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10/24

初日の記録-10

 一度ログアウトして生活保護を受け取った僕とナナは、時間がまだ少し残っているので再びログインし、合流した。


 現在の時刻はちょうど17時頃。

 僕たちは午後に入ってからポヨンを狩り続けることで1,100円ずつを稼ぎ、その間にナナが2回、僕が1回、死亡回復。

 今ちょうど2人ともが全快の状態になったので、一度清算をしてきたところだった。


 ちなみに、リアルでの所持金は、ログイン中は黒服に預けておくことができる。

 無防備に寝ている本体からお金を盗まれないようにとの措置らしい。


「あと1時間ですけど、どうします?」


 魔法使い姿のナナが聞いてくる。

 あと1時間というのは、ドロップタイムが終了となる18時までの残り時間だ。


 その1時間でポヨンを狩り続ければ、あと400~500円ぐらいは稼げるかもしれないけど……。


「試しに『洞窟』に行ってみます?」


 僕はそう提案してみる。

 『洞窟』というのは、僕らの今いる街を出て、ポヨンの出る草原フィールドを10分ほど歩いた場所にあるダンジョンのことだ。


 どんな敵が出るかも分からず、ひょっとしたら大人しくポヨンを狩り続けていたほうが実入りがいい可能性もあるが、そうでない可能性──すなわち、もっと効率よく生活保護を稼げる場所である可能性もあり、情報を得るためにも一度踏み込んでみたかった場所だ。


 午後のポヨン狩りの間に、僕だけでなくナナも3レベルになっており、ゲーム内所持金が0のため全滅してもリスクの少ない今は、絶好の挑戦タイミングであるように思えた。


***


 かくして洞窟へとやってきた僕とナナの2人。


 洞窟内部は、主に赤茶けた土壁で形成されていた。

 幅3m、高さ3mほどのトンネルが延々と先に続く感じの作りで、たまに道が左右に分かれる分岐になっていたり、大空洞といった感じの大部屋に辿り着いたりする。


 なお洞窟内では、僕らプレイヤーを中心に半径10m程度の範囲が明かりで照らされるようになっていて、多少薄暗いけど、真っ暗闇というわけではない。


 そんな洞窟を今、僕とナナの2人は、周囲にびくびくしながら歩いていた。


 草原フィールドを探索していたときは何とも思わなかったけど、こういう狭くて暗い場所になると、ヴァーチャルリアリティって怖いなと思う。

 なんて言えばいいんだろう……夜中の学校の廊下を懐中電灯1本で歩いているみたい、とでも言えば伝わるだろうか。


 そんな洞窟の、延々と続くんじゃないかと思うようなトンネルを10分ほど歩いたとき、僕らはここで初めての戦闘に遭遇した。


 トンネルの奥から現れたのは、3匹の巨大な蛙のモンスターだった。

 後ろ肢で直立したその巨大蛙の体長は1mを超え、丸々太った体型のせいもあって、結構な威圧感がある。

 表示されているエネミーネームは『ジャイアントフロッグ』……うん、まんまだな。


 僕ら2人と、蛙の群れとが5mほどの距離を空けて対峙し、コマンド入力タイムに入る。


「とりあえず全力で! 一番左をやります!」


 ナナが伝えてくる。

 3レベルになったときに新しく覚えた魔法を使うつもりなんだろう。あれ、蛙に効きそうだしな。


「じゃあ、僕は一番右を!」


 僕はそう応じて、横並びで3匹いる巨大蛙の、一番右に攻撃することを意識する。

 ピコンとSEが鳴って、コマンド入力が完成する。


 アクション実行タイムに入ると、最初に動いたのは、多分に漏れずナナだった。


「──アイス!」


 ナナの掛け声とともに、黒ローブの袖から突き出された手のひらの前に、無数の氷柱つららが現れる。

 その氷柱つららが一番左のジャイアントフロッグへと一斉に襲い掛かり、その胴体に次々と突き刺さる。

 そして次の瞬間に氷柱つららが砕け散り、ダメージがポップアップする。


 Weakpoint! 15!


 そういう表示が出て、そのジャイアントフロッグのHPゲージがぐいんと減ってゆく。

 だけど、HPの全損はせず、残り4分の1ほどを残した赤ゲージまでで減少はストップした。


「落とせない!?」


 ナナが悲鳴のような声を上げる。


 僕も驚いていた。

 アイスはMPを3点消費する魔法で、MP消費2のファイアと比べて、単純な威力でも格上の魔法だ。

 それに加えて、「Weakpoint!」という表示は、氷属性の魔法が蛙型モンスターの弱点であることを示す表示だろう。

 それでなお落とせないというのは……。


 そしてそんな間にも、次の行動が処理されてゆく。


 今攻撃を受けたジャイアントフロッグが、天井スレスレぐらいまで高々と跳躍し、僕の前に着地すると、後ろを向いてバックキックを放ってくる。

 それを受けた僕の体が大きく振動し、僕の体から「5」というダメージ値がポップアップする。


 さらに立て続けに、残り2匹のジャイアントフロッグが、前衛の僕に殺到してくる。

 続けて4、4とダメージを受け、3レベルになって最大HP26にまで伸びていた僕のHPが一気に半減し、HPゲージのバーの色が黄色に変化する。


 ──まずい、まずいまずい!

 なんだこの強さは!


 続けて僕の攻撃になるが、僕の木の棒で殴る攻撃は5点のダメージを与え、まだピンピンしているジャイアントフロッグのHPゲージを4分の1ほど損傷させるに留まる。


 さっきのアイスの魔法に耐えきったことといい、最大HPが20ぐらいあるってことか?

