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初日の記録-11

 プレイヤーを中心に発せられる薄暗い灯りを頼りに、赤茶けた土のトンネルを歩く僕と、その後ろに続く魔法使い姿のナナ。


 僕らはジャイアントフロッグとの交戦地点で踵を返し、今は退路を進んでいる……はずだ。

 こう変わり映えのない景色が続くと、それすらも自信がなくなってくる。


 だから、10分ほど延々と歩いた頃に、洞窟の出口──草原フィールドの夕焼けの明かりが遠くに見え始めたとき、僕はホッと胸を撫で下ろしていた。

 理屈で考えれば往路で10分ほど歩いたんだから、帰路でも同じだけ歩けば出口に辿り着くのは当たり前なんだけど、そう言えるのもこうして実際に出口に辿り着けたからだ。


 だけど、僕らが出口の明かりに吸い寄せられ進んでいくときに、無情にも戦闘が発生した。

 洞窟のデコボコで死角になっていた天井の一部から、巨大なコウモリ型のモンスターが躍り出てきたのだ。


「そんな、もう少しなのに……っ!」


 ナナが悲鳴をあげる。

 僕も内心で舌打ちしていた。


 今の僕らのコンディションは、かなり悪い。

 ヒーリングの魔法を使えるだけのMPは僕にはもう残っておらず、ナナもあと1発攻撃魔法を撃てば打ち止めという状態。

 HPもかなり減少していて、とても本格的な戦闘に耐えられるような状態じゃない。


 だから、もしこの洞窟内でもう一度戦闘になるようなことがあれば、そのときは逃げの一手に懸けるしかないと考えていた。


 だけど僕のその意志は、遭遇したモンスターを前にして揺らいだ。

 翼を広げると、その全長が人の身長ほどになる巨大なコウモリ。

 そのモンスターは、たったの1匹で僕たちに襲い掛かってきたのだ。


 草原フィールドでも、ポヨンが1匹で出てくるケースがあった。

 だからこの洞窟でも、モンスターが1匹で襲ってくる可能性は、事前に想定しておくべきだったかもしれない。


 仮にこの巨大コウモリ──エネミーネームは『ヴァンパイアバット』と表記されている──がさっきのジャイアントフロッグと同じような強さなら、1匹相手ならば現状戦力で十分に対応できるはずだ。

 それなら収入のためにも、今後のための情報収集という意味でも、戦って倒した方がいい。


 だけど問題は、このヴァンパイアバットが、さっきのジャイアントフロッグと同程度の強さである保障なんてどこにもないというところだ。

 ひょっとしたら、1匹でジャイアントフロッグ3匹に匹敵する強さを持ったモンスターで、だからこそ1匹で出てきているんだという可能性もある。


 そうこう考えているうちに、コマンド入力タイムに突入してしまう。

 くそっ、どうする、迷っている時間はないってのに。


 ナナに相談するか──いや、駄目だ。

 コマンド入力タイムの10秒で、相談なんて悠長なこと、間に合うわけがない。


「ナナさんごめん、1匹なら叩きます! アイスを!」


 僕は決断し、ナナに向かって叫ぶ。

 するとナナからは、一拍置いてから「男の子ですね!」と謎の返事が返ってきた。

 多分、承認の意味なんだろう。


 コマンド入力が完了し、アクション実行タイムに突入する。


「これで打ち止め──アイス!」


 ナナが先手で魔法を放つ。

 無数の氷柱つららは過たず巨大コウモリへと殺到し、11というダメージ値をポップアップ、HPゲージのおよそ3分の2をもぎ取る。


 よし、思った通り、強さはジャイアントフロッグと大差ないみたいだ。

 これなら多分、次の僕の攻撃で落とせる。


 だけど僕の攻撃の前に、ヴァンパイアバットの攻撃が差し込まれる。


 ヴァンパイアバットは前衛の僕を無視し、後衛のナナに襲い掛かる。

 そのまま魔法使い姿の彼女に飛び掛かると、その首筋に牙を突き立てた。

 どくん、どくんと何かが吸い取られるようにナナの体が震え、ダメージ4を表示する。

 元々減少していたナナのHPがさらに奪われ、最大値の50%を下回ったゲージが黄色表示になる。


 と、同時に、ヴァンパイアバットの体に緑文字のポップアップで、4の数字が表示された。

 ヴァンパイアバットのHPゲージが少量、回復する。


 そうしてヴァンパイアバットはナナから離れ、空中で待機する。


 HP吸収、だと……?

