お出かけ
紅波目線です
イライザちゃんから手紙をもらいました
『クレハさんと二人っきりで、お出かけしたいと思っています、待ち合わせ場所は魔法学園のエントランスの階段前で、時間は…』
時間や日にちなどが指定してある手紙
私はその日に休みをとると、イライザちゃんに、楽しみにしていると返事の手紙を出した
当日、約束の時間に魔法学園のエントランスに行くと見知った人物に会った
「義姉上、今日も兄上に用事ですか?」
「バルバロッサ君、何で突然、姉上とかほざいたかな?」
「兄上の伴侶に成るのですから、義姉上ですが?」
さも、当然と言った態度のバルバロッサ君
「止めよう、君のお兄さんとは、ただの友達ですよ!うん、君のお兄さんを嫌いになる前に止めよう」
なかば強引にバルバロッサ君を黙らせると、階段を急ぎがちに降りてくるイライザちゃんが見えた
「お姉様!」
「うん、止めようか?人前で言うの止めようか?」
イライザちゃんは私の腕にしがみつくとバルバロッサ君を睨んだ
「お姉様!バルバロッサと、何を話してたんですか?」
「イライザには関係ないだろ」
名前呼びしていると言う事は仲が良いのだろうか?
「二人は仲良し?」
「「敵です」」
仲良しっぽいのに
「私の方が成績は上、悔しながら魔術はバルバロッサの方が上、色々と勝負してますの!」
「イライザぐらいしか、張り合う者が居ませんので必然的に対抗意識が芽生えてしまうのです」
「…ライバル?」
「「それです!」」
あまり、捲き込まれたく無い
「さあ、お姉様!お出かけしましょ!外に馬車を用意しています」
「待て、姉上は兄上に会いに来たのではないのですか?姉上の気配に兄上は気付いているのですよ!それなのに顔も見せずに帰ったら、兄上が何しでかすか分かりませんよ!」
「残念ですね、お姉様は今日、私に会いに来て下さったのよ!アシャティス様には、悪いけど私の約束のが最優先事項ですの」
二人が怒鳴りあっているせいでエントランスにいた人達が注目している
「だー、もう、姉呼び禁止!」
私が叫ぶと、イライザちゃんもバルバロッサ君もシュンっとする
「二人とも回りに迷惑だから、ケンカしない!アシャには挨拶だけするし、イライザちゃんとお出かけもするから大人しくする!それが出来ないなら私は帰る!」
私は一気に言い切った
「でしたら、お帰りあそばされてはいかがかしら?イライザ様もバルバロッサ様も私とお茶でもご一緒いたしませんか?」
突然声をかけてきたのは、年は私と同じ17歳前後ぐらいで茶色の髪の毛を肩までの縦ロールに巻いた、同じ色の瞳のつり目美人、典型的な貴族令嬢と言った雰囲気の女性だ
私はバルバロッサ君とイライザちゃんを見た
二人とも面倒臭いのに見つかったと、言わんばかりの表情である
「何処のどなたかは存じ上げませんが、このお二人が三大貴族のうちのお二人だとご存知なのですか?目に余る狼藉は許しませんわよ」
彼女の言葉にイライザちゃんは笑顔で私の前に立つと彼女に向かって言った
「あーら、エリザベート様、気になさらないで、クレハさんは将来的に私のお姉様になる大切な方なので…」
「イライザ、クレハさんは僕の姉上になる予定だ、お前の兄君はどんな女性でも大丈夫だが、うちの兄上にはクレハさんしかいない」
「いいえ、クレハさんと居るときの兄様は他の女性と居る時と全然違います!兄様だって、クレハさんじゃないと駄目です、クレハさん以外なんて私が認めません!」
にらみ会う二人をどうすることも、できない
「まぁ、そんな何処の誰かも分からない女、ライライト様やアシャティス様には似合いませんわ!お二人とも、誰が一番相応しいか、お分かりでしょ!」
縦ロールこと、エリザベートは私を睨み付ける
「クレハ」
エリザベートに気をとられているうちに、アシャが階段から下りてきた
「アシャ、今日はイライザちゃんとの待ち合わせできたから…」
アシャはエリザベートの脇をすり抜けて私を抱き締める
「こら、離せ!」
「さっきの口ぶりだと、すぐさま帰るのだろ、少しぐらい良いだろ」