 ポヨンの最大HPが6なのに、なんだよこのHPインフレは。


 チュートリアル妖精の話では、この『洞窟』はポヨンの出てくる『草原』の次に難易度の低い攻略ポイントのはずだ。

 それでこれってことは、あのポヨンの強さすらも、まだ序の口だったってこと……


「ポーンさん! コマンド入力!」


 ナナの切羽詰まった声で、ハッと思考を中断する。

 いつの間にか次のターンのコマンド入力タイムに入っていて、入力終了までの残りカウントが5秒しかない。


 くそっ、これだからアクティブタイムバトル的なのは嫌なんだ!

 RPGだってのに、おちおち考えてもいられない。


 僕は脳裏に攻撃、防御、ヒーリングと選択肢を並べて──ナナはどうするんだ?

 いや、確認している時間はない。いずれにせよ、ここはこれが最適解のはずだ。


 僕がコマンド入力を滑り込みで成功させると、アクション実行タイムに入る。

 最初に行動を開始したのは、なんとナナではなく、ジャイアントフロッグだった。


 巨大蛙の強烈なバックキックが僕に浴びせられ、激しい振動とともに5点のダメージがポップアップ。

 僕のHPゲージがぐいんと減少する。


 2匹目のジャイアントフロッグが動く前に、ナナがアイスの魔法を発動させる。

 無数の氷柱つららはさっき僕が殴った蛙へと殺到し、ダメージ13を表示する。

 その一撃は対象のHPゲージをごっそりもぎ取るが、撃破するには至らない。


「なんで!? だって……!」


 ナナが泣きそうな声で叫ぶ。


 ナナの取った行動は、ひょっとしたら最善手ではなかったかもしれない。

 でも、悪手とも言い切れない。RPGセンスはあるほうだろう。


「しょうがない! 運が悪かっただけ!」


 僕が叫ぶと、ナナが「でもっ!」と叫び返してくる。


 そうだ、でもまずい、分かってる。

 だけどもう賽は投げられている。祈るしかできない。


 そして、次の運はこっちに向いた。

 次に動いたジャイアントフロッグが、ナナの方に向かってジャンプしたのだ。

 魔法使い姿にバックキックが炸裂し、そのHPゲージを3割近くもぎ取る。


 だけどこれで、間に合った。


 さらに次のジャイアントフロッグの攻撃で僕のHPゲージが赤くなる。

 ダメージの振動とともに、視界が赤のサングラスをかけたように赤みを帯びる。

 相変わらず嫌な演出だな。


 でも、問題ない。


「ヒーリング!」


 自身の魔法の発動を受け、僕の体が暖かな癒しの光に包まれる。

 HPゲージがぐんぐん回復し、一気に最大値まで到達する。

 赤かった視界も正常に戻った。


 よしよし、これで仕切り直しだ。


***


 というわけで、最終的には勝った。

 どうにか勝った。


 でもHPとMPは、たったの1戦でぼろぼろになっていた。


「もう無理っ」


 ナナが地面に大の字に倒れて言う。


 黒ローブの布地を押し上げて屹立する胸部が麗しい……じゃなくて、僕も彼女の意見と同感だった。

 少なくとも、同じ相手ともう1戦やるのは、絶対に無理だ。


 だけど何より僕らの心を折ったのは、ジャイアントフロッグがドロップした金額だった。


 ポヨンが1匹100円。

 ジャイアントフロッグはいくらだと思う?


 1匹あたり、100円玉1枚と、10円玉2枚。

 120円だ。


「ないな」


「ないですね……」


 地面に落ちた総額360円を拾って適当に分配しつつ、僕とナナは顔を合わせてため息をつく。

 これならポヨンを狩り続けていたほうがよっぽど効率がいい気がする。


 ちなみに経験値は結構な量を貰えたようで、僕とナナともにこの戦闘で、レベルが3から4に上昇していた。


「けど、街まで帰れるかな」


「あっ……」


 退路を見れば、先の見えない赤土のトンネルが延々と続いている。


「……いっそ、死んじゃいましょうか?」


 ナナが聞いてくる。

 確かに死んで神殿に戻るのが、簡単って言えば簡単なんだけど……。


 360円……1人180円かぁ。

 手に入れたこのお金は、今の僕らにとって、はした金と言えるほど安い金額じゃない。


「一応、帰る努力はしてみたほうがいいかなって思うんですけど」


「……やっぱり、そうですよね」


「まあ、無理だったら、そのときはそのときってことで」


 そうして僕らは、一応、街までの帰還を試みることにした。


名前:ポーン

年齢:31歳  性別:男

メインクラス:ファイター  サブクラス:プリースト

レベル:3→4  経験値:100/130  所持金:180円(+リアル1,400円)

HP:13/26→32  MP:1/4→5

STR:13→16  VIT:13→16  AGL:4→5  INT:3→4  WIL:6→7


武器:ウッドスティック(ATK+2)

盾:なし

身体:ノーマルクローク(DEF+2)

頭:なし


総合ATK:15→18  総合DEF:5→6


魔法

ヒーリング(消費MP:3)




名前:ナナ

年齢:26歳  性別:女

メインクラス:メイジ  サブクラス:モンク

レベル:3→4  経験値:96/160  所持金:180円(+リアル?円)

HP:13/18→20  MP:3/14→16

STR:6→7  VIT:9→10  AGL:7→8  INT:18→21  WIL:10→12


武器:ウッドスティック(ATK+2)

盾:なし

身体:ノーマルクローク(DEF+2)

頭:なし


総合ATK:8→9  総合DEF:4


魔法

ファイア(消費MP:2)

スパーク(消費MP:2)

アイス(消費MP:3)



現在時刻:17時25分


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