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初日の記録-12

 街に到着した僕とナナ。

 でもナナは僕と目を合わせようとしない。


 その魔法使い姿の眼鏡女子は──ぷっくーとふくれて、そっぽを向いていた。


「あ、あの……ナナさん?」


「何ですか? 別れたんですよね、私たち?」


 僕が話しかけても、つっけんどんに返されるばかりだ。

 うう……完全にへそを曲げていらっしゃる。


「あの、その言い方は、何かと誤解を招きかねないんじゃないかと……」


 とりあえず本題は避けて外側から攻めて行こうとツッコミを入れると、ナナは僕の言っている意味に気付いたのか、目を剥いて食ってかかってきた。


「はあああ? そういうの、冗談でもやめてもらえます?」


 目は合わせてくれたけど、今度は僕が目を逸らしたくなった。

 最初に遭ったときの大人しそうな印象はどこへやら。

 怖いよー。


 でもナナは、そこでふぅっと息をついて、


「なんて、冗談です。でもホント私、泣きそうだったんですから。もうあんな言い方しないでほしいです」


 そんな風に言ってくる。

 「あんな言い方」っていうのは、洞窟前で「ここで別れましょう」って僕が言ったことを指しているんだと思うけど……。


「あの……でも僕、あの後ちゃんと説明しましたよね?」


「そんなの、ショックで頭の中ぐちゃぐちゃで、全然聞こえてません!」


 ええええ、そういうのありなの?

 確かにあのときのナナは、目が虚ろで、心ここにあらずって感じだったから、ちゃんと話の内容理解してるのかなぁとは思ったけど……。


「それに説明してもダメです。乙女の心はデリケートなんです。一度割れたら修復するの大変なんです。もっと丁重に扱ってください」


 いや、僕の心もデリケートだよ?

 「はあああ?」とか言われて、砕けそうになってたよ?


 ていうか自分で乙女って言ったよねこの人……なんか、だんだん本性が出てきているような……。

 まあ、打ち解けてきているんだと思えば、いいのかもしれないけど。




 で、結局、何がどうして今に至るかというと。


 まず、僕は洞窟前で、ナナとのパーティ解散を提案した。

 理由は、エンカウント率を下げるため。

 もはや、草原フィールドでのポヨンとの戦闘すら、全滅に繋がりかねないと思ったからだ。


 1人で探索するとどういうわけか、エネミーとの遭遇にかかる時間が2倍ほど長くなる、という仕組みがあるようだ。

 草原フィールドでは、2人パーティで探索しているときにはだいたい10~15分に1回ほど、ポヨンとエンカウントする。

 これに対して、1人で探索していると、20~30分に1回程度のエンカウントになる……傾向にある。


 洞窟から街までの帰路は10分ほどの距離だったから、パーティで動いたら、ひょっとしたら危ないかなと思った。

 でもそれなら、1人ずつに分かれて個別に街まで帰れば、エンカウントする可能性が激減するんじゃないかと考えたわけだ。


 その作戦が功を奏したのかどうかは分からないけど、とにかく、僕らは2人とも、無事に街まで辿り着くことができた。


 ちなみに、「どういうわけか」と言ったけど、パーティを組むか否かでエネミーとのエンカウントにかかる時間が変わる理由に関しては、実は何となく予想がついている。


 通常、僕らプレイヤーにとっては、エンカウントまでの時間は短い方が、都合がいい。

 その方が、より効率よくお金を稼げるからだ。


 このパーティを組むかどうかでエンカウント時間が変わる仕組みがなかったとしたら、ある程度実力を身に付けた後は、パーティで動くよりも個人個人で動いた方が、お金稼ぎの効率が良いことになる。

 例えば2人パーティで2匹のポヨンと遭遇した場合、ドロップした200円を2人で分けなければならない。

 それに対して、1人ずつ別々に動いて、それぞれが2匹のポヨンと遭遇すれば、それぞれが200円を個別に手に入れることができる。


 もしこのゲームの設計者が、ソロプレイよりもパーティプレイを推奨したいと考えたならば、パーティを組んでいるかどうかによってエンカウント時間が変わるシステムは、搭載する必然性のあるシステムということになる。


 ……と、考えていけば、このエンカウント時間変更システムは、僕の想い込みなどではなく、実在するシステムである可能性が高く。

 であるならば、極力エンカウントを避けたいときにパーティを解散して個別に動くというのは、悪くないんじゃないかなと、僕は考えたわけだ。


 ところがナナは、その僕の言葉を「もうアンタみたいな人とはパーティ組んでられまへんわ。ほなさいなら」的な意味に捉えてしまったらしく、自分を拒絶されたと思ったデリケートな乙女の心はバラバラに砕け散ってしまった……ということらしい。


 そしてそのナナは、僕に向かってさらに人聞きの悪いことを言ってくる。


「しかも、私の有り金まで全部よこせとか言ってくるし……」


 ……いや、うん。

 確かに、どっちかって言えば戦力的に余裕のある僕にお金を集めておいたほうが、リスクが少ないんじゃないかと思って、そんな内容のことは言ったけど。

 意訳の仕方に素敵な悪意がある気がするのは僕だけだろうか。


「さらに身ぐるみ全部置いていけ、いやむしろ俺が剥いでやるぐっへっへと言って迫られたときには、もう私どうしたらいいか」


「よし、妄想はそこまでにしようか」


 それは微塵も言ってないからね。

 何でこの人、僕を犯罪者にしようとしてるの?


「まあ、それはねつ造ですけど。でもそんなねつ造をしたくなるぐらい、私、傷付いたんですよ?」


 ……結局、話はそこに戻るわけね。


「はいはい、分かりました。僕が悪うございました。それで僕は、お詫びに何をすればいいんですか?」


 僕が諦め半分に言うと、ナナは「んー」と考える仕草をして、


「そうですね……じゃあ、私を見捨てないでください」


 なんて言ってきた。

 その上、


「私もう、ポーンさんがいないと生きて行けない体になっちゃいました」


 なんて無邪気そうに言う。


 ……なあ、僕と同じ、彼女いない歴=年齢な諸君に聞きたいんだが。

 女子ってのは、こんなにも、男子が勘違いするような発言を平気でする生き物なのかい?


 僕、ニートだから分かんないや……。


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