ドラゴン"サラマンダー"
二度目のデーターの消失に心がポキポキです
楽しんでいただけたら幸いです
お茶がなくなると紅波は立ち上がった
「そろそろラナの所に行かないとだから帰るね!」
アシャティスは寂しそうな顔をした
「アシャも一緒に来る?」
思わず言ってしまった言葉に紅波は後悔した
「ごめん、忙しんだったよね、軽々しく誘ってごめん」
紅波がシュンとするとアシャティスは口元をゆるませた
「僕を誘うならデートと言うわけではないのだろ、それなら良い、今度僕にも時間をくれるか?」
「休みの時なら良いよ、良いならまたここに会いに来るし!」
「いつでもおいで」
アシャティスが笑顔を作ると紅波は視線を外に向けた
「だから、なぜ顔をそらす」
紅波は笑顔から逃げるために外を見たが、目がはなせなくなった
「アシャ…外が…血まみれ」
アシャティスはソファ―から立ち上がるとバルバロッサに向かって言った
「バルバロッサ、状況の確認」
「はい」
バルバロッサが執務室を後にするとアシャティスは紅波の目を手でおおった
「見るな」
アシャティスの言葉に紅波は自分が震えていることに気付いた
「あっ、あれ、何?」
アシャティスはゆっくり言った
「ドラゴンだ、たぶん火竜だ」
外には蝙蝠の羽のはえた、ばかでかい蜥蜴が魔法使いや白地にオレンジレンジ色のラインの入った甲冑を着た騎士と戦っている
しかも蜥蜴の下には血まみれの騎士や魔法使いが転がっているし、蜥蜴の口には騎士が一人くわえられていて血が滴り落ちていた
二人ぶんの足音とともに執務室のドアが開き、バルバロッサとさっきの美人さんが入ってきた
「生徒が召喚術の授業で誤ってドラゴンを召喚してしまい、名を縛ることが出来ず今に至ると」
「王立騎士団と魔法部隊が対応していますが、対処しきれていません、アシャティス様、どうすれば…」
アシャティスは冷静な声で言った
「神官達にはもう連絡したか?怪我人の対応が先だ、ドラゴンは僕が何とかする」
アシャティスの冷静な声で紅波は冷静になれた
「アシャ、私も行く」
「駄目だ」
紅波の言葉にアシャティスは即答した
そこにいたバルバロッサと美人さんも言う
「今は貴女の我が儘に付き合っている時ではありません」
「アシャティス様を困らせないでください、私達女には何もできません」
二人の言葉を無視して紅波は言った
「アシャ、今一番にすることは、しなくちゃいけないことはこれ以上被害を出さない事じゃないの?出来ることをさせて」
アシャティスは口を開くことはせずにドアを開けた
「アシャ、御願い、手伝わせて」
アシャティスは振り返ることなく言った
「クレハ、行くぞ」
紅波は笑顔でアシャティスのあとをついていった
外に出ると、血の臭いと何かが焦げる臭いでむせる
「駄目なら中にいて良い」
「げっほ、大丈夫、すぐなれる、げふげふ」
アシャティスが心配そうな顔をしているのがわかったが紅波は気付かないふりをした
その時ドラゴンが紅波達に気付いた
ドラゴンは紅波達に叫び声を投げつける
あまりの迫力と圧力で動けなくなりそうだと紅波は思った
「クレハ、行くぞ」
アシャティスに言われてハッとする
紅波はゆっくり頷いた
紅波は兄弟と一緒にやっていたドラゴンを倒すゲームを思い出してみた
協力しあってドラゴンの急所を狙う
「えっと、サラマンダーの急所って何処だったっけ?」
紅波の呟きにアシャティスが振り返る
それと同時にドラゴンが吠えた
さっきとは違う優しげな声を空に向かって吠えた
「えっ?私またやっちゃった?」
アシャティスが呆れたように呟いた
「魔王」
「違っ…だって~」
ドラゴンはゆっくり紅波の元に来ると優しく紅波にすりよった
さっきまで騎士をくわえていたせいで紅波が血まみれになる
触れた所からドラゴンの感情が伝わってくる
『恐い、喚んだくせに、攻撃してくる、恐かった、でも、名前呼んでくれた、マスター』
「そっか、恐かったね、私も恐がってゴメンね」
紅波はドラゴンをゆっくり撫でた
するとドラゴンはポンっと音をたてて小さくなった
小型犬ほどの大きさになり紅波の肩に乗った
「かっ、可愛い」
『マスターの迷惑にならない』
思わずミニドラゴンをなでなでする
「クレハの魔王レベルがどんどん上がっていく」
アシャティスはそう呟くと他の魔法使い達に怪我人を集めるように指示を出した
紅波がドラゴンを外で待つように言って中にはいると怪我人が集められた部屋は野戦病院のようだった
「神官はどうした?」
アシャティスが眉間にシワを寄せた
