自覚
紅波目線です
目が覚めると、見た事もない天涯つきのベッドに横になっていた
身体中が痛くて動けそうにない
少しだけ手を動かそうとしたが動かない
それと同時に、右にラズナー、左にアシャティスが私の手を握りながら、顔を除き混んできた
「クレハちゃん、目が覚めた?」
「今、医者を呼んでくるから、大人しく待ってろ」
私が二人を見つめていると二人が安心したように笑った
そして、思い出したようにアシャティスが医者を呼びに行った
アシャティスと入れ替わりに陛下が慌てて部屋に入ってきて、泣きそうな顔をしながら私の左手を握った
「クレハちゃん、本当にごめん、ごめんよ」
陛下がなぜそこまで謝るのか、分からなかった
アシャティスが戻ってくると、後ろには医者、イライザちゃん、マリアさんがついて入ってきた
「診察を受けますので、男性は外に出ててください」
イライザちゃんにそう言われて、男性達は部屋を出ていった
診察が終わるとイライザちゃんに抱き付かれた
激痛が体を駆け巡る
声にならない悲鳴をあげた
「イライザ、クレハちゃんにとどめを、さす気なの?」
マリアさんの言葉に慌ててイライザちゃんが離れてくれた
「クレハさん、本当にごめんなさい、そして、守れなくてごめんなさい」
「私からも、謝らせてね、ごめんなさい」
イライザちゃんとマリアさんが私に頭を下げた
でも、二人に謝られる意味が解らない
「クレハちゃん、断ってくれて良いのだけど、貴女に謝りたいって言う人がいるの」
誰が言ってるのかすぐに分かった
きっと、私をこんな状態にした張本人の美人さんだ
「一生会いたくないなら、一生会わないようにいってあげるから、遠慮しないでね」
マリアさんの言葉にドアの方からガタガタと音がした
きっと美人さんはドアの外に居るのでしょう
私は目を閉じて考えた
ハッキリ言って会わなくて良いのなら会いたくは、無いのだろう?…
美人だったから、もう一回見たい気もする
「クレハちゃん、良いかしら?」
私はコクりと頷いていた
「じゃあ、呼んでくるわね」
マリアさんは少しだけ安心したように笑った
そしてドアの外に居るであろう美人さんに何やら言っている声が小さく聞こえた気がした
そして、ドアの方から勢いよく走ってきた美人さんはベッドの手前で膝をつくと、土下座しそうな勢いで頭を下げた
「クレハちゃん、すまなかった!まさか、そんなに酷い怪我をさせてしまうなんて、本当にごめんなさい、ごめんなさい」
何だか拍子抜けしてしまって、私はきしむ体を動かして、美人さんの頭を撫でた
「クレハちゃん…やっぱり、私の娘にならないかい?」
私は首を横にふった
「そこを何とか…」
美人さんがそう言い終わる前に、マリアさんが膝をついている美人さんの背中に座った
「アリア、私スッゴク怒ってますの、分かりますわよね?」
「姉様、地味に膝が破壊されそうです」
「少しぐらい、歩けなくなる方が世の中の為ではないかしら?」
二人の会話に、美人さんがお妃様のだと初めて知った
「クレハちゃん、アリアが本当に酷いことをしてしまってごめんなさい」
私は首を横にふった
「クレハちゃんが優しすぎて、アリアに対してムカついてしかたないですわ」
「姉様、切実に膝がヤバイことになってきています、クレハちゃん、助けて」
私はベッドに体を預け、二人に背を向けた
「ああ、クレハちゃん~」
「クレハちゃんがアリアをイスに使うのを許してくれたわ!」
その場にいたイライザちゃんは、私の頭を撫でながら二人に言った
「クレハさんは少し寝ますから、お二人は五月蝿いので別の部屋でやってください」
娘に言われてマリアさんとお妃様は部屋を出ていった
私はイライザちゃんに頭を撫でられながら、眠りについた
しばらく眠った後に目を開くと部屋にはラズナーとアシャティス、イライザちゃんにマリアさん、陛下にお妃様の声が響いていた
「皆様が五月蝿いのでクレハさんが起きてしまったじゃないですか!」
私がゆっくりベッドの背もたれに寄りかかって座ると、部屋のドアが開いた
入ってきたのは、ライライトさんだった
「兄様、遅いですわよ」
「仕事をしていた」