耳元で囁かれ、耳に息がかかる
恥ずかしくて、顔に熱が集まる
「可愛い」
私が赤くなったのが嬉しいのか、アシャはさらに腕に力を込める
「ちっ、ちょっと、本当に離して、恥ずかしすぎるから、お願い」
アシャは離す気が無い
私はパニックになりながら、自分の踵をアシャの足にねじ込む
アシャが声にならない悲鳴をあげてしゃがみこむのを見て、ようやく落ち着く
「むやみに、触らないって約束しなかったっけ?」
「お前は僕に厳しすぎやしないか?」
「日頃のおこないのせいでしょ」
「ライ様には自分から触るくせに」
「誤解を招くようなこと言わないで、ライライトさんは私の保護者でしょうが!じいちゃんのと言うか、お母さんがわりだもん」
アシャは不満そうに顔をしかめた
「あの時、僕がクレハの保護者になっとけば…」
「無理じゃん、ライライトさんにだけ私を頼むって、じいちゃんからの手紙を預かってた訳だし、じいちゃんは最初からライライトさんに私を預けるつもりだったみたいだよ!」
その場に沈黙が流れた
いち早く動いたのはイライザちゃんだった
イライザちゃんは私の腕にしがみつくと笑顔を作った
「お姉様」
可愛らしい笑顔に思わず笑顔をかえす
「お出かけついでに、お菓子を買って、兄様の所でお茶にしましょうね!」
NOとは、言えないオーラが出ている
「では、皆様ごきげんよう♪」
回りはイライザちゃんのペースに付いていけなかったのか、イライザちゃんに引きずられるように連れていかれる私を見送るしかなかった
国営騎士団の本部に着いたのは、散々イライザちゃんにつれ回された後だった
「着替えたいです」
「駄目です」
馬車から出る前に、心の声をイライザちゃんに告げてみましたが、拒否られました
私の今の格好は、シンプルだが腰の部分に大きめなリボンの着いたワンピースドレスで、髪の毛は大きく編み込みにして薄く化粧を施したようす
「この前も思ったんだけど、知り合いに見られると恥ずかしすぎるんですが」
「この前も言いましたが、羨ましいほど可愛らしいですから大丈夫です」
イライザちゃんに引きずられて馬車を降りると入口に立っていた騎士が驚いた顔をした
驚いた顔の騎士を私は知っている
たしか、トマスさんだったか、ジークさんだ
勘だが、多分ジークさんだろう
「く、クレハちゃん可愛い!一緒の子も可愛い!ぜひとも、紹介して!」
あまりの、目の輝きに思わずイライザちゃんを後ろてに庇う
「駄目?」
甘えたように言うジークさん(たぶん)に、ハッキリと言う
「駄目です」
「そこを何とか!」
食い下がるジークさん(仮)を黙らせたのは、後ろから突然現れたライライトさんだった
「お前は殺されないと、分からないらしいな」
「た、隊長?いや、クレハちゃんに、ちょっかい出してる訳では無くてですね…こっちの可愛いお嬢さんにですね…」
「ほー、今、殺してくれと言ったな」
「めっそうもない!」
「ディラン、トマスはさっき何て言った?」
いつの間にかライライトさんの後にディランさんもいて、ニコニコと笑いながら言った
「今すぐ死にたいです!殺してくださいって言ってたね」
「だな」
「言ってません、言ってませんよ!」
ジークさん改めトマスさんは真っ青な顔で首をふっている
「トマス、駄目だよ、イライザちゃんは隊長が目に入れても痛くないってぐらい、可愛がってるんだから、手出したら即死刑だよ」
物騒だけど、ライライトさんはイライザちゃんを可愛がってるのは、この前見たからわかる
「クレハちゃんが居るのに浮気だ!」
トマスさんが余計なことを言ったので、ライライトさんに脇腹を蹴られてのたうち回わるはめになった
「兄様、甲冑の上から蹴っては足を痛めてしまいますよ、気をつけて下さいね」
イライザちゃんの言葉に、トマスさんが驚き言う
「妹、隊長の妹がこんなに可愛いわけない!」
倒れた状態のトマスさんを何度も蹴りつけて、動かなくなったのを確認してからライライトさんはゆっくりと言った
「墓石に何を彫って欲しいか決めとけ」
動かない相手にそれは無理じゃないかな?
