お迎えはぬいぐるみ?
ピンポーン
家のなかに来客を知らせる音が響き渡った
「はーい、私見てくるね」
この家の長女である桜木紅波は、家族にそう告げると玄関に急いだ
「はーい、どちら様ですか?」
彼女の声に可愛らしい声が返ってきた
「私、魔法使いの使い魔でタイムと申しますがハウロウ様はご在宅でしょうか?」
紅波は玄関のドアノブを掴んだままフリーズした
(魔法つかい?つかいま?…イタズラ?…)
頭の中で数回外にいる人物の言葉を反芻してドアに着いている除き穴から外をうかがうが、外に人がいる気配がない
紅波はイタズラだと思い家族のいる居間へもどろうとしたが、2回目の呼び鈴が彼女の足を止めさせた
彼女は玄関のドアを開けて言った
「イタズラ、止めろよな!」
ドアを開けた先には案の定誰も居なかったが、足元にウサギのぬいぐるみが立ててあった
ぬいぐるみは不思議の国のアリスに出てくるシロウサギのように燕尾服を着て懐中時計を手にもち、鼻眼鏡を着けている30センチほどの大きさだった
「か、可愛い!」
すると、後ろから祖父の声が聞こえた
「紅波、どうした?ピンポンダッシュか?」
紅波は祖父が近づいて来る気配を感じると、ぬいぐるみをつかみ祖父の方に見せた
祖父はそのぬいぐるみを見ると一瞬フリーズしてすぐに目を見開いた!
「た、タイム?タイムか?」
祖父の言葉に紅波はぬいぐるみを見る
「ハウロウ様~お探しいたしました~」
すると、ぬいぐるみは手足をバタつかせて情けない声を出した
紅波はそのぬいぐるみを祖父の方に投げた
「痛いです、乱暴にしないでください」
床に転がるぬいぐるみ、嫌、なんだか解らない生き物を祖父はゆっくりと首もとをつかんで持ち上げた
「タイム~迎えが遅すぎて孫まで産まれちゃっただろ!ハッキリ言ってもう帰りたくないな~」
祖父の気の抜けた声だけが玄関に響いた