで上がれたんだと考えれば、悪いことばかりとも言い切れない……ということにしておく。ポジティブシンキングだ。




 それはそうとして、僕はふと、あることに興味が湧いた。

 ミッションシステムによって結構な額の生活保護費が貰えるようになったけど、その辺全部ひっくるめた今の僕の時給(いや給料じゃないけど)って、一体いくらぐらいになるんだろう。


 えっと……2人で1日に70匹のポヨンを狩れるとして、ミッション達成報酬総額が180×120円、それが4日分の結果だから……あれがあーでこーなって……


 ──ふむ、全部ひっくるめて考えると、だいたい時給750円ぐらいになるのか。


 ……って、あれ?

 時給750円って、地域によっては最低賃金上回ってないか?

 僕の住んでいた東京都は888円だったけど、確か地域によっては最低賃金700円を下回っていた場所もあったはず……。


 えっ、何この人間らしい扱い。

 何これ怖い。一体どんな罠?


 苦境を散々味わい続けたせいで疑り深くなっていた僕は、ついついそんな穿った考えを持ってしまったのだけど。

 あながち、この疑念は完全な誤りでもなかった。


 僕はこの直後、さらなる苦境に立たされることになったのである。


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