 マジか……。


 そしてようやくの僕の攻撃。

 僕はヴァンパイアバットに向かって走り、到達する数歩前で跳躍、手に持った木の棒を振り上げ、叩きつける。


「てえやぁああああ!」


 ボカッ。

 コウモリの胴を叩いた一撃はダメージ6を表示。

 ぐいっと減ったヴァンパイアバットのHPゲージは、残りわずか。

 だけど、バーが赤色になりながらも、撃破には至らない。


 うぬぅぅ、小癪な。

 あのHP吸収さえなければ倒せていたのに!


 そうして、次のターンのコマンド入力タイムに入る。

 ここまで来て、逃げるという選択肢はあり得ない。

 あとは僕とナナとの2人がかりで、タコ殴りにして倒すまでだ。


***


 結局その後、ヴァンパイアバットを撃破するまでに、さらに3ターンがかかった。

 ヴァンパイアバットはHP吸収能力ばかりか、高い回避能力まで備えているようで、僕もナナも立て続けに攻撃を空振りしてしまったのだ。


 そしてこっちが攻撃を空振っているうちに、向こうはHP吸収攻撃でHPを立て直す始末。

 モンスターの能力としては、最悪のコンボのひとつと言えるんじゃないだろうか。

 プレイヤーのストレスがマッハになるという意味で。


 ともあれ、そうやってたった1匹のモンスターにトータル4ターンもの間、翻弄され続けた僕たちは、いよいよもってボロボロの状態だった。

 特にナナに至っては、MPは完全にすっからかん、HPは赤ゲージの瀕死状態という、真の極限状態である。


「ああ……世界が真っ赤に見える……。私もう、ここで死ぬんですね……。ポーンさん、私のことはいいから、もう行ってください。私の分まで生きて、そのお金を……」


 ナナはメンタル的にも極限状態──というか壊れちゃって、洞窟を出たところで悲劇のヒロインごっこを初めてしまっていたりする。

 とりあえず、世界が真っ赤に見えるのは、システム的な演出だからね?




 ──いや、でも、そうか。

 うん、彼女の言うとおりにするのも、アリかもしれないな。


 僕はメリットとデメリットを計算し、考えを決めると、悲劇のヒロインごっこに興じているナナに向かってこう言った。


「そうですね。ナナさん、ここで別れましょう」


 ──と。


名前:ポーン

年齢:31歳  性別:男

メインクラス:ファイター  サブクラス:プリースト

レベル:4  経験値:107/130  所持金:245円(+リアル1,400円)

HP:9/32  MP:1/5

STR:16  VIT:16  AGL:5  INT:4  WIL:7


武器:ウッドスティック(ATK+2)

盾:なし

身体:ノーマルクローク(DEF+2)

頭:なし


総合ATK:18  総合DEF:6


魔法

ヒーリング(消費MP:3)




名前:ナナ

年齢:26歳  性別:女

メインクラス:メイジ  サブクラス:モンク

レベル:4  経験値:103/160  所持金:245円(+リアル?円)

HP:2/20  MP:0/16

STR:7  VIT:10  AGL:8  INT:21  WIL:12


武器:ウッドスティック(ATK+2)

盾:なし

身体:ノーマルクローク(DEF+2)

頭:なし


総合ATK:9  総合DEF:4


魔法

ファイア(消費MP:2)

スパーク(消費MP:2)

アイス(消費MP:3)



現在時刻:17時40分


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