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後日の記録-2

 僕は結局、Xに180という値を入力し、ミッション受注登録をした。

 何故この数字に設定したかというと、もう大部分は「勘」だ。

 多分そのぐらいなら達成できるだろうという、本当に何となくの勘だった。


 ナナにその旨を伝えると、彼女は、


「はい。よく分からないけど、いいと思います」


 なんて言った。

 うん……この子絶対、何も考えてないよね……。

 さすがの僕も、「いや自分のことなんだから、少しは本気で考えようよ」なんて言いたくなってしまう。


 でも、ナナに説教をできるほど、僕はできた人間じゃない。

 ずるずるだらだらと自分の気持ちに逆らわずに、楽な方に楽な方にと流されて来たから、僕はニートだったのだ。


 彼女に苦言をぶつけたら、彼女との今のふわっとした関係は、ノコギリで引き裂いたようにトゲトゲしくなってしまう気がする。

 彼女が突如豹変して、癇癪持ちのように僕を罵り始めるかもしれない。

 そうなったらきっと、僕の心の方が耐えられない。


 それらはすべて僕の妄想なのかもしれないけど──ありていに言えば、僕は、怖いのだ。


 だから僕は、自分に言い訳をする。

 彼女が僕に意思決定を丸投げすることによって、今現在、何か困ったことが起こっているわけでもないんだからいいじゃないか。

 むしろ、船頭多くして船山に登るという事態がなくて済んでいるのだから、都合がいいぐらいだ──そんな風に自分を説得する理由を見つけて、納得してしまう。




 ポヨン狩りは、思っていた以上にスムーズに進んだ。

 昨日ポヨンを相手にしていたときよりもさらに1レベル上がっているせいか、予想以上に軽微な損害で戦闘を切り抜けることができる。

 結果として、僕らは死亡回復をほとんど挟むことなく、効率よく狩りを進めることができた。


 ただつらかったのは、それがもはやゲームとは呼べないような、単純作業でしかなかったことだ。

 同じ条件下で同じ敵と戦い続ければ、最適な手順などは決まり切ってくる。

 決まり切った手順をただただ踏襲し続けるのは、とにかく退屈だった。


 特に午後になると、眠気も手伝って本当にしんどくなってきた。

 ゲーム内でも現実の体調は反映されるようで、後半になると、もうやめたい、早く寝たいとそればっかりを考えていた。


 日次報酬条件の45匹というノルマは、15時過ぎぐらいには達成した。

 ファンファーレが鳴り、モニターに「日次報酬条件達成!」と表示され、僕の所持金に3600円が加算される。


 これをナナと2等分すれば、それぞれの獲得金は1,800円。

 さらに、ここまでに倒したポヨンのドロップ金だけでも2,300円ずつの収入があった。

 僕はそのうち360円を昼食に使っている(なんと牛丼に玉子を付けた。超贅沢!)けど、それでも4,000円近い収入になる。


 この4,000円というお金は、何ができるかというと、なんとカプセルホテルに泊まれるのである。

 カプセルホテルにはさらに、待望した目覚まし時計も常備されているというから、それを別に買う必要もない。

 3,000円でカプセルホテルに宿泊し、夕食と明日の朝食を調達する分の予算を考えても、4,000円あればお釣りが来る。


 そんなこんなで、このペースで4日間やればミッション達成だってできるんだから、もうここまででいいんじゃないの、なんて思ってしまった。

 それをナナに言うと、


「……そうですね。私もちょっと、体調的にヤバくて、できれば早めに引き上げたいなって思ってました」


 なんて同意されてしまった。


 なので、誰も僕らを止めるものはなく、死亡回復でコンディションを回復した僕らは、そのままログアウトして生活保護費を受け取り、早々に今日の「お仕事」を終えたのだった。




 時刻はおよそ16時。

 所持金は3,815円。

 しっかりと金額を見ると少し心許なく思えてきたけど、かと言って迫る眠気に逆らってもう一度ログインする気力は、もう僕にはなかった。


 カプセルホテルに行って、フロントで宿泊費の3,240円を支払う。

 残金は575円。……消費税が地味に痛いぞ。

 まあ、いざとなれば1食抜けばいいか。


 カプセルホテルというと通常、男性専用のものがほとんどらしいけど、この店は男性用フロアと女性用フロアとに分かれていて、男女ともに利用可能になっている。


 割り当てられたフロアに行くと、幅1m×奥行2m×高さ1mぐらいのスペースが上下2段でズラッと並んでいる場所に着いた。

 利用者は、このうちの1つを割り当てられて、各自の寝場所にする。

 僕はさっそく自分に割り当てられたスペースの中に潜り込む。


 感動した。


 布団と枕がある。

 目覚まし時計がある。

 空調や照明を調整できる。

 ついでにテレビやなんか余計な設備も付いているけど、そんなのはどうでもいい。

 何より大事なのは、ここでは完全に横になれて、柔らかい布団の上でぐっすり眠れるということだ。


 確かに狭い。

 ちょっと広めの押し入れの中で寝るようなもので、閉所恐怖症の人なんかは多分無理だと思う。

 だけど、今の僕にとっては、ここは極上の睡眠環境だ。


 僕は目覚ましを朝の7時30分にセットすると、矢も盾もたまらず寝に入る。

 食事をいつ取るかとか、そんな些細なことはもう、どうでもよかった。


 ただただ1秒でも早く眠りにつきたかった僕は、いつもこんな感じの押し入れを寝床にしている国民的猫型ロボットの相方に匹敵する早さで意識を失った。


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