「それが、ドラゴンの話をしたら通信を切られまして未だに連絡がつきません」
アシャティスはさらに眉間のシワを深くした
「治癒魔法を使える者を集めろ教師でも生徒でもかまわん」
アシャティスが怒鳴り付けると神官に連絡をしていた魔法使いは走って行った
「アシャティス様、ドレークを先に御願いします、もう虫の息なんです」
慌てた騎士が重傷者の事を話すとアシャティスは申し訳無いと頭を下げた
「僕に治癒能力は無い」
なんだか絶望的な空気が流れた
「アシャ、わたしがやる」
紅波が前に出ると慌てていた騎士が手を引いて重傷者のもとへ案内した
重傷者のベッドだけカーテンがしかれていて、カーテンの下から血が滴り落ちていた
紅波は深呼吸をひとつするとカーテンの中に入った
カーテンの中に入ると紅波は息を飲んだ
ベッドに横たわった人物はお腹の部分が空洞になっていて生きているのが奇跡のようだった
むせかえる血の臭いに嗚咽がもれる
「大丈夫ですか?」
心配そうな騎士に笑顔を向ける
「頑張ります、集中したいので出ててもらえますか?」
紅波の言葉に騎士がカーテンの外に出て行くと、紅波は目を瞑った
血の臭いで思考が鈍るが小学校の理科室を思い出す
理科室の掃除当番の時、男子が面白半分に人体模型の臓器を取り出して嵌め込めなくなったこと
それを直すのが自分の担当になっていた事を思い出す
目の前の穴あき騎士に頭の中の人体模型を当てはめて穴の空いてる部分に手をのせて詠唱をする
「我求めるは忘却の身体我命じるは再生の息吹」
詠唱とともに穴あき騎士の身体は光りをはなち、そして騎士は物凄い勢いの悲鳴をあげのたうち回った
「ギャァァァァァァァァァァァァァ」
「ちょっ、動いたら臓器がはみ出しちゃうから」
「ギャァァァァァァァァァァァァァ」
カーテンの外ではその悲鳴にその場にいた騎士達が青ざめていた
しばらくするとゲホゲホとむせて騎士は目を見開いた
慌てて自分の腹部を見るため起き上がろうとしたが、激痛に叫ぶ
「痛って~」
紅波は柔らかい笑顔で騎士に言った
「呼吸し辛らくないですか?今は無理矢理なくなった臓器を復活させたので動かないでください、馴染んだらきっといつもと同じように生活ですからね」
騎士は笑顔の紅波に見いってしまった
「自分はドレーク、貴女が自分を助けて下さったのですか?」
紅波は笑顔のまま言った
「ドレークさんが頑張ったからですよ、少し眠ってください」
そう言って紅波はドレークの目に手を当てた
まだ何か言いたそうだったがドレークは眠気に逆らえなかった
ドレークが眠ったのを確認すると紅波はカーテンから出た
「紅波、大丈夫か?」
「もう少し眠れば元気になるよ、たぶん」
心配そうなアシャティスに笑顔を向けるとアシャティスは眉間にシワを寄せた
「そいつはどうでも良い…クレハの心配をしている」
紅波は驚いた顔をしてから困った顔をした
「アシャの立場でそれは駄目だよね、私はまだまだ平気だよ」
紅波がそう言って視線を外すと野戦病院のような状態が変わっていなかった
「アシャ、治癒魔法使える人達は?」
「お前がこの部屋の前にドラゴンをおいてきたばかりに、部屋に入る前にみんな逃げ出した」
「……ごめんなさい…」
紅波は仕方なしに息を吸い込むと詠唱をはじめた
「我指し示すは癒しの歌」
そしてゆっくりと歌い出した
歌じたいは異世界に来る前によくカラオケで歌っていた歌海外アーティストの歌だったが、魔法で治癒能力を持たせたため部屋の中にいる負傷した騎士や魔法使い達の傷を癒していった
歌が終わる頃には部屋の中には怪我人が居なくなっていた
紅波はそのまま膝をついた
「クレハ!」
アシャティスは慌ててクレハに駆け寄った
「あー、力使いすぎたかも…」
「ラズ様には行けないと使いを出した方が良いかも知れないな?」
「ヘ?」
紅波がアシャティスの方を見るとアシャティスはゆっくりと紅波を抱えあげた
「ちょっ、何?」
「立てないようだったから」
紅波は抗議しようとしたが凄まじい疲労感に諦めることにした
「抵抗するかと思った」
「したかったけど、気力がない」
紅波はため息をつくとアシャティスに言った
「ラナに連絡ってどうやればできるの?」
「僕の持ってる会話石で話すと良いよ、執務室へ行こう」
医療室を出ようとした時アシャティスは紅波の顔を除きこんだ
「魔力をわけるか?」
「いらない」
紅波はアシャティスの顔を押して自分から遠ざけながら抵抗しなかったことを後悔した
ラズナーは紅波とデートできないのか?