ライライトさんは私の横に立つと言った
「大丈夫か?」
私が笑顔で頷くと、ライライトさんは眉間にシワをよせた
「大丈夫じゃ、ないだろうが、そんな顔して」
どんな顔かよく解らない
「泣きそうな顔をしてる」
ライライトさんがそう言って、苦笑いを浮かべた
ライライトさんのその顔を見たら、涙がぽろぽろと、流れ落ちた
「よく、頑張ったな」
ライライトさんは、私の涙を甲冑のマントでふいてくれた
「兄様、何でハンカチ持って無いんですか?40点」
「えっ?一番早いから…ハンカチもあるが、いるか?」
「マイナス20点」
ライライトさんは項垂れた
だが、すぐに気を取り直して言った
「店の方は安心しろ、ルピナスも客達も、お前が帰ってくるのを待ってるから」
「…だ、だって」
「大丈夫だ、修繕費は城に払わせるから、お前は知ってるかも知れないが、俺はこのての書類の作成は得意なんだ、ぼったくってやるから任せろ」
私はさらに涙を流してライライトさんにしがみついた
体はやっぱり痛いけど、そうしたかった
「大丈夫だ、お前の居場所は俺が守ってやるから」
ライライトさんは私の背中をポンポンと叩いてくれた
「もう、あの店で歌えなくなるかと、思ったよ~」
子供のように泣いてしまった
「ありがとう、ありがとう…」
私は人目も気にしないで泣きじゃくってしまった
あれからどれぐらいの時間がたったのか解らない
気がついたら、私は泣きつかれて寝てしまったようで、目を開けたら誰も居ない薄暗い部屋に一人になっていた
泣きたい気持ちになった
気持ちを切り替えるために、治癒魔法を込めた歌を小さく歌う
体が少しだけ軽くなる
何だか喉が渇いてベッドから下りる
すると窓の方からコツリと音がした
窓を開けて見てみると、向かい側の木の上に、ライライトさんが居た
ライライトさんは軽々と窓に跳びうつった
「入って良いか?」
窓枠に手をかけて、ギリギリ部屋には入っていない
「どうぞ」
ライライトさんは何時も着ている甲冑姿ではなく、普通の藍色のYシャツに、柔らかい素材の黒いズボンといった格好だ
普段着を見るのは、ライライトさんの誕生日いらいだ
ライライトさんは私がベッドから下りているのを見て、少しだけ安心したように笑った
「寝てなくて平気か?」
「喉が渇いてしまって…」
「なら、俺がいれてやる、うちは、女性が多いからお茶をいれるのは、得意なんだ」
ライライトさんは手際よくテーブルの上の燭台に火を付け、お茶をいれてくれた
良い匂いが鼻をくすぐる
「どうぞ、お召し上がりください」
丁寧に勧められ、私はカップを手に取った
「いただきます……美味し」
ライライトさんは柔らかく笑った
「また、いれてやる」
私はライライトさんに笑顔を向けた
「あの時、助けてくれてありがとうございます」
「覚えてたのか?」
「ライライトさんの声がしたから、安心して意識を手離したんです、ライライトさんは助けてくれるって信じてたから、何だかごめんなさい」
「…いや、嬉しい…」
ライライトさんは少し照れているようだった
好きだな~
漠然と私は思った
ライライトさんの事が、すごく好きだ
笑ってくれないかな?
そしたら、凄く幸せなのに
「…女性の部屋に長居するものじゃ無いよな、すまない、帰る」
ライライトさんは私の頭を撫で、立ち上がった
私は、咄嗟にライライトさんの腕をつかんだ
「帰っちゃうの…嫌…」
ライライトさんが驚いた顔をした
「いや、でも…」
「お願いです、もう少しだけ…」
ライライトさんは私を見つめると、そのまま引き寄せて抱き締めた
「可愛い事ばかり、言うな」
耳元でライライトさんの声が聞こえてくすぐったい
「可愛い」
ライライトさんは私の首筋に顔を埋め、頭を撫でた
「駄目だ、触りすぎた」
ライライトさんが勢いよく離れた
顔が赤くなってるように見える
たぶん、私も真っ赤だと思う
ライライトさんは私の頭を乱暴に撫でると窓から出ていってしまった
私は、足に力がはいらなくなってその場に座りこんだ
顔が熱い
このあと私は、どうやって寝れば良いのか、わからなくなったのだった
裏タイトルは"ラスボスは王妃様"です