「僕、これ片付けてくるね」
「頼む」
ディランさんが動かなくなったトマスさんの右足をつかんで引きずって建物の奥に消えていった
「今日はどうした?」
「お姉様とデートしてきたので、おすそわけにお菓子を持ってきましたの、兄様お茶にしましょう!」
ライライトさんはイライザちゃんに笑顔を向けた
「今すぐ用意しよう」
そして、私の方に目を向けると手招きをした
私が近付くとライライトさんは優しく私の頭を撫でた
「どうせ、イライザに無理矢理つれ回されたんだろ、悪かったな」
私はライライトさんを見上げ笑顔を作った
「こっちに来て初めて女の子と出掛けられて楽しかったですよ!」
「そうか?…そう言えば、イライザと居る時は何時も可愛い格好をしてるな……似合ってる」
「あっ、ありがとうございます」
ライライトさんは最近よく誉めてくれる、私が気合いの入った格好をすると嫌がったり恥ずかしがったりするから頑張ってくれてるのだろう
「兄様、40点」
イライザちゃんは何時も評価が辛口だ
「イライザ、へこむから止めてくれ」
「少し前までの兄様に比べれば70点ですわね」
ライライトさんは苦笑いを作り、イライザちゃんの頭を撫でたのだった
買ってきた焼き菓子を食べながらライライトさんの入れてくれたお茶を飲んでいると、イライザちゃんがニコニコと笑顔を向けてきた
「クレハさんが早く兄様と一緒になれば良いのに」
私がフリーズするのと、ライライトさんがお茶を噴き出すのが同じだった
「兄様汚いですよ」
「お前が変なこと言うからだろ」
ライライトさんは軽く咳き込みながら、噴き出してしまったお茶を片付け始めた
「まさか、バルバロッサのお兄さんまでクレハさんを狙っているなんて知りませんでしたわ」
「アシャティスに会ったのか?」
「学園で、待ち合わせしたからですわ、しかも、クレハさんをおもいっきり抱き締められたりして」
「許可なく触らないって約束してなかったか?」
ライライトさんはキョトンとして言った
「アシャに会いに行った訳じゃないのが気に入らなくて、嫌がらせしてきただけです」
私の言葉にイライザちゃんがショックを受けた顔をした
「クレハさん!アシャティス様の事を愛称で呼んでいるんですか?」
「うん、あと、ラズナーさんの事もラナって呼ぶ」
イライザちゃんがさらにショックを受けた
「愛称なんて、本当に仲が良い人にしか普通呼ばせませんのに、兄様だけさん付け」
イライザちゃんはライライトさんを睨む
ライライトさんはバツの悪そうな顔をして、目をそらした
「兄様の事も愛称で呼んでくださいな!」
イライザちゃんが私をニコニコしながら見る
「ライライトさんの愛称って?」
「母様はライ君って呼んでますわね!」
私はライライトさんの方を見た
「ライ君?」
ライライトさんは額に手をあてた
(凄まじい破壊力)
「年上の男の人に、君呼びは、流石に抵抗があるよ……ライ様とか?ライさんとか?」
「クレハさんは、なんて呼びたいですか?」
「…ライライトさん」
「駄目です」
「…ライさん…」
イライザちゃんは満足そうにニコニコしている
ライライトさんの同意も無いのに良いのかな?
ライライトさんの方を見ると苦笑いをしていた
「兄様もクレハさんの特別になれたと言うことですわね」
イライザちゃんの言葉に私は首を降った
私の行動に二人が驚いた顔をした
「だって、ライラ…ライさんは私にとって、この世界に来る前から特別ですから」
さらに二人が驚いた顔をした
「ライさんは私の憧れの人でしたから」
私が笑顔を向けるとイライザちゃんが言い辛そうに言った
「…でしたから、って過去形ですか?」
「だって、実際のライさんは三大貴族の一人だし、貴族令嬢にモテモテだろうし、私の保護者だし、恋愛感情なんて持ったら失礼でしょ!」
「…持って良いと思いますわ」
イライザちゃんがゆっくり言うと、ライライトさんがイライザちゃんの腕を掴み、部屋のはじっこに連れていった
「イライザ、余計なことを言うな」
「兄様?」
「クレハは、こちの生活に慣れてきたばかりで、恋愛とか考えるのが面倒臭いんだろう、余計な事を言い過ぎて嫌われるのは俺だ」
「…兄様…小心者」
「煩い」
私は二人を見ながらお茶をすすったのだった